UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/5
排出及び放出に関するコンタクトグループ共同議長により作成された
第10条及び第11条の可能性あるエレメントへのアプローチ

水銀に関する法的拘束力のある文書に関する政府間交渉委員会第4回会合(INC4)
2012年6月27日〜7月2日 プンタデルエステ(ウルグアイ)

情報源:UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/5, 3 April 2012
Approach to possible elements of Articles 10 and 11 prepared
by the co-chairs of the contact group on emissions and releases
Intergovernmental negotiating committee to prepare
a global legally binding instrument on mercury Fourth session
Punta del Este, Uruguay, 27 June.2 July 2012
http://www.unep.org/hazardoussubstances/Portals/9/Mercury/Documents/INC4/4_5_emissions.pdf

掲載:2012年5月30日
安間武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/INC4/INC4_possible_elements_Articles_10_11.html

事務局による覚書

 2011年10月31日〜11月4日までナイロビで開催された第3回会合(INC3)で、水銀に関する法的拘束力のある国際的協定書を準備するための政府間交渉委員会は、同会合で設立された排出と放出に関するコンタクト・グループの共同議長に、事務局の支援を得て、法的に拘束力のある文書の第10条及び第11条の可能性あるエレメントへのアプローチを開発するよう要求した。そのアプローチは、排出を管理及び/又は削減するために特別の措置をとることを締約国に義務付けるが、各国の状況を反映するための柔軟性を許すアプローチ、及び排出を管理及び/又は削減するために各国が決定した措置を作成することを締約国に義務付けるアプローチを含むであろう。委員会の要求に応えて共同議長により作成されたこのアプローチは、ここに付属書として示されている。


付属書
第10条及び第11条の可能性あるエレメントへのアプローチ



背景

A. 国際的な作業の目的

1. 水銀に関する法的拘束力のある国際的協定書を準備するための政府間交渉委員会の第3回会合で、ドラフトテキスト(第10条、11条及び11条代案)中の水銀の大気への排出及び陸地及び水への放出を討議するために、コンタクトグループが設立された。

 このコンタクトグループは第3回会合の期間中に4回の会合を持ち、多くの問題に関して合意に達したが、その討議の間に全ての懸案事項が解決されたわけではなかった。

2. 更なる進展を可能とするために、委員会は排出と放出に関するコンタクトグループの共同議長に、事務局の支援を得て、第10条と11条の可能性あるエレメントへのアプローチを開発するよう任務を課した。このアプローチは、排出を管理する及び/又は削減するための特別の措置をとること参加国に義務付けるが、国家の状況を反映するための柔軟性を許すアプローチ、及び排出を管理する及び/又は削減するために国家により決定された措置を開発することを参加国に義務付けるアプローチを含む。

B. 第3回会合の結果

3. 排出と放出に関するコンタクトグループは、委員会の第3回会合の間にいくつかの事項について一般的な合意に達したが、それらのいくつかは法的拘束力のある文書のドラフトテキストに変更をもたらすであろう。これらの合意された変更は総会で委員会に提示されず、さらなる作業のためのベースとして合意されたので、それらは修正トラフトテキスト、すなわち、 UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/3 に含まれなかった。

4. 一般的合意は下記の分野を含む。

(a) 排出と放出に対応した水銀文書の必要性、及び締約国が排出と放出についての措置をとる必要性がある。

(b) ”非意図的”という用語は”排出”の不必要な修飾語であり、削除されるべきである。

(c) 水銀文書は、開発途上国及び移行経済国が彼等の火力発電所の能力を開発する必要性と両立しなくてはならない。

(d) 排出と放出に関する条項は、開発のプロセスを妨げるような制限を課すことを意図するものではない。したがって、排出制限は絶対的な表現ではなく相対的な表現でよい。

(e) いくつかの条項に諸国にその約束の実施に裁量を許す(すなわち、国連環境計画(UNEP)の決議 25/5 の第28節(a)に合致する)柔軟性を持たせる必要性がある。

(f) 人力小規模金採鉱からの排出と放出は、第10条及び第11条ではなく、その問題に特定の条項で対応されるべきである。

5. いくつかの締約国が措置を実施することを可能とするための財政的及び技術的援助の重要性もまた認識された。しかし、共同議長は、これらの問題は横断的であり、実施問題のより広い範囲に関連しており、コンタクト・グループは彼等の作業に対処するために特に設立されたのだから、財政的及び技術的援助の問題は彼等の権限範囲ではないと考えており、したがって、今回の文書では対応していない。

C. いくつかの論点

6. 出発点は、締約国がその義務を果たすために国家としてとるために必要とする段階について明らかにすること、すなわち、それは”直接的”義務(例えば、利用可能な最良の技術(訳注:定義)を適用すること)なのか、あるいは”間接的”義務(例えばどのような行動を締約国がとることを提案しているのか提示する計画案を作成すること)を含んで、排出問題に取り組むために締約国への義務を明確に提示するための法的文書の必要性であった。文書の構成は、排出の問題には十分な行動によって共同で対応するという信頼を締約国に与え、かつ、国家状況と締約国住民の必要性に合致するための開発の必要性を考慮に入れるために十分な柔軟性があることを再確認するという両方のことを必要とするであろう。

7. 排出と放出に関する条項は本条約の他の部分、特に目的(objective)と序文(preamble)の脈絡で読まれ、かつ首尾一貫するであろう。UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/3 の文書に含まれる現在のドラフトは、第1条に二つの可能性ある目的を提示している。序文(preamble)については委員会による詳細な検討はまだなされていないが、共通であるが差異のある責任の原則を含んで、環境と開発に関するリオ宣言で示された原則への言及の提案が含まれている。これらのエレメントはまだ協議されていないが、委員会は最終的には第10条と11条は、他の場所で提示されてることと一貫性があり、かつ不必要な重複を回避することを確実にする必要があるであろう。従って委員会は、第4回会合でそのことを念頭においてエレメントを協議することを望むであろう。

8. 共同議長は、排出源の問題(例えば、排出源の分類、排出量の閾値、新規(又は著しく改造された)及び既存の装置の可能性ある異なる措置)、提案された措置は全ての締約国に適用されるのか又は排出総量が著しい国だけに適用されるのか、そして用いることのできる措置の範囲(例えば、利用可能な最良の技術/最良の環境的慣行(BAT/BEP)、制限値又は排出目標及び国家目標又は削減目標(数値的又は政策的))を考慮した。これらの措置のそれぞれは適用時に柔軟性を提供するような構造とすることができるであろう。

9. 共同議長はまた、水銀条約は締約国が条約の付属書を修正することを許す条項を多分含むであろうということに言及した。従って、付属書Fと付属書はG は時間経過と共に進化する、例えば、主要な又は最大の排出源から始まり、運用され又は資金が利用できるようになれば拡張することが可能であろう。

I. 大気への排出に対する可能性あるアプローチ

10. 大気排出に対する二つの広範なアプローチが権限内で特定された。共同議長はこの二つのアプローチは、概要にまとめれば次のように実施されるかもしれないとして、提案している。

A. 排出を管理する及び/又は削減するための特別の措置をとることを締約国に義務付けるが、国家の状況を反映するための柔軟性を許すアプローチ

(a) 各締約国は、排出を管理する及び/又は削減するための措置をとることを求められるであろう。
(b) 主要排出源の分類は付属書中に特定されるであろう。
(c) 締約国は付属書にリストされた措置のひとつ又はそれ以上、例えば下記を選択できるであろう。
 (i) BAT/BEPの適用。
 (ii) 締約国会議により定義され、装置レベルで適用されるべき排出目標/基準は、総排出量(国家レベルで規定されるが、装置ベースで適用される)、又は発電量で規定することができるであろう。
 (iii) 締約国会議により決定されるべき(ある最低又はある範囲)の量のパーセント削減。
(d) 各締約国の実施における柔軟性は下記により達成することができるであろう。
 (i) BAT/BEPの概念は国家の技術的、社会的、及び経済的状況の反映を含むことを認めること。
 (ii) 既存施設にも適用されることに留意しつつ、多種汚染物質管理戦略の適用を含んで、施設における排出値又はパーセント削減を満たすために使用されるべき技術を政府又は規制当局が決定することを許すこと。
 (iii) 施設レベルでの措置を適用すること、それに関しては分野レベルでの増加を許すこと。
 (iv) 政府が施設の閾値を規定することを許し、時間経過とともに漸進的改善をできる限り許すこと。

B. 排出を管理する及び/又は削減するための国家決定の措置を開発することを締約国に義務付けるアプローチ

(a) 各締約国は、排出の管理及び/または削減のための措置をとることを求められる。
(b) 主要な排出源の分類は付属書の中で特定される。
(c) 各締約国は、締約国会議によるレビューのために、国家により採用される措置と期待される狙い/目標/結果を示す国家計画を提出するが、それらは下記を含むことができる。
 (i) 付属書で提案される措置のリスト、例えば
  a. BAT/BEP(連続的な監視を含む)
  b. 締約国及び/又は規制当局の裁量に任せる値と技術の選択による制限値
  c. 多種汚染物質管理戦略
 (ii)分類に適用される又は各施設の状況に依存して変化する措置。締約国は付属書にリストされる異なる分類に関連して、技術的及び現実的な必要性に従い、異なる措置を採用してもよい。
(d) 締約国は、計画の実施が条約の目標に向かい全体的に進展したかどうかを定期的な間隔でレビューする。
(e) 締約国を支援するために、締約国会議は指針を提供し、 BAT/BEP、制限値、及び多種汚染物質戦略についての情報交換を促進することができる。

C. アプローチの共通要素

11. 上述の両方のアプローチに、いくつかの共通のエレメントがあることは明らかである。例えば、
(a) 各締約国の状況を確立するために排出源の目録が必要となるであろう。
(b) 各締約国は実施戦略案を示すことが求められるであろう。
(c) 分野の発展が許されるであろう。
(d) BAT/BEP 概念の柔軟性は国家の状況に合致するよう技術とその適用の選択を許すであろう。何が”利用可能”かについては、世界レベル又は地域レベルではなく、国家の技術的、経済的、社会的考慮に照らして国家レベルで決定され、多種汚染物質アプローチを含むであろう。
(e) 締約国による全体的な進展の監視のためには、実施に関する定期的な報告が必要であろう。
 (i) 締約国は国家レベルでの監視を支援するための指針を作成したいと望むかもしれない。
 (ii) 連続的な監視をBAT/BEP 要求の中に含めるとができ、少なくとも、より大きな及び/又は新たな施設についてはそれが求められるであろう。

12. どちらのアプローチも、例えば、条約発効何年後に措置がとられるべきかのスケジュールを規定する条項を含むことができるであろう。

II. 陸地、土壌、水への放出に対する可能性あるアプローチ

13. 陸地、土壌、水への放出に対応する措置は明らかに重要である。これらの措置の特性を特定するにあたり共同議長は、これらの潜在的な放出源の多くは、例えば下記を含む他の実質的な条項の対象でもあることに留意した。
(a) 移行期間中の水銀含有製品の製造(第6条)
(b) 移行期間中の水銀使用のプロセス(第7条)
(c) 廃棄物管理と処分(第13条)
(d) 保管(第12条)
(e) 汚染サイト(第14条)
(f) 人力小規模金採鉱(第9条)
(g) 水銀が汚染物質として存在し、陸地又は水に放出されるかもしれないその他の産業プロセス(他の条項中でカバーされないもの)

14. 共同議長は、これらの潜在的な放出源の大部分のための実質的な条項案は、陸地、土壌、水への放出に対応するいくつかの規定を既に含んでいる、又はそのような規定は容易にこれらの条項に挿入することができるということに留意した。

15. 従って、共同議長は委員会の検討用に一般原則として、上記で特定された源からの放出の問題は関連する実質的な条項で取り扱われるべきことを提案した。共同議長はまた、排出のために上記で特定された二つのアプローチと措置が放出にも適用できるかどうかを含んで、放出に対応するアプローチの更なる検討は、追加的な措置の必要性が決まるであろう交渉の後半段階に延期することを示唆した。なぜ大気排出のために採用される同じアプローチが陸地と水への放出のために採用されるべきなのか理由はないが、原則としてどちらのアプローチも放出に適用することができるであろう。



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