子どもの健康と環境センター
Center for Children's Health and the Environment (CCHE)
ニューヨーク・タイムズ紙掲載広告の科学的裏づけ文書
意見広告 7 動物実験 : カナリヤの声を聞け
Scientific Background Paper for the
"ANIMAL TESTING WORKS. WE SHOULD LISTEN TO THE CANARIES" NY TIMES ad 7
http://www.childenvironment.org/pdfs/NYT%20Ads/Final_Toxics_Animal_Test_Ad.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2003年11月30日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/cche/nyt_ad_7.html

意見広告 7
動物実験 : カナリヤの声を聞け
 炭鉱の採炭工たちは、カナリヤを連れて坑道に入った。それは、カナリヤは有毒ガスに非常に敏感なので、もしカナリヤが死ねば、採炭工たちはガスが漏れてきたことを知り、自分たちが死ぬ前に逃げ出した。カナリヤは差し迫った危険を事前に知らせてくれた。

 動物実験も公衆の健康のために同様な役割を果たしている。それらは我々に差し迫った危険を警告してくれる。しかし、膨大な量の化学物質の動物実験は、その製品が危険であると示された産業界によって、及び、産業界の宣伝に説得されたジャーナリストたちによって、批判され、軽く扱われてきた。

 記録をきちんと整理する必要がある。

 誰もが自分の好きな食べ物や使用する製品について悪い話を聞くことを好まない。悪い話を聞くと、それを伝えるものを非難する。そしてその対象はしばしば実験動物である。しかし、採炭工たちは決してカナリヤを非難しない。彼らはカナリヤを敬い、その一羽でも死ぬと直ぐに退避の行動を起こす。
 我々は、今日の化学物質の動物実験に対し、同じように謙虚な態度で接すべきである。

 動物実験は、倫理上、人間を実験材料にすることは基本的にできないので、化学物質のテストにおける標準である。人間に比べて実験動物の生命サイクルは短く、また子孫をたくさん残す。これにより人間の一世代分が短い期間になるので研究のスピードが上がり、何世代もの実験を行うことが可能となる。

 生物学的には、人間と実験に使用される小さな哺乳類は非常によく似ている[1]。動物は、人間とは違う独自の代謝経路を持っているとする非難は根拠がない。ヒトゲノム・プロジェクト(Human Genome Project )によれば、人間は30,000の遺伝子をもっているだけで、その3分の1は、かつて考えられていた以上に人間とマウスやその他の実験動物でよく似た遺伝子であると推定される[2]
 ヒトゲノム・プロジェクトからのデータによれば、人間とマウスは共にそのゲノムの中に30億の基本対を持っており、この2つの生物種は非常に高度な遺伝学的類似性を持っている[3]

 動物実験はその妥当性に関し、長い有用な歴史を持っている[4]。それらは DDT、ベンゼン、塩化ビニル、タバコに含まれるタールの危険性を実証してきた。レーチェル・カーソンの独創的な本、 『沈黙の春』 のタイトルは DDT に暴露して死んだ鳴鳥(ongbird)にちなんだものである[5]。知られている人間の発がん性物質のうち3分の1は最初に動物実験によって発見されたものである[6]。国家研究審議会(National Research Council)によれば、現在の動物テスト手法は、しばしば、人間へのリスクを大幅に過少評価する結果になるとしている[7]

 動物テストを批判する人々は、人間の低用量暴露によるリスクを動物の高用量暴露から推定することはできないと主張する。その主張は、 「十分高い用量ではどのようなものも発がん性となりうる」 というものである。これは全く正しくない。ほとんどの産業化学物質は、たとえ高用量であってもがんを引き起こさない。国立がん研究所(National Cancer Institute)や国立毒物学計画(National Toxicology Program)、その他の研究所の研究では、現在使用されている85,000種の人間が作り出し化学物質のうち5〜10%に発がん性があり[8]、それらは特に、残留性有機汚染物質、すなわち塩素系農薬や PCBs 、ダイオキシンなどの産業化学物質や汚染物質であることを示している。結局、高用量テスト結果はほとんど常に低用量リスクを予言することができる。
 国立毒物学研究センター(National Center for Toxicological Research )が実施している研究において、発がん性の疑いのある物質を低用量で、膨大な数の動物テストが行われた。その結果は標準高用量テストから予測されるものを反映していた[9]
 高用量化学物質に適度の数の動物を暴露させるという現在の動物実験は、1 化学物質当たり数百万ドル(数億円)の金がかかる。さらに低用量テストを加えると膨大な数の動物を必要とする。例えば、10,000個体の暴露に対し、がん発症として 1 を得るために、統計的にきちんとした結果を得るためには数百万匹の動物が必要となる。このような研究は金がかかり過ぎるし、不必要に動物を苦しめるだけで、実施すべきではない。

 科学的意見として合意されているのは、高用量での研究は有効であり、低用量での影響を予測するのに信頼性があるということである。統計的に有意な結果を得るためには、高用量での研究だけがが人道的であり、コスト効果のある方法である[10]。高用量での研究は公衆健康を守るために重要である。

 科学産業界は、彼らの製品が危険であることを示す動物実験を表向きにはと攻撃する。しかし、非公式には産業界は動物実験の信奉者である。化学産業界は、高用量動物実験により彼らの製品が安全であることを示した場合には、それを声高に吹聴する。そして、産業界の科学者がある化学物質は動物に危険を及ぼすということを発見すると、企業は人間への危険性を推測し、そして、危険な塩化ビニルの例のように、その事実を抑え込もうとする[11]。もし、動物実験が有効でないなら、なぜ抑え込もうとするのか?

 人間への発がん性物質として知られているものは全て、動物への発がん物質でもある[12]。多くの場合、発がん性物質は動物と人間の双方において同じ組織にがんを起こす[13]。人間の先天性障害を引き起こすことが知られているほとんど全ての化学物質は、その98%が、動物にも先天性障害を引き起こす[14]。人間のホルモン(内分泌)をかく乱することが知られるほとんどの化学物質は動物にも同じように作用する。逆に、ある化学物質が動物に悪影響を及ぼす時には、その化学物質は人間にもまた同様な悪影響を及ぼす[15]

 もちろん、多くの類似点はあるが、動物は人間とは異なるし、動物同士でも異なる。マウスにがんを生じる物質の約75%はラットにも同じ作用をするが、25%はそうではない[16]。これが、化学物質が危険であると見なされるのは、例えば、マウスとイヌ、ラットトサルなど、2つの生物種において危険性を示した場合のみであるとする理由である。
 暴露によって悪影響を受ける生物種の数が増えれば、それだけ人間への危険性が増大することになる[17]

 しかし、動物テストにも問題がある。今日まで、子どもの動物と動物の胎児による実験はほとんどなされていない。実施された数少ないこれらの研究では、危険となるしきい値は大人の動物のそれよりはるかに低い値となることを示している。言い換えれば、化学物質への暴露標準があるとすれば、それらは人間の子どもや胎児にとっては高すぎるということである。

 動物実験ではまた、 1 回に 1 つの化学物質がテストされるだけであるということである。しかし現実には、我々は一時に多数の化学物質に暴露し、そして体内には数十種類の化学物質が存在する[18]。多数の化学物質に同時に暴露するとその影響は加算的なものではなく、相乗的、すなわち個々の化学物質からの影響の総和よりはるかに大きくなるということを示す驚くべき証拠がある[19]

 動物実験は胎児と子どもの動物を含むべきであり、多数の化学物質への同時暴露テストが行われなくてはならない。これが、現実の世界で最も脆弱な者への毒性の脅威を合理的に評価できる唯一の方法である。

 医薬品について考えてみよう。新たな医薬品はそれが一般の使用に供される前にアメリカ食品医薬品局(FDA)によってその安全性が承認されなければならない。それに引き換え、産業化学物質は現在、危険性が証明されるまでは安全であると見なされる。それらは認可テストがされることなく、あるいはほとんどされずに、我々の空気、水、土壌中に排出され、我々の体内に蓄積する。事後テストが実施されるのも、ほんの一部である。健康への危険性についてテストされているのは現在使用されている産業化学物質のうち半分以下である[20]

 我々は病気を治す手段としての医薬品を動物でテストすることに信頼性を置いている。それなのになぜ、病気を引き起こすものを探し出すために、動物でテストすることにそのように懐疑的になるのであろうか?

 産業化学物質は、しばしば、体内で薬物のような効果を持つ。我々は産業化学物質も医薬品と同等のテスト基準を持つべきであると信じている。動物実験によって、化学工場の作業者を含む、全ての人々がそれらに暴露する前に、その安全性が証明されるべきである。
 動物テストの結果の多くが、ある化学物質が先天性障害、発達障害、又はがんなどを引き起こす有害物質であることを示したなら、それらは制限されるか、廃止されるべきである。

 ごめんなさいより安全を! 我々はカナリヤに敬意を表し、カナリヤが告げることに対処すべきである。


科学的裏づけ文書

[1] Scharhein, J.K. and K.A. Keller, "Potential Human Developmental Toxicants and the Role of Animal Testing in their Identification and Characterization," Critical Reviews in Toxicology (1989) 19:251-339. Rall, D. et al. "Alternatives to Using Human Experience in Assessing Health Risks," Annual Review of Public Health (1987) 8:335-338.

[2] Wade, N. "Long-Held Beliefs Challenged by New Human Genome Analysis," NY Times, 2-12-2001. Wade, N. "Reading the Book of Life: Few Genes, Much Complexity," NY Times, 2-13-2001.

[3] Human Genome Management Information System, Oak Ridge National Laboratory (865) 576-6669.

[4] Huff, J. "Chemicals and Cancer in Humans: First Evidence in Experimental Animals," Environmental Health Perspectives (1993) 100:201-210. Rall, D.P. "Can Laboratory Animal Carcinogencity Studies Predict Cancer in Exposed Children?" Environmental Health Perspectives (1995) 103 suppl. 6: 173-175.

[5] Steingraber, S. Living Downstream (Vintage, NY, 1998) p. 16.

[6] Huff, J. "Chemicals Causally Associated with Cancers in Humans and in Laboratory Animals: A Perfect Concordance," in M.P. Waalkes and J.M. Ward (eds.) Carcinogenesis (Raven Press, NY, 1994) pp. 25-37.

[7] Bucher, J.R. "Doses in Rodent Cancer Studies: Sorting Fact from Fiction," Drug Metabolism Reviews (2000) 32:153-163. Nat. Research Council. Pesticides in the Diets of Infants and Children. National Academy Press, Washington, D.C. 1993. Rice, D. et al. "Lessons for Neurotoxicology from Selected Model Compounds: SGOMSEC Joint Report," Environmental Health Perspectives (1996) 104:205-215.

[8] Rall, D.P. "Laboratory Animal Tests and Human Cancer," Drug Metabolism Reviews (2000) 32:119-128. Fung, V.A. et al. "The Carcinogenesis Bioassay in Perspective: Application in Identifying Human Cancer Hazards," Environ. Health Perspectives (1995) 103:680-683.

[9] Fundatmental and Applied Toxicology (1983) 3:3. Journal of Environmental Pathology and Toxicology, Special Issue (1980) 3:3. "Re-Examination of the ED01 Study," Fundatmental and Applied Toxicology (1981) 1:1.

[10]Sherman, J. Chemical Exposure and Disease: Diagnostic and Investigative Techniques. (Princeton Scientific Publishing, Princeton, NY, 1994) pp. 27-28.

[11] Bill Moyers. "Trade Secrets," PBS investigation, 3-26-2001. To review chemical industry documents about animal studies and their suppression, visit www.ewg.org.

[12] Rall, D.P. "Can Laboratory Animal Carcinogencity Studies Predict Cancer in Exposed Children?" Environmental Health Perspectives (1995) 103 suppl. 6: 173-175. Huff, J. "Chemicals and Cancer in Humans: First Evidence in Experimental Animals," Environmental Health Perspectives (1993) 100:201-210.

[13] Huff, J. "Chemicals Causally Associated with Cancers in Humans and in Laboratory Animals: A Perfect Concordance," in M.P. Waalkes and J.M. Ward (eds.) Carcinogenesis (Raven Press, NY, 1994) pp. 25-37.

[14] Klaasen, C.D. (ed.) Casarrett & Doull's Toxicology: The Basic Science of Poisons (5th ed.) (McGraw Hill, NY 1996). Kimmel, C. et al. Animal Models for Assessing Developmental Toxicity: Similarities and Differences Between Children and Adults. (ILSI Press, Washington D.C., 1992) pp. 43-65.

[15] LeBlanc, G.A. "Are Environmental Sentinels Signaling?" Environ. Health Perspectives (1995) 103:888-890. Colburn, T. "The Wildlife-Human Connection: Modernizing Risk Decisions," Environ. Health Perspectives (1994) 102, suppl 12:55-59. Couch, J.A. and J.C. Harshbarger. "Effects of Carcinogenic Agents on Aquatic Animals: An Environmental and Experimental Overview," Environmental Carcinogenesis Reviews (1985) 3:63-105. Huff, J. "Chemicals Causally Associated with Cancers in Humans and in Laboratory Animals: A Perfect Concordance," in M.P. Waalkes and J.M. Ward (eds.) Carcinogenesis (Raven Press, NY, 1994) pp. 25-37. Guillette, L.J. "Endocrine-Disrupting Environmental Contamination and Reproduction: Lessons from the Study of Wildlife," in D.R. Popkin and L.J. Peddle (eds.) Women's Health Today: Perspectives on Current Research and Clinical Practice (Parthenon, Pearl River, NY, 1994) pp. 201-207.

[16] Huff, J. "Chemicals Associated with Site-Specific Neoplasia in 1394 Long-Term Carcinogenesis Experiments in Laboratory Rodents," Environ. Health Perspectives (1991) 93:247-270.

[17] Alden, C.L. et al. "A Critical Appraisal of the Value of Mouse Cancer Bioassay in Safety Assessment," Toxicology Pathology (1996) 24:722-725. Maronpot, R.R. and G.A. Boorman. "The Contribution of the Mouse in Hazard Identification Studies," Toxicology Pathology (1996) 24:726-731.

[18] Bill Moyers. "Trade Secrets," PBS investigation, 3-26-2001.

[19] Li, M.H. and L.G. Hansen. "Enzyme Induction and Acute Endocrine Effects in Prepubertal Female Rats Receiving Environmental PCB/PCFD/PCDD Mixtgujres," Environ. Health Perspectives (1996) 104:712-722.

[20] Philip Landrigan, M.D. on Bill Moyers. "Trade Secrets," PBS investigation, 3-26-2001.



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