子どもの健康と環境センター
Center for Children's Health and the Environment (CCHE)
ニューヨーク・タイムズ紙掲載広告の科学的裏づけ文書
意見広告 4　内分泌かく乱化学物質が動物と人間の生殖を脅かす
Scientific Background Paper for the
"Endocrine-Disrupting Chemicals Threaten Animal--and Human--Reproduction" NY TIMES ad 4
http://www.childenvironment.org/pdfs/NYT%20Ads/6-00077%20FINAL_Toxics_ContracptvNYT.pdf

訳：安間　武　（化学物質問題市民研究会）
掲載日：2003年11月15日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/cche/nyt_ad_4.html
意見広告 4
内分泌かく乱化学物質が動物と人間の生殖を脅かす
　1980年、フロリダのタワー・ケミカル社工場の事故で、殺虫剤ディフォコル（difocol）が多くのワニの生息地であるアポップカ湖に流出した。有毒な大量のディフォコルにより、この湖のワニの90％が直ぐに死んだ。
　しかし、1980年代の後半、湖は公式には再びきれいになった。ディフォコルの濃度は非常に低くなったので、生物学者はもはや危険はないと信じた。
　しかし、この湖のワニには、以前には決してなかった奇怪な生殖系の異常が見られるようになった。オスのワニの60％以上のペニスが奇形となり、メスを妊娠させることができなかった。
　ワニの卵の孵化率は正常な卵の20％であった。そして赤ん坊ワニの死亡率は異常に高かった。湖の水は全くきれいであると信じられていた[1]。

　唯ひとつ、そうではなかった。ディフォコルの濃度は極端に低かったが、ワニの生殖をつかさどる性ホルモンに影響を与えるのには十分であった。この殺虫剤は女性ホルモン、エストロゲンのように振る舞い、オスをメス化し、ワニの生殖系に異常をもたらした[2]。このような異常は、ディフォコル汚染が全くない近くのウッドワード湖では見られなかった。

　それ以来、広く使用されている化学物質の数多くがエストロゲン模倣作用があり、様々な内分泌かく乱作用を起こすことが示された。
　それらの化学物質は、他の多くの殺虫剤（2,4-D、 DDT、アトラジン、ディルドリン、ヘプタクロル、キーポン、リンデン、パーメトリン、等）、ある種の産業化学物質（ダイオキシン、フラン、ヘキサクロロベンゼン、PCBs、フタル酸化合物、等）、及び、いくつかの金属類（ヒ素、カドミウム、鉛、水銀、等）である[3]。

　これらのエストロゲン模倣作用は内分泌（ホルモン）系に影響を与えるので、それらは、総称として、”内分泌かく乱物質”と呼ばれている。
　多くの研究調査により、内分泌かく乱物質が野生生物と人間に著しい悪影響を与えることが示された。
  • アポップカ湖のワニ以外に、内分泌かく乱物質は野生生物の様々な生殖異常と関連性がありそうなことが説得力をもって示された。
    　イギリスの科学者は、ロンドン地域のニジマスのオスの生殖器異常と下水処理施設から放出された内分泌かく乱物質とを関連付けた[4]。それ以来、多くの魚類に見られるオスのメス化、雌雄両性固体、その他多くの生殖系異常が内分泌かく乱物質への曝露と関連付けられた[5]。
    　最近のある研究で、DDT への単独曝露によりオスの魚がメスのような挙動をすることがわかた[6]。そのほかに、最近の大西洋におけるサケの漁獲量減少は、内分泌かく乱物質への曝露に起因する生殖系の異常と関係があるように見える[7]。

  • 内分泌かく乱物質はカメの性変換[8] や、その他の爬虫類にも様々な生殖系異常を引き起こすことが示されている[9]。
    　これらの化学物質は、世界中のカエルやその他の両生類の個体数激減に関連しているかもしれない[10]。
    　五大湖周辺では、鳥の先天性欠陥やその他の生殖系異常はダイオキシンに汚染したエサを食べたことが原因であるように見える[11]。
    　いくつかの研究で、科学者たちは曝露の安全下限界値を見つけることができなかった。非常に微量な曝露であっても顕著なメス化現象を引き起こすように見える[12]。

  • 1990年代の初期、オランダの生物学者はゴマアザラシの異常な個体数激減に気づいた。彼らは最終的にその原因は、ゴマアザラシが食べたニシンが PCBs、ダイオキシン、その他の内分泌かく乱物質により汚染されていたことであると突き止めた[13]。
    　ホルモンは免疫系のコントロールに関連しており、エストロゲン模倣作用がアザラシの感染耐力を損なっていた。
    　それ以来、内分泌かく乱物質に曝露した他の動物も、免疫系の損傷、疾病への罹患率増大、高死亡率を示していることがわかった[14]。

  • 内分泌かく乱物質は男性の不妊及びその他の生殖障害をもたらすことが示されている。ディブロモクロロプロパン（DBCP）などの内分泌かく乱殺虫剤に職業的に曝露した化学工場の労働者は、一時的に、そしてある場合には一生、生殖不能となる[15]。
    　これら、あるいはその他の化学物質に曝露した動物には、精子の数の減少が見られる[16]。
    　またそれは精巣機能の低下[17]、精子の運動性の低下、精子異常の増大[18] を招き、受精能力が損なわれる。
    　かなりの数の証拠が、過去50年間に平均的アメリカ人とヨーロッパ人の精子の数が約40％減少していることを示している[19]。精子数減少はないとするいくつかの研究結果に基づくメディアの疑いにも関わらず、減少は事実であり、単なる計数方法が変わったことによる結果ではないとする証拠の重みが増している[20]。しかし、減少傾向は、男性が高頻度で内分泌かく乱化学物質に曝露する先進国だけに限られている[21]。
    　我々には、大気、飲料水、及び、食品から内分泌かく乱物質に曝露することによって、人間の男性の精子数が減少するかどうかはまだわからない。しかしそのような疑問は提起されており、それに応えるべく研究を至急行うことが必要である。

  • 内分泌かく乱物質は、不妊と関連がある女性の子宮内膜症の原因となっているかもしれない。いくつかの動物の研究で、サルにおける 25 ppt という、ほとんどないくらいわずかな内分泌かく乱ダイオキシンへの曝露でも子宮内膜症を引き起こすということが示されている[22]。

  • 内分泌かく乱物質は人間の妊娠を妨げる作用があるように見える。ニューヨーク州で女性のオンタリオ湖の魚の摂取量が増えると、彼女らが妊娠するまでの期間が長くなった[23]。オンタリオ湖の魚は PCBs やその他の内分泌かく乱物質で高度に汚染されており、健康当局はそれらを食べないよう勧告している。

  • 内分泌かく乱物質は流産とも関連しているように見える。カリフォルニアの研究者たちは、流産が妊娠女性の農業用殺虫剤への曝露と関連があるとしている。農薬が女性の家の周囲9平方マイル以内に散布されると、そのことと先天性欠陥による胎児の死亡とが強い因果関係にあるとしている[24]。

  • 内分泌かく乱物質は、尿道開口部がペニスの先端ではない場所にある尿道下裂の増加に寄与しているかもしれない。1970年以来、アメリカの尿道下裂の発生率は出生男児10,000に対し、20例から40例へと倍増している[25]、（[26]）。発生率の増大は他の先進諸国でも見られる[27]。
    　動物実験では胎児の発達段階での内分泌かく乱物質への曝露がこの先天性欠陥をもたらすことを示している[28]。

  • 内分泌かく乱物質への曝露はまた停留睾丸の発生率に寄与しているかもしれない。デンマークの研究者たちは、母親が女性ホルモン模倣作用のある物質に異常な曝露はしていない男児たちと、母親が妊娠中に園芸職についており職業的な曝露を受けている男児との比較をおこなった。殺虫剤に曝露した母親の子どもたちには、停留睾丸が50％以上多かった[29]。

  • 内分泌かく乱物質は男児と女児の誕生性比を変えるように見える。通常男児出生比は51％である。しかし、イタリアのセベソの事故で大量の内分泌かく乱物質ダイオキシンに曝露した住民においては、男児の出生比率が減少し女児の出生が増大した[30]。
    　事故による大量の曝露がなくても、デンマーク[32]、カナダ[33]、アメリカ[34]など、いくつかの先進国[31]では女児の出生比が増大している[31]。

  • 最後に、内分泌かく乱物質は、母乳の持ついくつかの長所を無効にしている。母乳は乳児の免疫機能を強化する。しかしいくつかの研究事例では母乳中の内分泌かく乱物質の濃度が高まると乳児の感染症への感染率が高まる[35]。
    　オランダにおいて、体内の PCBs 濃度が低い子どもに比べて、高い子どもは種痘にかかるリスクが8倍、少なくとも6つの耳の感染症にかかるリスクが3倍高いことが示された[36]。
　内分泌かく乱物質への曝露だけが動物と人間の生殖系異常を引き起こす原因であろうか？　そうではない。それらが唯一の原因ではないことはほとんど確実であり、いくつかの研究では、これらの曝露と異常の関連性がないことを示している[37]。 　しかし、内分泌かく乱物質が生殖系異常発生に重要な役割を果たしていることを示す証拠が増えている。我々は現在実施中の研究によりこれらの化学物質による症例がさらに増えると予想している。

　「後悔するより安全を」（Better safe than sorry）。
　我々は不確かさは残るものの、内分泌かく乱物質への曝露を制限するために果敢に行動を起こさなければならない十分な証拠がそろっていると信じている。
　これらの化学物質はできるだけ早く廃止されるべきである。理想的には今すぐに。

　もし、曝露がチェックされることなく続くなら、魚類、爬虫類、両生類、鳥類、そして人間を含む哺乳類は、聖書の最初の、そして最も基本的なみことば、　”・・・生めよ増やせよ　地に満ちて　地をつかさどれ・・・”（訳注：旧約聖書　創世記　第1章）　に従うことができなくなる。

科学的裏づけ文書

[1] Colborn, T. et al. Our Stolen Future (Plume, NY, 1997) p.6.

[2] Raloff, J. Environmental Hormones: Threats to Health and Reproduction? Radio and Television News Directors Foundation, Washington, D.C. 1999. www.rtndf.org.

[3] www.ourstolenfuture.org/Basics/chemlist.htm

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