Epoch Times 2016年8月4日
我々の海のプラスチック小片は
いかに恐ろしいか

ペトル・スバブ (Epoch Times)

情報源:Epoch Times, August 4, 2016
How Tiny Pieces of Plastic in Our Oceans Are 'Terrifying'
By Petr Svab, Epoch Times
http://www.theepochtimes.com/n3/2104687-how-the-tiny-pieces-of-
plastic-in-our-oceans-are-terrifying-for-humans/?utm_expid=21082672-
11.b4WAd2xRR0ybC6ydhoAj9w.0&utm_referrer=https%3A%2F%2Ft.co%2FHFqSgzlbwX


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2016年8月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_16/
160804_Epoch_Times_Plastic_in_Our_Oceans.html

plastic_waste.jpg(21585 byte)
Plastic waste strewn on a beach near Dakar, Senegal
on Sept. 2, 2015.

(SEYLLOU/AFP/Getty Images)
 長年、魚は海の中で、食物と間違えて小さなプラスチック片を食べている。

 時には人の髪の毛より薄いこれらの”マイクロプラスチック”は、現在は少量ではあるが、ある魚の総個体数の概略 85%〜90%中に存在すると、プリマウス大学の海洋生物学者であるリチャード・トンプソンは言う。そして我々人間はその魚を食べる。

 海洋中のプラスチック廃棄物の影響について20年以上研究しているトンプソンは、マイクロプラスチックの人間への直接的な危害はまだわかっていないと述べた。 ”危害の科学的理解はまだ揺籃期である”。

 2014年に研究者らは、カリフォルニアとインドネシの市場から数十匹の魚を買った。カリフォルニアの魚は10匹のうち1匹、インドネシアの魚は4匹に1匹が体内にプラスチックを持っていた。

 そしてある研究が先月、2050年までに世界中の海の魚よりプラスチックの方が多くなると見積もった。

 科学者らはプラスチック中の化学的添加物の有害影響、そして重金属(腎臓、肺、脳の損傷に関連)、ビスフェノールA(子どもの脳のダメージと行動発達に関連)、及びフタル酸エステル類(男児の男性機能の発達の妨げに関連)のような物質を浸出すると何が起きるのか−を調査している。

 科学者らはまた、マイクロプラスチックがスポンジのように作用し、アメリカでは40年前に禁止されたが、中国のようなある国ではいまだに使用されている生殖系に損傷を与える農薬 DDT など、すでに水中で検出されている他の化学的汚染物質を吸収することを見つけた。

 これらの化学的添加物や吸収された化学物質が魚や生態系、そして人間に及ぼす危害の程度は知られていない。

 多くの異なる種類のプラスチックが異なるサイズで、そして異なる添加物や吸収された汚染物質をもって、存在している。”このもつれを解きほぐすことは全く複雑なことである”と、トンプソンは述べた。

 さらに、科学者らは通常、あるものの健康影響を測定するためにコントロール・グループ(参照群)を必要とする。海洋のプラスチックごみの場合には、まだプラスチックごみに曝露していないかなりの数の人々のグループを見つけることはますます難しくなっている。

 トンプソンは、人々はプラスチック汚染が集団レベルで人の健康を損なうという科学的証明を期待すべきではないと述べた。人々は環境中で非常に多くの要因に曝露しているので、”プラスチックの影響自身を分離する−マイクロプラスチックだけにする−ことはほとんど不可能である”。

 アリゾナ州立大学(ASU)教授で、バイオデザイン研究所の環境安全センターのディレクターであるロルフ・ハルデンは、化学物質汚染に関する主要な権威の一人である。ハルデンは、プラスチックごみに付着した化学物質がどこに行くのかを厳密に調査している。

 調査の道は長いが、問題の程度についていくつかのヒントが見え始めてきたと、ASU 大学院研究生でハルデンの研究チームの一員であるチャールス・ロルスキーは述べた。

彼は、動物及び生態系に及ぼすことが既に知られている影響は、我々人間への影響についてのヒントになるかもしれなと述べた。”我々はそれらと我々との間のこの膨大な関係をまだ解明していないが、小規模にではあるがそれを見え始めている”。

Plastic_debris.jpg(41635 byte)
Plastic debris on a beach in the U.K.
(Courtesy of Charles Rolsky)
 そしてプラスチックはどこにでもあるので、例えそれが少量の証拠であっても、有害健康影響を示すということは大きな問題であるということの信号かもしれない。”今回のケースで未知であるということは本当に、本当に恐ろしいことである”とロルスキーは述べた。

 2013年、科学者らは、海洋環境で収集したマイクロプラスチックを含むエサをメダカに与えた。メダカのあるものは病気になり、肝臓障害の症状を示した。しかしひとつの影響が最も顕著であった。メダカは飢え死にしそうであったのである。メダカの胃の中のプラスチックはメダカに満腹感をもたらし、その結果、栄養不良になった。

 それは生殖を阻害するかもしれない。少なくともそれはウミガメに現れた影響である。ウミガメがプラスチックを食べると栄養失調になり、繁殖が減少し、又は全くしなくなると、ウミガメを25年間研究している海洋生物学者ウォーレス J. ニコルズは述べた。

どのくらいの量のプラスチックか

 本年1月に発表された World Economic Forum (世界経済フォーラム)の論文によれば、”現在利用できる最良の研究”は、今日海洋には 1億6,500万トンのプラスチックがあると見積もっている。それはタイタニック号の3,500隻分以上の重量である。そして人間は毎年、タイタニック号190隻分にあたる900万トンを海洋に放出している。

 今後20年間でプラスチックの使用は倍加すると推定されることを考えれば、2050年までに海洋中の魚1トン当たり、1トンのプラスチックとなるであろうと報告書は予測した。

 Environmental Research Letters(環境研究レター)に発表された調査によれば、2014年に海洋に浮遊していたプラスチックごみは、10万2,000〜26万トンであった。 それらは、人が居住する全ての大陸の海岸で、そして遠隔地域や南極大陸ですら見られた。

 マイクロプラスチックは非常に小さいので、廃水処理プラントを通り抜けて流れ出る。そしてマイクロプラスチックは化学物質を吸収することができるので、廃水処理プラントは廃水から危険な化学物質を除去することができないかもしれない。

 もっと悪いことは、廃水処理プラント自体が、水を浄化するために塩素のような化学物質を使用していることである。マイクロプラスチックはこれらの化学物質を吸収し、プラントの外に一緒に流出する。

死角

 世界経済フォーラムの研究は、マイクロプラスチック問題に対する解決提案は、製造されるすべてのプラスチックの 4分の1以上になり、ごみの中で大きな割合を占めるプラスチック容器に力を注ぐべきであると提案している。それらの多くは単回使用である。

 この研究の著者らは、”廃棄物にならない”適切な再使用可能なプラスチックを作り出すべきであると主張している。しかし彼らは、今日の技術では、それは実行可能ではないことを認めている。

 著者らは、消費者らがプラスチック容器の使用を劇的に少なくすることはありそうにないと認めているが、それでも人々はそれを試みるべきであると提案している。例えば自分自身の買い物袋を市場に持参する、あるいは朝のコーヒーに自身のマグカップを持参する等である。

 しかし、責任を製造者ではなく消費者に課すということは、人が落ちてくるのに備えて救急車を崖の下に待機させるようなものである。そして、プラスチックが人を害するという直接的な証拠の欠如は、プラスチック容器を規制することを難しくしている。

 汚染問題は、ひとつにはプラスチック廃棄物を処理するインフラストラクチャーの不備に起因する。製造されるすべてのプラスチック容器の約3分の1は、廃棄後に焼却、リサイクル、又は埋め立てされることはない。それはインフラストラクチャーから漏れ出し、海洋に、土壌に、そして水路に行き着く。

 ”例えインフラを改善するための現状最善のシナリオをもってしても、漏れは現状を維持するのが精一杯で、なくすことはできないであろう”と、この研究の著者らは述べている。

 著者らはまた、現在の生物分解性プラスチックについて懐疑的であり、”それらは一般的に管理された条件下でのみ堆肥化が可能なので、廃棄物なしのアプローチには程遠い”と述べている。

 この問題に対処するためには、プラスチック産業、政府、規制当局、及び NGOs 間の世界的な協力が必要であると、著者らは述べた。現在までの所、そのようなことが行われる兆候はない。

 アメリカは、昨年、例えば皮膚剥離のために用いられるプラスチックの微細な粒、マイクロプラスチック・ビーズを含むリンスオフ化粧品を禁止する法律を通過させた。しかしそれは微細なプラスチックごみを扱うだけである。

オーシャン・クリーンアップ

 2012年、18歳のボイヤン・スラットは、独創的な問いをした:海の波がプラスチックごみを運んでくるのだから、それらを積極に捉えてはどうか? (訳注1

 インターネット上で情報が急速に広まる TEDx talk で、スラットは、海水により自然に流れ込んでくる海表面のプラスチックごみをすくいとる受動的浮遊バリアの概念を発表した。

 スラットは 2013年にオーシャン・クリーンアップ基金を設立し、今年の6月に同基金は、オランダの海岸から14マイル(約22キロメートル)離れた北海のある場所に100メートル幅の彼の発明のプロトタイプを設置した。

 幅が62マイル(約100キロメートル)以上ある最終的バリアは、2020年に設置されるであろう。同プロジェクトは、バリアは今後10年でプラスチックごみを概略 8万トン回収するのに役立つであろうと見積もっている。それは年 間8,000トンに相当する。

Volunteers_collect_trash.jpg(27164 byte)
Volunteers collect trash in Tamentfoust, Algeria, during a cleanup operation on Jan. 20, 2012.
(FAROUK BATICHE/AFP/Getty Images)
 それに比較すると、オーシャン・コンサーバンシー(Ocean Conservancy) の国際開海岸クリーンアップレポートによれば、昨年、世界中の海岸と水路から 9,000トンのごみを除去するために 80万人のボランティアが必要であった。最も一般的なごみはプラスチックであった。

 スラットの発明は、利用可能なプラスチックごみ対策の中で最も効率的な方法であると、同プロジェクトのメディア担当はeメールで述べた。

しかし、困難がある。同プロジェクトは 10年間にわたる運用に 3億5,000万ドル(約350億円)−プラスチック1トン当たり約4,500ドル(約45万円)−の費用がかかる。それは、我々が現在、毎年海洋に放出しているプラスチック 900万トンを回収するためには年間、400億ドル(約4兆円)の費用がかかることを意味する。

 そしてそれは、プラスチック生産量が増加していることを、あるいは海洋には既に 1億6,500万トンのプラスチックが存在していることを、考慮していない。。それらを回収するためには、さらに 7,400億ドル(約74兆円)がかかるであろう。

 そして、それはオーシャン・クリーンアップがすべてのプラスチックごみを回収できることを前提にしているが、それは不可能である。

 オーシャン・クリーンアップの実行可能性調査は、バリアは、約20%のごみを取り逃がすが、それは、ひとつにはバリアが 10フィート(約3メートル)の深さまでしか届かないからであると述べている。

 また、2センチメートルより小さな粒子は捕捉することができず、それはマイクロプラスチックを回収することはできないことを意味する。しかし、それはもっと大きな塊がマイクロプラスチックになる前にそれらを回収することはできる。

 しかし、2014年にはすでに海洋中に 10万2,000トン〜26万トンのマイクロプラスチックが存在していた。オーシャン・クリーンアップが立ち上がる前に、どのくらい存在したのであろうか?

 言うまでもなく、こプロジェクトは 2020年以降の明確な計画を持っていない。ましてや政府や企業からの数十億ドル(数千百億円)などという資金供給の見通しは立っていない。

 スラットは、プラスチック問題を時限爆弾に例えている。問題は、それがいつ爆発するかである。あるいはすでに爆発しているのか?


訳注1:オーシャン・クリーンアップ関連情報
訳注:当研究会が紹介したマイクロビーズ又はプラスチック汚染に関連する情報
訳注:その他のマイクロビーズ又はプラスチック汚染に関連する情報



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る