The Conversation 更新 2021年8月3日
男性の生殖能力が低下している:
環境有害物質がその理由かもしれないことを
研究が示している

ライアン P. スミス、バージニア大学泌尿器学准教授

情報源:The Conversation, Updated August 3, 2021
Male fertility is declining -
studies show that environmental toxins could be a reason
By Ryan P. Smith, Associate Professor of Urology, University of Virginia
https://theconversation.com/male-fertility-is-declining-
studies-show-that-environmental-toxins-could-be-a-reason-163795


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年8月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/USA/210803_The-Conversation_Male_
fertility_is_declining_studies_show_that_environmental_toxins_could_be_a_reason.html



 米国では、8人に1人のカップルが不妊症に苦しんでいる。残念ながら、生殖医療を専門とする私のような医師は、30%から50%の確立で男性不妊の原因を特定できない。カップルに”わからない”又は”私にできることは何もない”と言うことほど失望させる言葉はない。

 このこのことを知ると、カップルは次々と私に質問するが、それらはすべて同じような考え方に基づいている。 ”彼の仕事、彼の携帯電話、私たちのパソコン、これらのプラスチックはどうですか? これらが不妊に関係していると思いますか?”

 私の患者が本当に私に尋ねていることは、男性の生殖健康における大きな質問である:環境有害物質は男性の不妊に関係あるのか?

男性の生殖能力の低下

 不妊症は、定期的な性交にもかかわらず、カップルが 1年間妊娠できないことと定義されている。この場合、医師は両方のパートナーを評価して理由を判断する。

 男性の場合、生殖能力評価の基礎は精液分析であり、精子を評価する方法はいくつかある 。精子数(男性が生成する精子の総数)と精子濃度(精液 1ミリリットル当たりの精子数)は評価のための一般的な手段であるが、それらは生殖能力の最適な予測因子ではない。もっと正確な手段は、運動性精子の総数を調べることである。これは、泳いだり動いたりできる精子の割合を評価する。

 肥満からホルモンの不均衡、遺伝病まで、さまざまな要因が生殖能力に影響を与える可能性がある。多くの男性にとって、役立つ治療法がある。しかし、1990年代以降、研究者たちは懸念ある傾向に気づいた。既知のリスク要素の多くを管理している場合でも、男性の生殖能力は数十年にわたって低下しているように見えた。

 1992年のある研究は、過去60年の間に男性の精子数が世界的に50%減少していることを発見した。その後の数年間にわたる複数の研究、及び、世界中の男性の1973年から2011年の間に精子濃度が50%から60%低下したことを示す2017年の論文がその最初の発見を確認した。

 これらの研究は重要であるが、精子濃度または総精子数に焦点を合わせている。そのため、2019年に、研究者のチームは、より強力な総運動性精子数に焦点を当てることを決定した。彼らは、正常な総運動性精子数を持つ男性の割合が過去16年間で約10%減少したことを発見した。

 科学は一貫している。今日の男性は過去よりも精子の生産量が少なく、精子の健康状態も劣っている。したがって問題は、何がこの生殖能力の低下を引き起こしている可能性があるのかである。


可塑剤は一般的な内分泌かく乱物質であり、PVCパイプなど食品や水と接触する多くのプラスチックに含まれている。
Mm Zaletel /ウィキメディアコモンズ、CC BY-SA
環境毒性と生殖

 科学者たちは、少なくとも動物モデルでは、環境毒性暴露がホルモンバランスを変化させ、生殖を阻害する可能性があることを長年知っていた。研究者たちは、人間の患者を意図的に有害な化学物質に暴露させて結果を測定することはできないが、関連性を評価することはできる。

 男性の生殖能力の低下傾向が明らかになるにつれて、私と他の研究者たちは答えを求めて環境中の化学物質にもっと目を向け始めた。このアプローチでは、どの化学物質が男性の生殖能力の低下を引き起こしているのかを明確に特定することはできないが、証拠の重要性は増している

 この研究の多くは、内分泌かく乱物質、つまり体のホルモンを模倣し、壊れやすいホルモンの生殖バランスを崩す分子に焦点を当てている。これらには、フタル酸エステル類(可塑剤としてよく知られている)のような物質、ならびに農薬、除草剤、重金属、有毒ガス、およびその他の合成材料が含まれる。

 可塑剤は、飲料水ボトルや食品容器などのほとんどのプラスチックに含まれており、暴露はテストステロンと精液の健康に悪影響を及ぼす。除草剤や殺虫剤は食料供給に豊富にあり、一部、特にリンを含む合成有機化合物を含むものは、生殖能力に悪影響を与えることが知られている

 大気汚染は都市を取り囲み、粒子状物質、二酸化硫黄、窒素酸化物、及び異常な精子の質に寄与する可能性のあるその他の化合物に住民をさらしている。パソコン、携帯電話、モデムからの放射線被暴は、精子数の減少、精子の運動性の低下、精子の形の異常にも関連している。カドミウム、鉛、ヒ素などの重金属も食品、水、化粧品に含まれており、精子の健康を害することも知られている。

 内分泌かく乱物質とそれらが引き起こす不妊の問題は、人間の身体的および感情的な健康に著しい損傷を与えている。そして、これらの損傷の治療は高くつ。


毎年何千もの新しい化学物質が導入され、政府機関はそれに追いつくために最善を尽くしている。
ゲッティイメージズ経由のスティーブンオスマン/ロサンゼルスタイムズ CC BY-SA
カリフォルニア州
1986年安全飲料水&有害物質施行法
(PROPOSITION 65)
プロポジション65 の要求に合わせるために、
下記のお知らせをすることが我々の責任である。

警告
 この店で販売されている製品の
一部は、がん、出生障害又はその他の
生殖障害を引き起こすことを
カリフォルニア州に知られている
化学物質を含んでいる。
規制されていない化学物質の影響

 今日、多くの化学物質が使用されており、それら全てを追跡することは非常に困難である。米国では 80,000を超える化学物質が登録されており毎年 2,000近くの新しい化学物質が導入されている。多くの科学者たちは、健康と環境のリスクの安全性試験は十分に強力ではなく、新しい化学物質の急速な開発と導入は人間の健康に対する長期的なリスクをテストする組織の能力に対する挑戦であると信じている。

 現在の米国の規制は、有罪が証明されるまでは無罪の原則に従い、たとえばヨーロッパの同様の規制よりも包括性及び制約性が低い世界保健機関は最近、ホルモンをかく乱することができる 800の化合物を特定したが、そのうちのごく一部しかテストされていない。

 業界団体である米国化学工業協会は、そのウェブサイトで、製造業者は”イノベーション、成長、雇用の創出、グローバル市場での勝利に必要な規制上の確実性を持っていると同時に、公衆衛生と環境は強いリスク・ベースの保護の恩恵を受けている”と述べている。

 しかし、米国の現在の規制システムの現実は、化学物質は最小限のテストで導入され、危害が証明された場合にのみ市場から排除されるということである。そして、それは数十年かかることがある。

 精子数の減少に関する最初の原稿のひとつの指揮研究者であるニールス・スカケベック博士は、男性の生殖能力の低下を”私たち全員への警告”と呼んだ。私の患者は、現在及び将来の世界的な生殖健康を保護するために、国民の意識向上と唱道が重要であるという警告を私に提供してくれた。私は毒物学者ではなく、私が見ている不妊症の傾向の原因を特定することはできないが、医師として、立証責任の多くが人体と私の患者になる人々にかかっているのではないかと心配している。

 この記事は、米国の化学物質規制システムをより正確に表すために更新された。


訳注:当研究会が紹介した男性の生殖能力関連情報
化学物質問題市民研究会
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