EurekAlert! 2021年3月21日
内分泌かく乱物質は精液の質を脅かす
ジュネーブ大学
情報源:EurekAlert! News Release 19 Mar 2021
Endocrine disruptors threatens semen quality
UNIVERSITE DE GENEVE
https://eurekalert.org/pub_releases/2021-03/udg-edt031921.php

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年3月22日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/210319_EurekAlert_
Endocrine_disruptors_threatens_semen_quality.html



 ジュネーヴ大学(UNIGE)とフランスの公衆衛生高等研究院(IRSET)の科学者たちは、成人男性の精液の質の悪さと、妊娠中の母親の内分泌かく乱物質への職業的暴露との間に関連性を確立した。
 ますます多くの研究が、妊婦の環境要因と生活習慣が子どもの健康に重要な役割を果たしていることを示している。しかし、若い男性の精液の質はどうか? スイスのジュネーブ大学(UNIGE)の研究者は、2年前、スイスの男性の 38%だけしか、世界保健機関(WHO)が妊娠可能な男性に対して設定した閾値を超える精液指標を持っていなかったことを示した。フランス レンヌの公衆衛生高等研究院((IRSET, Rennes, France)の疫学者らは、UNIGE チームと協力して、母親が妊娠初期に職に就いていた男性の精液質への内分泌かく乱物質の潜在的な影響を分析した。ジャーナル Human Reproduction (人の生殖)に掲載された彼らの研究は、内分泌かく乱物質を含むことが知られている製品に子宮内で暴露された男性は、1回の射精による精液量と総精子数が WHO によって設定された基準値を下回る可能性が 2倍高いことを示していた。

 世界保健機関(WHO)によると、内分泌かく乱物質は、内分泌系に干渉し、生物またはその子孫に悪影響を与える可能性のある天然または合成起源の化学物質である。”いくつかの動物実験では、特定の内分泌かく乱物質への妊娠中の暴露が、男性の生殖系の発達、ならびに成人期の精子生成および精液の質に影響を与える可能性があることがすでに示されていると、IRSET、レンヌ第1大学、及びレンヌ大学病院センター(CHU)の 研究者であるロナン・ガーランツェックは説明する。”スイスの若い男性の精液の質に関するセルジュ・ネフのチームによって得られた結果を見て、観察された傾向の背後にある多くの考えられる理由のひとつとして妊娠中の内分泌かく乱物質への暴露の潜在的な影響の研究に関心を持ったと、彼は続ける。

1000人以上の徴集兵の精液を分析

 ジュネーヴ大学(UNIGE)医学部の遺伝医学および開発学部の教授であるセルジュ・ネフのチームは、約3000人の徴集兵の精液の質を評価したが、そのうち 1045 人の徴集兵の母親は妊娠中に職に就いていたとセルジュ・ネフ教授は説明する。”彼らのそれぞれに対して、精液濃度、運動性、及び形態とともに、精液量を調べるために精液質分析が実施された”とセルジェ・ネフは説明する。”精液分析が行われる前に、特に徴集兵を妊娠している期間中に関わった母親の仕事についての詳細な質問票も両親に送られた。”

 これにより、妊娠中に母親が働いていた男性の精液指標の分析が可能になった。”母親の仕事は国際標準職業分類( WHO の国際労働局の ISCO-88)に従って分類された”と IRSET のリサーチ・ディレクターであるリュック・マルティングナーは説明する。”妊娠中の内分泌かく乱物質を含む製品への暴露は、母親の暴露を確率スコアに帰することを可能にする職業暴露マトリックスを使用して定義されている。” これにより、疫学者は、母親の職業に応じて内分泌かく乱物質を含む可能性のある、ひとつ又は複数のカテゴリーの製品への暴露の確率を推定することができた。

精子の質の低下に関連する内分泌かく乱物質

 この研究の結果は、子宮内で内分泌かく乱物質に暴露した若い男性は、射精あたりの精液量(閾値 2 ml)と精子の総数(4,000万個)の両方の点で、WHO によって確立された基準値を2倍下回る可能性があることを示している。「私たちの研究では、これらの暴露に最も関連する製品は、農薬、フタル酸エステル、重金属であったとロナン・ガーランツェックは述べている。

 ”これらの観察は若い男性の将来の生殖能力を決定するものではなく、長期にわたる追跡調査のみが結果を評価することを可能にする。それにもかかわらず、結果は少なくとも部分的に、一部の若いスイス人男性の精液の質の低さを説明することができるとセルジュ・ネフは続ける。この同じ集団で、内分泌かく乱物質への母親の職業的暴露と成人期の性ホルモンの変化との関連を研究するための追加の研究がすでに計画されている。

内分泌かく乱物質への暴露の防止

 この研究の結果は、母親の内分泌かく乱物質への職業的暴露と、彼女らの子どもの成人期におけるいくつかの精液指標の減少との関連を示唆している。”したがって、妊娠を計画している女性に、妊娠の初期段階にこれらの物質に暴露することの潜在的な危険性を知らせる必要があるよう見える。これは、子どもの生殖能力を変える可能性がある”と、リュック・マルティングナーは強調する。”同様に、内分泌かく乱物質の影響が女性の生殖系に同じであるかどうかを評価するために、女性で同様の研究を実施することは興味深いことであるが、これを実施することははるかに複雑であろう”とロナン・ガーランツェックは説明する。 最後に、データは 25年前の母親に関するものである。それ以来、使用される製品に存在する内分泌かく乱物質と同様に、女性が従事する職業も大きく進化した。 ”だからこそ、この研究の決定的な予防的役割を注目すべきである”とセルジュ・ネフを結論付けている。


訳注:男性不妊に関する記事



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る