Living on Earth 2015年4月17
内分泌かく乱科学の母−シーア・コルボーン

情報源:Living on Earth, April 17, 2015
The Mother of Endocrine Disruption Science
http://loe.org/shows/segments.html?programID=15-P13-00016&segmentID=3

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2015年4月22日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/USA/150419_Living_on_Earth_Theo_Colborn.html

 シーア・コルボーンさんは、博士号(PhD)を得るのを50代まで待っていたかもしれないが、彼女は環境健康の分野で先覚者になっていた。シーアは昨年12月に亡くなったが(訳注1)、アースデーのこの時期に、科学者仲間であり、協力者であったローラ・バンデンバーグさんと司会者スティーブ・カーウッドさんが、シーアの人生を思い起こし、科学的知識への彼女の寄与について話し合った。

音声(MP3 file):http://loe.org/content/2015-04-17/loe_150417_b2_theo_appreciation.mp3
対談録(オリジナル):http://loe.org/shows/segments.html?programID=15-P13-00016&segmentID=3

対談録
カーウッド:さて、現在、内分泌かく乱物質の科学はよく確立されていますが、それはシーアの先駆的な仕事と彼女が協力した多くの研究者らによるところが大きく、例えば赤ちゃん用ほ乳びん中でのビスフェノールAの使用禁止に導いた取組みなどです。それにもかかわらず、規制当局は内分泌かく乱のリスクに対応し始めたばかりです。シーアが共著者となったまさに最後の論文のひとつは、現在、マサチューセッツ大学アムハースト校の環境健康科学者であるローラ・バンデンバーグさんにより率いられた研究チームとの共著です。ローラは、シーアの科学的業績を振り返り、そして今後何が待ち受けているのか見るために我々の企画に参加してくれました。ローラ、 Living on Eart に再び登場いただきありがとうございます。

バンデンバーグ:再びお会いさせていただき、どうもありがとうございます。

カーウッド:シーア・コルボーンさんについて初めて聞いたのはいつかを、まずお話しください。

バンデンバーグ:多くの若い大学院生と同様に、私は最初にシーアと彼女の仕事について、彼女の非常に有名な本『奪われし未来(Our Stolen Future)』から学びました。そしてそれは私の大学院での初期の、そして多分、タフツ大学のアナ・ソトとともに私の博士(PhD )開始の2年間の経歴であり、シーアと親しいアナが、私たちを電子メールで紹介してくれたので、私が思うに、興味深いことについてシーアとチャット(ネットワーク上での会話)を開始し、彼女はそれによって私を助けてくれました。

カーウッド:そして、あなたはシーアをあなたの指導者として得たことを女性科学者としてどの様に感じたのでしょうか?

バンデンバーグ:私は、シーアのような方と働くということはとても光栄でした。私は、何か違うことをしたいと望み、人生のある時期に自ら進んでそれに取り組む人々をいつも本当に尊敬します。

 それには多くの勇気が必要であり、シーアは50代で博士号(PhD)をとりました。それは通常の進路ではなく、私の場合とは明らかに異なっており、そのことについて私は本当に彼女を尊敬しました。しかし私は、博士号取得という理由だけではなく、非常に議論があった、そして今も議論のある分野で仕事をしてきたということについても彼女を本当に尊敬します。彼女は、多分、他に少数の人々、そして少数の女性しかそのことに関わっていなかった時代に、惑星地球(planet Earth)と人の健康のためという立場をとりました。

カーウッド:現在、彼女の考えが実際に発表されてから20年以上が経過しています。20年後の現在、この考えはどのように見えますか?

バンデンバーグ:その研究が仮説として提案された時には、まだテスト中であり、この分野の実践者らを本当に説得するためにはもっと多くのデータが必要であり、まだ何かが進行中であるというようなものでした。それは、低レベルの化学物質が野生生物と人間の健康に影響を及ぼすことができるという低用量仮説と呼ばれる考えでした(訳注2)。現在はデータはそろっています。それには20年かかり、貢献した多くの科学者がおり、これらの化学物質が人間の健康、野生生物、実験室の生物、シャーレ(平皿)中の細胞に影響を及ぼすことができることを示す非常に堅固な証拠があります。シーアがこの仕事を始めた1990年代に知られていたことから今日までの間に飛躍的な進歩があります。

カーウッド:シーア・コルボーンさんが語ったことのひとつは、これらのホルモンかく乱物質が私たちの生殖に及ぼす影響についてです。私たちは現在、何を知っているのでしょうか?

バンデンバーグ:生殖系疾病と異常が増大している傾向がありますが、それらは、人間の不妊、子宮内膜症、多嚢胞性卵巣症候群、生殖系がん、及び乳がんなどの増大であり、研究室における管理された動物実験により生成され知識をたどり調べれば、私たちは管理された状況の下で内分泌かく乱物質に暴露させたこれらの動物から、これらの疾病の増加のあるものを説明することができます。

 私たちは、人間の集団の中で増大しているこれらの生殖系の多くの疾病を動物実験で引き起こすことができます。実際に関連があるのです。私たちは今日、これらの疾病のどれかひとつでも懸念ある単一の化学物質によって引き起こされることを証明できますか? 私たちには、まだできません。環境が生殖に影響を及ぼしているという非常に強い証拠はありますか? もちろんあります。

カーウッド:シーア・コルボーンさんが懸念したことのひとつは、私たちの思考、私たちの脳、私たちの神経系に関することでした。これらのホルモン擬態物質は刺激の伝達をかく乱するかもしれず、それらは神経伝達物質として知られるものに影響を与えるであろうと彼女は考えました。今日そのことについて私たちは何を知っているのでしょうか?

バンデンバーグ:シーアは、この考えを正しくとらえていました。そして実際に、神経伝達物質は内分泌かく乱物質の影響として私たちが発見していたことの正に一部分なのです。これらの化学物質は、実際に発達中の脳に影響を及ぼしています。脳は、神経のような単一細胞への影響を見ることができる、精密な伝達物質のようなより低いレベルを見ることができる、又は脳全体の解剖学的構造を見ることができる本当に複雑な器官であり、おそらく内分泌かく乱物質についてのもっと魅惑的なことは、生物学のこれらの異なるレベルの全てを標的にできるということです。内分泌かく乱物質の脳への影響を示すもっと説得力のあるデータのあるものは、げっ歯類及びオスとメスで異なる脳の領域に焦点をあてています。そして生命の非常に早い時期に内分泌かく乱物質に暴露した生物は、その遺伝的な性に対応しない脳を持つことがあります。ほんの少しメスのような脳をもったオス、及びその逆です。そこで私は、やはりシーアは正しい方向を見ていると考えるし、彼女の考えは、脳は極度に過敏で、それは早い時期の発達に非常に過敏であるというものでした。実際にシーアは”元に戻ることはできないし、脳の配線をやり直すことはできない”と、述べています。だからもし、生命の早い時期に脳の組織が変更されれば、それこそ大変なことになるのです。

カーウッド:実際に、シーア・コルボーンさんの仕事は、今日我々が規制するかもしれない様々な化学物質という見地から、何を意味してるのでしょうか?

バンデンバーグ:そうですねー、なすべき分野でシーアが他の人々に役立てたことがらのひとつは、どのくらい多くの化学物質が内分泌かく乱特性を持っているかを特定したことでしょう。彼女は、既知の内分泌かく乱物質と可能性ある内分泌かく乱部物質の両方のリストを編纂するのを支援し、そのリストは 1,000以上の化学物質を掲載しています。シーアは、例えばBPAを含んで多くの異なる化学物質について最新の科学を理解することに積極的でした。指摘する価値のあるもうひとつのことは、最後の数年間、シーアはフラッキング(訳注3)で使用される化学物質について警告を発していた科学者の一人であったと言うことです。そして彼女は、いかに多くの化学物質がフラッキングに使用されているか、そしていかにわずかしかそれらについて私たちは知っていないのかということを指摘していました。そしてシーアは、これらの化学物質は単に有毒であるということだけでなく、内分泌かく乱特性も持っている可能性があることを非常に懸念していました。

カーウッド:シーア・コルボーンさんが2014年12月に亡くなった時、彼女は87歳でした。ということは、あなたは彼女が80歳代にこのことについて働いていたとおっしゃるのですね?

バンデンバーグ:彼女が亡くなる2週間前に、私は彼女と科学について電話で話をしていたと思います。このことは、彼女は、彼女がしていたこと、彼女が一緒に働いていた科学者たちのこと、そして世界を救おうとしていたことについて非常に気にかけていた一人の女性であるということです。このことは、彼女は世界を救うことに傾倒していた一人の女性であるということを意味します。

カーウッド:ということは、シーア・コルボーンさんの考えはあなたと科学界の一部の人々をある点に導いたのですね。今後はどうなるのでしょうか? 水平線の向こうには何があるのでしょうか? もし、今、シーアがいたら、もっと多くの研究と理解のための必要性として、どの方向を彼女は指し示すでしょうか?

バンデンバーグ:再び、本当に水平線上にあることがらのひとつだと思います。私たちの多くが見る前にシーアが見ていたことは、これらの化学物質が混合状態ではどのように作用するのかを理解する必要性でした。ほとんどの研究室で私たちは一度にひとつの化学物質を調べます。化学物質 X を動物に暴露させ、それらを暴露させていない動物と比較する。例えば、あなたと私は化学物質 X には暴露しておらず、私たちは化学物質 A, B, C, D, E, F, G に暴露している。そして私たちが本当に必要とすることは、化学物質の混合物を調べるための適切な手法です。フラッキングで見つけられた化学物質に関するシーアの仕事は、混合物、ひとつの産業で一緒に使用される化学物質の全て、に関する疑問でした。彼らは何をしているのか?

カーウッド:歴史は、シーア・コルボーンの仕事をふり返って、どこに行こうとしているのでしょうか、今後の20年あるいはそれ以上の間に?

バンデンバーグ:私は、科学界の私の世代の人々はシーアを畏敬の念をもって見ると思います。彼女が存命中に彼女を、そして、彼女が達成することができたことを知ることは驚くべきことです。しかし、科学を越えてシーアの遺産となるであろうものに及ぶより広い教訓もまた巨大であると私は思います。これは、彼女の人生のかなりの部分を人間の命、人間の健康、そして野生生物のためにささげたひとりの女性のことです。彼女は、環境のことを、そして、最初に製造されたときにはそのような有害性がわからなかった化学物質から、どの様に私たち自身を守るのかということを非常に気にかけていました。私は、彼女の遺産はここから展開すると思います。

カーウッド:ローラ・バンデンバーグさんはマサチューセッツ大学アムハースト校の環境健康科学准教授です。アースデーのためのシーア・コルボーンさんの人生をふり返る対談に参加いただき、大変ありがとうございました。

バンデンバーグ:どうもありがとうございました。彼女を敬っていただきありがとうございました。

リンク:

訳注1:コルボーン博士逝去関連記事
訳注2:低用量暴露関連情報
訳注3:フラッキング関連情報


化学物質問題市民研究会
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