EHN 2016年7月14日
論評:”有害化学物質”を特定する
内分泌かく乱化学物質の評価のための新たな取り組み

我々は世界中の意思決定者が命を助けお金を節約する
新たな化学物質評価ツールを採用するよう勧める
ローラ・バンデンバーグ、クリスティーナ・ルーデン

情報源:Environmental Health News, July 14, 2016
Commentary: Identifying the "bad actors" -
new challenges for the evaluation of endocrine disrupting chemicals
By Laura Vandenberg and Christina Ruden
Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2016/july/commentary-identifying-
the-bad-actors2014-new-challenges-for-the-evaluation-of-endocrine-disrupting-chemicals


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年7月25日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/Int/
160714_EHN_Commentary_Identifying_the_bad_actors.html

 世界の市場に 100,000 以上の化学物質があり、それらの中から人間又は野生生物に害を及ぼすかもしれない化学物質を特定するということは途方もない挑戦である。化学物質のひとつの部類である内分泌かく乱物質(天然のホルモンをかく乱する化学物質)は、アメリカ、欧州連合、そしてその他どこでも著しい注目を集めている。

 国連環境計画と世界保健機関訳注1)、内分泌学会訳注2)、米・産科婦人科学会、及びその他からの専門委員会は、内分泌かく乱化学物質が人間の疾病に関連するという証拠は強いと結論付けている。

 我々は、ある化学物質が内分泌かく乱物質かどうかを、どのように決定するのであろうか? 我々は、”悪者”(訳注:有害化学物質)を他の全ての非有害物質から、どのように切り離すのであろうか?

 このことは簡単なことのように見えるかもしれないが、実際には非常に難しいことが証明されている。例えばアメリカでは、環境保護庁(EPA)が、内分泌かく乱物質スクリーニング・プログラム(EDSP)を開発し、実施するために20年間働いている(訳注3)。1億ドル(約100億円)の資金にもかかわらず、わずか 52化学物質が審査されただけであり、内分泌かく乱化学物質であると宣言されたものはひとつもない。これは、内分泌かく乱物質はひとつも見つからなかったということで、良いニュースの様に見えるかもしれないが、ホルモンに関する世界の主導的な研究者である内分泌学会の科学専門家らによれば、むしろ、プログラムの手法がこの種の評価のためには不十分であるということ示している。

 もっと悪いことは EPA のスクリーニングプログラムの速度である。すでに米・食品医薬品局と非営利団体 TEDX (The Endocrine Disruption Exchange, Inc.) によって 1,000以上の推定される内分泌かく乱物質が特定されたが、EPAのこの速度ではすでに何らかの懸念が提起されている化学物質を審査するだけでも 300年以上かかるであろう。

 EU における状況も、はるかに良いというわけではない。欧州委員会は、内分泌かく乱化学物質を特定し分類するための新たな基準を提案している(訳注4)。

 残念ながら、その提案には、我々やその他の人々が欧州委員会保健衛生食品安全総局委員宛に出した公開書簡 (訳注5)やその他の書簡の中で概要を示したように多くの欠陥がある。

 この速度では、すでに何らかの懸念が提起されている化学物質を審査するだけのために300年以上かかる。 二つの主要な懸念は:1) 化学物質を内分泌かく乱物質として定義するための立証基準が高すぎる。ビスフェノールA(BPA)のように内分泌かく乱化学物質であると広く認められている化学物質は、提案された EU アプローチを用いるとそのようには分類されない。 2) 科学的証拠を特定し、評価し、統合するための手法はゆがめられ、さらに透明性が欠け、決定的ではない結果をもたらすであろう。

 どの化学物質が内分泌かく乱物質であるかを決定するにあたり、多くのことが危うくなる。子どもたちは特に、暴露に感受性が高く、選ばれた一握りの人間の疾病が強く関連するほんのわずかな内分泌かく乱物質を検証する分析は、これらの化学物質への暴露に関連する年間の医療費は EU だけで1,5000億ユーロを超えると見積もっている(訳注6)。

 費用は化学産業にもかかる。欧州議会規則 1107/2009 (訳注:植物保護製品の上市に関する規則)は、もし農薬が内分泌かく乱特性を持つなら、その使用はEUでは事実上禁止されるということを定めた。その結果、多くの産業は、彼らの化学物質は、例え強い証拠があっても、内分泌かく乱物質であると表示されないことを望んでいる。

 ほぼ 2年間、我々は、疑われる内分泌かく乱物質に関する研究の”系統的なレビューと統合された評価(systematic review and integrated assessment (SYRINA) )”のための新たな枠組みを開発するために、アメリカ、EU、カナダ、及びオーストラりからの他の20人以上の科学者と連携して活動をしている。SYRINA は、重要な規制のギャップを埋め、科学者と規制担当者が懸念ある化学物質に関する科学を透明性をもって評価することを可能にする。それは、規制プロセスにおける技巧要素を少なくし、科学要素を大きくするので、極めて重要である。

  SYRINA の使用はリスク評価者が利用可能なデータがある化学物質が内分泌かく乱物質であるというこを結論付けるために十分であるかどうかを決定することを可能にするであろう。それはまた、産業、学界、及び政府の科学者らにより生成されるデータがどの様に評価されるべきかに関するガイダンスを提供する。

 おそらくもっとも重要なことは、本日『 Environmental Health 』誌に発表されたこの SYRINA (訳注7)という枠組みは、内分泌かく乱物質への暴露の潜在的な有害影響を最小にするための行動を含んで、意思決定を支えるために求められる証拠の基礎を提供することを目指していることである。

 我々は、EU、アメリカ、及びそのどこでも、意思決定者に対して、人間と野生生物の健康影響に環境化学物質を関連付ける科学的証拠を評価するために、これらの手法を利用することを促す。’悪者’化学物質を時宜を得たやり方で特定することは最も重要なことであり、内分泌かく乱物質の規制により我々が受けるであろう利益は、次世代の改善された健康、そして健康医療の費用削減の中に、はっきり表れるであろう。

 ローラ・バンデンバーグは、マサチューセッツ大学アマースト公衆衛生健康科学校・健康環境科学准教授である。クリスティーナ・ルーデンはスウェーデンのストックホルム大学環境科学分析化学部門教授である。
訳注1
内分泌かく乱化学物質の科学の現状 2012年版 意思決定者向け要約(nihs 版)

訳注2
内分泌学会プレスリリース 2015年9月28日 化学物質への曝露は糖尿病と肥満のリスク上昇に関連する

訳注3
以下2009年版ベースの初期の情報
訳注4
訳注5
2016年7月6日 公開書簡 植物防護製品(PPP)及び 殺生物性製品(BP)の下における内分泌かく乱化学物質の特定と規制のための提案された基準について

訳注6
訳注7
A proposed framework for the systematic review and integrated assessment (SYRINA) of endocrine disrupting chemicals (Environmental Health, Published: 14 July 2016)
Laura N. Vandenberg1, Marlene Agerstrand2, Anna Beronius3, Claire Beausoleil4, Ake Bergman2, 5, Lisa A. Bero6, Carl-Gustaf Bornehag7, 8, C. Scott Boyer5, Glinda S. Cooper9, Ian Cotgreave10, David Gee11, Philippe Grandjean12, Kathryn Z. Guyton13, Ulla Hass14, Jerrold J. Heindel15, Susan Jobling11, Karen A. Kidd16, Andreas Kortenkamp11, Malcolm R. Macleod17, Olwenn V. Martin11, Ulf Norinder5, Martin Scheringer18, Kristina A. Thayer19, Jorma Toppari20, Paul Whaley21, Tracey J. Woodruff22 and Christina Ruden2



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