内分泌学会プレスリリース 2015年9月28日
化学物質への曝露は
糖尿病と肥満のリスク上昇に関連する

内分泌かく乱化学物質に関する科学的声明(EDC-2)

情報源:Endocrine Society Press Releases September 28, 2015
Chemical Exposure Linked to Rising Diabetes, Obesity Risk
Endocrine Society releases Scientific Statement on Endocrine-disrupting Chemicals
https://www.endocrine.org/news-room/press-release-archives/
2015/chemical-exposure-linked-to-rising-diabetes-obesity-risk


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2015年9月30日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/Int/150928_END_Diabetes_Obesity_Risk.html


【ワシントン DC】 本日、内分泌学会により発表された科学的声明のエグゼクティブ・サマリーによれば、新たに出現している証拠が内分泌かく乱化学物質曝露と社会が直面している二つの大きな公衆健康の脅威−糖尿病と肥満とを関連付けている。

 その声明の発表は、内分泌学会の専門家らがスイスのジュネーブで開催される世界的な会議−第4回国際化学物質管理会議(ICCM4)で EDC 暴露の健康リスクを制限するために科学的アプローチを用いることの重要性に関して発言する機会に合わせたものである。

 その声明は、内分泌かく乱化学物質(EDCs)と人の健康に及ぼされるリスクに関する科学的証拠の状況を検証した、内分泌学会の画期的な 2009年報告書 (訳注1)を増強するものである。2009年報告書後の数年の間に、追加研究が暴露は糖尿病と肥満になるリスクを高めることと関連していることを発見した。また積み重なる証拠がEDC暴露は、不妊、ホルモン関連のがん、神経系の問題、及びその他の障害に関連していることを示している。

 EDCs は、身体の天然ホルモンを擬態、阻止又は別のやり方で阻害することにより健康問題を引き起こしている。身体の化学的メッセージを乗っ取ることにより、EDCs は細胞の発達と成長を変更する可能性がある。

 既知のEDCs には、食品缶詰の内面ライニングやレジの領収書に見られるビスフェノールA(BPA)、プラスチックや化粧品中に見られるフタル酸エステル類、難燃剤、及び農薬などがある。化学物質は非常に一般的なので地球上のほとんどの人々が、ひとつ又はそれ以上に暴露している。『The Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism(臨床内分泌学と代謝ジャーナル)』に3月に発表された経済的分析は、EDC 暴露は、実際の医療費と潜在的な逸失利益で年間 1,570 億ユーロ(2,090億ドル)(約24兆円)かかるらしいと見積もった。(訳注2

 ”その証拠はかつてなく決定的である。EDCs はホルモンをかく乱し、人の健康を損なう”と、オースチンのテキサス大学薬理学部教授でVacek Chair でありこの声明を作成したタスクフォースの議長であるアンドレア C. ゴアは述べた。”長期的な人間の疫学的研究、動物と細胞の基礎研究、又は特定の化学物質への既知の職業的暴露をもつ人々のグループの研究など、数百の研究が同様な結論を示している”。

 その脅威は、まだ生まれていない子どもがEDCs に暴露した時に、特に大きい。動物研究は、胎児期の微量なEDCsへの暴露であっても、その後の人生における肥満の引き金となり得ることを見つけた。同様に動物研究は、EDCs のあるものは、膵臓中のβ及びα細胞、脂肪細胞、及び肝臓細胞を直接、標的とすることを見つけた。このことは体内におけるインスリン抵抗性と過剰なインスリンをもたらすことができる。これは 2型糖尿病のリスク要素である。

 人の EDC 暴露の疫学的研究もまた、肥満と糖尿病との関連を指摘しているが、その研究設計は科学者が因果関係を決定することにまでは至らなかった。その研究は肥満と糖尿病の上昇率を助長する要素への識見を提供している。同学会の『Endocrine Facts and Figures(内分泌の事実と数字)』報告書によれば、アメリカの成人の約35%が肥満であり、2,900万人以上のアメリカ人が糖尿病である。

 科学的声明はまた、EDCs の生殖健康問題、乳がんや卵巣がんのようなホルモン関連がん、前立腺の疾病、甲状腺障害、及び神経発達問題に関連する証拠を検証している。これらの病気の多くは以前の研究でEDCsに関連付けられていたが、確認研究の数が増大し続けている。

 ”我々が更なる暴露を最小にするために行動を起こす必要があることは明らかである”と、ゴアは述べた。”いつも多くの化学物質が市場に投入されており、新たな EDC を特定するためにより良い安全テストが必要であり、家庭用品では使われないようにすることが重要である”。

 声明の中で、同学会は次のことを求めている
  • EDC 暴露と健康状態との間の因果関係をもっと直接的に推測するための追加的な研究
  • 化学物質は使用が許される前に、低用量でのテストを含んで、内分泌作用についてテストされることを確実にするための規制
  • ”グリーン・ケミスト(環境と健康に配慮する化学者)とその他の産業パートナーが潜在的な EDCs のテストを実施し、それを除去する製品を作りだす要求 ”
  • 未だ生まれていない子どもたちを暴露から守るための方法はもちろん、EDCs を食品、水、空気から締め出すための方法に関する公衆と政治家のための教育
 その声明はまた、 EDCs を国際的な問題として認める必要性に目を向けている。内分泌学会のメンバーは現在、第4回国際化学物質管理会議(ICCM4)に参加するためにジュネーブに参集している。ベルギーのリエージュ大学小児学科教授で MD, PhD のジャン・ピエール・ブルギニョォン(Jean-Pierre Bourguignon)を含む参加メンバーは、内分泌かく乱化学物質の特定と規制のための政策を策定する時に、考慮される必要のある最近の研究によって確認されている内分泌学の主要な原則を主張している。

 ”早期発達期間中の内分泌かく乱化学物質への暴露は、長期間継続し、生涯続くことすらある有害影響をもたらすことがあり得る”と、ブルギニョォンは述べた。その科学は明確であり、現在は政治家が法律を制定する時に、この豊富な証拠を考慮すべき時である”。

 科学的声明の他の著者は下記の通りである。
Vesna Chappell and Suzanne E. Fenton of the National Institutes of Health's National Institute of Environmental Health Sciences in Research Triangle Park, NC;
Jodi A. Flaws of the University of Illinois at Urbana-Champaign in Urbana, IL;
Angel Nadal of the Institute of Bioengineering and CIBERDEM at Miguel Hernandez University of Elche in Elche, Alicante, Spain;
Gail S. Prins of the University of Illinois at Chicago in Chicago, IL;
Jorma Toppari of the University of Turku and Turku University Hospital in Turku, Finland;
and R. Thomas Zoeller of the University of Massachusetts in Amherst, MA.

 ”Executive Summary to EDC-2: The Endocrine Society's Second Scientific Statement on Endocrine-disrupting Chemicals (EDC-2 へのエグゼクティブ・サマリー:内分泌かく乱化学物質に関する内分泌学会の第二次科学的声明)”は、内分泌学会のジャーナルである『Endocrine Reviews』にオンラインで発表された。
http://press.endocrine.org/doi/10.1210/er.2015-1093

 内分泌学会は EDC 暴露と関連する健康影響に関するツイッター・チャットを10月1日午後1時(東部時間)に開催する。ゴアが専門家として務めこの科学的声明に関する情報を共有する。

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 1916年に設立された内分泌学会は、内分泌に関する研究と内分泌学の臨床診療に専念する世界で最も古く、最も大きく、最も活発な組織である。今日、内分泌学会の会員は、122か国からの18,000 人以上の科学者、医師、教育者、看護師、そして学生からなる。学会の会員は、内分泌学における全ての基礎、応用、及び臨床的関心を体現している。内分泌学会はワシントン DC を拠点としている。内分泌学会及び内分泌学の分野についてもっと知るためには、我々のウェブサイト www.endocrine.org をご覧ください。ツイッター https://twitter.com/#!/EndoMedia をフォローください。


訳注1:参考情報
訳注2
訳注:関連情報


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