Regulatory Toxicology and Pharmacology 2015年7月31日
内分泌かく乱物質の科学についての疑念を作り出す:
UNEP/WHO 報告書
”内分泌かく乱化学物質の科学の現状 2012年版”
に対する産業側の後援を受けた批判的コメントへの反証


情報源:Regulatory Toxicology and Pharmacology, 31 July 2015
Manufacturing doubt about endocrine disrupter science - A rebuttal of industry-sponsored critical comments on the UNEP/WHO report "State of the Science of Endocrine Disrupting Chemicals 2012"
doi:10.1016/j.yrtph.2015.07.026
Ake Bergman, Georg Becher, Bruce Blumberg, Poul Bjerregaard, Riana Bornman, Ingvar Brandt, Stephanie C. Casey, Heloise Frouin, Linda C. Giudice, Jerrold J. Heindel, Taisen Iguchi, Susan Jobling, Karen A. Kidd, Andreas Kortenkamp, P. Monica Lind, Derek Muir, Roseline Ochieng, Erik Ropstad, Peter S. Ross, Niels Erik Skakkebaek, Jorma Toppari, Laura N. Vandenberg, Tracey J. Woodruff, R.Thomas Zoeller
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0273230015300350

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2015年8月22日
更新日:2015年10月17日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/Int/
150731_Rebuttal_of_industry_critique_on_UNEP-WHO_report.html

 内容
ハイライト
要約
1. 序説
2. 結果
 2.1. わずかな参照の抜け落ちが偏りになるのか
 2.2. UNEP/WHO (2012) は科学の現状の評価でも WHO/IPCS (2002) 報告書の更新でもないのか
 2.3. データの特定、レビュー及び評価のための証拠の重みアプローチと枠組み
 2.4. 因果関係評価のためのブラッドフォード・ヒル基準の有用性についての議論
  2.4.1. ブラッドフォード・ヒル基準の適用の欠如は主観的な判断をもたらすということを描くためにラムらにより選択された具体例に対する回答
 2.5..5.ラムらにより強調された不均衡で偏りがあるという主張の具体例に対する回答
  2.5.1. 精液の質
  2.5.2. 副腎機能不全
  2.5.3. 子宮内膜症
 2.6. 疾病の時間的な傾向は何を示すのか?
 2.7. 用量−反応関係と強度についての議論
 2.8. 現今のタバコ規制を阻止するためにタバコ産業により用いられた科学的証拠の虚偽説明との類似性
 2.9. 内分泌かく乱化学物質の科学の現状 2012年版 意思決定者向け要約
3. 結論
利益相反
免責条項
謝辞
参照

 ハイライト

  • 我々は、2013年のUNEP/WHO EDC report についてのラムらによる批判に答える。
  • 彼らは証拠をレビューするにあたり不当に制限的な基準によりその報告書を退けている。
  • ラムらは因果関係を評価するための概念的枠組みを誤用している。
  • 彼らの批判は科学的に学識が深くない。
  • ラムらは、混乱させ誤解させるためにEDCをよく知らない聴衆を標的にしている。

 要約
 我々は、ラムらを著者とする金銭的利害関係者らによる ”State of the Science of Endocrine Disrupting Chemicals 2012”(UNEP/WHO, 2013)(内分泌かく乱化学物質の科学の現状 2012年版への批判(2014)に対する詳細な反証を提示する。UNEP/WHO, 2013 は内分泌かく乱に関するバランスのとれた展望を提供していないというラムらの主張は、研究の目的、結果、及び結論の適切な記述の抜け落ちと不正確な記述を通じて報告書の不完全で誤解を与える引用に基づいている。 ラムらは、証拠の統合のために極めて狭い基準を定義し、UNEP/WHO 2013 報告を欠陥あるものとして退けるために使用している。我々は、ラムらが経験的な観察から因果関係を推論する時に存在する基本的な問題を無視することにより、特にブラッドフォード・ヒル基準(Bradford Hill criteria)(訳注1)のための概念的な枠組みを誤用していることを示す。我々は、ラムらの UNEP/WHO 2013 報告を潰そうとする企てはとりわけ学問的ではなく、彼らの批判は科学界を納得させるのではなく、科学的データを混乱させることを意図していると結論付ける。その結果、それは内分泌かく乱の話題に本質的になじみのない、従って偏りと主観の誤った普遍化(false generalizations )に影響されやすい非専門家、官僚、政治家及びその他の意思決定者が UNEP/WHO 2013 報告を誤解することを助長する。

キーワード:
 内分泌かく乱、EDCs、内分泌かく乱物質


 1. 序説
 2013年、国連環境計画(UNEP)と世界保健機関(WHO)は、報告書”State of the Science of Endocrine Disrupting Chemicals - 2012 (内分泌かく乱化学物質の科学の現状 2012年版)”(UNEP/WHO, 2013)と報告書要約”State of the Science of Endocrine Disrupting Chemicals 2012 - Summary for Decision-Makers (内分泌かく乱化学物質の科学の現状 2012年版 意思決定者向け要約)”(UNEP/WHO, 2013b)(訳注2)を発表した。これらの報告書は、新たな発見を吟味し、重要な懸念と将来の必要を特定するために、人の健康と生物多様性を認めた国連の活動の脈絡の中で用意された。二つの UNEP/WHO 報告書は、国連の国際化学物質管理会議(ICCM)によって確立されたひとつの国連政策の枠組みである国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)に関連して特に開発された。SAICM の目的は、2020年までに化学物質が人の健康と環境への有意な悪影響を最小限にするような方法で使用され、製造されるよう、化学物質のライフサイクルを通じてそれらの適切な管理を達成することである。UNEP/WHO (2013)によって収集整理された証拠に基づき、ICCM は、2012年9月に内分泌かく乱化学物質(EDCs)を SAICM の新規政策課題のひとつに含めることを決定した(訳注3)。

 内分泌かく乱の分野における研究という専門性を持つ科学者として我々は、 UNEP と WHO の担当官との対面会議で、我々のある者がその作成に参加していたこの主題に関する以前の WHO-IPCS 報告書(IPCS 2002)の更新を意図する UNEP/WHO (2013) 報告書を作成する任務を与えられた。新たな報告書は、12か国からの23人の内分泌かく乱専門家によりレビューされ、さらに UNEP と WHO の職員による広範な批判的レビューが実施された。

 我々は、この二つの報告書(UNEP/WHO, 2013a 及び UNEP/WHO, 2013b)を作成するために、いかなる組織、政府、又は産業の代表としてではなく、個人の能力をもって任務を果たした。我々は、利害宣言表明に署名し、どのような利益相反もないことが確認されている。この報告書の開発と出版は、ノルウェー政府、スウェーデン環境省、スウェーデン研究協議会(FORMAS)及びスウェーデン環境保護庁からの UNEP への資金提供、さらに米・環境健康科学研究所((NIEHS)からの WHO への資金提供によって支援された。

 UNEP/WHO 報告書は、批判的コメント(Lamb et al., 2014)の著者らのグループにより批判された。彼らは化学物質製造に金銭的利害のあるいくつかの産業団体から資金援助を受けたが、それらの団体には、米化学工業協議会(ACC)、クロップライフ・アメリカ(CLA)、クロップライフ・カナダ(CLS)、クロップライフ・インターナショナル(CLI)、欧州化学工業協議会(Cefic)及び欧州作物保護協会(ECPA)が含まれる。

 彼らの批判の中でラムらは、UNEP/WHO (2013) は暴露−疾病関係を報告する研究を好んで選択し、基礎をなす研究の質を評価することなく、科学的証拠が偏りをもって引用しているので、内分泌かく乱に関してバランスのとれた展望を提供していないと主張している。彼らは、その報告書は科学の現状のレビューでも、あるいは以前の報告(WHO/IPCS (2002))の更新でもないと結論付けている。ラムら(Lamb et al. (2014))は、UNEP/WHO (2013)の内容と記述に直接的に関連するいくつかの特定の懸念を述べることにより、これらの結論を支えている。
  1. データを特定し、レビューし、評価するために体系的な枠組みを適用していない。
  2. EDCs との因果関係に不当で非公式なアプローチを採用している。
  3. EDCs との関連を示唆する疾病傾向に依存している。
  4. 内分泌かく乱における暴露、用量、及び強度の役割りを無視している。
 ラムの批判の中で、以前の WHO/IPCS (2002) 報告書(訳注4)の著者の二人(Foster 及び Van Der Kraak)を正例( positive example:肯定的な例)として挙げている(訳注:この二人がラムらの批判文書の著者の一員でもあるということ)。

 ”全体として、2012年報告書はバランスのとれた展望を提供しておらず、内分泌かく乱に関する科学の現状を必ずしも正確には反映していない”とするラムらの全体的な主張(Lamb et al. (2014) )は、我々に対して彼らの批判を分析し、詳細に応答するよう促している。我々は、この分析についてオープンに取り組んだ。しかし、我々は、ラムら(Lamb et al. (2014))の結論は、多くの歪曲、不正確、誤った一般化、非科学的論証、及び誤った主張に基づいていることを発見した。これらについて以下に記述する。


 2. 結果
2.1. わずかな参照の抜け落ちが偏りになるのか?

 ラムらは、彼らの文書全体を通じて、我々が相反する研究について議論せずに文献を選択的に引用しており、他の原因を考慮することを怠り、その結果、内分泌かく乱の証拠の重みは科学的データによって正当化されたものより強いという印象を読者に与えようとしていると主張している。重要なことは、これらの一般的な主張の正当性を立証するために、彼らは読者を間違った方向に導くだけの策略に訴えているということである。特に彼らは、UNEP/WHO 報告書の中で、化学物質暴露と内分泌かく乱との関連の証拠が非常に強いというわけではない部分 (そして、そのことが我々の報告書の中で明確に述べられている部分、例えば、アザラシの副腎皮質肥厚、前立腺がん、低品質精液) から話のタネを選択し、引用されていないわずかな研究を探し出し、そしてこれらの抜け落ちは ”2012年報告書の全てのレベルにおいて決定の完全性に疑問がある” と概括している。

 この種の批判は、強く争われている問題という脈絡では意味を成すかもしれないが、暴露と影響との間の関連に関して強い主張がなされておらず、結論に影響を与えないようなひとつふたつの追加的な研究を含めなかったことに話題に向けると誤解を与えることになる。

 偏りと不均衡という言いがかりは、もし我々が一貫してある特定の方向を指し示す証拠を無視すれば、正当化されるであろう。しかし、この疑問にについての公平な評価は、ラムらが避けていること、すなわち我々の報告書の要旨、内容、及び結論を科学的に理解しようとすることによってのみ可能である。参照のわずかな抜け落ちから偏りであると結論付けることはできない。

 UNEP/WHO (2013)の科学的内容を理解しようとしないで、ラムらは、どのような要素が科学の現状のレビュー及び因果関係と証拠の重みの評価へのアプローチを構成するかについての先入観に関係する方法論的問題に注意を移している。この戦術は、偏り、不均衡、及び主観という誤った印象を作り出す。我々が下記に論ずるように(2.8 項を参照)、ラムらによって用いられた戦術は、タバコ標準パーケージの導入の企てを損なうためにタバコ産業により採用された戦術と正しく類似したものである(訳注5)。これらのアプローチは、最近、Ulucanlar et al. (2014)によって明確にされた。

2.2. UNEP/WHO (2012) は科学の現状の評価でもWHO/IPCS (2002) 報告書の更新でもないのか?

 WHO/IPCS (2002) 報告書の発表以来、10年が経過した間に、内分泌かくらん研究は、内分泌系及び化学物質がその機能をかく乱する役割りについての我々の理解を深め、広げてきた。UNEP/WHO (2013) の中でカバーされた新たな話題、及び IPCS 2002 報告書の中で扱われなかった話題について概観すれば、新たに進展した内容は明白である。2002 年報告書は主に男の生殖健康を考察したが、2013 年報告書では女の生殖健康になされた進展を報告した。2002 報告書では、内分泌かく乱における前立腺がん、甲状腺がん、及び子宮がんについての知識は比較的低かったが、その後、我々の見識は 2013 年報告書に記されているように拡大している。最近の10年間、代謝障害と内分泌かく乱についての我々の知識に改善が見られ、このことは 2013 年報告書の新たな話題として取り上げられている。2002 年報告書では野生生物の焦点は魚類と少数の哺乳類に当てられていたが、2013 年報告書では、無脊椎動物、両生類、爬虫類、そして鳥類に拡大され、全てが報告されている。また、混合影響−これについては2002 年報告書では全く触れられていない−のような分野横断的な問題に著しい進展があった。知識の爆発的な拡大はまた、二つの報告書の長さと引用されている論文の数の比較からも知ることができる。すなわち、2013 年報告書では 2200 以上の参照文献と 280 ページに対して、2002 年報告書では 1400 の参照文献と 170 ページである。2002 年以来の知識の主要な結論と進展は、主報告書(UNEP/WHO, 2013)の”エグゼクティブ・サマリー”と、意思決定者向け要約(UNEP/WHO, 2013a)の第13章の両方に示されており、過去10〜15年の間の EDC 関連研究における広範な進展を確認している。

 当然のことであるが、我々は 2002 年に可能であったことよりもっと洗練されたもっと決定的な結論に達するべき立場にあった。それなのにラムらは、2013年報告書の中でレビューされた強烈な研究活動に光を当てず、2013 年報告書は科学の現状の評価ではなく、以前の 2002 報告書の更新でもないと主張しており、この主張を 2013 年報告書は、”2001 年及びそれ以前の文献をしばしば引用することにより、2002 年報告書の中で引用されている同じ情報の多くをレビューしている”と断言して、この主張を支えている 。

 我々が2001 年及びそれ以前の文献を引用したということはそのとおりであるが、このことは証拠の範囲を完全なものとし、科学的進展を適切な文脈に配置するために必要なことであった。しかし、このことから、我々が新しい証拠をほとんど扱っていないとの含蓄をもって 2013 年報告書は単なる”再加工”であると推論することは事実のひどい歪曲である。75%以上の引用(約1650の引用)は、2002 年から 2013 年に発表されたものである。ラムらはさらに、”2012 年報告書は同じデータに基づいているのにもっと決定的な結論に達しているという事実は、以前の 2002 年報告書に比べて、主観的な意思決定と潜在的因果関係を評価するのに厳格性が欠ける基準への依存を強調している”とすら書いている(強調太文字は著者)。これは、2002年以来科学的進展はほとんどなかったのに、同じデータに基づいている 2002 年報告書より決定的な結論に達したのだから、我々は偏りがあり、主観的であり、不均衡であるに違いないというばかげた印象を作りだしている。これらの主張には何の根拠もない。

 ラムらの批判の中で繰り返される主張のパターンは、独断的な基準を構築し、UNEP/WHO (2013) 報告書はこれらの独断的な基準に達していないとする領域を強調し、従ってこの報告書は基本的に欠陥があるに違いないという大雑把な一般論に話を持っていくことである。この戦術は、報告書の科学的な実体へのどの様な関与をも避けることによってのみ存立することができる。ラムら(Lamb et al. (2014))が、UNEP/WHO (2013) は科学の現状の報告書ではないという驚くべき結論にいたるのは、このアプローチによるものである。特にこの結論はいくつかの要素に基づいている。

 ラムらは、”報告書は ’科学の現状が’が何を意味するのかを一切定義しておらず、そのような評価が何をカバーし、特性化すべきなのかも議論していない”と述べている。彼らは、科学の現状のレビューを、”データの収集及びレビューに対する体系的なアプローチ、及びこれらのデータの統合と評価のための明確な方法論によって定義された範囲を持つべきものとして”定義することによりこのギャップを埋めるとする方向に話を進めている。

 そしてラムらは、データを収集しレビューする体系的なアプローチは UNEP/WHO (2013) では使用されていないと批判した。しかし、このことは、ラムらが解決のために何もしていないという矛盾をさらけ出している。一方で彼らは、”文献は広範にわたっており、2002 年報告書又は 2012 年報告書のどちらの範囲も越えている”とし、”どちらの報告書も化学物質の小さな部分集合であっても完全なレビュー行うことは期待できない”ということを認めている。他方、彼らは、”体系的な方法論は、利用可能な文献の代表的な範囲がレビューの中で明確にされることを保証するであろう”と断言するが、どの様にして”代表的な”文献の特定が体系的、客観的なやり方でなされるのかを定義することをしていない。彼らは、どのような選択がなされても常に文献選択に対する体系的なアプローチの欠如という批判に対して常にオープンであるということを無視している。実際に、同じ批判が、UNEP/WHO (2013)と全く同一のアプローチを用いた WHO/IPCS (2002) 報告書にも向けることができるはずであるのに、ラムらはそれを張り合う対照的な例として掲げている。彼らはなぜ WHO/IPCS (2002) 文書を批判の対象から免除するのか説明していない。

 実際に、科学の現状のレビューの柔軟な標準は、UNEP/WHO (2013) 報告書を批判している著者らの二人、ヘンツとラムによって 2007年に 書かれた文書の中に描かれている。彼らは、ワインバーグ・グループ(訳注6)のために、”2007年更新:内分泌かく乱のための科学と政策の現状”と題する報告書を2007年5月29日に発表したが、その中で彼らは、内分泌かく乱に関連する科学的証拠と政策行動を、わずか21の参照だけをそれらの文献を収集し分析する体系的なアプローチなしに14ページにわたって概説している。(この文書は2011年にダウンロードされたが、現在はウェブ上ではもはや入手できない。要求があれば、この文書を関心ある誰にでも喜んで提供する。)

 ”データの統合と評価のための明確な手法”に関してラムらは、”2002年報告書は暴露、毒性学的テスト(用量依存影響を含む)、内分泌介在制御を阻害するとみられるかく乱物質の能力、及び集団の中で恐らく内分泌関連影響とみられるパターンに関する情報を統合することを試みた。対照的に2012報告書はこれらの要素の個々を独立して議論し、これらが実際の現在の内分泌かく乱問題なのかどうかを評価するためにこれらをどのようにまとめることができるのか、又は科学的証拠の統合された見解がどの様にうまく疑問に答えることができるのかを検討することを特に断っている”と主張している。

 この主張は間違っている。2002年報告書は、暴露情報と毒性学データを統合しなかった。その様な統合は毒性学的リスク評価のことがらであり、WHO と UNEP の範囲外であるとみなされていた。両方の文書の検証は、このことは UNEP/WHO (2013)報告書と WHO/IPCS (2002)報告書の両方に等しく適用されたことを明らかにしている。従って WHO/IPCS (2002)報告書は曝露データを UNEP/WHO (2013)と同じように異なる章で議論した。

2.3. データの特定、レビュー及び評価のための証拠の重みアプローチと枠組み

 ラムらは、UNEP/WHO (2013)報告書を、データの特定、レビュー及び評価について証拠の重みアプローチ(訳注7)又は体系的な枠組みを採用していないとして批判している。彼らの批判の中心は、”特定の化学物質と潜在的な EDCs の特定につながる健康影響との因果関係を評価するための体系的なアプローチが欠如している”とする断定にある。この主張は、いくつかの単純な仮定に基づいている。その第一は、因果関係を評価する体系的なアプローチがまず存在し、それは内分泌かく乱化学物質にとって議論を引き起こさないであろうという仮定である。第二は、その主張は、実際に科学的判断は体系的なレビューのプロセスの一部である時に、体系的なアプローチの適用は科学的判断の必要性を除去することにより偏りを完全に防止することができると仮定していることである。最後に、そのような”標準化されたアプローチ”は、常に同じ”客観的な”評価結果を生み出すと仮定していることである。この節及び次節で、我々はこれらの考えが非現実的であり、疫学及び科学哲学の文献で起きている因果関係についての議論の著しい簡略化に基づいていることを示す。

 第一にラムらは、普遍的に受け入れられている内分泌かく乱物質のための証拠の重み手法はまだ存在していないということ、及びそのようなアプローチを開発することはかなり難しいであろうということを無視している。現在存在する手法−例えば、WHO IPCS 後援の下の発がん性物質のための手法(Sonich-Mullin et al., 2001 and Boobis et al., 2006)−は、簡単には内分泌かく乱物質に適用することができない。その主な理由は、EDCs に役に立つアプローチは有害性と作用機序の問題を同時に扱わなくてはならず、それは現在、先例がないということである。この話題に関するより詳細な議論は、 Kortenkamp et al. (2011)で見ることができる。

 証拠の重みアプローチは、ラムらが作りだした印象とは真逆に、WHO/IPCS (2002) 報告書でも一貫性を持って使用はされていなかったということを強調することが重要である。

 実際に、2002年報告書の著者らは、ラムらによってほのめかされたよりっもっと微妙な立場をとった。2002年報告書は、内分泌かく乱化学物質が有害影響を持つかどうかについて客観的で偏りのない評価をする仕事のむずかしさを認めている。この仕事の難しさは、実施された研究の膨大な数、動物又は人間における単一の研究だけではある暴露シナリオをある特定の健康影響に関連付けるために必要な全ての情報を提供することなど出来そうもないこと、及びデータが生成された多様な環境(例えば、実験条件の変化、多くの評価項目)から生じていることが認められている。

 これらの困難さに対応するために、2002年報告書の著者らは、内分泌かく乱物質への暴露及びもたらされた健康影響との間の関連を評価するためのひとつの枠組みを提案した。この枠組みは、疫学における因果関係を評価するためのブラッドフォード・ヒル基準(訳注1)の変種である。WHO/IPCS (2002)でとられたアプローチは、その報告書の最後の別章中の一連の事例研究の中で試された暫定的で慎重な枠組みであった。それは2002年報告書の著者らの最終会議で、このアプローチの適用可能性を評価する意図をもって、紹介された(cf. Tables 7.1 and 7.2, in WHO/IPCS (2002))。これは、因果関係を評価するための枠組みの一貫性をもった適用とは非常に程遠いものであり、WHO/IPCS (2002) 中のいくつかの警告の明確な表現から明かになっている。すなわち、”この構造的な枠組みのアプローチは、1) 多くの科学的不確実性があること、2) 科学的判断の度合いが関与していること、及び 3) 評価は追加的情報が利用可能になれば変更されるであろうこと・・・。また、これらの評価は現状の科学の全体的状態の定性的な決定であるということが留意されるべきである。それらは、特定の暴露状況を有害影響の可能性に関連付ける定量的なリスク評価ではない”。

 注目に値することは、 WHO/IPCS (2002) 報告書の著者らが、定量的なリスク評価による叙述とともに、専門家の科学的判断の必要性を認めていることであり、ラムらはこのことについては触れていない。かくして科学的判断は、仮説の設定とブラッドフォード・ヒル基準に対する評価を含んで、プロセスの全ての段階で生じる。これに不可欠なことは、懸念ある結果を推測のストレス因子に結び付ける仮説の組立であり、これは評価の結果に最も強く影響を及ぼす。もし仮説が非常に狭義に設定されれば、全体の評価は妥当性を失うかもしれず、又は誤りにすらなるかもしれない。多くの内分泌かく乱化学物質の発見をもたらした 2002年以後の 10年間の研究の成果のおかげで、WHO/IPCS (2002) 報告書中のある事例研究仮説は今日、むしろPCB類、DDT、又はダイオキシン類のような残留性有機汚染物質への制限的な注視をもって、人為的に制限されていると判断されるであろう。例えば、2002年報告書は乳がんのある事例研究を次の仮説の下に検討した。”乳がんの発症増大は、エストロゲン作用を持つ有機塩素化学物質(例えば PCB類、DDT、及び代謝物質 )への暴露により引き起こされる”。時間性、関連の強固性、一貫性、及び生物学的説得性というブラッドフォード・ヒル基準(訳注1)の適用により、2002年報告書は、”PCB 類、DDT、及びその他の有機塩素化合物への暴露が増大しているリスクに寄与しているという仮説を支持するには、結果の一貫性の欠如、弱い関連性、及び生物学的説得性の疑問という点を鑑み、証拠が弱い”と結論付けた。このことは、今日でもその通りかもしれない。しかし、今日、我々は、その疑問についてのもっと意味のある評価は、PCB 類、DDT、及びその他の有機塩素化合物だけに焦点を当てるのではなく、非常に多くの化学物質への同時暴露による組み合わせ影響の問題や遺伝子を含む非化学的リスク要素とともに、キセノエストロゲン(訳注8)として明かにされる追加的な因子を考慮することだとを知っている。

 かくして因果関係の評価のための基準はそれ自体、持論への誘惑から守ることはできない。我々が UNEP/WHO (2013) 報告書の中で述べた通り、”環境的暴露と健康影響の間の関連性についての科学的証拠の評価に対して体系的で透明なアプローチを用いることが重要である”。その様なアプローチは、過去20年間にわたり臨床科学の分野で開発され、専門家の判断を統合しつつ、偏りを減らすのに役立ってきたが、それらの内分泌かく乱化学物質への適用はいまだ揺籃期にある(NTP, 2015)。我々は、”内分泌作用の科学を検討する内分泌かく乱物質のための科学的証拠の特定、評価、合成への体系的で透明性のあるアプローチを開発するための取組みが求められる”。

 枠組みの適用自体が偏りを防止すると考えることは間違った方向に導く。偏りの防止は、多数のアプローチが存在する強固な科学的判断を適用することによってのみ可能となる。WHO/IPCS (2002)での多くの方法と同様に、UNEP/WHO (2013) で用いられたアプローチは、物語風(narrative)レビュー、すなわち、ラムらが”データの批判的レビューなしに情報を選択的に提示することを許す”ものとして解釈する方法であった。かくして、ラムらの欠陥は明白である。第一に、彼らは物語風レビューはそれ自体がデータの選択的提示にしむけると示唆していることであり、第二に、彼らは同じ批判を WHO/IPCS (2002) 報告書に適用することを無視していることである。

2.4. 因果関係評価のためのブラッドフォード・ヒル基準の有用性についての議論

 ラムらにより非難的に言及されたように、UNEP/WHO (2013) 報告書は、WHO/IPCS (2002) の中で提案された因果関係を評価するための枠組み(訳注1-1)を用いなかった。彼らは次のように書いた。”最も重要なことは、特定の化学物質に関するデータ及び内分泌が介在する作用機序を通じての有害影響を伴う潜在的な因果関係を評価するための正式の枠組み又は標準化されたアプローチの欠如が、UNEP/WHO 2012 レビューにおける著しい欠陥である(著者による太字強調)”。その立ち位置は、ラムらの因果関係についての考え方に従うプロセスに固執しない手続きから引き出される科学的判断は主観的であるにちがいないということである。すなわち、”因果関係の正式な評価がない時には、因果関係を示唆する主観的な推論に依存する”。 この考えは正当であろうか?

 我々は、ラムらによってはっきり述べられた問題を放置することはできないので、因果関係を判断するためのツールとしてのブラッドフォード・ヒル基準に関連する問題の詳細な議論を以下に示す(UNEP/WHO, 2013)。これらの問題は、ブラッドフォード・ヒル自身によって認められており (Hill, 1965)、我々によって UNEP/WHO (2013) の中で述べられているが、しかしその問題は、ラムらだけでなく、WHO/IPCS (2002) 報告書の中でも一貫して見逃されている。

 ブラッドフォード・ヒルは、因果関係の疑問は、利用可能な証拠に従うかどうかについて決定がなされなくてはならない文脈から切り離して、例えば予防的措置を講じることによって、分離して議論されるべきではない、と指摘した。従って、証拠を評価することは、暴露を防止するのに重要な多くの他の要素を考慮しなくてはならない決定プロセスの中のほんの一部分である。彼は次のようなことを観察した。”それは、我々が有罪であると宣告する前に、ほとんど必然的に我々に様々な基準を導入させる(著者による太字強調)。従って、比較的軽い証拠に基づいて、我々は、妊婦のつわりのための薬の使用を制限することを決定したかもしれない。もし、関連から原因を推論するのを間違えたとしても大きな害は及ぼさないであろう。その健康な女性と製薬会社は間違いなく[その制限による不都合を]切り抜けるであろう。公平な証拠に基づき、我々は職業的ハザードであるように見えることに対して措置を講じたかもしれない。例えば、我々は、限定された環境中で、そして例え我々が間違っていても過度に正義に反することなしに、多分発がん性がある油を多分発がん性がない油に[その使用を]変更するかもしれない。 しかし、我々は、大好きなタバコを吸ったり脂肪や砂糖をとったりすることを止めるよう人々をたきつけるためには、きっと非常に強い証拠が必要である”。

 かくして、その基準を採用している評価の結果が、全体的な関連の強さが弱いかもしれないことを示唆する時であっても、このことは保護的な措置の検討を自動的に免れさせるものではない。ラムらは、毒性学的及び疫学的科学の目標はそれ自体を目的として評価を提供することではなく、疾病予防と公衆健康の取組みを提案する条件を探究し評価することであるということを認めていない。このことは、チェックリストの形で因果関係の基準を機械的に適用しても実現できるものではない。リスクに弱い寄与しかしない要因を除去するという予防的措置を実施すれば、公衆健康の保護という観点では不釣り合いに大きな利益[効果]を収めるかもしれないということは疫学者の間でよく知られていることである。ひとつの例は、過剰な塩分の摂取と高血圧との[弱い]関連である。食品中の塩分含有を規制すれば血圧の母分布全体を下方に押し下げることになり、それによって、中程度又は重度の甲状腺機能亢進症の有病率が減少する((Szklo and Nieto, 2007))。ラムらはこれらの識見を無視している。

 しかし、因果関係を推測するためのツールとしてブラッドフォード・ヒル基準を用いることによる問題はより深刻になり、それらの無批判な使用は経験的な観察から因果関係を推測することにより生じる根本的な問題を些細なものにしてしまう。実際に、ブラッドフォード・ヒル自身(彼は、”基準[criteria]”という言葉を決して使ったことはなく、”観点[viewpoints]”という術語を選んでいる。)は、これらの問題を十分に知っており、次のように述べている。”私の 9 つの観点はどれひとつとして因果関係の仮説の支持又は反対の明白な証拠をもたらすことはできず、どれひとつ必須条件として要求されるものではない・・・。それらができることは、我々の前にある一連の事実を説明できる他の方法があるかという根本的な疑問への答に我々が腹を決めるのに役立つということである”。

 ラムらは、ブラッドフォード・ヒルの見解及び因果関係を評価することの問題についての議論を無視している。それは疫学の中で生じており(例えば、 Rothman and Greenland, 2005 によってまとめられている)、疫学者らは因果関係を評価するための絶対的な基準の存在を強く否定している。因果関係の証明は疫学では不可能であるということは、実験科学における状況はもっと良いという言外の含みをもって、実験科学者の間で広く支持されている見解である。しかし、全ての経験的科学において証明は不可能であるというデービッド・ヒュームの識見は実験科学にも等しく適用され、ロットハムとグリーンランドはこの考えに賛成して常温核融合論(訳注9)の瓦解を引用している。このことを説明するために多くの追加的な事例を示すことができる。

 Rothman and Greenland (2005) は、ブラッドフォード・ヒル基準の効用について特定の批判を提起し、内分泌かく乱に関連する問題に特化した議論が Zoeller et al. (2014) によって提起された。我々は、WHO/IPCS (2002) 事例研究の中で用いられている変更版基準[modified criteria](訳注1-1)を参照しながら、これらの点の概要を以下に述べる。(太字強調は訳者、以下同様)

 時間性の基準(criterion of temporality)は、推定リスク要因が時間的に結果の前に起きるかどうかを検証する。どの様な因果関係の推論も、原因は結果が現実となる前に起きなくてはならないと規定しているのだから、この基準は明快であるように見える。しかし、EDC への暴露と特定の内分泌介在有害影響との時間的関連は極めて複雑かもしれないので、実際的な困難がある。古典的な事例は、胎児期のジエチルスチルベストロール(DES)暴露と20年後の生殖器系がんであり、DES 暴露が終わった後長い年月が経過してから発症する。 この関連は、妊婦が DES を処方されたために、そして暴露の特定記録が存在したために観察された。これは、ほとんどの EDCs への非偶発的な暴露のケースとは異なるであろう。従って、”時間性”は重要であるかもしれないが、それは同時発生の関連(concurrent relationship)、すなわち、健康影響が評価されているのと同時期に測定される暴露かもしれない(Zoeller et al., 2014)。 さらに、Rothman and Greenland (2005) が指摘したように、原因と結果(すなわち暴露と健康影響)の間に逆の時間順序が観察されても、それは推定原因がその結果をもたらし得るという仮説を否定する証拠ではない。原因が結果の出現の後に来るという観察は、単に、推定原因は検討されていた事例ではその結果を引き起こすことができなかったということを示すだけである。しかし、そのことによって仮定された原因はその結果に関連していないと一般化することは誤った推論である。

 関連の強さの基準(criterion of strength of association)は、強い関連は弱い関連より、もっと原因でありそうであるという感情を表現しており、それはしばしば識別されない偏り(バイアス)により説明される。しかし、ブラッドフォード・ヒル自身、弱い関連が因果関係を示唆するかもしれないということを無視しなかったし、Rothman and Greenland (2005) は一例として喫煙と心血管疾患との間の弱い関連に言及している。関連の弱さにもかかわらず、今日、心血管疾患が実際に喫煙と関連しているということを疑う人は誰もいないであろう。関連の弱さの理由は、心血管疾患がむしろ一般的で他の要因に関連付けることができるからであり、同じことが多くの内分泌疾患にも当てはまる。逆に、強いが原因とはならない関連の例もあり、Rothman and Greenland (2005) はダウン症候群と、母親の年齢と混同される出生順位との間の強い関連を指摘している。これらの事例は、推定リスク要因と疾患との間の強い関連は必ずしも因果関係を示すものではないことを示している。観察される関連が単に弱いというだけの事実は、因果関係がないということについては何も言っていない。

 WHO/IPCS (2002) の著者らは、ブラッドフォード・ヒルの特異性についての当初の見解を関連の強さの基準に含めている。特異性の基準(criterion of specificity)は推定する原因は単一で見分けのつく結果をもたらすことを求めている。ブラッドフォード・ヒルによって用いられた例 (Hill, 1965) は、稀であるはずなのに高い発生率(incidence)を示す肺又は鼻のがんに苦しんだサウスウェールズのニッケル製錬工の事例である。この関連の特異性は因果関係の証拠として使用することができるであろう。しかし、ブラッドフォード・ヒルは関連の特異性を買いかぶることを警告し次のように結論付けた。”要するに、もし特異性があるなら我々はちゅうちょなく結論を引き出せるかもしれない;もしそれが明白でないなら我々は必ずしも模様眺めをし続ける必要はない”。ある特定の結果をもたらすある原因は、他の結果をもたらさないということを期待することは現実的ではないので、特異性の基準は因果関係を評価するのに限定された有用性しかない。この点は、ホルモン系には生命の段階に特有な非常に多くプロセスが関わるという理由で推定原因が注意深く評価されなくてはならない内分泌かく乱に特に関係がある。例えば、アンドロゲンは胎児の男性生殖系の発達に重要な役割を果たすが、成人でもアンドロゲンは男性と女性において様々なプロセスに関連している。成人の一過性甲状腺機能低下症は可逆性の体重増加をもたらすが、胎児期及び新生児期に起きると脳機能に長期にわたる影響を及ぼす (Zoeller et al., 2014)。

 整合性(consistency)は、多数の研究が暴露と結果の間の同じ関連性を示すべきであるという考えを述べている。しかし、Rothman and Greenland (2005) により指摘されたように、整合性の欠如は因果関係を除外するものではない。ある結果は、特定の環境又は世界の特定の地域の下だけにおいて、それらの原因によって生成されるかもしれないからである。このことは、多くの結果の生命段階の特有性及び地理学的変化を考慮する内分泌かく乱に特に関係する(例えば精液の質:2.5.1.項を参照のこと)。

 ブラッドフォード・ヒルは、我々がうすうす感づいている因果関係が生物学的に蓋然性がある(biologically plausible)なら、”それは役に立つであろう”と主張したが、彼は注意深くこのことを絶対的には求めなかった。彼は、観察される関連は科学又は医学にとって新しいことかもしれず、したがって、それは気楽にで却下されるべきではないと警告した。 EDCs についても同様に、生物学的蓋然性は関心の対象となる関連の原因となる本質に対する我々の自信を強化するであろう。さらにホルモン作用についての我々の知識は、特定の関連を評価するよう我々を駆り立てるようである。しかし、内分泌系については我々が学ばなければならないことがまだ非常に多くあり、関心の対象となる関連を介在する内分泌メカニズムの完全な知識への要求は達成できない(Zoeller et al., 2014)。生物学的蓋然性が足りないように見える同時代の観察者らに対して正しいものであるということを説明する多くの事例がある。従って、 Maclure (1985)は、生物学的蓋然性は WHO/IPCS (2002)で提案されているように研究の結果に対してではなく、調査中の仮説に対して適用されるべきであると主張し”、データが優勢な考え方に大きく反するほど、それだけ多くの情報を与える”と指摘した。

 最後に、回復の証拠(evidence of recovery)(当初はブラッドフォード・ヒルにより”実験[experiment]”という言葉が使われていた)は、場合によっては因果関係への自信は環境の要因を変え、予測された変化を観察することにより強化され得るという考えを述べている。例えば、粉じん暴露の低減をもたらす職場環境の変更の結果として、作業者の健康は改善されるであろう。ブラッドフォード・ヒルは、その”観点(viewpoint)”に動物又は生物化学実験を含めなかった。実際的なレベルで、この”基準(criterion)”に関わる主な問題点は、関連するデータの欠如であり、実際に WHO/IPCS (2002) 中で検証された事例研究のどれ一つとして、この面を検証するための関連データを持っていなかった。さらに、回復の証拠は結果を評価し、因果関係を推論するための基準ではなく、Rothman and Greenland (2005) により指摘されたように、むしろ基礎となる仮説のテストである。ほとんどの場合、そのようなテストは簡単には利用可能でなく、例え可能であったとしても、常に代わりとなる説明の余地があり、因果関係を確立するという意味で、そのようなテストを決定的なものとしない。このことの適切な例は、トリブチルスズ (TBT) への暴露低減に引き続く軟体動物の個体数の回復の議論である。ラムらは、この回復は TBT が[個体数]減少の原因であったことを示すものであるということに疑いを述べ、可能性ある説明として他の要因を並べた。この場合、原因と結果を(TBT 誘引のインポセックス(訳注10))と極めて過敏で化学物質特有な現象という観点から)を関連付ける実験室の証拠は反駁できないものであり、TBT の迅速な規制をもたらしたのはこの観察であり、結果として起きた個体数の回復の証拠がもたらしたのではない (Vos et al. 2000)。

 もし、因果関係を評価するための絶対的な基準がなくても、実験や研究の有効性を評価することは可能なのか? これについて Rothman and Greenland (2005) は次のように主張する。”求められることは、基準のリストの適用よりもっと多くのことである。それよりも、研究を悩ます全誤差の数量化評価を得るという目標をもって人は徹底的な批判を適用しなくてはならない。この種の評価は、その主題と採用された科学的手法に精通している科学者としての技量と訓練に欠ける人では容易に行えるものではない。法廷の裁判官も、必須の知識に欠ける又はその仕事を貫くために時間をとらない科学者も、それを適用することはできない”。

 従って、UNEP/WHO (2013) 報告書の中で、ブラッドフォード・ヒル基準の無批判の使用は控えることが適切であるとされ、そのことは十分に正当化された。この決定は、この報告書を偏りと不均衡に曝すことは決してなかった。それにもかかわらず、我々は疫学的及び毒性学的研究の結果をどのように”比較検討する(weigh)”かについて合意に達することの重要性を認識し、EDCs の特定の要求に特化したそのようなアプローチを開発する必要性を認める。これについては、Zoeller et al. (2014) の中でもっと詳細に議論されている。

2.4.1. ブラッドフォード・ヒル基準の適用の欠如は主観的な判断をもたらすということを描くためにラムらにより選択された具体例に対する回答

 ブラッドフォード・ヒルの観点(viewpoints)を採用しないという我々の決定が主観的な結論に導いたとする彼らの論点を具体化するために、UNEP/WHO (2013) 報告書から特定の事例を利用するという方法は、因果関係自体を評価するためのひとつの枠組みの適用が特定の判断を取り巻く問題を解決し、従って”標準”の評価基準適用により”客観性”を達成するであろうという考えの欠陥を示すために用いることができる。ラムらは、そのような手続きが普遍的に採用され、誰にでも関連付けられさえすれば、常に同じ結論を生成するであろうと提言する。このやり方では、逸脱した結論を生成する評価結果は評価の枠組みの誤用の結果となり得るだけであり、従って主観的であるとみなされなくてはならない。我々が以下に示すように、このことは、評価の結果は評価のための論点が組み立てられる方法に強く依存するということを無視している。しかし、仮説の明確な記述は”客観性”の範疇では判断することはできない。

 例えば、前立腺がんと内分泌かく乱物質との可能性ある関連を議論する時に、ラムらは、農薬曝露と農薬散布者の前立腺がんとの関連に十分な証拠があるというUNEP/WHO (2013) 中の記述に異議を唱えている。ラムらは、そのような関連が存在するということを否定していないとはいえ、我々が”有罪と宣告する[convict]”(ブラッドフォード・ヒルの言い回し)ためには、その前に、前立腺がんは、内分泌かく乱物質と推定される物質への暴露の結果として生じる人の内分泌機能の変更の結果であるということを示す必要があると主張する。前立腺がんの罹患者らは彼らが内分泌かく乱メカニズムを通じてこの病気に罹ったかどうか十分に気にかけなかったかもしれないが、仮に想定した農薬製造者は化学物質規制の細目に起因する内分泌かく乱物質の逆襲から自身を守るために、この少々具体的な疑問を解決することに大いに関心を持つかもしれない。しかし、農薬曝露と前立腺がんとの関連性の疑問は現在利用可能な科学的手法で解決することができるかもしれないが、個々のがんが内分泌機能の変更を通じて生じたということは、現在我々が自由に利用できる手法によって”証明”することはできず、多分将来も決してできないであろう。その結果、農薬曝露が前立腺がんリスクを増大させるかどうか、及びこれが内分泌作用機序を通じて起きるかどうかという研究の疑問は、決定的でない結果をきっと生み出しそうである。しかし、もし研究の疑問が農薬曝露が前立腺がんのリスクを増やしているかどうかなら、その評価は証拠の強さをより強くする結果をもたらすであろう。従って、その疑問がどのように問われるかということは、その疑問に答えるために用いられるアプローチ以上に重要かもしれない。アプローチと研究の疑問についてのこの混乱は、ラムらによって広められたものである。しかし、ラムらが唱えるやり方で組み立てられた疑問が公衆健康の保護という観点から何か意味があるのかどうか、そしてその評価は”客観性”を主張することができるのかどうかについて、議論することは開かれている。

 UNEP/WHO (2013) は、この問題についてもっとバランスのとれた議論を提起した。農薬曝露と前立腺がんとの間の観察される関連を強調しつつ、この報告書は関与する農薬の特性は曖昧なままであること、従ってがんが内分泌介在メカニズムにより引き起こされ得るかどうか不明確なままであることを指摘した。しかし、この明瞭さの欠如は、農薬散布者らの農薬曝露が前立腺がんに関係しているという証拠は十分であるとみなすことができるという証拠を弱めるものではない。

 非常に多くのことが仮説を組み立てることによって決定されるので、ラムらによって作りだされた批判は、チェックリストの形でブラッドフォード・ヒルの観点に基づく評価の枠組みを適用することによってだけで、つかみどころのない客観性の目標を達成できるものではないことを示している。 しかし我々が見てきたように、仮説形成それ自身は客観性を主張することはできず、仮説は特定の関心の脈絡で組み立てられ、そして科学的判断の対象となる。ラムらを支持する商業権益らは常に、可能な限り最も狭い範囲で仮説を明確に述べることを好むようであり、その様な狭い仮説は、”標準”手続きの適用を通じて、ほとんど常に決定的でない標準の判断を下し、排出削減措置の勧告の実施を控えるという結果をもたらす。しかし、公衆の健康保護という観点から、多様な暴露及び多くの因果関係を考慮するもっと意味のある仮説を形成することが重要である。

2.5.ラムらにより強調された不均衡で偏りがあるという主張の具体例に対する回答 >

 以下の節で我々は、ラムら(2014)が ”なぜ、どのように UNEP/WHO 2012 報告書が WHO-IPCS 2002 報告書の更新ではなく・・・”、 そして彼らの申し立てによれば、いかに偏りと主観が我々の分析と結論を導いたかを示すために、ラムら (2014) が UNEP/WHO (2013) 報告書から選んだ例に対して具体的に回答する。

2.5.1. 精液の質

 ラムらは、”精液の質の変化の証拠”が WHO-IPCS (2002) 報告書の中で報告されたものと異なるようには見えないとしながら、彼らが見つけた”説明するのが難しい”とする精液の質についての UNEP/WHO (2013) 報告書と WHO-IPCS 2002 報告書の結論の間の”矛盾”を強調した。彼らは次のように結論付けた。”ある客観的で、構造的で、透明性のある証拠の重み分析が、ひとつの結論に達し、一方、主観的な分析が反対の結論を導く時には、主観的な分析の中にある方法論と本質的な偏りから生じるその様な相違が推進力をもって論理的に導かれる”。

 しかし、この論証の論理は、”客観的で、構造的で、透明性のある” WHO/IPCS (2002) と、我々の”主観的な分析”の UNEP/WHO (2013) との間の申し立てられた矛盾は存在しないと示されるなら、その論理は破綻する。

 二つの主要な問題が精液の質についての議論の周囲にある。第一に、精液の質の低下はあったのか? そして第二に、内分泌かく乱化学物質と関連するという証拠があるのか? という問題である。

 WHO/IPCS (2002) 報告書は、”全体的に見れば、発表されている報告書のいくつかは、少なくともある地域では精液の質について、精液濃度に反映されたように、そして精子の運動と形態が測定されたように、時間に関連する低下があるという仮説を支持するが、その低下が世界的な傾向であるという仮説は支持していない”と結論付けた。ブラッドフォード・ヒルの整合性(一貫性)の観点を用いている利用可能な研究を分析することにより、2002 年報告書は、低下を示したとする 10 の研究、改善の証拠があったとする 6 つの研究、及び変化が認められなかったとする 8 つの研究をリストした。精液の質の変化は、様々な要因の中で特に場所に強く依存し、世界的な低下はそのデータでは支持されなかったということは 2002 年報告書の中ですでに明らかなことであった。

 ラムらは、WHO/IPCS (2002) 報告書のように、UNEP/WHO (2013) 報告書が、2002年以降に実施された新たな研究中でも見られる精液の質の地理的な変動を強調したことを無視した。2013 報告書は世界的な低下傾向について何も主張しなかった。しかしラムらは、偏りと選択的な引用という彼らの主張の根拠を我々が精液の質の劣化を報告しなかった 4 つの研究を引用しなかったという事実に置いている。彼らは、これらの研究の引用があったとしても、世界的な低下は存在しないが、驚くべき低下を示す地域があるという我々の結論を変えることはなかったであろうということを覆い隠すことにより、読書を欺いた。したがって、これらの研究の引用は、我々の報告書に何ももたらさなかったであろう。

 従って重要なことは、地理的な変動という明白な事実は、ある地域における精液の質の驚くべき低下という観察から人をそらすことはできず、このことは UNEP/WHO (2013) の中で強調されている。ラムらは、低下した精液の質に焦点を当て、”報告されている精液の質の世界中での可変性を無視し”、それにより2013 年報告書を批判することにより、この問題をわかりにくくしている。このことは問題点を全体的に見逃し、ブラッドフォード・ヒルの整合性(一貫性)の観点の誤用を示す一例である。すでに強調したように、整合性の欠如は因果関係を除外するものではなく、ある集団が精液の質の低下を経験したということをごまかすために利用することはできない。

 ラムらはさらに、実際には我々の報告書は、”論争の理由は精液分析の手法の相違と個人の範囲内の変動によりある程度説明されるかもしれない”と指摘しているのに、UNEP/WHO (2013) は精液研究の限界と偏りを議論しなかったという偽りの主張をしている。

 精液の質の低下と内分泌かく乱化学物質への暴露との関連の問題について、ラムらは、 UNEP/WHO (2013) は、”これらの認識されている傾向は、強い証拠もなしに内分泌かく乱物質への暴露の結果であると言うことを示唆する”ために、世界のどこかの最適下限又は劣等な精液質の観察を用いたと主張している(強調太字:著者)。観察されている精液質低下のデータを”認識されている”傾向と再解釈する厚かましさに戸惑うが、UNEP/WHO (2013) は ”EDCs の役割りは仮定されたものであるが、今日まで、いくつかの環境的又は職業的事故の稀なケースを除いて明確なデータは存在しない” と明確に述べているという点をラムらは実際に見逃している。この結論は WHO/IPCS (2002) と相違はないが、この事実はラムらにより故意に省略されている。

 2013 年報告書は、出生前の暴露に起因する内分泌かく乱化学物質の可能性ある寄与を解明することの困難さを強調している。化学物質との可能性ある関連についてのわずかしかない研究は全て、成人期に経験した暴露に焦点を合わせており、したがって、ラムらによって完全に無視されたもうひとつの点である胎児期又は新生児期に高められた感受性の期間を見逃しているかもしれない。

 精液の質に関する UNEP/WHO (2013) 報告書の主要な結論は、いくつかのヨーロッパ諸国の若者のうち、その 20〜40%の精液の質は授精能力が低い範囲にあるということである。この結論は 2002年以降に実施された新たな研究に基づいているが、WHO/IPCS (2002) 報告書の中ですでに記述されていた傾向と矛盾するものではない。2013年報告書もまた、”しかし、発達期の暴露の後の男性の精液の低品質を引き起こすのに果たす内分泌かく乱化学物質の役割りについての直接的な証拠は非常にわずかしかない”と、WHO/IPCS (2002) 報告書でとられた立ち位置と全く類似した結論を述べている。

 従って、ラムらが、二つの報告書の間の”不一致”として言明したことは誇張と誤った説示以外の何ものでもない。UNEP/WHO (2013) 報告書は、”逆の結論を下し”、そして”[UNEP/WHO, 2013]の主観的な分析の中にある方法論と本質的な偏りから生じるその様な相違のための推進力”という彼らの主張は根拠がなく、証拠の誤った引用により極端に事実を歪曲するものである。

2.5.2. 副腎機能不全

  UNEP/WHO (2013) がバルト海アザラシの個体数減少と副腎皮質過形成の問題及びその可能性ある残留性有機汚染物質との関連を扱った方法がラムらにより、”証拠の重みは利用可能な科学的データにより正当化されたものより強いという印象”を読者らに与える具体的な事例として、”反対研究の議論なしに文献の選択的引用を行ったこと、及び報告された影響の代わりの原因を検討しなかったこと”がラムらにより引用された。彼らはさらに続けて、これは ”2012 年報告書の全てのレベルで決定の完全性に疑問を投げかける”と主張している。

 これらの証拠のないゆゆしい主張を実証しようとする彼らの試みの中で、ラムらは 2002 年報告書及び UNEP/WHO (2013) 報告書の両方を誤り伝えている。

 彼らは、”2002 年報告書では、野生生物中の副腎影響はジクロロジフェニルジクロロエタン(DDD)、DDT、及び PCBs と関連していたが、これらの機能不全の原因としてのこれらの化合物の関与は不確かであった”と、述べられていたと書いている。

 しかし、ラムらの記述とは対照的に、2002 年報告書は実際には、”乱獲と生息域の破壊が寄与因子であったかも知れないが、メスの生殖能力に有害影響を及ぼす残留性汚染物質がアザラシ類の個体数の減少をもたらしたということが一般的に受け入れられている”と述べていた。この問題はまた、因果関係を評価するための事例研究のひとつとして選ばれており、WHO/IPCS (2002) 報告書は、内分泌メカニズムを通じて PCBs を含む残留性有機汚染物質がバルト海アザラシの生殖毒性に寄与するという全体的な証拠は穏健であるという結論に達したが、ラムらによって主張されたように不確かではない。全体的な評価の中で2002年報告書は、”懸念[バルト海アザラシの生殖障害]に比べると、バルト海アザラシ集団の生殖成功例は数多くあり、これらの暴露は暴露した集団の副腎機能を変更していたという少なからぬ証拠がある”と述べている。しかし、変更された副腎機能と生殖障害との関連は明確には確立されていないので、EDC が関連する作用機序の全体的な証拠は穏健(moderate)である”(強調太字:著者)。

 2002年以来、バルト海アザラシの副腎皮質過形成に関する新たな証拠、及び一連の人のクッシング症候群(訳注11)の改変特性が明かにされ、ラムらには無視されたが、UNEP/WHO (2013) 報告書では議論された。それにもかかわらず、UNEP/WHO (2013) 報告書で採用された立場は、ラムらが提案しているものよりずっときめ細かい。 2013 年報告書は、”クッシング症候群のような症状の背後にある正確なメカニズムは未だ明確ではない。同様に、これらの副腎機能障害を引き起こす個々の化合物は未知のままである。ストレスのある構成要素がひとつの役割を果たしているということを除外することはできないが、有機ハロゲン化合物への持続的暴露が関与しているように見える”と強調している。かくして、 UNEP/WHO 報告書の中で、代わりの説明の検討なしに文献の選択的な引用をしているというラムらの主張は空疎な議論であることになる。

2.5.3. 子宮内膜症

 子宮内膜症について取り扱った UNEP/WHO (2013) 報告書のやり方もまた、ラムらにより証拠の選択的な引用の事例としてみなされた。もっと具体的には、ラムらは、”子宮内膜症に関する UNEP/WHO 2012 の議論は、主に 2002年 報告書の中で評価された情報の再レビューからなるので、WHO-IPCS 2002 報告書の更新ではないと強調している”。彼らはさらに続けて、”いずれにしても、内分泌かく乱及び子宮内膜症の因果関係の見地から、科学の現状に関して何が変わったのか明確ではない”と言う。これらの主張は間違っており、2013 年報告書を曲解するものである。

 UNEP/WHO (2013) 報告書は、最初に子宮内膜症の自然の歴史の説明をし、次に2002年以降に発表された14 を下回らない刊行物に基づいて、したがって WHO/IPCS (2002) 報告書には含まれていない、この疾病の罹患率の増加についての新たな情報とリスク要素について更新を行っている。

 次に UNEP/WHO (2013) は、この疾病の起源は胎児期にあるかもしれないという比較的新しい仮説をもって、子宮内膜症に関係があるとされるホルモン的メカニズムの議論を進めている。疾病の進展には免疫系の関与とエストロゲンの必要性もまた検討されている。2002年以降に発表された 9 つの研究がこの議論を具体化するために引用されている。

 2013 年報告書はそれから子宮内膜症の動物モデルの記述に展開する。この議論に関連してラムらは、四塩素化ダイオキシン (TCDD )を子宮内膜症に関連付ける研究の多くが高用量の TCDD を投与したことに我々が言及しなかったと主張する。実際には我々は、”これは、投与された後、15年間観察された 20匹のアカゲザルの研究を含んでおり、それは高いダイオキシン暴露により罹患率の増大と過酷さを報告している”と書いているのだから、この批判はまた誤解を招くものである。

 動物モデルに関する節は、2002年以降に発表された4つの刊行物を詳細に記述している。これらの研究は、子宮内膜症におけるエピジェネティック(訳注12)な変化の関与の証拠を提供し、そのような変化は子宮内での化学物質への暴露により誘引され得るという考えを支持している。

 最後に、UNEP/WHO (2013) 報告書は、子宮内膜症における内分泌かく乱物質の関与の疫学的証拠を検討し、ほとんどの利用可能な研究は成人に焦点を当て、感受性が高まる期間(例えば、胎児期の暴露)は見逃されているかもしれないことを示唆していたことを強調した。報告書のこの節は、子宮内膜症と環境的暴露との間のどのような関連についても報告していない 7つの研究について、及びそのうち 5つが 2002年以降に発表されたことを述べていた。しかし、PCBs と関連ありとする研究があり、6つの研究がその考えを支持して引用されており、そのうち4つは2002年以降に発表されていた。2013 年報告書はまた、子宮内膜症とフタル酸エステル類との関連を述べており(9つの研究のうち7つが2002年以降に発表された)、ひとつだけ、カドミウムとの関連を報告した研究があった。胎児期又は早い小児期のDESへの暴露を扱った唯一の研究が報告された。我々はまた、子宮内膜症には強い遺伝的要素があること、及び、ある遺伝子型が特にこの疾病に敏感であるかもしれないことを強調した。

 これらの詳細を検討すれば、ラムら(2014)がどうすれば、”いずれにしても、内分泌かく乱及び子宮内膜症の因果関係の見地から、科学の現状に関して、WHO-IPCS (2002)報告書以来、何が変わったのか明確ではない”、そして”これは、UNEP/WHO 2012 報告書は WHO-IPCS (2002) 報告書の更新ではないということを描いている”という結論に達するのかを要約することは困難である。

2.6. 疾病の時間的な傾向は何を示すのか?

 UNEP/WHO (2013) 報告書は、多くの内分泌関連障害の罹患率の傾向を記録し、世界的に、これらの傾向についての潜在的な環境要因に適切に目を向けて来なかったことを強調した。我々は、疾病の罹患率(incidence)と有病率(prevalence)の増加は速く起き過ぎるので、遺伝的要因では道理にかなった説明はできないということを強調し、従って、広い意味で環境的要因がある役割を果たしているに違いないと結論付けた。これらの要因には、食事、運動、生活様式、及び化学物質曝露などが含まれる。ラムらは我々の報告書が、”そこで多く議論されている疾病の原因は化学物質曝露ではない”ということを認めなかったと主張している。この主張は間違っている。我々は多くのケースに対して非化学的リスク要素を認めているが、我々の報告書のテーマのために、我々は化学物質曝露の問題に焦点を当てなくてはならなかった。

 ラムらはおなじみのやり方で、”UNEP/WHO 2012 報告書の選択的な引用を通じて、ある疾病は罹患率又は有病率が増大しているという印象を作りだしている”と断定した。彼らの主張を正当化するために、彼らは、我々の報告書の中で尿道下裂の有病率の増加を示すためにいくつかの論文が引用されているが、”今日までに積もったこの問題に関する疫学的データのレビューは、証拠の大半は尿道下裂の発生率増加という主張を論破している”と述べている Fisch et al. (2010) を引用しなかったと指摘した。たしかにその論文を我々は引用しなかったが、その理由というのは、 Fisch et al. は、尿道下裂の増加はどこの国でも上昇しているというおかしな前提を調査する分析だからである。彼らは、結果として尿道下裂の罹患率上昇はどこにも起きていないということを結論付けるだけのためにその前提を取り壊すことに成功した。我々は、そのような低基準の論文は検討の対象からきっぱり外した。

 野生生物個体数の減少についての彼らの議論の中で、ラムら(2014)は腹足類(訳注:カタツムリ、巻貝など)への TBT(訳注:トリブチルスズ 船底防汚塗料に使われる)の、及び鳥類の卵殻への DDT/DD の影響ということに疑念を起こすための試みを行っている。腹足類への TBT の影響に関してラムら(2014)は、TBT の濃度の測定は行われていないということを根拠に、大きな港の周辺の腹足類への影響は多分 TBT の継続的な使用に関連しているという Jorundsdottir et al. (2005) の言明を退けている。しかし、もっと最近の論文では、同じ研究グループ(Gudmundsdottir et al., 2011)は、有機スズ濃度と巻貝(dogwhelk Nucella lapillus)のインポセックス(訳注:雌の巻貝類に雄の生殖器官が形成される)との間の強い関連を見つけている。モートン(Morton) (2009) は、”確証的な化学データの欠如のために、ここで報告されている巻貝の個体数のサイズ、構造、及び生殖の変化は周囲の TBT レベルの変化と明確に関連付けることはできない”とする彼の考えを支持するラムら (2014) らによって、引用されている。ラムら (2014) は文脈から引用しているが、モートンの続きの文章、”・・・しかしインポセックスからの開放はあり得るし、関連づけられる。これは、TBT の禁止後、そのような劇的なインポセックスからの回復が報告された最初の論文である”。

 ラムら(2014) は、多くの腹足類種の TBT 誘発インポセックスへの感受性の欠如を強調するが、これは誤解を与えている。ひとつの種が感受性がより低いかもしれないという事実は、感受性がより高い種への影響の評価と無関係である。さらに、TBT に感受性が低いように見える種へのこの強調は、インポセックスは今日までに、ちっとも少数ではない 170種以上という新腹足類で報告されているということが生態毒性学者によく知られている事実からそらすものである。

 ラムら (2014) は、”WHO-UNEP 2013 報告書は、腹足類における影響の誘導のメカニズムに関して研究者間での合意が欠如していることに言及していない”と断定する。これは誤りである。WHO-UNEP (2013)の 46 ページは、”メス腹足類の生殖系へのTBT の影響はよく確立されているが、その根底にあるメカニズムは、まだよく理解されていない”と述べている。この記述に続いて、相互排他的ではない 4 つのメカニズムが示唆されている。

 DDT と鳥類の個体数への影響の議論でラムら(2014) は、”多くの交絡因子(訳注13)がミサゴ(Osprey)の個体数復帰に影響を及ぼしたようである”と述べる ヘンリーら(Henny et al.) (2010) に言及している。捕食性及び魚食性鳥類のいくつかの種は DDT/DDE への暴露による影響をひどく受け、ある地理的な地域におけるこれらの鳥類種のいくつかの回復は様々な種類の管理(例えば生息場所の確保)により助けられたということは事実である。しかし、このことは DDT/DDE への暴露が最初の場所での個体数の減少を引き起こし、DDT の禁止後、DDT の環境中の濃度を減少させたことが生息数の回復のためのひとつの必要条件であったという事実は変わらない。TBT の場合と同様に、DDT/DDE 暴露と鳥類への影響との間の疫学的関連の現実を明確に確認したのは多くのラボ研究から収集した実験データであり、鳥類の個体数の回復だけではない。

 ラムら (2014) はまた、UNEP/WHO 2013 報告書の科学的信憑性を傷つけるための彼らの一般的な試みの中でミサゴと DDE 濃度の減少の例を使用している。ラムら (2014) は、我々がヘンリーら (2010) らの DDE 濃度に関する値から最適線を引いたことについて、そのような線は原著者らによって引かれたものではないので、それは誤った引用であると呼んでいる。しかし、ヘンリーらのデータの簡単な回帰は、減少傾向を明確に示している(p = 0.003; r2 = 0.91)。科学的文献の中に、DDT の禁止後様々な生物中の DDT/DDE 濃度の同様な減少の例が数多くある(それらのあるものは UNEP/WHO, 2013 報告書の figure 3.18 及び 3.40 中に示されている)。

 ラムら(2014) は、そのアプローチと品質のために WHO/ICPS (2002) 報告書を繰り返し称賛している。TBT と DDT/DDE の全体的な影響評価について、 2002 報告書(WHO/ICPS (2002))(ラムら(2014)の共著者のうちの二人、Foster と Van Der Kraak は、この 2002 報告書に寄稿している)の中で、TBT への暴露と海洋性腹足類のインポセックスの誘発との間の関連について証拠の全体的な強さが”強い”と評価されたということ(仮説と EDC メカニズムの両方)は、注目すべきことである。 コロニーの水鳥の卵殻が薄くなることと DDE との関係について、EDC メカニズムについての仮説と証拠はそれぞれ”強い”と”中程度”として評価された。UNEP/WHO 2013 評価に疑念をもたらすために、ラムらの批判の中でどの様な情報が Foster と Van Der Kraak によって導かれたのか明確ではない。それらは WHO/IPCS (2002) の中でなされた評価と違わないからである。

2.7. 用量−反応関係と強度についての議論

 ラムらは、内分泌系の特質という脈絡で、用量−反応関係の主要点を議論している。彼らは、”内分泌系は特に環境的変動に対応するよう設計されており、そのようなホメオスタシス(恒常性の維持)(訳注14)反応は一般的に正常で、適応性があり、それらが一時的で正常なホメオスタシスの範囲にある限り必要である”ということを我々が意識的に議論しなかったことを非難している。すでに Zoeller et al. (2014)によって議論されたように、この批判は、内分泌かく乱の論点を全く理解していない。内分泌系のホメオスタシス維持への役割に焦点を当てることにより、ラムらは内分泌系はまた発達のプログラミングへの役割も持つことを無視しており、感受性の高い特別の期間(ウインドウ)の内分泌系機能のプログラミングのかく乱は不可逆的な結果をもたらすことができることを議論していない。彼らは、”報告書は感受性の高い発達段階における[内分泌かく乱物質の]強度(potency)は非常に関連があるわけではないかもしれないと示唆している”と述べて、我々の報告書を誤解している。強度はもちろん関連があるが、内分泌かく乱物質を規制する時には、それは唯一の決定的な基準ではあり得ない。暴露のタイミング、影響の不可逆性、そしてその他の基準もまた考慮されなくてはならない (Kortenkamp et al., 2011)。

 ラムらはまた、非単調用量−反応関係の話題を取り巻く議論の概要を示しているが、 UNEP/WHO (2013) 報告書よりもむしろ、バンデンバーグら(Vandenberg et al. (2012))によるレビューを批判しており、バンデンバーグ報告書の立ち位置を我々の報告書の中のものと関連付けて分かりにくくしている。

2.8. 現今のタバコ規制を阻止するためにタバコ産業により用いられた科学的証拠の虚偽説明との類似性

 UNEP/WHO (2013) の信頼性を損ねるためにラムらにより用いられたやり方は、全ての商標イメージと本文を取り除くための標準パッケージを求めるタバコ規制について現在行われている論争で、タバコ産業により用いられているやり方に著しく似ている。タバコ産業の干渉についてアンカラら( Ulucanlar et al. (2014))により実施された分析は、これらが科学的証拠を虚偽説明するために仕組まれた多くのやり方に基づいていることを示している。これらのやり方の多くはまた、ラムらによって用いられている。

 最も基本的なレベルで、研究目的、手法、及び結果の不正確な報告を通じて誤解を招く証拠の引用がある。これは、元のソースを部分的にそして選択的に引用する”ピンセット”手法と言われるものであり、それにより適切な情報を故意に省略している (Ulucanlar et al., 2014)。ラムらは、故意かどうか分からないが、 WHO/IPCS 2002 報告書に関連して、報告書の中で使用されている手法を歪曲することにより、また特にブラッドフォード・ヒルの見解(訳注1)の使用に関連して適切な記述を意図的に落とすことにより、このやり方を非常にしばしば用いている。”ピンセット”手法の他の例は、TBT と DDE 及びそれらの野生生物への影響についてラムらが作りだした論争の中にも見い出すことができる。

 タバコ産業の申し立ての中に アンカラら (2014)によって特定され、またラムらの批判の中で広く観察される二番目の戦術は、”偽装された科学的批判”と呼ぶことができる。それは、証拠の全体を否定する目的で、方法論的厳格さについて科学的報告書の詳細な点検を行い、欠陥がある又は偏向しているとすることである。結論だけみれば、科学的手法が用いられたように見えるが、そのアプローチを詳細に検討すると、これらの批判は本質的に非科学的な規範に埋め込まれている。これらの干渉は、非現実的で完全論者の基準に照らして研究を判断することにより方法論的な完全性を求め、特に方法論的一様性を主張するので、アンカラらによって特定されたように、科学的批判の”偽装”版である。

 前述したように我々は、ラムらが非現実的な基準に照らして科学的研究を判断した、TBT と DDE 及び野生生物への影響に関する議論、又非常に狭い前提(”内分泌メカイズムの結果としての前立腺がん”)の中で疫学上の研究への疑念を作り出すというような、いくつかの例を特定した。

  アンカラら (2014)によって指摘されたように、その特定と批判は科学についての認識論的な理解、特殊な専門性、研究流儀の知識、並びに分析の解釈における方法論及び深い技術を必要とするが、非専門家や官庁の政策決定者又は同様な官僚はそれらの全てを持ち合わせているようには見えないので、この戦術は、”ピンセット”手法よりも深いレベルで機能する。

 もっと定量的なメタアナリシスよりむしろ、証拠の言葉による統合(Narrative synthesis)が用いられているということを根拠に、欠陥があり偏向しているとして UNEP/WHO (2013) を退けて、ラムらは方法論的な一様性を主張し、それにより極めて狭く定義された基準が、彼らにとって望ましいアプローチに合わないどのようなレビューをも退けるために、使用された。

  UNEP/WHO (2013) で使用され、またラムらの主張に反してWHO/IPCS (2002) でも使用された証拠の言葉による統合(Narrative synthesis)は、その実施に利用可能な権威あるガイドラインで確立されている手法である(Centre for Review and Dissemination, 2009)。方法論的一様性の主張において、ラムらは、科学における方法論的多様性の要求を理解することに基本的な誤りを示している。

2.9. 内分泌かく乱化学物質の科学の現状 2012年版 意思決定者向け要約

 ラムらは、次のように述べている。”2012年報告書本体と意思決定者向け要約との関係は、いくらよく見ても混乱させるものである。この文書のタイトルに基づけば、人は、この文書は報告書本体の要約−又は少なくとも報告書本体の分析に基づくもの−と推定するであろう。しかしよく見ると、要約は実際には、プロセスの’もうひとつの産物’として特徴づけられることがわかる”。意思決定者向け要約は実際、報告書本体のエグゼクティブ・サマリーではない。エグゼクティブ・サマリーは、報告書本体の中に含まれるものである。意思決定者向け要約は、そうではなくて、科学の専門家ではない人々及び特に意思決定者が UNEP/WHO (2013) で報告されている科学を理解するのを支援するために書かれた。このやり方は政府間組織により一般的に適用されているが、ラムら(2014)は見落としている。ラムら(2014) が誤解させるようにことさら強調している文体的相違はあるが、意思決定者向け要約の科学的実体は UNEP/WHO (2013) 報告書のものと違っていないことをラムらは見ていない。

3. 結論

 我々は、ラムらによって示された UNEP/WHO (2013) 報告書の批判は根拠がないと結論付けた。それは科学的論争の誤った印象を作りだし、我々の報告書の科学的実体とかみ合っていない。我々が示してきたように、ラムらの UNEP/WHO (2013) 報告書を解体しようとする試みは、学究的であるとはいえない。その批判は科学界に対して説得力のあるものとして意図しているものではなく、内分泌かく乱の話題に詳しくない、したがって偏りや主観の誤った一般論に影響を受けやすい官僚、政治家及びその他の意思決定者に向けて話すことが目論まれているように見える。我々がこの反証原稿を書いている間にも、アメリカ及びヨーロッパの化学産業界が欧州委員会による内分泌かく乱物質のための規制の実施を遅らせることを目指して(Horel, 2015)(訳注15-1)、特に現在行われているアメリカと欧州連合との間の環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)交渉の脈絡で(訳注15-2)、継続的で申し合わせたロビーイング活動をしているという証拠が明らかになっているとことを認識することが重要である。重要なことには、これらの同じロビーイング団体の多くがラムら(2014)による批判に資金提供をしているということである(訳注16)。ラムらの資金提供者のロビーイング活動を支えるという目標を持つラムらの結論の列挙は、確かに利益相反の様相を作りだしている。さらに、ラムらの科学的論点に当てる焦点の欠如、及びタバコ産業によって繰り広げられた批判のタイプとの類似性は、資金提供者らが 2013 UNEP/WHO 報告書を”批判する”ために、過去の著述に産業寄りの内容を持つことが知られている著述家らを募ったとうこと以外に、何かを結論付けることは困難である。

 最後に、科学における”論争”の概念は、1600年代にブレーズ・パスカルにより明らかにされたように、適切にレビューされなくてはならない(Auden and Kronenberger, 1966)。”矛盾は誤りのしるしでもないし、矛盾がないことが真実の証でもない”。

利益相反
 2013 UNEP/WHO 報告書を作成する取組みの時と同様に、著者らはこの反証を書くに当たり、外部のどのような利害関係者からも支援を受けなかった。従ってこの記事の共著者として利益相反はなく、全ての共著者らは書面にてこのことを宣言している。

免責条項
 この記事で述べられている見解は共著者らの共同の見解であり、必ずしも彼らの組織の見解ではない。

謝辞
 我々、著者はこのラムら(Lamb et al. (2014))への反証記事をどのような特定の資金提供を受けずに、EDCsに関する専門家としての、また UNEP/WHO 2013 報告書の著者としての、立場で作成した。

参照

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訳注1
 ・Austin Bradford Hill, "The Environment and Disease: Association or Causation?”Proceedings of the Royal Society of Medicine, 58 (1965), 295-300.
 ・疫学研究におけるヒルの判定基準
 ・因果関係の9つの基準(ヒルの基準) - *ListFreak
  1. 関連の強さ
  2. 人、地理、時間的な一貫性
  3. 関連の特異性(1つの原因に対して1つの結果)
  4. 時間的な前後関係(原因が結果の前に起きる)
  5. 用量が多いほど反応が強い
  6. 生物学的な蓋然性
  7. 過去の経験や知識との一致
  8. 実験に基づく証拠
  9. 類似性(他の事例から類推できる)

訳注1-1:WHO/IPCS (2002) で提案された枠組み
 ・第7章 内分泌かく乱化学物質を評価するための因果関係判断基準 ―枠組みの提案―の構成要素:
    1) 時間的な関係、2) 関連の強さ(特異性を含めている)、3) 観察の整合性、4) 影響の生物学的蓋然性、5) ストレス因子の減弱に伴う回復の証拠

訳注2:UNEP/WHO (2013)
 ・State of the science of endocrine disrupting chemicals - 2012
 ・Full report (pdf, 11.71Mb ) ・Summary for decision makers (pdf, 2.84Mb)
 ・内分泌かく乱化学物質の科学の現状 2012年版 意思決定者向け要約 (nihs 日本語版)

訳注3
 ・2012年9月24日 IISD Report 国際化学物質管理会議第3回会合(ICCM3) 概要:内分泌かく乱物質(EDCs)
 ・2012年9月 SAICM の新規課題としての内分泌かく乱物質:IPENの見解と優先事項

訳注4:WHO/IPCS (2002)
Global assessment of the state-of-the-science of endocrine disruptors
内分泌かく乱化学物質の科学的現状に関する全地球規模での評価 (厚生労働省版:日本語訳)
 7.2 で提案された枠組みの構成要素: 1) 時間的な関係、2) 関連の強さ、3) 観察の整合性、4) 影響の生物学的蓋然性、5) ストレス因子の減弱に伴う回復の証拠

訳注5
 ・国際がん研究機関(IARC) プレスリリース(2000年4月7日) WHO/IARC の受動喫煙とがんに関する調査研究に対するタバコ産業側の妨害
 ・WHO タバコ産業文書に関する専門家委員会 2000年7月 WHOにおけるタバコ会社のタバコ規制に対する妨害戦略に関する報告書の紹介
 ・WHO Tobacco Free Initiative 2001年1月 スイスのタバコ政策に影響を与えることに成功したタバコ産業界

訳注6
 ・米化学会 C&EN 2008年11月17日 不確実性を作り出だす 科学を操作し、規制政策に影響を与えるために産業側によって用いられる戦術を垣間見せる本

訳注7
 ・平成 25 年度化学物質安全対策(化学物質適正管理の今後の課題に関する調査)報告書
証拠の重み(Weight of Evidence)アプローチの概要 ......8 ページ

訳注8
 ・キセノエストロゲン (xenoestrogen):卵胞ホルモン(エストロゲン)優位になる原因

訳注9
 ・常温核融合/ウィキペディア
 ・'Cold fusion' scientist Martin Fleischmann dead at 85

訳注10
 ・船底防汚塗料・有機スズによる海洋汚染と腹足類(巻貝)のインポセックス
 ・「有機スズ汚染がイボニシに及ぼす影響の実態とメカニズムの解明」の研究から

訳注11
 ・クッシング症候群
  副腎皮質でつくられる副腎皮質ステロイドホルモンのひとつ、コルチゾールが増えすぎるために起こる病気です。特徴的な身体所見があり、また高血圧、糖尿病、 骨粗鬆症こつそしょうしょう、感染症など、さまざまな病気を引き起こします。(Yahoo! ヘルスケア)

訳注12
 ・エピジェネティクス/ウィキペディア
  一般的には「DNA塩基配列の変化を伴わない細胞分裂後も継承される遺伝子発現あるいは細胞表現型の変化を研究する学問領域」である。

訳注13
 ・交絡因子 c S. HARANO, MD,PhD,MPH
 ある危険因子の曝露と転帰結果の関連を考える際に、その危険因子に付随し 表には現れていないその他の危険因子が直接転帰に関連し、観察している因子は 直接的には関連していない場合があります。これを交絡 confounding といいます。

訳注14
 ・恒常性(ホメオスタシス)ス/ウィキペディア
 恒常性は生物のもつ重要な性質のひとつで生体の内部や外部の環境因子の変化にかかわらず生体の状態が一定に保たれるという性質、あるいはその状態を指す。

訳注15-1
 ・2015年5月 ステファン・ホーレルと COE 有害な出来事

訳注15-2
 ・ロビーイング攻撃 第二ラウンド:環大西洋貿易投資協定(TTIP)

訳注16
 ・Lamb et al. (2014) の Conflict of interest に示される記述の一部
 This review has been conducted with funding support from several sponsors: American Chemistry Council (ACC), CropLife America (CLA), CropLife Canada (CLS), CropLife International (CLI), European Chemical Industry Council (Cefic), and European Crop Protection Association (ECPA). These sponsors were provided an opportunity to review a draft of the paper and offer comments for consideration by the authors....



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