BAN/GAIA/GP SEA 共同声明 2006年10月30日
日本フィリピン経済連携協定(JPEPA)の
有害廃棄物貿易自由化条項に関する懸念と勧告


情報源:Toxic Trade News / 30 October 2006
Statement of Concern and Recommendations
Regarding Dangerous Waste Trade Liberalization Provisions of the JPEPA
by Basel Action Network (BAN), Global Alliance for Incinerator Alternatives (GAIA)
and Greenpeace Southeast Asia (GP SEA)
30 October 2006


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年11月2日
更新日:2006年11月14日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/BAN/BAN_GAIA_GP_JPEPA_061030.html

■事実

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 最近締結された日本フィリピン経済連携協定(JPEPA)は、関税を撤廃するための有害廃棄物を含む廃棄物のリストを含んでいる(訳注1)。関税撤廃は貿易を促進することを意図したものでありその効果が得られる。これらの廃棄物の多くは、日本及びフィリピンもその締約国であるバーゼル条約の下で廃棄物として指定されているものである。
 バーゼル条約は加盟国に対し、有害廃棄物の国境を越える移動を最小にし、バーゼル条約で規定する廃棄物の自国処理を求めている。さらにバーゼル条約はどのような廃棄物の輸入も禁止するという加盟国の主権を認めている。
 実際、フィリピンと日本も出席していた1995年の第三回バーゼル条約加盟国会議においてバーゼル条約を修正する決議 III/1を採択したが、それはどのような理由があっても、OECD/EUの加盟国及びリヒテンシュタイン(Annex VII)はそれら以外の諸国に対して全ての有害廃棄物の輸出を完全に禁止するものである(訳注2)。日本は Annex VII(OECD 加盟国)のリスト国であり、フィリピンはそれら以外の国である。日本もフィリピンもまだバーゼル禁止修正を批准していないが、フィリピンは有害廃棄物の部分的輸入禁止をしていることで知られている[1]
 フィリピン政府当局は廃棄物を免税プログラムに含めることは単に技術的な問題であり、バーゼル条約やフィリピンの国内法を無効にするものではないと繰り返し主張している。

■分ったこと

◆日本のバーゼル条約反対と廃棄物自由貿易へのキャンペーン

 バーゼル条約修正が通過して以来、日本は有害廃棄物の国境を越える移動を最小にすることに関するバーゼル条約の義務及び特にバーゼル禁止修正に嫌悪感を示している。最近のこととして、廃棄物としての海洋船舶の問題に関してバーゼル条約は船舶には適用しないと熱心に主張して、バーゼル条約を阻止しようと積極的に働く指導的な国となることで彼らはこの傾向をよく示した。
 日本は海運業界の非難を国際海事機関(IMO)に向け、同機関は有害廃棄物を含む船の開発途上国への輸出を禁止しない船舶解体条約とするよう主張した[2]。同条約は現在、最終段階にあり、日本はノルウェー及びドイツとともに同条約が最小限のもので、バーゼル条約が目指すような開発途上国への世界の有毒船舶の不均衡な廃棄を防ぐために同条約が機能しないよう主導している。
 この件に関する日本の最大の関心ごとは、ほとんどの廃船がバングラディシュやインド、パキスタン、中国のような南及び東アジアでスクラップされているという現状を維持することであると信じられている。そのような諸国では環境的に健全であるとみなされるような管理をせずに解体を実施しているということはよく知られている。(訳注3
 バーゼル条約の目的を弱体化する日本の他の取組の例は、日本が(アメリカ商務省の支援の下に)主導して、G8諸国の後援の下に打ち上げたいわゆる3Rイニシアティブである。3R廃棄物イニシアティブの主要な目標の一つは廃棄物に対する貿易障壁を撤廃することであった(訳注4)。
 廃棄物にとっての最も明白な貿易障壁は実際、バーゼル条約であり、国家の輸入禁止令である。NGOs やバーゼル加盟国による反対に直面して、日本はその表現を幾分和らげてきたが、しかし日本の意図が、その島国で発生する大量の廃棄物を押し付けるためにアジアの隣人に頼るこで廃棄物問題の”地域的解決”をはかろうとしていることは明らかである。BAN は、日本の3Rイニシアティブを”有害物質貿易の仮面”と呼んでいる[3]

◆日本の廃棄物貿易の例

 BANはすでに、大量の廃棄物、そしてその中のあるものは有害な廃棄物が中国江蘇省の港、台州(Taizhou)に流れ込み、悪名高い電子廃棄物処理地域である台州(Taizhou)及び広東省の貴嶼(Guiyu)に運び込まれて処理されることを報告した。我々が知る限り、この輸入は今日まで行われている[4]。さらに、過去において日本は大量の自動裁断機 fluff をアメリカのワシントン州を含む海外に輸出しようと試みた。

 1999年、日本の有限会社ニッソー(栃木県)が古紙と偽って大量の医療廃棄物と家庭ごみを124箱のコンテナーに詰めてフィリピンに輸出した(訳注5)。当時、あるフィリピンの新聞は次のように報告している[5]。”我々はグローバリゼーションには賛成だが、まさかそれが家庭ゴミや大量の恐らく伝染性を持つ有害ゴミの輸出のグローバリゼーションを含むとは想像もしなかった。[6]

◆JPEPA 廃棄物貿易リストは的外れという政府の主張は正しくない

 JPEPA の交渉にあたったフィリピン政府代表は報道発表で繰り返し減税プログラム中に廃棄物が含まれていることは重要ではなく、単に技術的なことであり、国内法やバーゼル条約を無効にするということはありえないと主張した。これらの声明は誤解させるものであり、全くの偽りである。

 条約は一旦、批准されると国内法と同等になる。バーゼル条約が JPEPA よりも重みがあり、この二国間協定に勝ることを保証するものはどこにもない。法的に矛盾がある場合には、条約に署名する前にそのような矛盾を防ぐようにすることが必須である。さもないと裁判所は、古い一般的な協定よりも最も新しいより具体的な協定に正当性を示す可能性が非常に高い。この場合、JPEPA は最も新しい協定である。

 この事実は、一体全体、廃棄物がなぜ JPEPA に含められたかという疑問を提起する。もし、これらが実際に矛盾であり、又は”無関係”なら、なぜこれらの廃棄物がこの協定に含まれなくてはならなかったのかについて説得力のある理由(技術的なことではない)は存在しない。報道発表の中でほのめかされていることとは逆に、国際貿易機関(WTO)は廃棄物関税が撤廃されることを求めていない。これらの廃棄物が、バーゼル条約、バーゼル禁止修正、及びフィリピンの輸入禁止令に反して、廃棄物の貿易を容易にするために関税撤廃目標のリストに挙げられる法的理由は何もない。
 国際貿易条約を専門とする弁護士、ジェルミー I. ガツドラはフィリピン・インクアイアー紙で政府の主張を概要し、政府の論理を”間違っており、的外れである”と呼んでいる。彼は JPEPA は実際、条約であり、フィリピンの法制度の下の条約はフィリピンの法の一部であり制定法と同等であるとして扱われる。”JPEPA が発効したら矛盾のある以前の法は無効とする効果を同協定は持つであろう”とガツドラは述べた。

JPEPA は WTO と Basel 対立を煽る

 バーゼル条約の範囲にあるように見える廃棄物の貿易自由化を JPEPA に含めることは、バーゼル条約への WTO の挑戦が現実となるような状況を作り出し、JPEPA と WTO の二つの条約の方がひとつのバーゼル条約よりも重きをなすと理解されるので、WTO がバーゼル条約の最も厳格な貿易関連管理及び禁止義務の完全な弱体化と転覆に組する結果となるようにしたいという交渉者の一部がもつ願望を指し示すものである。他の環境関連多国間協定(MEAs)とともにバーゼル条約は他のもうひとつの義務と部分的に矛盾することが知られている[7]
 今日まで、ほとんどの国は環境関連多国間協定(MEAs)がWTOの貿易自由化要求によって弱体化されことを望んでいない。しかし、アメリカや日本政府などのグループ、廃棄物は本来、商品であり、廃棄物の貿易制限は根拠が不十分であるという意見を持っている。一方、主に開発途上国により推進されているバーゼル条約は、廃棄物は本来”よいもの(good)”ではなく、特に先進国から途上国へ自由に取引されることは管理され禁じられるべき”悪いもの(bad)”であると結論付けている。

◆結論

 フィリピンと日本の政府は、JPEPAに廃棄物貿易自由化条項を含めることの重要性について誠実ではなかった。実際、これらの条項を含めることは、廃棄物管理における国内処理という重要な原則に関して、国内及び世界に深刻な影響を与え、バーゼル条約及び自由貿易協定の中で確立されたこれらの世界的規範に関する衝突をわざわざ作り出すために設計されているように見える。
 しかし関税撤廃は多くの商品のために値打ちがあるかもしれないが、貿易対象となるあるものの規制と禁止は倫理的、環境的、及び経済的に合理的である。有害廃棄物貿易は、世界のコミュニティーが規制を求めるものであり、それらの輸出がより経済的弱者にへコストを押し付けることと同等となるような場合には、完全に禁止すべきものである。
 様々な局面でバーゼル条約の義務を攻撃している筆頭国である日本は、JPEAの意図に強い疑いがもたれている。実際、廃棄物の自由貿易を抑制するために設計されたすでに確立されている法がこれらの関税低減により攻撃されている。これらの廃棄物条項の全てがこの協定から取り除かれるまで、この協定の批准阻止する措置が速やかにとられなくてはならない。

◆勧告
  1. フィリピン及び日本の議会は、関税低減条項から廃棄物の全てのリストが削除されるまで批准を拒否すべきである。

  2. 日本とフィリピンはともに、環境正義及び国内廃棄物管理に関するにバーゼル条約の原則を支持するという強いメッセージ送るために、早急にバーゼル条約禁止修正を批准すべきである。両国は1995年以来バーゼル条約加盟国により批准するよう求められているにもかかわらず、未だに批准していないのは、はなはだしい間違いである。

  3. 日本及びフィリピンにおいて完全で公平な多くの利害関係者による調査が実施され、そのような条項がJPEPAにどのように含まれているのか、誰がそれらを推進しているのか、その意図は何かを明らかにすべきである。

  4. 日本は、廃棄物の貿易障壁を排除する又は低減するという全ての言及を3Rイニシアティブから完全に削除すべきである。

  5. 日本とフィリピンは、有害物質の使用削減と過剰包装や古いタイプの商品の計画的な廃棄の排除を通じて根本から有害廃棄物及びその他の廃棄物の発生を防ぐ真剣なプログラムを立ち上げるべきである。

脚注
  1. バーゼル条約ウェブサイトで報告されているように:”一般的政策として及びバーゼル条約と有害物質及び危険な核廃棄物管理法1990、別名、共和国法6969に基づき、DAO29の第VII章24節及び25節(RA6969の実施規則及び規制)で定義されているように、廃棄物の輸入は同国によって許可されない。しかし、RA6969、その実施規則と規制及びの後に続く廃棄物の輸入管理のための諸指令下で定義されている有害物質を含む物質の輸入は、回収、リサイクリング及び再処理の目的に対し、事前の書面による長官の承認がある場合に限り許可されるかもしれない。”
  2. To learn more about this venue shopping to the IMO and away from Basel visit http://www.ban.org/Library/briefingp5_april2006.pdf
  3. To learn more about the 3R program launched by Japan and the problems with it see http://www.ban.org/Library/briefingp9_april2006.pdf
  4. http://www.ban.org/Library/Taizhou_E-waste_Research_Report.pdf
  5. The Philippine Daily Inquire
  6. http://www.ban.org/ban_news/philippines.html
  7. See BAN Report: When Trade is Toxic: The WTO Threat to Public and Planetary Health, 1999 at http://www.ban.org/Library/when_trade.pdf

訳注1:JPEPAの関税表に廃棄物が含まれていることの根拠

■「日本国の表」 と 「フィリピンの表」

 関税表には、「日本国の表」 と 「フィリピンの表」 がある。「日本国の表」 はフィリピン産物品の日本への輸入関税用であり、「フィリピンの表」 は日本産物品のフィリピンへの輸入関税用である。
 外務省の英語版テキストには 「日本国の表」 と 「フィリピンの表」 の両方が掲載されているが、日本語版テキストには 「日本国の表」 しか記載されておらず、「フィリピンの表」 は省略となっている。
 日本からフィリピンへの(廃棄物)輸出に関しては 「フィリピンの表」 が適用されるので、フィリピンへの輸出物品(廃棄物)の分類と関税を調べるためには英語版テキストを見るしかない。そのために、JPEPAに廃棄物輸出が含まれていることが非常に分りにくくなっている。

 日本語テキストにある「日本国の表」には、上記の表に示す品目は示されておらず、次のような大分類項目が示されているだけである。

・第二六類 鉱石、スラグ及び灰
・第三〇類 医療用品
・第三八類 各種の化学工業生産品
・第六三類 紡織用繊維のその他の製品、セット、中古の衣類、紡織用繊維の中古の物品及びぼろ

■関税表
■その他のJPEPA関連外務省資料
協定書 第二十九条(四八頁)
原産品
1 略
2 1(a) の規定の適用上、次に掲げる産品は、締約国において完全に得られ、又は生産される産品とする。
(a)〜(h) 略
(i)当該締約国において収集される産品であって、当該締約国において本来の目的を果たすことができず、回復又は修理が不可能であり、かつ、処分又は部品若しくは原材料の回収のみに適するもの
(j)当該締約国における製造若しくは加工作業又は消費から生ずるくず及び廃品であって、処分又は原材料の回収のみに適するもの
(k)本来の目的を果たすことができず、かつ、回復又は修理が不可能な産品から、当該締約国において回収される部品又は原材料

■BAN 有害廃棄物ニュース
訳注2
バーゼル禁止令 決議 III/1(当研究会訳)

訳注3
開発途上国における船舶解体問題(当研究会)

訳注4
3Rイニシアティブ閣僚会合の問題点(当研究会)

訳注5
ニッソー不法投棄について
 1999年12月。フィリピン・マニラ港で、コンテナに詰まった医療廃棄物を含む膨大なごみが発見された。ゴミを不法に輸出した栃木県小山市の産廃処理業者「ニッソー」の伊東広美社長(50)は、外為法違反容疑などで逮捕された。フィリピンに輸出されたごみは、通産、厚生、環境の三省庁が中心となった調査団は1999年12月、現地で廃棄物を確認したうえ、政府のチャーター船で持ち帰られた。輸出された廃棄物の運搬、焼却費用は総額2億8000万円に上った。



化学物質問題市民研究会
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