お気楽CDレビュー
図書館天国:書き捨て御免


全ては図書館から始まった。

われわれは、子供からお年寄りまで、直接的間接的に図書館の蔵書に投資しているのである。
使わない手はない。人間、自分の小遣いであがなえるものなんてたかが知れている。
日常的な音楽聴取のループから、少しずれてみよう。

*

ここでは、批評と呼べるより前の段階の、非常に粗削りな印象を記録している。普通、そういうものはあまり人様にお見せしないものかも知れない。ただ、綺麗に表面を磨いたような評論ばっかりというのは、書いていても読んでいても、何だかちっとも面白くないのである。むしろ、時として無謀だったり粗雑だったりしても、こういう生のままの「感想」が音楽について考える強力なドライヴになることが、ままあると思うのだ。

そんな訳で、これからも気ままに綴っていく予定である。若干の暴言はどうか大目に見ていただきたい。(1998.12.23)

1996年のメモへ
1997年上期のメモへ
1997年下期のメモへ
1998年上期のメモへ
1998年下期のメモへ
番外編「今年よく聴いたなあベスト10・1998」


1999年1-3月のメモ

1999.1.15 <1.21補足あり>
CDを次々と借りてきて知らなかった曲や聞き流していた曲を知ることは、それはそれで楽しいのだが、あんまりやりすぎて最近は落ち着いて音楽を楽しんでいないように思う。そんな訳で、これから1ヶ月ほどはなるべく借りないようにして(図書館に予約を入れてたものなんかは別として)、ゆっくり好きな音楽を楽しもうかと思っている。ま、誰にでもそういう波はあるんでしょうね。


シング・ライク・トーキング「セカンド・リユニオン」 Second Reunion - The Best of Sing Like Talking (1998)

SLTを叩く記事が別冊宝島に載ったとかで、結構騒ぎになっていたようだ。詳しくはそれを読んでから改めて書くとして、このベストは面白い。多分、今の視点から振り返っての選曲・構成だからだろうけれど、初めて彼らの音楽を小耳に挟んだ頃(1990頃か)に感じた、妙に歌謡曲寄りのセンチメンタルなテイストというのはほとんど感じられなかった。そして際立つ佐藤竹善のヴォーカルの技。彼は現在日本で最高の男性ヴォーカリストに数えていいんじゃないだろうか。


スガシカオ「クローバー」 (1997)

やっと借りた〜。しかし図書館暮らしが板に付くと、こういう「当たり」の確率の高いものまで、買わずにまず借りようと思ってしまう。妙に新譜に臆病になってしまった。それは一部には、最近の日本製ポップスの目を覆う不作ぶりのせいもあるが。

それで、どうだったかと言えば、聴けば聴くほど味が出る良さ。突出して耳を驚かすような仕掛けはないが、よく考え抜かれたサウンドデザインと楽曲と、そして歌詞。思うに、スガシカオがこんなにも受けたのは、彼の前後の世代の渇望にうまく応えていた、ということもあったのではないか。そしてその時に音と並んで重要なのは、下らなくないどころか感動的ですらある、諦念とその反対とが入り交じった年齢相応の歌詞だと思うのだ。例えば「黄金の月」の中の

知らない間にぼくらは 真夏の午後を通りすぎ
闇を背負ってしまった
そのうす明かりのなかで 手さぐりだけで
なにもかも うまくやろうとしてきた

こんなの、今までに書けた人はいないし、下手すると今後も誰も書けないかも知れない。でも、幼稚な歌詞が溢れる現在の日本のポップスシーンに、こういう言葉が出て来るのを待っていた人は多いと思うのだ、私自身を含めて。そういった人たちが同様にSMAPの「夜空ノムコウ」(作詞がスガシカオ)を支持していたのだろう、多分。

補足(99.1.21): そう、でもただ一つ気になる点がある。歌詞なのだが、唐突に「家族」とか「父さん」といった単語が出てくること。何度もあるので、彼自身にこうした問題へのこだわりがあることは理解できるが、その文脈が隠された状態なので、却って「家族的なものへの憧憬」をイメージさせてしまい、彼の詩の世界に水を差しているようですらある。まあ、次作が「FAMILY」なのでそこで解明されているのかもしれないが。<さっさと買え!


吉田美奈子: Minako Favorites (1975-77)

今まで聞き流してばかりいて、ちゃんと聴くのはこれが初めてなのだが、意外と矢野顕子と唱法的に近いものあり。そして始めて気が付いたのが、独特な楽曲の構成感。一度クライマックスが来たのが一旦引いて、またじわじわと盛り返すような構成が多い。息の長いメロディラインとも呼応してるのかも知れない。そしてそれは、近頃では耳にしないような、ドラマティックなうねりを作り出している。

同時期に出て来た山下達郎などと比べて、いまだに今一歩マイナーなポジションにとどまっているのは、このあまりに独自な個性のためかも知れない。うまくはまる場所がマーケットにはなかった、というような。いずれもっと再評価されるだろうか。

補足(99.1.21): とはいえ、この後の吉田美奈子はゴスペルに接近したりとかしてませんでしたっけ、確か。だから上の表現は不正確。初期の吉田美奈子の再発見があってもいい頃かな、というニュアンス。
それから、後から気が付いたのが、「EYES」〜「風の歌を聴け」の頃のオリジナル・ラヴって、意外とこの時期の彼女の音楽性に近いものがあったんじゃないかな。


DJ KRUSH「覚醒」Kakusei (1998)

これもアブストラクト・ヒップホップと言うのだろうか。言葉がないからアブストラクトってのも何だかな、と思うが。確かに彼はラップはしないが、でも確実にリズムで「語りかけて」くる。語る、ということは、他でもない彼とわかるやり方で、という意味を含んでいる。1998年のクール。


エル・マロ El Malo: The Worst Universal Jet Set (1994)

どこかで1stと書いてしまったけど、これは2枚目とのこと。この辺がコーネリアスの「69/96」への伏線になってるとは思っていたが、その点は思った通り。ただ、楽曲が弱い(歌もの的な意味で)なので、どうしても繰り返し聴いてるうちに飽きが来る部分がある。リフはいいがメロディとか構成が、といった感じで。「そのリフがいいんじゃん」と言われると、ピアノ系の耳から抜けきれない私は返す言葉がないのだが。

補足(99.1.21): とはいえ、TRK-16の"Tambourine of Love"とかはむちゃくちゃ好きだったりします。ところで、ゲストで歌ってるラヴ・タンバリンズ(当時)のEllieってやっぱり歌はめちゃ上手いんだ、と思う一方で、英語の発音はいくら何でも崩し過ぎだろう、あれは(他にも2、3曲聴いたことあるが同じ)。全然「らしくない」日本人発音で構わないからハッキリと、と思うが。



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