新鮮、飛躍!                              秋村 宏


 佐藤誠二さんの「島においでよ」。奄美の風土、そこから生まれた言葉、明るさ、楽天的なリズム、無警戒なおもい。その新鮮さ。その可能性。
 大江豊さんの「おめん売り」。年少時の祭りを語るうまさ。なにかなつかしいおもいと人生を感じさせる。
 中村花木さんの「変色する流域」。屠殺される牛と故郷と幼年の思い出が簡潔に。イメージの鋭さ。
 平野加代子さんの「そうなるよりは」。柔軟な思考と言葉で、より大きな世界への飛躍が期待できそう。
 評論は年々作品の質が高くなっている。佳作の前川幸士さんは文献をよく読んでいて、定説・マヤコフスキー論として、まとまっている。


 


さまざまな可能性                            上手 宰


 私は大江豊「おめん売り」を入選に推した。少年の日の作者の想いも混ぜながら、売っているテキ屋の出自と心理を想像するあたり、みごとだった。いつの時代にもあった祭りの不思議さが漂う。中村花木「変色する流域」は屠殺現場の迫力によってではなく、それが日常の中に普通にあることを描いてすばらしかった。平野加代子「そうなるよりは」は雄雌の木の熱い想いを勝手に想像し、とぼけたタッチであれこれ言うところに面白さとペーソスがあり、可能性を感じさせる。佐藤誠二「島においでよ」は明るさと元気さで支持を集めた。勢いに期待したい。
 他に斗沢テルオ、宮下誠、大村理沙、竹野政哉、山川茂に注目した。


それぞれユニークに                           小森 香子      


 佐藤誠二さんの「島においでよ」はなんとも心地よい詩であった。本当に奄美の島人と一つになりたくなった。沖縄を始め飾り気ない島々をいつまでも「基地」といういまわしい異国にしておいてはならない、と感じた。
 大江豊さんの「おめん売り」は子どもの心にやきついた「夢」の世界を薄暮色の絵のように美しくも怖く空にはりつける。書ける人だと思う。中村花木さんは著名な俳人であられるが、そのセンスを詩に生かして力強い。平野加代子さんは「自由のひろば」のホープ。一層の精進を期待する。
 全体に八十代から十代まで多彩な人々が応募されていて、また困難な日々に光る言葉が嬉しかった。


快い響きと映像に                           白根 厚子

 新人賞選考に初めてかかわった。応募詩作品438篇、評論6篇と、詩人口の多さに驚き、積み上げられた原稿に嬉しい悲鳴。だが原稿を読むと、気持ちは伝わってくるが…、どうテーマを象徴化して表現するかが課題な気がした。
 入選作「島においでよ」佐藤誠二、語りかける言葉に島人の思い、島の風土が、リズムある言葉で快く響き言葉とともに島の映像が流れてくる。
 「おめん売り」大江豊、子ども時代の様々な思いが、浮き上がって来る作品。おめんの映像が鮮やかに映され自分の思いものせられた。
 「そうなるよりは」平野加代子、桂の木によせる女の思いが艶やかに伝わってくる。


味わい深い個々の作品                         田上 悦子


 「島においでよ」は、何度読み返してもわくわくします。屈託のなさが魅力の、原初的な生きる歓びが全身に染みわたる作品。いけねぇよ∞何だというんだ∞おいでよ≠ネどの表記に込み上がるものがありました。
 「おめん売り」店の前に立ちつく
す少年と、地べたから客を見上げているテキ屋、空に掛かっているおめんなどの配置が見事。怖さを孕む夢に惹かれた回想を深々と描いています。
 「変色する流域」は、のどけさの中の凄まじい屠殺の記憶の表現に、詩作品としての完成度の高さを感じました。
 「そうなるよりは」途中から始まり途中で終わるという独特な手法の作品。つい乗ってしまう面白さがあります。



多彩で豊かな収穫                           南浜 伊作



 佐藤誠二さんの詩は、殆ど無警戒に方言をおりこみ、言語機能への全面的な依拠が、新鮮さを醸成している。楽天的な人間信頼、南国の風土性、外向的な解放感に魅かれる作品で、新人賞にふさわしいと思った。
 大江豊さんの詩は、鮮明な少年の日の追憶の世界が描かれ、そこに漂う悲哀感が魅力だ。おめん売りの人生を重ねて、現実とは異次元の詩の世界が構築されている。
 中村花木さんの詩は鋭く描き、切りとられた劇を見せられる。結びの詩行が、リアルに迫る心にくさだ。
 平野加代子さんの作品は、ご本人は生真面目なのに、とぼけた面白さ。生来のユーモアなのか、饒舌が愉しい。

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新人賞
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詩部門
佐藤誠二 大江豊 中村花木 平野加代子
評論部門
前川幸士