現実を積極的な姿勢で   青木 みつお

 
 ことしも応募作品は多彩な内容で、作者の年齢も十代から八十代と幅広く、現実を積極的な姿勢で反映していたのは、心強いものがありました。
 今日多くの勤労者のくらしについてみれば種々の困難があり、高齢者にとっても健康、経済、介護の不安があります。若い人たちには勉強を続ける上での困難、就職の不安、不安定な就業や経済的な問題があります。まじめに生きようとする努力があり、他方にそれをまともに受けとめきれない環境が広く存在します。
 詩を書こうとするみなさんの圧倒的多数は、人間らしいくらし、職場、勉学の機会を得ようと努力し、人間的な情熱の発揮、将来への見通しや確信を切実に求めているでしょう。
 作品には高校生の社会的視点、戦争や平和への思い、家族を思うもの、くらしの風物、在日外国人の視点を反映するものなどがありました。詩風も経験の長短を反映してか、地域的な色彩もあり、バラエティーに富んでいました。井上義一さん、志田昌教さん、斗沢テルオさん、宮下誠さんらの作品は入選をのがしましたが、選考の席でなかなか結論がだせないという、美点を持っているものでした。
 佐藤誠二「島においでよ」は明るい楽天性、南国のリズム、精神風土の健康感がプラスしました。大江豊「おめん売り」はイメージの明快性、表現力が光っていました。中村花木「変色する流域」は土地と共にある産業の姿を的確な言葉で描いていました。平野加代子「そうなるよりは」は自然観察を独特のセンスと語感で表現していました。応募して下さったみなさんを含め、今後のご精進とご活躍を願っています。
 評論部門は前川幸士「マヤコフスキーの詩」を佳作としました。著者独自の視点がもう少し欲しいと思いますが、今後の新境地に期待します。
 宮下誠さん、万里小路譲さんも詩人論での取り組みでした。今後のご健筆に期待します。評論部門での新しい成果を願っています。
 全体として、選考はよく議論し、多彩な資質に脚光が浴びるよう配慮しました。新しい才能の登場を願います。


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新人賞
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詩部門
佐藤誠二 大江豊 中村花木 平野加代子
評論部門
前川幸士