【 マリリン・モンロー,ネバダ砂漠4】
ふたつある部屋の間の襖を閉めると、隣の部屋は「未知」や「空虚」や「無」や「不在」になる。つまりは「独り」ということなんだが…
人に会うために新宿に出て、結局は自分の世界しか見ていないことに気付く。その人に会うことによって引き出される「自分」のことばかり見ている。これじやことごとく「関係」が駄目になるのは当然なのだ。けれどそんな時、相手の人がそんな私を引き受けて、やさしく振る舞ってくれると、もうすべて投げ捨ててI wanna be your dog.(IGGYPOP)になる。私はあなたのオモチヤなの。
新宿花園神社で古物販売をやってた。中也が着てたようなマントと、タイ製のオイルライターを買った。安かった。ライターには様々な神々が型どられている。擦ると「魔人」が出てきそうだ。魔人よ、出てこい。おれは人生ふらふらだ。
新宿は歩行者天国という奴で、あちこちで様々な国の「大道芸人」達が、カタコトの日本語と分かりやすい英語で、様々な「芸」をしている。みなおれより年下で、臆することなく、こちらの目を見つめ語りかけてくる。アルタ前から駅に入る階段下でイタリアの若い女が、紙製の人形を操っていた。「ハイ、ジョニー、オジギハ?コンニチワ、ワオー、クウチュウカイテン、ジョウズネ」…ピエロの紙人形Johnnyは、本当に生きてる様に飛び跳ねるので、One piece please.と買い求める。部屋に帰って解説書を読み、操るが、Johnnyはただの紙人形だし、観てくれる観客もいない。
> 月の大地は、灰色の山脈と丘が連なっていた。地平線の向こうに、黒い宇宙空
>間が切り込んでいた。
> 動くものはない。風もない。だが、まるで生まれ故郷にいるような安心感があ
>った。
> すそ後ろに「神」がいそうで、字音服の肩越しにに何度も振り返った。
(「月から戻った男」ジェームス・アーウイン)
おれの襖の向こうにも「神」はいるんだろうか。
はは。何度も振り返る。
(不定期連載。引用記事は朝日新聞1/5朝刊)
1996-01-15
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