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断想

断想5 (骨)

 死体となった伯父の身体はドライアイスで凍りガチガチだった。坊主と葬儀屋に言われ、アルコールを湿らせた脱脂綿で拭く。坊主と葬儀屋はなんの根拠があってわれわれを取り仕切っているのか。六道の辻の六文銭だの、守り刀だの嘘八百を並べて立っている。通夜には線香の火を絶やすなと言うので、年寄り達には寝てもらい、ひとり本堂で香を焚き本を読み朝を迎える。朝は木々が大気が美しい。多くのものが新しくなり祭壇には伯父が死んでいる。

 火葬場に行く前に棺を開け、祭壇の花を入れる。花に囲まれた伯父の死体は見事な絵になっている。7番目の弟である64歳の親父が肩を震わせて涕いている。子供のようだ。おれも泣いている。何かが何かを超越して狭く細い道を通り、その途上で見えない何かにみられている。向こう側の誰か。このわたし。それは誰なのか。

 火葬場の窯の前でかろうじて立つ娘の後ろ姿は気高く、どこかへ昇華しそうだった。
 重い扉が閉められ、伯父が焼かれた。
 それから小一時間ほどして出てきた骨はカリカリと美味そうなほど記号だった。
 火葬場の職員が職人的な手つきで骨を壺に入れる。「これが喉仏です」
 仏が座禅を組んでいる姿をしているのだと言う。
 仏は無常を説いてこんなところで記号になっている。
 遺族は記号となった伯父を確認してそれぞれの暮らしへと帰る。そうして向こう側の誰かのように時折この世を全体として感じてなくのだ。

2000/10/10