
断想2(書くこと)
ながく書くことをしていないと、身体の真ん中の不幸をサボっている気持ちになる。夕暮れに、ふと凶暴な一瞬(の永遠)に見舞われ、坂道を狂ったように自転車をこいで稼ぎから帰る。とりあえずは金だ。金さえあればおだやかにやり過ごせる関係を(重ね嵩ねひとは大人になるのか)。ぎお。これはおれがはたちのころ世界を扼殺したときのこえだ。ぎお。といって世界は死んだ。それからいったい考えている感じているのは誰なのか。
私は煙草をやめた。なんだかもう切断したくなったのだ。とりあえず何かを切断する力がじぶんにまだある。そのことを確かめた。連日雨ばかり降り続く梅雨のころだ。不景気のない植木屋にも不景気が押し寄せ、残業カット、カットするにも残業そのものがなくなり、毎日6時前に帰って腹へらし、家事のあれこれを妻に毒づいて不機嫌だった。残業がなければ手取りが20万にしかならない。アパート代が8万8千円だから、住むだけで半分がなくなる。ながく書くことをしていない。
盆休みに田舎に帰ったら、浦島太郎だった。太郎はいったい誰なのか。(玉手箱を開けたのは)きっとそんな問いなのだ。世界は転回し、砂浜から上陸するのはもう魂(たましい)ではないかもしれぬ。けれどたましいの問題があるだけだと小山俊一は言った。生老病死、その傍らに陽炎のように魂が炙り出される。その所在だけが希望のようなリアルだ。身体の真ん中の不幸の真ん中のリアル。それが身に添うような暮らしがしたい。
書くこと。
その問題があるだけだ。
00/08/15
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