#376 快適なモバイル入力環境を求めて

2015/11/19

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 今やこれだけスマホが普及して、街中でみんなが小さい画面を相手にしているのを見るにつれ、20世紀のうちから曲がりなりにもモバイルコンピューティングをやっていた私などは隔世の感があるものだが、この電脳をやっている間、こよなく愛用していたHP200LXにしろアドエスにしろ、私がモバイルを使うにあたり重視していたことの一つは「快適な入力環境」にあったと思う。

 HP200LXは、筆箱ほどの大きさの二つ折りのミニPCだが、乾電池2本で数日は稼動する超寿命と、完結したMS-DOSマシンであること、そして何よりテンキーまでついたハードキーがあったことが魅力であった。もちろんキーピッチが狭いので、両手10本指のタッチタイプは難しいが、両方の手で握って親指で「ぷちぷち」と打つのはそれなりに快適に文字入力ができた。

 その後、電話回線がついたスマートフォンの走りであるW-ZERO3シリーズがアーリーアダプターに浸透し、次々に後継機が出てくる中で、私が選んだのはAdvanced/W-ZERO3[es](アドエス)であった。購入当時にはアドエスの後継機であるWILLCOM 03とどちらを選ぼうか迷った末に、結局古い方のアドエスを選んだのは、テンキーがハードキーでないことを敬遠したというのも理由の一つである。このアドエスも、スライド式で飛び出すハードキーのキーボードが出てくるギミックがお気に入りで、やはりHP200LXと同じように、ぷちぷちしながら文字入力をしていたものである。

 そしてアドエスに関しては、さらに文字入力を速く確実にできるように、折りたたみ式のUSB接続キーボードを使ったり、文字入力に特化したpomeraを愛用したりもしていた。端末付属の「ぷちぷち」キーボードでも、テンキーで入力するよりははるかに速く入力できるのだが、やはりフルサイズに近いキーボードがあった方が入力がはかどる。

 というような遍歴である私の場合、今時の表面がのっぺりしたスマートフォンやタブレットでは、速く正確な文字入力ができずストレスのもとになってしまうのである。もちろん、キーワードで検索してウェブを閲覧したり、短い用件のメールを書いたり、(私はしてないけど)SNSなどの短文のメッセージのやりとりをする分には、音声入力やタッチキーボードでも十分なのかも知れないが、これを使ってまとまった文章を書こうとするとたちまち往生してしまう。文字入力が遅くなると、思考のスピードもそれに引きずられて遅くなるようで、フラストレーションがたまるのである。

 そんなわけで、タブレットやスマートフォンであっても、快適に入力できるハードキーボードを求めて、いろんなキーボードを買って試してみたのだが、なかなかしっくりするものは見つけられずにいた。携帯性を考えて小さなキーボードにすると、キーピッチが狭くて早い入力はできなくなるし、折りたたみ式のキーボードは、キーが変則的になったり、強度に不安があったりする。

 前回Windowsタブレットを買ったときにあわせて買ったBSKBB24というキーボードは、キーピッチを十分確保しつつ、厚さが6mmと極めて薄くて軽く、ある程度剛性もあって打ちやすい。スマホやタブレットとはBluetoothで接続し、ハードスイッチ一つで接続して使えるようになり、スマホやタブレットと同じmicroUSB端子で充電でき、使用時間もかなり長い。

 難を言えば、スマホやタブレットに特化しているせいか、PCでおなじみのESCキーやファンクションキーがないことであるが、これについてはWindowsタブレット側でキーマップなどを変更できる「Keyboard Butler」という常駐プログラムを入れて、よく使うキーコンビネーションを登録することで回避できた。

 前にも言ったがコンピュータ使いにとってのキーボードは、大工にとっての鋸や鉋と同じで、使いやすさが生産性を左右すると言ってもいい。これはスマホ使いについても同じことで、時に反射神経が求められるようなSNSなどの世界ではなおさらそうであろう。そういう意味では、スマホ選びにあたっては画面の大きさとかCPUやOSのバージョンがどうとか言うこともさることながら、文字入力のしやすさということについてもこだわりを持ってよいのではないかと思う。


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