△ 「背中のイジン」シーン20


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満の家。武者がやってきて腰掛け、ため息をつく。
思い出したように煙草を取り出し、吸おうとするがライターが見つからない。
そこに、周作と満が入ってくる。

周作 「そういえば、妹さんは?」
「あ、はい。さっき連絡があって。事情聴取だけで、今日にも戻って来られるそうで。」
周作 「そうですか。それはよ…」舞台写真

二人、武者を見つけて凍る。

武者 「よ。」
二人 「うわぁぁぁぁ〜〜っ!!(悪霊退散のポーズ)悪霊退散、悪霊退散!」
武者 「あぁ、やめてやめて!もう襲ったりしねぇって!昨日だって助けてやっただろうが!」

二人、止まる。

周作 「あ、そういえば…」
武者 「なあ、兄ちゃん、火ある?」
「何なんですか、あんたは!」
武者 「え?あ、わり。禁煙か、ここ。」
「そうじゃなくて、何もんなんですか、あんた?!」
武者 「あぁ、拙者?拙者は瀬名周兵衛と申しちゃいます。」
周作 「瀬名?」
武者 「そう。あんたの祖々々々?…祖父位になるかな?とにかく、すげえ先祖。わかる?」
「えぇ、見た感じ、なんとなく。」
周作 「何しに来た?」
武者 「あんたを殺しに。」
周作 「やっぱそうなんじゃないですか!(悪霊退散ポーズを満と)」
二人 「悪霊退散、悪霊退散!」
武者 「だからよぉ、違うんだってば。殺そうと思ってたんだけど、やめたんだってば!」
周作 「どういう事ですか?」
武者 「いいか。大事な話だ。よく聞け、周作。お前…一度死んだよな?」
周作 「えぇ。」
武者 「その後、お前はあの世から大事な仕事を授かっていた。」
周作 「仕事?どんな?」
武者 「守護霊だ。」
「守護霊?」
周作 「誰の?」
武者 「周人だ。」
周作 「周人?私が周人の守護霊?」
武者 「そう。それがどういう事だか分かるか?」
周作 「え?」
「ちょっと待って、まさか…」
武者 「そうだ。周人は今、守護霊に守られていない状態だ。そして守護霊を失った人間は…」
周作 「人間は?」
武者 「確実に死んじまう。」
周作 「…何だって…」
武者 「人間の力でこんな復活を起こしちまうなんて、有史以来初めてだ。あの世も大パニックさ。で、どうしたもんかってんで、オレに仕事が回された。」
周作 「私を殺しに?」
武者 「あぁ。本来あんたはこの世にいちゃいけねえ。しかも、あんたが守るべき人間は、ほっときゃこのまま死んじまう。それを助けるにはあんたを再就職させなきゃなんねえってわけだ。」
周作 「守護霊に…」
武者 「ただ、出口からは戻れねぇ。入口からしか無理らしい。」
周作 「入口?」
武者 「あんたが死んだ場所さ。出口はあんたが蘇った場所。つまりそこの研究室の中だ。ってことは入口は…」
周作 「私が死んだ場所…銀座の路上…」
武者 「ビンゴ!だからあんとき襲いかかったわけ。ま、しくじっちまったけどな。」
「で、何で殺すのをやめたんだ?」
武者 「それなんだよ。やっぱりな、いくら上の命令でもさ、子孫をこの手で殺すってのはしのびねぇって思ってたわけよ。そしたらあの天星会って場所であんた達が襲われてんじゃねえか。で、思わず手が出ちまって…命令違反。ぶっちゃけお役御免よ。」
周作 「お役御免…」
武者 「あぁ。またあの世に戻ンなきゃなんねえ。だからちょっと挨拶しに来たってわけ。」
周作 「どうなるんだ?」
武者 「あ?」
周作 「周人はどうなるんだ!?」
武者 「ほっときゃ死んじまうな。だが上は、あんたが生きようが周人が生きようがもうどっちでもいいらしい。ただし、二人いっぺんにってのは無理だそうだ。」舞台写真
「そんな…」
武者 「あ、後もう一つ。周人は死んでも火葬してもらえるが、お前はされねえ。」
周作 「なぜ?」
武者 「消えちまうんだよ。肉体は。」
周作 「消える?」
武者 「じゃ、そろそろオレも消えるとするか…すまねぇな…役に立ってやれなくて…」

武者、消え去る。

「周作さん…」
周作 「いったい私は…どうすれば…」

暗転。

(作:松本仁也/写真:広安正敬)

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