トップページ > ページシアター > 背中のイジン > シーン20|再演版 【公演データ】
満の家。武者がやってきて腰掛け、ため息をつく。
思い出したように煙草を取り出し、吸おうとするがライターが見つからない。
そこに、周作と満が入ってくる。
周作 「そういえば、妹さんは?」
満 「あ、はい。さっき連絡があって。事情聴取だけで、今日にも戻って来られるそうで。」
周作 「そうですか。それはよ…」
二人、武者を見つけて凍る。
武者 「よ。」
二人 「うわぁぁぁぁ〜〜っ!!(悪霊退散のポーズ)悪霊退散、悪霊退散!」
武者 「あぁ、やめてやめて!もう襲ったりしねぇって!昨日だって助けてやっただろうが!」
二人、止まる。
周作 「あ、そういえば…」
武者 「なあ、兄ちゃん、火ある?」
満 「何なんですか、あんたは!」
武者 「え?あ、わり。禁煙か、ここ。」
満 「そうじゃなくて、何もんなんですか、あんた?!」
武者 「あぁ、拙者?拙者は瀬名周兵衛と申しちゃいます。」
周作 「瀬名?」
武者 「そう。あんたの祖々々々?…祖父位になるかな?とにかく、すげえ先祖。わかる?」
満 「えぇ、見た感じ、なんとなく。」
周作 「何しに来た?」
武者 「あんたを殺しに。」
周作 「やっぱそうなんじゃないですか!(悪霊退散ポーズを満と)」
二人 「悪霊退散、悪霊退散!」
武者 「だからよぉ、違うんだってば。殺そうと思ってたんだけど、やめたんだってば!」
周作 「どういう事ですか?」
武者 「いいか。大事な話だ。よく聞け、周作。お前…一度死んだよな?」
周作 「えぇ。」
武者 「その後、お前はあの世から大事な仕事を授かっていた。」
周作 「仕事?どんな?」
武者 「守護霊だ。」
満 「守護霊?」
周作 「誰の?」
武者 「周人だ。」
周作 「周人?私が周人の守護霊?」
武者 「そう。それがどういう事だか分かるか?」
周作 「え?」
満 「ちょっと待って、まさか…」
武者 「そうだ。周人は今、守護霊に守られていない状態だ。そして守護霊を失った人間は…」
周作 「人間は?」
武者 「確実に死んじまう。」
周作 「…何だって…」
武者 「人間の力でこんな復活を起こしちまうなんて、有史以来初めてだ。あの世も大パニックさ。で、どうしたもんかってんで、オレに仕事が回された。」
周作 「私を殺しに?」
武者 「あぁ。本来あんたはこの世にいちゃいけねえ。しかも、あんたが守るべき人間は、ほっときゃこのまま死んじまう。それを助けるにはあんたを再就職させなきゃなんねえってわけだ。」
周作 「守護霊に…」
武者 「ただ、出口からは戻れねぇ。入口からしか無理らしい。」
周作 「入口?」
武者 「あんたが死んだ場所さ。出口はあんたが蘇った場所。つまりそこの研究室の中だ。ってことは入口は…」
周作 「私が死んだ場所…銀座の路上…」
武者 「ビンゴ!だからあんとき襲いかかったわけ。ま、しくじっちまったけどな。」
満 「で、何で殺すのをやめたんだ?」
武者 「それなんだよ。やっぱりな、いくら上の命令でもさ、子孫をこの手で殺すってのはしのびねぇって思ってたわけよ。そしたらあの天星会って場所であんた達が襲われてんじゃねえか。で、思わず手が出ちまって…命令違反。ぶっちゃけお役御免よ。」
周作 「お役御免…」
武者 「あぁ。またあの世に戻ンなきゃなんねえ。だからちょっと挨拶しに来たってわけ。」
周作 「どうなるんだ?」
武者 「あ?」
周作 「周人はどうなるんだ!?」
武者 「ほっときゃ死んじまうな。だが上は、あんたが生きようが周人が生きようがもうどっちでもいいらしい。ただし、二人いっぺんにってのは無理だそうだ。」
満 「そんな…」
武者 「あ、後もう一つ。周人は死んでも火葬してもらえるが、お前はされねえ。」
周作 「なぜ?」
武者 「消えちまうんだよ。肉体は。」
周作 「消える?」
武者 「じゃ、そろそろオレも消えるとするか…すまねぇな…役に立ってやれなくて…」
武者、消え去る。
満 「周作さん…」
周作 「いったい私は…どうすれば…」
暗転。
(作:松本仁也/写真:広安正敬)