トップページ > ページシアター > 背中のイジン > シーン23|初演版 【公演データ】
照明が変わると仁志家の入口。武者が出て来て腰かけ、ため息をつく。おもむろに煙草を取り出し
吸おうとするが、ライターが見つからない。そこに周作と満が入って来る。
周作 「そう言えば妹さんは?」
満 「連絡ありました。事情聴取だけで、今日にも戻って来られるそうです。」
周作 「そうですか、それは…」
二人、武者を見つけて凍る。
武者 「よっ。」
周作・満 「うわああああっ!!(悪霊退散のポーズ)悪霊退散!悪霊退散!」
武者 「あぁ、やめてやめて!もう襲ったりしねぇって!昨日だって助けてやったでしょうが!」
二人、止まる。
周作 「言われてみれば…」
武者 「なぁ兄ちゃん、火ある?」
満 「何ですかあんた?!」
武者 「あ、わり、禁煙かここ。」
満 「そうじゃなくて、何もんなんですかあんた?!」
武者 「あぁ拙者?拙者は瀬名周兵衛(せなしゅうべえ)と申しちゃいます。」
周作 「瀬名?」
武者 「そう。あんたの曽祖々々々…ん?祖々々々…祖父位になるかな?とにかくすげえ先祖。わかる?」
満 「見た感じなんとなく…」
周作 「何しに来た?」
武者 「あんたを殺しに。」
周作・満 「(悪霊退散のポーズ)悪霊退散!悪霊退散!」
武者 「だから違うんだってば!殺そうと思ったけどやめたんだってば!」
周作 「やめた?…どういう事でしょうか?」
武者 「いいか、よく聞け周作。お前、一度死んだよな?」
周作 「ええ。」
武者 「その後お前は、あの世から大事な仕事を授かっていたんだ。」
周作 「仕事?いったいどんな?」
武者 「やっぱ覚えてねえか。守護霊だよ。周人の。」
周作 「え?…僕が周人君の…守護霊だった?」
武者 「そう。それがどういう事かわかるか?」
周作 「え?」
武者 「周人は今、守護霊に守られていない状態だ。守護霊を失った人間は…確実に死んじまう。」
周作 「何だって?!」
武者 「助けるためにはあんたを元に戻すしかねえ。」
周作 「戻すって…あ…僕を殺して…また周人君の守護霊に…」
武者 「あぁ。だが戻るには入口から入る必要がある。」
周作 「入口?」
武者 「あんたが死んだ場所だ。そこからしか戻れねえ。」
周作 「僕が死んだ場所…銀座の路上?」
武者 「ビンゴ。だからあん時あの場所で襲ったってわけ。ま、しくじっちまったけど。」
満 「で、何で殺すのをやめたんだ?」
武者 「それなんだよ。いくら上の命令でもさ、子孫をこの手で殺すってのはやっぱ偲びねえって思ってよ、そしたらあんたたちが悪霊に襲われてんじゃねえか。で、思わず手が出ちまって…命令違反でぶっちゃけお役御免よ。そんな訳で、あの世に戻る前にちょっくら挨拶しに寄ったってわけさ。」
周作 「それじゃこのままでは…周人君は…」
武者 「ほっときゃ死んじまうな。だが上は、この世に残るのがあんたでも周人でもどちらでもいいらしい。ただし生きられるのはどちらか一人だけ。二人いっぺんにってのは無理だそうだ。」
満 「そんな…」
武者 「あともう一つ。周人は死んでも火葬してもらえるが、あんたはされねえ。」
周作 「なぜ?」
武者 「死んだら消えちまうんだよ。跡形もなくな。」
周作 「消える…」
武者 「じゃ、そろそろ拙者も消えるとするか…すまねえな…役に立ってやれなくて…」
武者、消え去る。
満 「周作さん…」
周作 「一体僕は…どうすれば…」
暗転
(作:松本じんや/写真:はらでぃ)