△ 「背中のイジン」シーン19


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明転。瀬名医院の入口。

周人 「本当にもういいのか?」舞台写真
「大丈夫、大丈夫。それより…昨日はすまなかったな。殺してくれなんて言って。」
周作 「分かります。失恋の痛手は今も昔も変わりません。」
周人 「いくら医学を勉強してもこれだけはね。」
周作 「草津の湯でも無理だっていいますし。」
「周人。(周人の手を両手で握り、)ホントにありがとな。」
周人 「…あぁ。」
「じゃ。失礼します。」

潤、ハケる。

周作 「良かったですね。」
周人 「うん。」
周作 「いいもんでしょ。」
周人 「ん?」
周作 「ありがとうって言われるの。」
周人 「…そうだね。」

後ろから道子が現れる。

道子 「ちょっとあんた。」
周作 「あ。」
道子 「悪いけど、もうウチの子達を変な事に巻き込まないでくれる?」
周人 「母ちゃん。」
道子 「昨日のあの事件、ニュースで見たけど、ずいぶん危ない目に遭ったみたいじゃないの。」
周人 「周作はみんなを助けたんだ。こいつに幽霊をみる力がなかったらみんなきっと…」
道子 「幽霊をみるって??」
周人 「オレだって見えるようになったんだ。」
道子 「あんた!…変なクスリまで飲ませたね!?」
周人 「やめろって、母ちゃん。」
道子 「そういえば周人、バイト先から電話あったわよ。仕事中に勝手に抜け出したんだって?」
周作 「いや、それは親友を助けるために…」
道子 「どうしてあんたはそうなの!?一つとして最後までやり抜いたことないでしょ?そんなんで医者目指すなんてよく言えたもんだ!」
周作 「お母さん、それは言い過ぎだ。」
道子 「あんたは黙ってなさいよ!」
周人 「じゃ、自分はどうなんだよ!」
道子 「何?」
周人 「何言っても信じてくんない頭の堅い人間が医者やってていいのかよ!」
道子 「私のどこが頭が堅いってんだ?」
周人 「全部だよ!父ちゃんが死んだんだって、母ちゃんのせいじゃねぇか!」
周作 「え?」
周人 「ウチなんかじゃなくて、もっといい病院に移してりゃ、父ちゃんは死なずにすんだんだ!」
周作 「それは違います。」
周人 「何が!」
周作 「やっと分かりました…ここのところ毎晩枕元に立つ男性がいたんです。あれはあなたの旦那さん、周人くんのお父さんだったんですよ。」
道子 「また、何言い出すの?」
周作 「周人くん、君のお父さんはね、病気が発見されたときはもう手遅れだったんです。」
周人 「え?」
周作 「悪性の直腸がん。末期だったと言っていました。」
周人 「でも…でも父ちゃんが自分でたいした事ないって。」舞台写真
周作 「それは分かるでしょ。君がまだ幼かったからです。それにね、君のお母さんはお父さんをもっといい病院へ移そうとしてたんですよ。」
周人 「え?」
周作 「でも、お父さんがそれを拒んだ。最後まで家族の側にいたいって…そうですよね?」
道子 「…どこで聞いたか知らないけど、人のウチの事…」
周作 「そうそう、こんな事も言ってました。『最近仏壇のお供物に雷おこしがない』って。」
道子 「え?」
周作 「それと、たまにはあなたの作った…肉じゃがも置いてくれって。凄くうまいんだって言ってましたよ。」
道子 「…」
周人 「ごめん…母ちゃん、オレ…あ…」

突然、周人がバランスを失い、ひざまづく。

道子 「周人?」
周人 「なんかちょっと目眩が…」
周作 「病室まで連れて行きましょうか。」
道子 「大丈夫。私がやります。」
周作 「あ、はい。」

道子、周人をかかえて去ろうとして立ち止まり、

道子 「それから…二階の奥に空いてる部屋がありますから。」
周作 「はい?」
道子 「今夜からそこ使って下さい…周作さん。」
周作 「あ…はい。」

道子、周人、去る。周作の後ろから満登場。

「あなた、霊媒師で食べていけますね。」
周作 「満君。」
「さ、行きましょう!」
周作 「どこへ?」
「決まってるでしょ、ウチですよ。あなたの荷物取りに。」
周作 「…はい!」

二人、去る。

(作:松本仁也/写真:広安正敬)

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