△ 「背中のイジン」シーン18


トップページ > ページシアター > 背中のイジン > シーン18 【公演データ

<前一覧次>

天星会。満、黒服の男に洗脳されかけている。

「美香子、月子、目を覚ませ…」
美香子 「お兄ちゃんこそ!」
貝塚 「心配いりません。あなたは幸せになるのです。そして、あなたが天星会のために働いて下されば…もっともっと沢山の人々が幸せになり、もっともっと沢山のさまよえる魂が救われ…」
典子 「もっともっとたくさんの金儲けが出来るってか?!」

典子を先頭に、花音、周作入ってくる。

「のりちゃん!」舞台写真
花音 「良かった。潤君達の先回りが出来たみたい。」
典子 「(ゆっくり貝塚に近づき)てめ、よくもみっちゃんにひどい事してくれたな!」
貝塚 「ひどい事?とんでもない…」
典子 「(貝塚の目の前までいき)おい、コラ(貝塚のほほを軽く叩く)」
貝塚 「痛っ。」
典子 「なめてんのか?コラ(反対側のほほを叩く)」
貝塚 「痛っ。」
典子 「あれは、ひどい事って言うんじゃねえのかっ?(胸を突き飛ばす)」
貝塚 「痛い!警察呼びますよ。」
花音 「もう、呼んだわ。もうすぐ着くんじゃない。」
貝塚 「そう、でも、捕まるのはあなた達です。不法侵入と暴力行為で」
典子 「暴力行為だ?暴力行為ってのはこういう事を言うんだよ!…痛たたたた…」

黒服の男が典子に手かざしをする。

花音 「どうしたの?典子さん。」
典子 「わかんない。急に腹痛が…あ、痛たたたた。」
「気をつけろ!悪霊がすぐ近くにいる!」
周作 「君が悪霊か!これでどうだ!(悪霊退散ポーズ)」
典子 「どこ?どこに悪霊が?!」
貝塚 「あなたも霊媒師の方?でも残念ね。オドロちゃんは、そう易々と倒せませんよ。」
周作 「うわっ。確かにやりますよ、この人。」

周作、黒服の男に押されあちこち避け回る。

花音 「ちょっとやめなさいよ!」

後ろから美香子と月子が花音を押さえる。

美香子 「おとなしくして。」
月子 「しなしゃい。」
花音 「ちょっと離してよ!」

そこへ周人が飛び込んでくる。

周人 「花音!」
花音 「周人!」
貝塚 「おぉ!今日は入会者が多いこと。」
周人 「何してんだ!離せ!」

美香子、ナイフを取り出し、花音につきつける。

周人 「…てめぇ。」
「やめるんだ、美香子!どうしてこんな事を。」
美香子 「みんなの幸せのためよ。」
花音 「少なくとも私は幸せじゃないんですけど?」
「貝塚は悪霊を使って金儲けをしているだけだ。」
周人 「悪霊?」
周作 「見えないでしょうがこいつです、こいつ。(また悪霊に押され)うわわわっ!」
美香子 「人を救ってお金をもらって何が悪いの?」
月子 「そうよ、当然じゃない!」
美香子 「私は、あの人達みたいになりたくないのよ!」
「美香子…」
美香子 「お兄ちゃんは見つけられたの?。」
「元々探してなんかいない。」舞台写真
美香子 「探せないだけでしょ。死んだ人間はすぐに連れて来られるくせに。生きてる人間はどこにいるのか検討もつかない。」
「お前、まさか…?」
美香子 「えぇ。必ず探して、今の私の力を見せつけてやるのよ!」
「もうよせ!忘れろ!俺達を捨てた人達の事なんか!」
月子 「捨てた?お姉ちゃま、月子達捨てられたの?」
美香子 「えぇ…月子はまだ小さかったから…」
月子 「月子、初耳…」
美香子 「ろくに金も取らずに霊媒で人助け。挙げ句の果てに借金山のように作って、幼い私達三人残してどこかに消えた。人助けが聞いてあきれるわ!実の子すら救えなかったくせに!」
「親なんかいなくたって生きてこられたじゃないか。」
美香子 「生きてきたわよ、私達二人はね…でも月子は…月子は…」
月子 「お姉ちゃま…」
美香子 「私何もしてあげられなかった。あなたが病気になっても…あんなに苦しんでいても…何にも出来なかった…」
月子 「お姉ちゃま、お姉ちゃまだってあの時まだ子供だったんだから。」
典子 「もしかして、もう一人いるの?」
花音 「今の会話から察すると…」
「あぁ。十五年前に死んだ下の妹だ。」
周人 「え?」
「お前は本当に良く月子の世話をしてくれた。月子もお前になついていた。だからお前が月子の霊を憑けた時、僕は何も言わなかった。だけど分かっているんだろ?このままじゃ…月子まで悪霊に!」
美香子 「悪霊になんかさせない!月子はずっと私の側から離さない!」
「月子が悪霊になればお前の命だって…」
美香子 「それでも私は…」
月子 「お姉ちゃま…」

潤、レイ入って来る。

「美香子様…」
美香子 「あなた達!」
周人 「潤!」
レイ 「美香子様、潤君を救って下さい。」
周人 「大変だ。すぐに病院に連れて行かないと!」舞台写真
「美香子様、新しいクリスタルを…ゲホッゲホッ…」
周人 「しっかりしろ、潤!」
「美香子。見えないのかその人が?それがお前の言う、幸せを与えるって事なのか?」

追いやられていた周作、遂に追い詰められる。

周作 「うわぁっ、駄目かもしれません!」
貝塚 「はははは。だから言ったでしょ無駄だって。」
花音 「周作さん!」
「美香子!術を解け!」
月子 「お姉ちゃま…」
「美香子様…」
レイ 「美香子様…」
貝塚 「オドロちゃん、面倒だからそのままその人を憑り殺してしまいなさい。」
周人 「なに?!」
美香子 「貝塚様?憑り殺すって…」
貝塚 「我々にこんな雑魚、必要ありませんから。」
周人 「やめろお!(悪霊に飛び込んで行くが、跳ね返される)うわっ!」
周作 「もう…駄目だぁ!」
「美香子!!」

美香子、ナイフを捨て、悪霊退散ポーズに。
満の金縛りが解け、満も悪霊退散ポーズに。
とたんに悪霊がひるみ、典子の腹痛も止む。

典子 「おっ、治った!何処だ悪霊!ここか!こっちか!(見えないが頑張る)」

悪霊、さらにパワーアップして反撃してくる。

全員 「うわああああっ!!」
周作 「だめです!強過ぎます!」
「あきらめないで!」
貝塚 「オドロちゃん!みんなまとめてやっておしまい!」

悪霊、最大パワーに。そして更に、反対側から武者が現れる。

周作 「うわ、出た!!」舞台写真
周人 「こ、こいつか!」
「ちっくしょう、こんなときに!」

武者、刀を抜き、走って来て刀を振る。ズバッという音と共に悪霊が斬られる。

周作 「え?」

悪霊、悲鳴をあげながら逃げて行く。

周作 「何で…あんた…」

武者、何も言わずに走り去る。

周作 「あ、ちょっと…」
貝塚 「…オドロちゃん…ちょっとオドロちゃん…どこ?どこ行ったの?」
「ヤツはもういない。」
貝塚 「い、いないって…まさかそんな…」
「あきらめろ。あんたはもう終わりだ。」
貝塚 「(周作の襟首をつかみ)あんた、あんた何をしたの?私のオドロちゃんに何をしたの?」
周作 「私は何も…」

貝塚、悲鳴をあげながら辺りを走り回り、美香子の捨てたナイフを拾い、振りまくる。

貝塚 「殺してやる、殺してやる!お前らみんな殺してやる!」

典子、余裕で貝塚の背中をとり、肩を叩く。

貝塚 「何?」

貝塚が振り向いた瞬間、典子のマグナムパンチが炸裂する。貝塚、ダウン。

典子 「あ〜、スッキリした。(急に声が変わり)みっちゃぁん。私、やったよ!褒めて褒めて。」
「すごい。」
典子 「きゃ〜〜っ」
花音 「いいんだ、今ので。」舞台写真

美香子、ひざを落とし、満が近寄る。

「美香子。」
美香子 「ごめんなさい。お兄ちゃん、月子…」
月子 「お姉ちゃま。ありがとう。月子、そろそろ帰る。」
美香子 「月子…」
月子 「今まで本当に楽しかった。ずっと生きてたみたいに楽しかったよ。」
「月子。」
月子 「でもやっぱり悪霊になってお姉ちゃまを襲うなんて出来ないし…」
「ごめんな、月子。」
月子 「ううん。月子は大丈夫。お姉ちゃま、元気でね。」

月子、遠ざかって行く。

美香子 「月子。」
月子 「お姉ちゃま、お兄ちゃま…大好き!」

月子、消える。

「うううっ。」
レイ 「しっかりして、潤君!」
「レイちゃん…」
周人 「潤から離れろ!」
レイ 「いや!私は潤君と一緒に…」
周人 「潤が死んじまうんだ!」
「周人君、きみ…」
周人 「あ、うん。何かオレも見えるようになっちゃったみたい。」
周作 「本当ですか?」
花音 「私達二人だけ見えないのね。」
典子 「くやしい。」
周人 「あ、そうだ、大事な事忘れてた!あいつだよ、あいつがいれば!何処行っちゃったんだ?」
典子 「誰探してんの?」
周人 「来る時一緒だったんだけど、相当方向音痴って言ってたからな。」
花音 「誰?誰よ?」
周人 「あ、いた!あんなところに。おい!こっちこっち!」

探し物をしている男、入ってくる。

「あぁ〜っ!」
周人 「やっぱり。この人だったんだ!」
「レイちゃん!」
レイ 「え…潤君?」
花音 「ちょっとまた誰か入って来たの?」
典子 「くやしい。」
「良かった、やっと見つけたよ。」
レイ 「どうして?…どうして潤君が二人も?」
周人 「どうして見間違えるかなぁ。」
「じゃあこっちが本物?」
レイ 「そうみたい。」
周人 「そうみたいじゃないだろ!潤をこんな目に合わせといて!」
レイ 「ごめんなさい。…あの私、大変な間違いを…」舞台写真
「レイちゃん…」
レイ 「ごめんなさい。本当にごめんなさい。」
「…そうか、そうだったのか…良かったね、やっと見つかって。」
周人 「潤…」
レイ 「…うん。」
「レイちゃん、そろそろ。」
レイ 「でも…」
「じゃあね。レイちゃん。元気でね。って、幽霊に『元気でね』はないか。はははは。」
レイ 「さよなら、潤君。」
「さよなら。」

男とレイ、去っていく。

周人 「潤…お前、人が良すぎなんだよ。」
「周人。」
周人 「ん?」

突然、潤が周人に抱きつき、号泣。

「うわぁぁぁぁぁぁ〜っ!」
周人 「おいおい。」
「殺してくれぇ〜。オレを殺してくれぇ〜。」
周人 「ば〜か。医者の卵が殺せるか。」
「しゅうと〜ぉぉぉぉぉ。」
典子 「(また満の腕をとり)さ、行きましょ、行きましょ。」

全員部屋を出ようとする。そこに浜崎と後藤が入ってくる。

浜崎 「警察だ!」
典子 「遅っ!」
浜崎 「な、なんじゃこりゃ。何がどうなったんだ。」
後藤 「あ、典子さん…(典子が満と腕を組んでいるのを目撃)あ…」
典子 「こんにちは、後藤さん。」
後藤 「こっ…こんにちはぁ…(膝を落とす。)」
浜崎 「貝塚は?」
「あそこです。拉致監禁に殺人未遂。」
浜崎 「何?」
貝塚 「(寝言を言うように)みんな殺してやる〜。」
花音 「ね?」
「ううう…」
周人 「やばい、こいつ、気ぃ失ってる。」

みんな、去ろうとする。

浜崎 「ちょっと待て、お前ら。」
周作 「病人が先です。」
浜崎 「医者か?」
周作 「はい。」
周人 「卵です。」
浜崎 「他に事情が分かる者は?」
美香子 「私が。」
「美香子。」
美香子 「お兄ちゃん、あとは私が。」
周作 「じゃあ、失礼。」

みんな出て行く。

浜崎 「おいちょっと待て。お前らいったい…」
後藤 「心配ないです。あの人達、知り合いですから。ほら、この間言ってた行きつけの病院の。」
浜崎 「何?」
後藤 「あ、そうだ。あの人ですよ、瀬名周作だって言い張ってる人。」
浜崎 「なんだと!」

貝塚、目覚めてまた暴れる。

貝塚 「殺してやる!みんな殺してやる!」
後藤 「浜崎さん!」
浜崎 「あ、あぁ。」

後藤、浜崎、貝塚を取り押さえる。

貝塚 「離せ!離せ!みんな殺してやるんだ!」舞台写真
後藤 「大人しくしろ!」

後藤、貝塚に手錠をかける。

浜崎 「連行しろ。」
後藤 「はい。」

後藤、貝塚を連れてハケる。

浜崎 「事情は署で伺います。」
美香子 「はい。」

浜崎、部屋を出ようとして足元に落ちている写真に気付き、拾う。

浜崎 「これは…」

暗転

(作:松本仁也/写真:広安正敬)

<前一覧次>


トップページ > ページシアター > 背中のイジン > シーン18 【公演データ