トップページ > ページシアター > 背中のイジン > シーン22|初演版 【公演データ】
照明、瀬名診療所の入り口付近。潤と周人、周作が出て来る。
周人 「ホントにもういいのか?」
潤 「大丈夫、大丈夫。それより…昨日はすまなかったな。殺してくれなんて言って。」
周人 「しょうがねえよ。恋の病は最新の医学でも治せねえし。」
周作 「草津の湯でも無理だって言いますしね。」
潤 「周人。(周人の手を両手で握り)ホントにありがとな。」
周人 「…おう。」
潤 「(周作に)じゃ、失礼します。」
潤、ハケる。
周作 「いいもんでしょ?」
周人 「え?」
周作 「ありがとうって言われるの。」
周人 「…そうだね。」
後ろから道子が出て来る。
道子 「ちょっとあんた。」
周作 「あ。」
道子 「もうウチの子たちを変な事に巻き込まないでくれる?昨日も随分危ない目に遭ったそうじゃない。」
周人 「母ちゃん、やめろって。周作さんはみんなを助けてくれたんだぞ。」
道子 「そう言えば周人、バイト先から電話あったわよ。仕事中に勝手に抜け出したんだって?」
周作 「いや、それは潤さんを助けるために…」
道子 「どうしてあんたはそうなの?そんなんで医者を目指すなんてよく言えたもんだ!」
周作 「お母さん、それは言い過ぎだ。」
道子 「あんたは黙ってなさいよ!」
周人 「自分はどうなんだよ!」
道子 「え?」
周人 「何言っても信じてくんない頭の固い人間が医者やってていいのかよ!」
道子 「私のどこが頭が固いってんだ?」
周人 「全部だよ!父ちゃんが死んだんだって、母ちゃんのせいじゃねえか!」
周作 「え?」
周人 「ウチなんかじゃなくてもっといい病院に移してりゃ、父ちゃんは死なずに済んだんだ!」
周作 「それは違います。」
周人 「…何が?」
周作 「やっとわかりました。ここ数日、毎晩枕元に立つ男性がいたんです。あれは僕のひ孫、つまりあなたの旦那さん、周人君のお父さんだったんですよ。」
道子 「また何言い出すの?」
周作 「周人君、君のお父さんはね、病気が発見された時はもう手遅れだったんです。」
周人 「え?」
周作 「悪性の直腸癌。末期だったと言っていました。」
周人 「でも…でも父ちゃんは大した事ないって…」
周作 「それは君がまだ幼かったからです。それにね、お母さんはお父さんをもっといい病院へ移そうとしてたんですよ。」
周人 「え?」
周作 「でも、お父さんはそれを拒んだ。最後まで家族の側にいたいって…そうですよね?」
道子 「…どこで聞いたか知らないけど、人のウチの事…」
周作 「そうそう、こんな事も言ってました。最近仏壇のお供えに雷おこしがないって。」
道子 「え…?」
周作 「それと、たまにはあなたの作った肉じゃがも置いてくれって。凄く旨いんだって言ってましたよ。」
周人 「…ごめん…母ちゃん、俺…あ…」
突然、周人がバランスを失いふらつき、道子が支える。
道子 「周人?」
周人 「なんかちょっと目眩が…」
周作 「診察室まで連れて行きましょう。」
道子 「大丈夫、私がやります。」
周作 「あ、はい。」
道子、周人をかかえて去ろうとするが立ち止まり。
道子 「それから…二階の奥に空いてる部屋がありますから。」
周作 「はい?」
道子 「今夜からそこ使って下さい。…周作さん。」
周作 「あ…ありがとうございます!」
道子、周人、去る。見送る周作の後ろから満が登場。
満 「あなた、霊媒師で食べていけますね。」
周作 「満君。」
満 「さ、ウチに戻って荷物持って来ましょう。」
周作 「…はい!」
満、ハケる。周作、背後の気配を感じて振り向く。そこにひ孫の周一の霊が現れる。
周一 「ありがとう…ひい爺ちゃん…」
周作 「いえいえ。」
周一、周作微笑んでお互いに会釈。周一が消え、周作は満を追ってハケる。
(作:松本じんや/写真:はらでぃ)