△ 「背中のイジン」シーン13


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周人、花音、周作、満、典子、出てくる。

花音 「もお、どうしてこういう時財布忘れるかなあ〜」
周人 「ほんとわり!帰ったらすぐ返すから」
「どうですか?八十年後の東京は?」
周作 「いや、これ程までに変わるとは。地下鉄、新幹線、ジェット機に高層ビルヂング。まるで異国に来た様です。浅草寺はあまり変わっていなくてほっとしましたが。」
典子 「で、周作さんが来たかった場所ってこの辺?」
周作 「はい。ですが…いつから車が通らなくなったんです?この道。」
花音 「違うの。これは歩行者天国って言って今の時間だけ車道を歩行者に解放しているの。」
周作 「なるほど。いや、それにしても私の時代よりもずっと賑やかだ。モボモガも変わりましたね。中には目のやり場に困るようなお嬢さん達も…」
典子 「周作さんには刺激が強すぎるかもね。」舞台写真
周作 「しかし、どうやら私には幽霊も見えるらしいので、どれが人間でどれが幽霊やら。」
「私が教えましょう。」
周作 「あの人は?」
「人間です。」
周作 「あの、ウニのような頭の男は?」
「人間です。」
周作 「あのでかい女性は?」
「人間です。ちなみに男です。」
周作 「え〜っ!!じゃあ、あの肩にいっぱい赤ん坊を乗せている人は?」
「あ、あれは水子です。(手を合わせる)」
花音 「ねえ周作さん聞いていい?」
周作 「なんでしょう?」
花音 「どうしてこの場所に?なにか思い出があるの?」
典子 「ハナさんとデートしたとか。」
周作 「あ、確かに待ち合わせの場所でもありました。」
典子 「おおーっ、やるねえ。」
周作 「でも、それだけじゃないんです。」
周人 「なに?」
周作 「実は私ね、ちょうど……この辺で死んだんですよ。」
花音 「え?」

みんな動きが止まる。

周作 「昔ここは路面電車が走っていましてね、それに轢かれたんです。」
花音 「…あの…どうして事故に?」
周人 「急にアメリカから帰ってきたりしなきゃ事故にも遭わなかったのに。」
周作 「…ええ…実は、私の留守中にハナとの離縁の話が進んでいたのです。」
「離縁?なぜ?」
周作 「ハナの父上が人を殺めてしまったのです。悪徳高利貸しに騙され、財産を失い、その腹いせに高利貸しの家に火を付けたんです。」
典子 「でも、ハナさんには関係ないでしょ。」
周作 「私も納得はしなかった。ですが、その頃私の研究が世界的に認められ日本初のノーベル賞の期待も高まり、それに先立って国から恩賜賞の話が出ていまして。」
典子 「恩賜賞?」
「今の国民栄誉賞にあたる賞です。」
典子 「国民栄誉賞?」
「あの…あとで説明します。」
周作 「そんな時にハナの父上の事件が起き、瀬名の一族達が恩賜賞の取り消しを懸念して…」
花音 「ハナさんとの離婚の話が…」
周作 「ですが、到底納得は出来ず、私は密かにハナ宛に手紙を出しました。『すぐに帰国する。あの場所で会いましょう』と。」
周人 「それがここか。」
周作 「日本に到着し、港からまっすぐここへ来て、ハナを待っていました。しかし、突然目の前で一人の少年が一銭玉を落とし、それを追いかけた少年の前に路面電車が…私はとっさに飛び出し少年を突き飛ばしました。ですが、その刹那…(深いため息)」
花音 「ごめんなさい。一番思い出したくないことを…」
周作 「いえ…ま、そんな訳で私は一銭玉のおかげで死んでしまったというわけです。ナンマンダブ、ナンマンダブ。あ、自分で拝んでしまいました。しかも、ご冥福してますし、私。」
周人 「あんたってほんとに変なやつだよな。」
「ねえ、悪いけど待っててくれる?ちょっとトイレ。」
典子 「じゃ、私も〜っ」
「え?まあ、いいですけど…」

満、典子、ハケる。

周人 「なんか飲み物でも買ってくるよ。何がいい?」
周作 「じゃあカルピスを」
周人 「カル…」
花音 「じゃあ私も」
周作 「どうしました?」
周人 「いや、カルピス上等!」

周人、ハケる。

周作 「私の時代では、カルピスは高級飲み物でしてね。『恋人の味』なんて言われてました。」
花音 「へー、そんな昔からあるんだ。」舞台写真
周作 「この間、テレビでコマーシャルを見ましてね、もう懐かしくて。ハナも大好きでした。」
花音 「あのー、そのハナさんってそんなに私に?」
周作 「瓜二つです。ですから、ここにこうしていると妙な気持ちになります。あれから八十年間二人とも年をとらずにここに居続けているような…でも…」
花音 「でも?」
周作 「やはりなにか寂しい。…何と言いましょう。私にはあの時代がつい昨日のようで…言わば…未来に置き去りにされてしまったとでもいうような……」
花音 「あっいけない。」
周作 「え?」
花音 「周人財布忘れたって言ってたんだ!ちょっとここで待っててね!」
周作 「はい。」

花音、走り去る。そこへ潤とレイが通りかかる。潤はフラフラ歩いている。

レイ 「潤君大丈夫?」
「平気平気。僕は君さえいれば…ゲホッゲホッ!」

潤、周作にぶつかる。

「あ〜すいません。」
レイ 「すいません。」
周作 「いえ…」

潤・レイ、ハケる。それを見守りながら

周作 「本当にいろんな人がいますねえ。」

奥から武者が出てきて周作と目が合う。

周作 「ファッションもいろいろです。」

周作、武者を見ているといきなり武者が刀を抜く

周作 「え?」

武者、周作に切りかかる。

周作 「うわっ!ちょっとなんですかあなたは?」

武者、更に切りかかる。周作、とにかくかわしながら逃げる。

周作 「よしなさい!なんでこんな事を!」

そこへ周人と花音が戻ってくる。

周人 「わりーわりー」
花音 「財布も忘れるし、忘れてる事も忘れるし。」

二人、周作に気付く。周作は武者から逃げ回っている。

周人 「あれ?なにやってんだあいつ?」
花音 「大正時代のダンス?」
周作 「周人君、助けてください!」
周人 「はあ?」
周作 「殺されちゃいます!」舞台写真
周人 「すまん。必死なのはすごく伝わってくるんだけど、正直なにやってんのかわからん。」
周作 「そうか、この人、霊ですね。そうだ、悪霊退散のポーズを教わってました。確かこう!」

周作、スペシウム光線のポーズ

周人 「あ、今度はわかった。ウルトラマンだ。」

武者、切りかかってくる。

周作 「おかしいな。効かないじゃないですか!あれ?こうでしたっけ?」
周人 「今度はセブンだ!」

武者、切りかかってくる。

周作 「あれ〜っ、じゃこうか?」
周人 「帰ってきただ帰ってきた!よく勉強してるなあ。」

武者、切りかかってくる。

周作 「あ〜っ!助けて下さい!」

そこへ満と典子が帰ってくる。

「お待たせしました。」
典子 「なにやってんの?」
周人 「なんか、ウルトラマンメドレーみたいな。」
典子 「はあ?」
満・ 「あぁっ、やばい!」

満、武者に近づき悪霊退散のポーズ。武者、それを見てとっさに逃げる。

周作 「なんなんですか、あれは?」
「危なかった。かなり強い霊ですよ。」
花音 「霊?」
周作 「なんで私を?」
「さあ、そこまでは、とにかく今のかなりやばそうです。そろそろ戻りましょう。」
典子 「え〜もう?」
「また来ましょう。」
典子 「うん、わかった。」舞台写真

満の携帯が鳴る。

「あ、ちょっと失礼…しつこいぞ美香子、例の件ならもう?」
美香子 『お兄ちゃん、助けて!』
月子 『お兄ちゃまぁ!』
「おい、どうした?」
美香子 『騙されていたの!今、貝塚に…』
「美香子?月子?」
美香・月 『きゃーっ!』

通信が切れる。

「おい、どうした?おい…」
典子 「どうかしたの?」
「すまない。ちょっと用事が…先帰っててください。」
典子 「みっちゃ〜ん!」

満、走り去る。

典子 「もお〜っ」
花音 「美香子って?」
周人 「みっちゃんの妹。」
典子 「何があったんだろ?あんなに血相変えて…」
周人 「とにかく戻ろ。」
花音 「うん。」
周作 「(悪霊退散ポーズの確認をし)こうか。」

4人、ハケる。

(作:松本仁也/写真:広安正敬)

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