トップページ > ページシアター > 背中のイジン > シーン10|再演版 【公演データ】
狭い部屋に六人、膝を突き合わせるように座っている。
満 「すいません、狭いとこで。」
周人 「ホント狭いな。」
満 「ここが一番散らかってない部屋なもんで。」
花音 「何の部屋なんです?」
満 「瞑想部屋です。」
森島 「なんか納得。」
満 「あ、今お茶入れますね。(狭い中無理矢理立って部屋を出ようとする)」
全員 「いいよ、いいよ!」
森島 「とにかく一度整理しましょう。あなたを本当の瀬名周作だとして、先生はその孫。周人は更にその孫。」
周人 「ひひ孫。」
森島 「じゃ、こっちに来ましょう。」
狭い中、人を動かし血縁関係を整理しだす。
森島 「で、花音ちゃんはハナさんの離婚した後の子孫。」
花音 「うん。」
森島 「僕も祖々父が周作さんの助手だったという事で、繋がっています。ここまでは合ってますよね?」
周作 「合っています。」
森島 「では次に、彼が本物かどうかという所ですが、私はもはや疑ってはいません。」
おじい 「じゃ、ワシも質問していいかな?」
周作 「なんなりと。」
おじい 「ワシがあなたから受け継いだ実験とは?」
森島 「おっ、いい質問ですね、先生。」
おじい 「知っとるのはワシと森島君だけのはずだが、どうです?」
周作 「魂の研究ですね。私は人間を、器である体と本体である魂に分けて考えていました。そこで、魂と肉体を科学的に分離させ、更に戻すという実験装置を研究しておりました。」
花音 「スゴイ。そんな事出来るの?」
周人 「ちょっと待って。じいちゃん、俺にそんな事を?」
おじい 「うん。」
周人 「『うん』って。ホントに五万で命売るとこだったじゃん。」
おじい 「(周作に)正解だ!あなたは本物だ!」
周人 「話そらすな。」
周作 「実験に取りかかる前に、私は死んでしまったのですが、実験装置の製作案などを霊媒師の方に協力してもらい、作る事が出来ました。」
周人 「おっ、霊媒師が出て来たよ。満さんと関係あったりして。」
満 「その霊媒師、何と言う方です?」
周作 「仁志残月(にしざんげつ)と言う方です。」
満 「仁志残月?!それ、ウチのひいじいさんですよ!」
森島 「そらきた!」
花音 「また繋がっちゃった。」
おじい 「狭いな世間は。」
周人 「この部屋くらい狭い。」
満 「すみません。お茶でも(また立とうとする)」
全員 「いいから、いいから。」
花音 「あの、私も質問いいですか?」
周作 「どうぞ、どうぞ。」
花音 「実は私、今日そのハナさんの遺品を持って来たんです。」
周人 「あ、それを当てるんだ。」
花音 「うん。これは周作さんからの贈り物だったそうです。」
周作 「私がハナに贈ったもの?」
花音 「あなたが大戦に参加する時に手渡した物。覚えてらっしゃいますか?」
周人 「大戦?」
おじい 「第一次世界大戦。」
周人 「あぁ。」
周作 「第一次って?その後も大戦が?」
森島 「えぇ、今の所第二次までですが。」
周人 「で、どうなの?分かったの?」
周作 「確かに私は軍医として青島へ渡りましたが、その時に?…あっ!思い出しました!出兵する前日の?」
花音 「はい。」
周作 「ペンダントですね!ロケットの。」
花音 「正解です。(ポケットのロケットを取り出す)」
周作 「これですよ、これ!随分古くなっちゃってますけど、これに間違いありません!」
周人 「へぇ、ちょっと見せて。」
森島 「あ、僕にも見せて下さい…あっ、危ない!」
狭い中ロケットを受け取ろうとして、みんな座ったまま将棋倒しになる。
全員ブーブー文句を言う。
周人 「あれ?どこいったロケット?」
おじい 「すまん。ワシが踏んだ。」
満 「あぁ、なんて事を!壊れてません?」
周作 「大丈夫みたいです。」
花音 「あれ?これ、蓋開いた。」
周人 「開かなかったの?」
花音 「錆び付いてて全然。」
周作 「もうちょっと開いてみましょう。(ゆっくり開く)」
花音 「写真。」
周人 「これ、周作じゃん!」
周作 「ほら、顔写真撮ったって言ったでしょ。」
森島 「凄い。これは貴重品だ!」
おじい 「これこそ本物の決め手だ!」
花音 「一緒に見つけた手紙に書いてありました。再婚した後もハナさんはずっとこれを大事にしていたそうです。」
周作 「そうですか。ハナはこれをずっと…で、ハナはいつ…」
おじい 「あなたが亡くなった一年後です。」
周作 「一年後?」
おじい 「大正十二年の関東大震災で、建物の下敷きに…」
周作 「震災?」
森島 「東京が壊滅する程の大地震があったんです。」
周作 「そうだったんですか…」
満 「分かって来ましたよ。」
周人 「何が?」
満 「彼が復活した原因です。」
おじい 「原因?」
満 「おそらく、こういう事じゃないでしょうか。そちらの魂の実験とこちらの霊媒を行った時間はほぼ同時です。そしてそれぞれの目的にもこれだけの共通点があった。つまり『お互いが干渉しあって彼を復活させてしまった』のでは?」
おじい 「なるほど。」
森島 「だとしたら、これは凄い事ですよ。」
おじい 「あぁ。世の中の常識をひっくり返す様な出来事だ。」
森島 「研究する価値、大いにありです!」
周作 「平成浪漫ですね。」
周人 「上手くすりゃ、がっぽり儲かるぞ!」
森島 「また金か、お前は。」
花音 「でも…下手したら私達みんな頭がおかしいって事に…」
周人 「じいちゃんはボケたですむけど。」
おじい 「悲しい事言うな。」
周作 「(先程から彼らの後ろをうろちょろしている男が気になり、満に)弟さんですか?」
満 「は?」
森島 「とりあえず、どうしますか?彼を。」
周人 「ウチは親心がいるし。」
おじい 「駄目だな。」
花音 「ウチなんかもっと駄目だし。」
満 「あの、良かったらしばらくここにいませんか?」
周作 「えっ、よろしいんですか?」
周人 「助かるよ、みっちゃん。」
満 「いえいえ。」
森島 「早速なんですが、実験装置の修理を手伝って頂けませんか?」
おじい 「いろいろ話も聞きたいし。」
周作 「やぶさかでないですよ。」
周人 「俺も手伝うよ。」
森島 「急にやる気出てない?」
花音 「駄目、駄目。そろそろ出ないと授業遅刻よ。」
周人 「うわっ、もうそんな時間かよ。」
花音 「じゃ、失礼します。」
周人 「また後でな。ひいひいじいちゃん。」
周人、花音、ハケる。
満 「あの、ちょっとだけ周作さんとお話してもいいですか?」
森島 「どうぞ。じゃあ、先、行ってます。さっきのラボで。」
周作 「分かりました。」
おじい、森島、ハケる。
周作 「私に話って?」
満 「はい、あのさっき、弟さんとかって…」
周作 「えぇ、部屋の外でうろうろされてましたよね。」
満 「彼が見えたんですね?」
周作 「えぇ、それが何か?」
満 「そうですか。やはりあなた、普通の人とは違うようですね。」
周作 「は?それはどういう…」
満 「あれは、この家の者ではありません。」
周作 「え??」
満 「しかも、この世の者でもない。」
周作 「この世のって…じゃ、彼は…」
奥から美香子、月子登場。
美香子 「お兄ちゃん。」
月子 「お兄ちゃま。」
満、二人を見てため息をつく。
周作 「あれは妹さんですよね?」
満 「えぇ。」
美香子 「お久しぶり。」
月子 「ぶり。」
美香子 「私がここへ来た理由、分かってると思うけど。」
満 「言ったろ。僕は行く気はない。」
美香子 「どうして?お兄ちゃんは人々を救いたくないの?」
月子 「そうよ。お兄ちゃまも来るべきよ。」
美香子 「お兄ちゃんほどの能力があれば、もっと沢山の人を救えるのよ。」
満 「この力を金もうけに使いたくはない。」
美香子 「天星会はそんな集団じゃないわ。」
月子 「ないない。」
満 「お前達こそ目を覚ませ。あいつらに利用されてるのが分からないのか。」
月子 「ひどいよ、お兄ちゃま。お姉ちゃまはお兄ちゃまのためを思って…」
美香子 「いいわよ、月子。」
月子 「でも…」
美香子 「お兄ちゃんもおんなじなのね。あの人達と。」
満 「何?」
美香子 「きれいごとだけで人は救えない。現に私達は…」
月子 「何、お姉ちゃま?あの人達って…」
美香子 「ごめんなさい、月子。なんでもないの。…また来るわ。」
美香子、去る。
月子 「お兄ちゃまのバーカ!ベェ〜!」
月子、去る。
周作 「何でしょう、複雑な御事情がありそうですね。」
満 「すいません、おはずかしい所を。」
周作 「いえいえ。あ、それよりさっきの、この世の者ではないというのは?」
満 「あぁ、えぇ…とにかく、私もその実験に関わった方が良いようです。行きましょう。」
周作 「はい。」
二人、去る。そのあとから再び、鎧を着た男が登場し、二人を追うように去る。
(作:松本仁也/写真:広安正敬)
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