△ 「背中のイジン」シーン10


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狭い部屋に六人、膝を突き合わせるように座っている。

「すいません、狭いとこで。」舞台写真
周人 「ホント狭いな。」
「ここが一番散らかってない部屋なもんで。」
花音 「何の部屋なんです?」
「瞑想部屋です。」
森島 「なんか納得。」
「あ、今お茶入れますね。(狭い中無理矢理立って部屋を出ようとする)」
全員 「いいよ、いいよ!」
森島 「とにかく一度整理しましょう。あなたを本当の瀬名周作だとして、先生はその孫。周人は更にその孫。」
周人 「ひひ孫。」
森島 「じゃ、こっちに来ましょう。」

狭い中、人を動かし血縁関係を整理しだす。

森島 「で、花音ちゃんはハナさんの離婚した後の子孫。」
花音 「うん。」
森島 「僕も祖々父が周作さんの助手だったという事で、繋がっています。ここまでは合ってますよね?」
周作 「合っています。」
森島 「では次に、彼が本物かどうかという所ですが、私はもはや疑ってはいません。」
おじい 「じゃ、ワシも質問していいかな?」
周作 「なんなりと。」
おじい 「ワシがあなたから受け継いだ実験とは?」
森島 「おっ、いい質問ですね、先生。」
おじい 「知っとるのはワシと森島君だけのはずだが、どうです?」
周作 「魂の研究ですね。私は人間を、器である体と本体である魂に分けて考えていました。そこで、魂と肉体を科学的に分離させ、更に戻すという実験装置を研究しておりました。」
花音 「スゴイ。そんな事出来るの?」
周人 「ちょっと待って。じいちゃん、俺にそんな事を?」
おじい 「うん。」
周人 「『うん』って。ホントに五万で命売るとこだったじゃん。」
おじい 「(周作に)正解だ!あなたは本物だ!」
周人 「話そらすな。」
周作 「実験に取りかかる前に、私は死んでしまったのですが、実験装置の製作案などを霊媒師の方に協力してもらい、作る事が出来ました。」
周人 「おっ、霊媒師が出て来たよ。満さんと関係あったりして。」
「その霊媒師、何と言う方です?」
周作 「仁志残月(にしざんげつ)と言う方です。」
「仁志残月?!それ、ウチのひいじいさんですよ!」
森島 「そらきた!」
花音 「また繋がっちゃった。」
おじい 「狭いな世間は。」
周人 「この部屋くらい狭い。」
「すみません。お茶でも(また立とうとする)」
全員 「いいから、いいから。」
花音 「あの、私も質問いいですか?」
周作 「どうぞ、どうぞ。」
花音 「実は私、今日そのハナさんの遺品を持って来たんです。」
周人 「あ、それを当てるんだ。」
花音 「うん。これは周作さんからの贈り物だったそうです。」舞台写真
周作 「私がハナに贈ったもの?」
花音 「あなたが大戦に参加する時に手渡した物。覚えてらっしゃいますか?」
周人 「大戦?」
おじい 「第一次世界大戦。」
周人 「あぁ。」
周作 「第一次って?その後も大戦が?」
森島 「えぇ、今の所第二次までですが。」
周人 「で、どうなの?分かったの?」
周作 「確かに私は軍医として青島へ渡りましたが、その時に?…あっ!思い出しました!出兵する前日の?」
花音 「はい。」
周作 「ペンダントですね!ロケットの。」
花音 「正解です。(ポケットのロケットを取り出す)」
周作 「これですよ、これ!随分古くなっちゃってますけど、これに間違いありません!」
周人 「へぇ、ちょっと見せて。」
森島 「あ、僕にも見せて下さい…あっ、危ない!」

狭い中ロケットを受け取ろうとして、みんな座ったまま将棋倒しになる。
全員ブーブー文句を言う。

周人 「あれ?どこいったロケット?」
おじい 「すまん。ワシが踏んだ。」
「あぁ、なんて事を!壊れてません?」
周作 「大丈夫みたいです。」
花音 「あれ?これ、蓋開いた。」
周人 「開かなかったの?」
花音 「錆び付いてて全然。」
周作 「もうちょっと開いてみましょう。(ゆっくり開く)」
花音 「写真。」
周人 「これ、周作じゃん!」
周作 「ほら、顔写真撮ったって言ったでしょ。」
森島 「凄い。これは貴重品だ!」
おじい 「これこそ本物の決め手だ!」
花音 「一緒に見つけた手紙に書いてありました。再婚した後もハナさんはずっとこれを大事にしていたそうです。」
周作 「そうですか。ハナはこれをずっと…で、ハナはいつ…」
おじい 「あなたが亡くなった一年後です。」
周作 「一年後?」
おじい 「大正十二年の関東大震災で、建物の下敷きに…」
周作 「震災?」
森島 「東京が壊滅する程の大地震があったんです。」
周作 「そうだったんですか…」
「分かって来ましたよ。」
周人 「何が?」
「彼が復活した原因です。」
おじい 「原因?」
「おそらく、こういう事じゃないでしょうか。そちらの魂の実験とこちらの霊媒を行った時間はほぼ同時です。そしてそれぞれの目的にもこれだけの共通点があった。つまり『お互いが干渉しあって彼を復活させてしまった』のでは?」
おじい 「なるほど。」
森島 「だとしたら、これは凄い事ですよ。」
おじい 「あぁ。世の中の常識をひっくり返す様な出来事だ。」
森島 「研究する価値、大いにありです!」
周作 「平成浪漫ですね。」
周人 「上手くすりゃ、がっぽり儲かるぞ!」
森島 「また金か、お前は。」
花音 「でも…下手したら私達みんな頭がおかしいって事に…」
周人 「じいちゃんはボケたですむけど。」
おじい 「悲しい事言うな。」
周作 「(先程から彼らの後ろをうろちょろしている男が気になり、満に)弟さんですか?」
「は?」
森島 「とりあえず、どうしますか?彼を。」
周人 「ウチは親心がいるし。」
おじい 「駄目だな。」
花音 「ウチなんかもっと駄目だし。」
「あの、良かったらしばらくここにいませんか?」
周作 「えっ、よろしいんですか?」
周人 「助かるよ、みっちゃん。」
「いえいえ。」
森島 「早速なんですが、実験装置の修理を手伝って頂けませんか?」
おじい 「いろいろ話も聞きたいし。」
周作 「やぶさかでないですよ。」
周人 「俺も手伝うよ。」
森島 「急にやる気出てない?」
花音 「駄目、駄目。そろそろ出ないと授業遅刻よ。」
周人 「うわっ、もうそんな時間かよ。」
花音 「じゃ、失礼します。」
周人 「また後でな。ひいひいじいちゃん。」

周人、花音、ハケる。

「あの、ちょっとだけ周作さんとお話してもいいですか?」
森島 「どうぞ。じゃあ、先、行ってます。さっきのラボで。」
周作 「分かりました。」

おじい、森島、ハケる。

周作 「私に話って?」舞台写真
「はい、あのさっき、弟さんとかって…」
周作 「えぇ、部屋の外でうろうろされてましたよね。」
「彼が見えたんですね?」
周作 「えぇ、それが何か?」
「そうですか。やはりあなた、普通の人とは違うようですね。」
周作 「は?それはどういう…」
「あれは、この家の者ではありません。」
周作 「え??」
「しかも、この世の者でもない。」
周作 「この世のって…じゃ、彼は…」

奥から美香子、月子登場。

美香子 「お兄ちゃん。」
月子 「お兄ちゃま。」

満、二人を見てため息をつく。

周作 「あれは妹さんですよね?」
「えぇ。」
美香子 「お久しぶり。」
月子 「ぶり。」
美香子 「私がここへ来た理由、分かってると思うけど。」
「言ったろ。僕は行く気はない。」
美香子 「どうして?お兄ちゃんは人々を救いたくないの?」
月子 「そうよ。お兄ちゃまも来るべきよ。」
美香子 「お兄ちゃんほどの能力があれば、もっと沢山の人を救えるのよ。」
「この力を金もうけに使いたくはない。」
美香子 「天星会はそんな集団じゃないわ。」
月子 「ないない。」舞台写真
「お前達こそ目を覚ませ。あいつらに利用されてるのが分からないのか。」
月子 「ひどいよ、お兄ちゃま。お姉ちゃまはお兄ちゃまのためを思って…」
美香子 「いいわよ、月子。」
月子 「でも…」
美香子 「お兄ちゃんもおんなじなのね。あの人達と。」
「何?」
美香子 「きれいごとだけで人は救えない。現に私達は…」
月子 「何、お姉ちゃま?あの人達って…」
美香子 「ごめんなさい、月子。なんでもないの。…また来るわ。」

美香子、去る。

月子 「お兄ちゃまのバーカ!ベェ〜!」

月子、去る。

周作 「何でしょう、複雑な御事情がありそうですね。」
「すいません、おはずかしい所を。」
周作 「いえいえ。あ、それよりさっきの、この世の者ではないというのは?」
「あぁ、えぇ…とにかく、私もその実験に関わった方が良いようです。行きましょう。」舞台写真
周作 「はい。」

二人、去る。そのあとから再び、鎧を着た男が登場し、二人を追うように去る。

(作:松本仁也/写真:広安正敬)

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