△ 「背中のイジン(再演)」シーン11


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明転すると仁志家の暗めで狭い瞑想部屋。満、周作、周人、花音、あきほ、森島、おじいの7人が
膝を突き合わせる様に座っている。

「…すみません、狭いところで。」写真
全員 「ホント狭い。」
「他の部屋はちょっと散らかっていまして…」
おじい 「何に使う部屋なのここ?」
「瞑想とか。」
森島 「あ〜なんか納得。」
「あ、今お茶いれますね。」

満、狭い中無理やり立って部屋を出ようとする。

全員 「いいからいいから!」
あきほ 「これ、うちのクローゼットの方が広いかも。」
周人 「じゃ、そこでやる?」
あきほ 「うちちょっと遠いですよ。」
花音 「どこなんです?」
あきほ 「多摩市です。」
おじい 「多摩市?!!」
周人 「爺ちゃん声でかい!狭いんだから小声で!」
おじい 「(少し小声で)多摩市ってピューロランドがあるあの多摩市?」
あきほ 「はい。うち、その近くです。」
おじい 「(大声で)いいなぁ〜〜!!!」
周人 「うるさいって!」
「さすがに多摩市は遠すぎるんで、すみませんがここで…」
森島 「とにかく一度整理しましょう。あなたをホンモノの瀬名周作だとして、先生はその孫、周人君は更にその孫ですから…じゃ、こっちに来ましょう。」

狭い中動き、周作、おじい、周人の順番に並ばせる。

森島 「で、花音さんはハナさんのひひ孫。僕は曽祖父が周作さんの助手だったという事で繋がっています。」
周作 「その通り。」
おじい 「ではワシからも質問。ワシが受け継いだあなたの実験とは?」
森島 「おっ、いい質問ですね先生。」
おじい 「この実験はワシが爺さんの遺品から偶然見つけた計画書を元にしている。だから知っているのはワシと森島君だけで一般には知られておらんが、どうです?」
周作 「魂の実験ですね。僕は魂と肉体を分離させて更にそれを元に戻すという実験装置を開発中でした。」
周人 「ちょっと待って。爺ちゃん俺にそんな実験を?」
おじい 「うん。」
周人 「うんって、ホントに5万で命売るとこだったじゃん!」
おじい 「(周作に)やっぱりあなたはホンモノだ!」
周人 「話そらすな!」。あきほ 「でも魂を分離するなんてどうやって?」
周作 「僕の時代、科学の信者には霊魂学は受け入れられませんでしたが…」
周人 「霊魂学?」
「オカルトですね。」
あきほ 「それ今も受け入れられてないです。」
周作 「やはり。でも僕は霊魂学も深く研究し、実験装置の製作には霊媒師の方にも協力して頂きました。」
周人 「お、霊媒師が出てきたよ。みっちゃんの親戚だったりして。」
「その霊媒師のお名前は?」
周作 「仁志正月(にしまさつき)さんです。」
「仁志正月?!それ、ウチのひい爺さんです!」
あきほ 「うわ!また繋がっちゃった!」
おじい 「世間は狭いな。」
周人 「この部屋くらい狭い。」
「すみません。お茶でも…(また立とうとする。)」
全員 「いいからいいから!」
あきほ 「なんか私だけ無関係でさみしいな。」
周作 「花村さんも調べれは繋がるかもしれませんよ。」
あきほ 「周作さん優しい…」
周人 「そう言えばこの人、なんでいるの?」
「僕から原稿をもらうまでは帰って来るなと言われたそうで。」
あきほ 「ついでにこの件の取材も。」
「え?」
あきほ 「上には許可取りました。」
「いつの間に…」
あきほ 「周作さんにも許可頂きました。」
周作 「はい。」
周人 「いつの間に…」
花音 「あの、私も質問いいですか?」
周作 「なんなりと。」
花音 「実は私、今日ハナさんの遺品を持って来たんです。」
周人 「あ、それが何かを当てるんだ。」
花音 「うん。これは最初の旦那さんからの贈り物だったそうです。」
周作 「僕が贈ったもの?」
花音 「はい。あなたが大戦に参加する時に。」
周人 「大戦?」
おじい 「第一次世界大戦。」
周作 「第一次って?その後も大戦が?」
森島 「ええ、今のところ第二次までですが。」
周人 「で、どうなの?わかったの?」
周作 「ええっと、ハナに渡したもの…渡したもの…あ〜っ!思い出しました!出兵する前日にロケットペンダントを渡しました!」
花音 「正解です。(ポケットからペンダントを取り出す)」
周作 「おお!そうそうこれですよ!随分古くなっちゃってますけど、これに間違いありません!」
周人 「ちょっと見せて。」
おじい 「ワシにも見せてくれ。」

みんなペンダントを取ろうとして座ったまま将棋倒しになり、ブーブー言いながら体制を戻す。

周人 「あれ?どこ行ったロケット?」
おじい 「すまん。ワシが踏んだ。」
「あぁ、何てことを!壊れてません?」
周作 「大丈夫みたいです。」
花音 「あれ?これ、蓋開いた。」
周人 「え?開かなかったの?」
花音 「錆びついてて全然。」
あきほ 「もうちょっと開きませんか?」
周作 「やってみましょう。(ゆっくり開く)」
花音 「写真!」
周人 「あ、これ周作さんじゃん!」
周作 「ほら、写真撮ったって言ったでしょ?」
森島 「凄い!これこそホンモノの決め手だ!」
あきほ 「この写真の写真撮っていいですか?」
周人 「あ、俺も撮らせて!」

狭い中みんなスマホを探し出す。

「後にしましょう、後に。」

みんな納得。

森島 「撮ったとしても、皆さんSNSになんか載せないで下さいよ。」
「そう、絶対に厄介な事になりますから。記事にもしないで下さいよ、花村さん。」
あきほ 「え〜っ、超スクープなのにぃ…」
「花村さん。」
あきほ 「…わかりました…(周作に)でも色々お写真は撮らせて下さいね?」
周作 「あ、はい。」
あきほ 「やった!(何かを踏む)痛たた!」
「どうしました?」
あきほ 「なんか足元に…ん?」

あきほ、踏んだ物を取り上げると小さな水晶玉だった。

「あ、ごめんなさい、こんなとこに落ちてたか。(水晶玉を受け取る)」
あきほ 「何ですかそれ?」
「あぁ、なんか妹にもらった変な玉です。(ポケットにしまう)」
あきほ 「あれ?…それどっかで見た様な…」
周作 「あの…それで…ハナはその…いつ亡くなったのでしょうか?」
おじい 「周作さんが亡くなった一年程後です。」
周作 「一年後?」
花音 「大正十二年九月一日の関東大震災で、建物の下敷きに…」
周作 「震災?」
森島 「東京が壊滅する程の大地震があったんです。」
周作 「そうだったんですか…」
「わかって来ましたよ。周作さんが復活した原因が。」
おじい 「原因?」
「魂の実験と霊媒を行った時刻はほぼ同じです。そしてそれぞれにこれだけの共通点があった。つまり、実験と霊媒がお互いに干渉しあって、彼を復活させてしまったのでは?」
おじい 「なるほど。」写真

何かを探している男が出て来て近くをうろうろし出す。

森島 「だとしたら、これは凄い事ですよ!」
おじい 「世の中の常識をひっくり返すぞ!」
森島 「研究する価値、大いにありですよ!」
周人 「上手くいけば、がっぽり儲かるぞ!」
森島 「また金か…」
花音 「でも、下手したら私達みんな頭がおかしいって事に…」
周人 「爺ちゃんはボケたですむけど。」
おじい 「う〜ん…って、悲しい事言うなよ。」
周作 「(うろうろしている男が気になり満に)あの方は弟さんですか?」
「え?」

男、去る。

森島 「それより、このあと周作さんの居場所は…」
周人 「うちには親心がいるし。」
花音 「うちも同じ様なもんだし。」
あきほ 「うちは多摩市だし。」
「あの、宜しかったら暫くこのウチにでも?あ、勿論掃除してちゃんと泊まれる部屋は用意しますよ。」
周人 「助かるよみっちゃん。」
周作 「ありがとうございます。」
「いえいえ。じゃあ…出ましょうか。」

みんな立ち上がるが、部屋を出るのにも一苦労。

(作:松本じんや/写真:はらでぃ)

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