△ 「背中のイジン」シーン6


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スモークの奥で周人がうつぶせに倒れている。やがて目を覚ます。

周人 「いててて。ゲホッゲホッ!…あれ?どうなっちゃったんだオレ?」

周人、ゆっくりと起き上がると、足元に片腕が落ちている。それを見て、

周人 「うわあぁあああああっ!」

腕をとろうとして近付き、腕に触った瞬間、その腕に掴まれる。

周人 「うわあああああああっ!」

腕を引っ張ると、その先にもう一人男が出てくる。二人揃って。

二人 「うわあああああああっ!」

周人、無いと思っていた腕が袖から出てきて、

周人 「うわあああああああっ!…あ…」

周人、ホッとしてしゃがみこみ、ため息をつき頭を抱える。

周人 「痛たたたたた…ちきしょう…どうなったんだ、オレ?」
周作 「あの。」
周人 「はい?」
周作 「どこなんでしょう、ここは?」
周人 「え?…オレもはっきりしなくって…あ、実験!」
周作 「実験?」
周人 「実験して爆発して…」
周作 「じゃあ…」
周人 「…死んだんだ…そうか…オレ、死んじまったんだ…」
周作 「そういえば私も…そう、確か事故で。」
周人 「あんた誰?」
周作 「瀬名周作と申します。」
周人 「瀬名周作?」
周作 「はい。」
周人 「周作って…まさか…」舞台写真
周作 「あなたは?」
周人 「周人。瀬名周人。」
周作 「瀬名?って、もしかして親類ですか?」
周人 「…っていうか、あんたオレのひいひいじいさん。」
周作 「ひいひい…じゃああなたは、ひひ孫?」
周人 「そう。ひひ。」
周作 「(自分を指差して)ひいひい(周人を指さして)ひひ?」
周人 「そう、(自分を指差して)ひひ。(周作を指差して)ひいひい。」

間。

周作 「はははは、そうでしたか。はははは。」
周人 「はははは、なんかビックリ。はははは…(急に落ち込み)完璧死んだよ、オレ…」
周作 「まあまあ、そんなに落ち込まないで。」
周人 「オレまだ二十一だよ?」
周作 「私は二十七でした。」
周人 「あ〜あ。引き受けんじゃなかったよ。」
周作 「何です?」
周人 「じいちゃんの変な実験に付き合って…そうだよ、元はといえば、あんたの実験だよ!」
周作 「私の?」
周人 「あんたの実験をじいちゃんが…いや、だからあんたの孫が引き継いで…」
周作 「私の孫が私の実験を?」
周人 「…あぁ、なんだか魂を科学的にどうとか…(足元のヘッドギアを見つけ)そうそう、これつけさせられて、でもはずせなくなって…あれ?…何でこれが?」
周作 「何です?」
周人 「いや…あのさ、ここってあの世だよね?」
周作 「おそらく。」
周人 「じゃ、なんでこいつがここに…?」

突然、ドンドンとドアを叩く音が響く。外から道子の声がする。

道子 「周人!周人!生きてんの、あんた?」
周人 「え〜っ!生きてんの、オレ?!」
道子 「こっちが聞いてんだよ!」
典子 「返事してんだから生きてるって。」
周人 「やったよ!生きてるよ、オレ!」
周作 「良かった。これで一安心だ。」
道子 「ちょっと、ここ開けなさい、周人!」
周人 「あぁ。(ドアを開けに行くが壊れて開かない。)あれ?駄目だ、これ。」
道子 「何やってんの?」
周人 「壊れてて開かねえんだよ。」
道子 「え?」
周人 「…ちょっと待てよ。」
周作 「何です?」
周人 「オレが生きてるってことは、あんたも?」
周作 「いや、そんな。私はちゃんと死んだ記憶がありますし。」
周人 「だよね?ってことは、あんたもしかして(手で幽霊のしぐさ)」
周作 「え〜っ!私、幽霊なんですか?いや、でもそれじゃあ何故あなたには私が見えるんです?」
周人 「多分実験だよ。この実験のせいでオレは幽霊が見える体質にされちまったんだ!」
周作 「それじゃあ私の姿はあなたにしか見えないと。」
周人 「マンガでそんな話読んだことある。」
周作 「マンガですか」
典子 「うりゃあっ!」

大音響とともにドアの開く音。続いて姉が飛び込んでくる。

典子 「私のキックもまだまだ健在だね。」
周人 「姉ちゃん。」

姉に続き、母も入ってくる。

道子 「周人!どういうこと、これ?!」
周人 「いや、どういうことって…」

後藤が顔を出す。

後藤 「何があったんですか?」
典子 「後藤さんは診察室に戻ってて下さい。」
後藤 「でも今何かドカーンって…」
典子 「いいから戻ってろ!」
後藤 「はい。」

後藤、ハケる。

道子 「何なの、さっきの爆発みたいのは?」
周人 「知らねえよ。じいちゃんに聞けよ。」
周作 「あなたのお母さま?」
周人 「あぁ。」

周作、自分が見えない存在だと思い出し、辺りを歩き回る。

道子 「じいちゃんの実験には関わらないって約束じゃなかった?」
周人 「いやだからそれは…」
周作 「素晴らしい。女性も医者をやる時代なんですね。」
典子 「また金で買収されたんだろ!(ハリセンで周人を叩く)」
周人 「いてぇな!姉ちゃんが親心使うなよ!」
典子 「『姉心』だ、バカヤロウ!(またハリセンで叩く。)」
周人 「作んなんなもん!」
周作 「女性の時代なんですねえ。」
道子 「実験は構わないけどねえ、爆発なんかされたんじゃたまんないんだよ!」
典子 「警察にでも知れたら、面倒だろうが!」
後藤 「呼びましたね?」
典子 「呼んでねっつの!」
後藤 「でも、今警察って…」
道子 「診察室に!」
後藤 「戻ります。」
典子 「となりが病院だってわかってんだろ?!」
道子 「なんかあったら、どうする気だ!」
典子 「どう責任取んだ?!」
道子 「どうなんだ?!」
典子 「どうなんだよ!」
道子 「なんとか言いな!」
典子 「言ってみろよ!」
周人 「あぁ〜〜〜っ!怒鳴るなよ!ドルビーサラウンドでよ!」
周作 「土瓶皿うどん?」舞台写真
道子 「それからさ。」
典子 「一つ聞いていい?」
周人 「なんだよ。」

道子、典子揃って周作を指差し

道・典 「誰これ!」

しばし沈黙。

周作 「見え…見えてます。周人君、話違いますねこれ、さっきと…」
周人 「み…見えてるってことは…幽霊ではない?」
道子 「幽霊?」
周作 「ってことは…生きている?…」
周人 「じゃあ、あんた…誰?」
周作 「だから私は…痛たたたたっ!」
周人 「どうした?」
周作 「頭痛が…痛たたたっ!」
典子 「都合が悪くなるとすぐこうだ。こういう輩は。」
道子 「とにかく診察室来なさい。」

森島が飛び込んで来る。

森島 「大変です!」
典子 「森島さん。」
道子 「じいちゃんは?」
森島 「それが、今の爆発でのびちゃって…」
道子 「全くもう!余計な事で少ない病室埋めんじゃないわよ!」
森島 「運ぶの手伝ってもらえます?」
後藤 「じゃ、私が!」
典子 「まだ居たのかあんた!」

全員ハケる。

(作:松本仁也/写真:広安正敬)

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