2003年1月のミステリ戻る

ファンタズム PHANTASM

2002年 西澤保彦著 講談社NOVELS 230頁
あらすじ
有銘継哉(ありめつぐや)はリサを殺した。別に恨みがあった訳でも愛していた訳でもない。言葉を交わした事があったかどうかも不確かだ。「別にきみでなくてもよかったんだ。でもきみでなくちゃいけなかったんだ。」・・・・
これが始まりだった。印南市(いなみのし)でのゆっくりと女ばかりを狙った連続殺人事件の始まりだった。
感想
作者の怨念トラウマ系作品群のひとつになると思う。端的に言えば(より)暗い方の作品群。ラストは「およっ」となりましたね。肩ががくんと落ちたというか。この人以外がこのラストを書いたら「○ックユー」と中指突き立てていたかもしれん。何度か読み直したが47頁の風力発電機のシーンがわからん。シンメトリーって事を現しているんだろうか。
以下ねたばれ
この○ソ野郎のク○能力は「瞬間移動死体」の様な「テレポーション」というよりは、「プラーグの大学生」の「ドッペルゲンガー=分身」と思う。有銘継哉(ありめつぐや)のルームメイトの仮名がエミールなのは何故なんだろう。「エミール」とくればジャン・ジャック・ルソーの「エミール」(もちろん未読)かケストナーの「エミールと探偵たち」(もちろん既読)しか思い浮かばん。絶対的な知識不足だ。ケストナーとくれば「ふたりのロッテ」はどうよ。双子が入れ替わるって話よ。
おすすめ度★★★
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マイノリティ・リポート THE MINORITY REPORT

1956年 フィリップ・K・ディック著 朝倉久志訳 早川書房 68頁
あらすじ
ディック作品集7編の表題作。映画「マイノリティ・リポート」の原作。
3人のプリコグが未来予知をしており、その未来予知で犯罪が防止されている。防止する側の警察の長が潜在犯罪人として指名手配される。3人の予知はぴったり一致するわけではなく少数意見が存在する。って前半は映画も同じでしたね。原作をそのまま映画にしても「ハリー・ポッター」になるだけですから変えるのももちろんオッケ。が、なんでこの小説が、人類愛みたいなラストになるの。なれるの? スピルバーグ・マジックでしょか。
感想
3回読んでやっと内容が掴めたというか納得しました。68頁を読むのに丸1日かかった。ところが本作はP.K.ディックの作品では読みやすい方なんですと。SF小説ってのは手ごわい。映画とは違い辻褄はあっていた。
多数決だけで物事を決める危険性が示唆されている、のかな。それよりも虚と実が入れ替わっていくこのお話は絶対的なものなど何もないのだと聞こえる。最後の一言がブラック。
おすすめ度★★★★
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イリーガル・エイリアン ILLEGAL ALIEN

1997年 ロバート・J・ソウヤー著 内田昌之訳 早川書房 509頁
あらすじ
人類は大西洋上でとうとう異星人とのファースト・コンタクトを経験する。アルファケンタウリ星からやってきた7名のエイリアン・トソク族は各国代表の随行団と共に主要都市を巡り地球を一周してカリフォルニアに腰を落ち着ける。宇宙船が破損し地球人の助けを借りて修理するまで地球年で2年かかるのだ。すぐれたテクノロジーとの引き替えという事で地球人にもありがたい話だった。
ところがエイリアンの居住している建物で地球人が殺される。太股がざっくり切断され、胴体は切り裂かれ、顎と眼球が持ち去られているという死体損壊の惨殺。死体の側にはトソク族の血染めの足形が残っていた。トソク族の母星とアメリカ合衆国は協定を結んでいないため殺人容疑をかけられたトソク族は外交官特権も行使できない。異星人トソク族はカリフォルニアの法廷で裁かれる事になってしまった。
感想
面白かった。500頁の内400頁はサイエンスな場面が多数ある法廷ミステリ。陪審員を選定する手続きが煩雑だったりお金がかかったり、陪審員にアピールするための法的解釈の駆け引き応酬といったアメリカの司法制度に付き合わされると知っていたら、外国人(トソク族も含む)は殺人を犯すのを躊躇するだろうてとニンマリ。裁判は「真相の追究」とはまったく関係がなく被告が有罪か無罪かのみ裁かれる。12人の陪審員が無罪の判決を出せば被告は無罪なのだ。さぼてんには時には「訳わかめ意味とろろ」の茶番劇にも見える。しかし作者はこの司法制度を是としている。広大な宇宙をターゲットとするSF小説でありながら、キリスト教とアメリカ的価値観が支配する世界だったのだ。異星人と出会っても揺るがない。あっぱれなほどだ。

ミステリとしては数々の謎もきっちり説明されるし伏線も生きている。動機もないがしろにされていない一級品。そしてトソク族ハスクが親近感がもてる造形になっている。自室で割れた円盤を握ってベットに腰掛けている姿がいい。映画「惑星Xから来た男」と同じく数学が共通の言語というのも面白かった。SF小説では常識なのかな。

アルファケンタウリというのは宇宙家族ロビンソン一家(ロスト・イン・スペース)が向かった星なんですね。容疑者ハスクの弁護士デイルの声がジェームズ・アール・ジョーンズ似(「星の王子ニューヨークへ行く」のエディー・マーフィ・パパ)だったり「アラバマ物語」が作品中言及されたり「ニュールンベルグ裁判(あんたはスペンサー・トレイシーかよっ)」と映画好きには楽しい。ネタバレあり>この映画の有名影像に似たシーンもあったりする。最近では「バイオハザード」でも使われていた。映画も本作品も1997年作なのでどちらが影響を受けたんだろう。
おすすめ度★★★★
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