2000年11月のミステリ

バッド・チリ BAD CHILI

ジョージ・R・ランズデール 「凍てついた七月」 「ムーチョ・モージョ」 「罪深き誘惑のマンボ」
1997年作 角川文庫 347頁
あらすじ
沖合油田のキツイ仕事を終えて帰ってきたハップを出迎えた無二の親友レナードは落ち込んでいた。酒場の用心棒の仕事を首になったという。しかも恋人ラウルに新しい恋人ができたらしい。あれやこれや話をしながら、丸太に並べた空き缶をリボルバーで撃っていたら森からリスが飛んで出てきた。口から泡を吹き4フィートも跳ねながら一直線にハップめがけて襲いかかる。ハップに食われたリス一族の復讐か? ハップの腕に噛み付いたリスは鉛の弾を撃ち込まれたくらいじゃくたばらない。レナードがなんとか車でひき殺す。医者が言うには森の中は泡を吹いた動物ばかりだ。狂犬病が流行っていると言われるハップ。なんてついてねーんだ。が、夜中に白衣の天使が現れる。
感想
いやあ、、、面白い。このお下品な会話のやりとりが(笑)。うらぶれた人達の哀愁が。しかもそのうらぶれた人達が熱く固い根性を持っているところが。いまさらながらですが、このシリーズって西部劇なのね。

今回猪突猛進に狂うのはハップの方です。恋ってコワイよ(笑)。レナードの失恋といいハップの恋といい、無二の親友がいても肌を合わせる人が別にいるのねって事(人間のサガなのかな)がちょっと寂しい。
おすすめ度:★★★★
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凍る夏 −SUMMER OF FEAR−

T.ジェファーソン・パーカー 1993年作 講談社文庫 547頁
あらすじ
10年前に警官を辞め、現在はクライム・ライターのラッセル・モンローは40才。5年前に結婚し幸せに暮らしてきたが28才の若妻イザベラが脳腫瘍に冒される。放射線治療のため、毛は抜け落ち歩くことも出来なくなった妻の面倒をみているラッセルは1年たち、臨界点に達しようとしていた。仕事は手に着かず、妻の治療費はかさみ、酒を飲み過ぎる日々。ある夜、20年前恋人だったトップ・モデルのアンバー・メイ・ウィルソンの家にでかける。自分でも何をしたかったかわからない。車の中でじっと家を見ていると友達で殺人課警部のマーティがアンバーの家から出てくる。ドアノブを拭いたり挙動がおかしい。マーティは15年前、一時期アンバーと結婚していた。何があったのかとアンバーの家に忍び入ると、寝室でアンバーは殺されていた。今オレンジ郡を震撼させている連続殺人鬼”ミッドナイトアイ(真夜中の目)”の仕業のようだ。赤いスプレーで壁にサインまでしてある。「ミッドナイトアイは戻ってくる」と。
感想
ミステリサスペンス小説でありながら、描かれている人間の感情・思考・気質がさぼてんを責める。
「これからもイザベラを愛し続ける事が出来ますように。」と祈るラッセルの魂の叫びが痛い。人はひとりでは生きられない・・・のか。
さぼてんにとって一番魅力的だったのは実は自由奔放でわがままな美女アンバー。最後にラッセルに言う言葉「あなた、知ってた? わたしはいつもひとりで幸せだったのよ」。 本当に心からこう言える人ってどのくらいいるのかな。 何故ささえあわなきゃ生きられないのかな。生きられないと思っているのかな。 ひとりで幸せな人が多ければ犯罪も少なくなるんではなかろか。短絡的でしょうか? ただはっきり言えることは、こんな母親に育てられた子供は不幸だとは思う。
おすすめ度:★★★1/2
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和時計の館(やかた)の殺人

芦辺拓 2000年 カッパNOVELS 274頁
あらすじ
日計の村の素封家天知(あまち)家では当主の時平が72才で亡くなる。
それから27年後家を継いだ圭次郎が亡くなり、遺言状を開封するため弁護士の森江春策は旧家にやってきた。その館は圭次郎が趣味で集めた江戸時代の「和時計」で博物館化しており大小取り混ぜた和時計が日々時をきざんでいる。
感想
たとえばですね「名探偵が容疑者一同を集めて”快刀乱麻を断つ”ごとく謎解きを披露する」はずの延々30頁におよぶシーンを読みながら、名探偵の言ってはる事をなんとか理解しようと「名探偵が語っている数々の事件を読み返し」 「自分が書いた事件のタイムスケジュールを判読し」 「ひとつ半、ふたつ半、午の刻、牛の刻」とぶつぶつ呪文のようにつぶやきながら頭をひーひー疲れさすのが好きっていう人なら気に入ると思います、このお話。
頭の悪いアタシは和時計なんか大嫌いになりそう(笑)。
おすすめ度:★★1/2
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「Y」の悲劇

2000年 講談社文庫 329頁
感想
エラリー・クイーン「Yの悲劇」に捧げる4作家競演のアンソロジー

  「あるYの悲劇」 有栖川有栖
     「Yにみえる?」という気もせんではありませんが、4作品中一番「息も絶え絶えだえの被害者が、
     意識が薄れていく中最後の力をふりしぼって書いた”犯人を示す”単純なダイイングメッセージ」ら
     しかった所は○。
     
     わらし高校時代のクラスに上田が3人にいてそれぞれ「うえだ」「かみた」「じょうた」という名字
     だったんですけれど、担任以外の教師は3人共「うえだ」って言い続け「うえだ」でない2人はあき
     らめそれで返事していました(笑)。

  「ダイイングメッセージ《Y》」 篠田真由美
     あわないなあ、文体が。ちっとも面白くない。”内なる殺人者”って訳なのかなあ。面白い人には面白い
     のかも。

  の悲劇−Yがふえる」 二階堂黎人
     文章がへた。面白くないって最初から最後まで思い続けていたのですが、最後に脱帽!
     メタミステリは何でもありなのか? メタメタになっているのは作者の責任ではないって言い切る所も違っ
     た意味で脱帽!
     玉砕しているよな、この作品。 だいたい、こういう書き順だっけ?

  「イコールYの悲劇」 法月綸太郎
     4作品の中では一番文章といい、話の持っていき方といい巧み。
     しかしながら他の作者の文章を読んだ後だとオーソドックスに感じてしまうのが気の毒。

読んでいる最中は、「これが”本格ミステリ気鋭の4人”の作品なのか。未来は暗い」と思っていたのですが、この狭い道しか残っていない世界でのアクロバットな解答はもはや難しいんでしょう。[Y]から何を連想するかってので頭を搾った作品群。その主題からは一番遠かった(読み終えてしばらくしたらYが何を表しているか忘れ果ててしまう)二階堂黎人氏の作品が一等ばかばかしくてよかったです。

おすすめ度:★★★
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依頼人は死んだ

若竹七海 2000年 文芸春秋 331頁
あらすじ
探偵・葉村晶が遭遇する事件の数々。快刀乱麻のごとく解けるわけではなく、余韻のあるオチがついています。
感想
文中にも出てきていますが、P.D.ジェイムスの「女には向かない職業」のコーデリア・グレイを真似たというか、お手本にした作品集。家族に恵まれず孤独な女探偵は、いやに友達が多い。まめに連絡も取り合っているようで「どこが孤独やねん」という気もせんではありません。
なかなか調子がでませんでしたが、中盤はとても脂がのってきました。ところが最後はねぇ。まあホラー味付けまでした意欲作という事でしょうか? あたって砕けてしまった気もせんではありませんが。

 「濃紺の悪魔」<冬の物語>
    まあ、不条理モノですか。最後に輪が閉じるための作者の深遠な策略です。(恐らく)

 「詩人の死」春の物語
    話としてはいいと思うんだけれども、処理の仕方が。この詩人の人間像が浮かんでこない。
    みのりはなんでこんなヤツに惚れたんだ?

 「たぶん、暑かったから」<夏の物語>
    ハードボイルド小説としてよく頑張ったお話だと思う。いいよ。

 「鉄格子の女」<秋の物語>
    この作品はベスト2。あざやか。

 「アヴェ・マリア」<ふたたび冬の物語>
    ベスト1作品。

 「依頼人は死んだ」<ふたたび春の物語>
    ひとつは作者お得意のこのオチがあるはずとは思っていたんですが、この作品に使われてたのね。なるほど。
    カエデのキャラがいい。

 「女探偵の夏休み」<ふたたび夏の物語>
      この題に笑う。題名そのまんま(笑)。

 「わたしの調査に手加減はない」<ふたたび秋の物語>
    恐ろしい話だった。

 「都合のいい地獄」<三度目の冬の物語>
    作者が意図した事なのか、悪魔のイメージが掴みにくい。それがいいのかもしれないけれど、幾分空回り気味。

おすすめ度:★★★1/2
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古書店アゼリアの死体

若竹七海 2000年 カッパNOVELS 310頁
あらすじ
相澤真琴31才は災難続きだった。勤めていた会社が倒産し、信頼していた人には裏切られ、その上災難から非難するために投宿したホテルで火事にあうわで身も心もボロボロ。海に向かって”バカヤロー”とでも叫ばなきゃもうおさまらない。・・・でも神様は無慈悲だった。春の海に向かって思いっきり叫んだ真琴の元に伝わされたのは、浜に流れ着いた土左衛門だったのだ。
感想
みごとな着地でした。拍手!(パチパチ)
「ヴィラ・マグノリアの殺人」に続く”葉崎発コージー・ミステリ”第2弾。
欠点は、「スクランブル」を読んだ時にも思ったんですけれど、女性の書き分けが十分に出来ていないような気がする。相澤真琴と渡辺千秋が似すぎ。作者の分身が何人も登場してもなあといささかもったいない。「火天風神」読んだ時に思ったんですけれど、男性のキャラ付けの方がうまいと思う。

私、図書館に置いてある大阪市の新刊購入図書一覧を見ては、”ハーレークィーン・ロマンス”物の購入の多さにまいどまいど驚くんです。私のいきつけの図書館には置いてないんで、きっと別の図書館の図書館員でロマンス物の大ファンがいるに違いないって推理しているんですけれど。
という訳で、ロマンス物にはまったく疎いんですけれど、ここだけの話、作家になるならロマンス作家がいいと思っているんです(笑)。夢やら願望やらHやら理想の男やらなんでも書けて楽しそうでしょ?(笑)。普通の小説家より一段下に見られるとぼやきながらも熱烈なファンも多いし。小説や映画に出てくるロマンス作家って、風変わりでさばけてて魅力的に思えるし(笑)。確か、コメディ映画「恋のためなら−DON'T TELL HER IT'S ME('90米)」で弟(「ポリス・アカデミー」のスティーブ・グッテンバーグ)に彼女を見つけようとお節介やくお姉ちゃん役のシェリー・ロングってロマンス作家だったと思うの。この映画のシェリー・ロング、絶品です。
おすすめ度:★★★
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