1999年3月のミステリ

金庫と老婆 THE ORDEAL OF MRS.SNOW
パトリック・クェンティン ハヤカワポケットミステリ 1963年アメリカ探偵作家クラブ(MWA)特別賞
あらすじ
表題作を含む9篇の短編集。ミステリマガジン読者が選ぶ発刊45周年記念復刊。
感想
いささか古さを感じる所もありますが、短編の魅力が詰まった一冊。

好きなのは、
 愛人のため妻殺しを図る「不運な男」
 この世で恐いのは、”知力のまさった年とった女”であるという説にうなづける「ミセス・アプルビーの熊」
 思い返せば思い返すぼと恐くなる「親殺しの肖像」(これはどこかの短編で読んだ事あり)
 姪の夫は財産狙いの悪党だった!の「金庫と老婆」
「金庫と老婆」は、役割が入れ替わっていますが警部コロンボの「船で溺死させられた姪の復讐のため、姪の元夫を金庫に閉じこめた」作家の話を思いだしました。ミステリ作家役はヘレン・ヘイズ(「大空港」の喰えない上品な婦人役)でしたっけ。

この作品は「理詰めの推理よる予想可能な結末」ではないので、いわゆる”本格”推理物ではないですね。
何になるのかな? 「人間心理物」? 「サスペンス」? 「犯罪小説」? この皮肉な結末達は「小話」? ”推理”小説ですらないかもしれない。 
訂正とお詫び
ヘレン・ヘイズと思い込んでいたのはルース・ゴードンという女優さんだったようです。。「死者のメッセージ」。すまそ。 おすすめ度★★★1/2
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ムーチョ・モージョ (よくない魔法)
ジョー・R・ランズデール 角川文庫 1994年作
あらすじ
7月のテキサス、炎天下で農園の若木を植えていたハップの所に、レナードがやってきて「叔父貴が死んだんだ」と言う。レナードがゲイであることを知り縁を切ってしまった叔父だったが、レナードに家とお金を残していた。新聞紙が山のように積み上げられている叔父貴の部屋をかたずけていると、腐った床板の下に秘密の隠し場所があるのを見つける。
感想
ハップとレナードがとうとうぶちギレて、隣のヤクの売人の家になぐり込みに行く所はふたりの熱気で熱くなった。
レナードが亡くなった叔父貴が自分に残してくれた物がでてくる度に「俺に含む所があったんじゃないか」っていちいちズキッてこたえているのが可笑しい。可笑しいけれどジーンとくる。ゲスくて面白くてやがて哀しい余韻が残る。
こんな相棒がいたら他に何もいらない。そう思ってしまう相棒物語。まいっている時にも軽くジョークで受けてくれる相棒。謎がどうたらはもうどうでもよくなってくるくらい、二人の会話が楽しい。

レナードが最後に語るのは、「黒人に生まれたとか白人に生まれたとか、人にはどうしようもない事があるんだ。そして、それがほんとうの悪である場合もあるんだ。それは取り除くしかないんだ。」という事だと思う。考えさせられる言葉です。
おすすめ度★★★★1/2
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新ゴーマニズム宣言「戦争論」(ミス外)
小林よしのり 幻冬舎 1998年
感想
個人のレベルから見た「戦争論」。う〜ん胃もたれしそう。極端に走る人ですね。あいまいでいる事がイヤなのかもしれない。
第二次世界大戦を語るにはあまりにも知識不足です、ワタシ。
でも、自説を述べる際には、自説に都合の良い資料を使うというのは常套の事なので、距離をおいて読む。最近「自虐史観を見直す」と言う事を若い人が述べられているのに遭遇しましたが、この本の影響も大きいのかもしれません。
国のために犠牲になる覚悟はまったくできていませんが、「まず平和な自国ありて、今日のお気楽な自分がいる」というのは、よくわかります。この認識は、この地球で生き抜いていくには大切な事だと思う。
「南京虐殺」は事実か否か、というのを初めとして日本軍が犯したとされる虐殺事件は、真実もでっち上げもどちらも多々あったというのが真実に見えます。
太平洋戦争(大東亜戦争)が、「欧米列強に植民地化されているアジアの解放だった」側面も大きいと思います。が、日本語教育をした事とかから「欧米に代わって植民地化したかった侵略戦争」という面も大きいと思う。解放だけであったら、もっと東南アジア諸国に感謝されると思う。感謝されないのは、戦争責任を追求してもっと賠償金を得るためというだけでは説明できる?。いわゆる「自虐史観」に洗脳されているのかしら、ワタシ。
しかし、国には「賠償金は国レベルで解決済み、個人レベルでは行わない」という方針は今後も貫いてほしい。そして負の資産をなくし、娘の時代には後ろめたさを感じる事なく「祖国を誇り」に思って欲しいと願います。
著者も若い時に「祖国のために犠牲になれるか」と問われりゃ、おおいに反撥したとおもうんですが、この方も年取ってきたんですね。
おすすめ度★★★
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アデスタを吹く冷たい風 THE COLD WINDS OF ADESTA

トマス・フラナガン著 ハヤカワポケットミステリ 1949年〜1958年作 宇野利泰訳
感想
「伴野朗が語る 何といってもトマス・フラナガン」を読んでから、ずっと待っていた復刻。復刻希望アンケート第1位。7編からなる短編集。
テナント少佐物4作品
「アデスタを吹く冷たい風」 「獅子のたてがみ」 「良心の問題」 「国のしきたり」 
テナント少佐は地中海の小国《共和国》(おそらくスペインだろうという話)の憲兵隊を指揮している。旧王政時代からの将校であったが、現在はクーデターで勝利した将軍に使える身の上。祖国への忠誠と職責を果たす事と、将軍の命令に従う事の狭間でつなわたりのように緊張を強いられている。この陰影のあるテナント少佐の造形がゾクゾクするほど、いい。1作目から順に読むのがベスト。

他3作品
「もし君が陪審員なら」 「うまくいったようだわね」 「玉を懐(おも)いて罪あり」 この作品は歴史物+密室物。「密室殺人傑作選」に収録されている「北イタリア物語」です。
おすすめ度:★★★★★
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自殺の殺人

エリザベス・フェラーズ著 創元推理文庫 1941年作 
あらすじ
海岸で小石を海に投げていたトビーとジョージは、「誰か!」と叫ぶ声を聞く。崖をよじ登ってみると、取っ組み合っているふたりの男がいた。ひとりの男が崖から身を投げようとしているのを若い男が止めているらしい。二人を引き離し、自殺しかけていた初老の男を家まで送り届けると、そこには父親の帰りが遅いのを心配している娘がいた。初老の男は半死人のようにそのままベッドに直行する。しかし、翌朝早くよろよろ起きてきた男は反対する娘に勤め先の植物標本館まで車で送らせる。心配する娘が植物標本館に様子を見に再び訪れると、父親は職場でピストル自殺を図った後だった。
感想
「猿来たりなば」につづくトビーとジョージの”本格ミステリ”第2弾。
自殺したように見える死体は、本当に自殺なのか、それとも自殺にみせかけた他殺なのか?
何故「植物標本館」の鍵は窓の外に捨てられていたのか?
守衛が見たという机の上の手紙は、ほんとうにあったのか?幻なのか?
何故男は崖の上から身を投げようとしたのか?

謎は数々あるのですが、自殺でも、自殺にみせかけた他殺でも、誰が犯人でもよかったように思う。
おすすめ度:★★1/2
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大いなる救い 新潮文庫「そしてボビーは死んだ」改題・新訳

エリザベス・ジョージ著 ハヤカワ文庫 1998年 
あらすじ
ヨークシャーの片田舎の農場で、首を斧で切り落とされた農夫が発見される。死体を発見したカトリックの司祭は、農夫の娘ロバータが「あたしがやった」と言うのを聞く。しかし娘はそれっきり何もしゃべろうとはせず、心を閉ざしてしまう。
感想
予測できる謎ですが・・・・暗鬱。

名門貴族出身のトマス・リンリー警部と、労働者階級出身のバーバラ・ハヴァーズ巡査部長シリーズ第1作。
シリーズをさかのぼって読んだため初めてハヴァーズ部長刑事の家庭の秘密がわかりました。貴族出身、大金持ち、女に不自由のないリンリーを、ずんぐりむっくりのハヴァーズは心の底から嫌っている。リンリーはエリートのせいか、ハヴァーズを女性と見なしていないためかこの反撥がなかなか理解できない。このふたりが衝突しあいながらも、少しずつ絆を築いていきます。この意固地で攻撃的で心を殻で固く覆っているハヴァーズの造形がみごとです。「一寸の虫にも5分の魂」というけれど、実は一寸の虫は二寸も三寸も魂=プライドを持っているもんだと思う。
なお、作者のエリザベス・ジョージは英国人ではなくロサンジェルス在住のアメリカ人。
おすすめ度:★★★1/2
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