1999年11月のミステリ


長い雨 The Long Rain

1997年作 ピーター・ガドル著 中原裕子訳 ミステリアス・プレス文庫 432頁
あらすじ
35才のジェイソン・ダークは、父の残してくれた葡萄園に帰ってきてひとりで暮らしている。大学時代の恋人ジュリアと結婚し都会で弁護士になり、息子・ティムも生まれ幸せな生活をしていたハズなのだが、結婚生活も10数年を経て歯車がずれはじめ、今は妻子と別居をしている。
感想
思うに、人間は二種類に大別できるんだな。鬱的性向のある人とまったくない人と。
主人公はふさぎ込みやすい性質の持ち主で、読んでいるとその行動にいらだちを感じながらもわかるような気もする。この主人公のなんとも言えない不安や揺れる内面には共感できる部分も多い。神の存在など一切の宗教色を断ち切った物語が現代的だった。

考えるに、「これはこうだ。」とか「こうあるべき。」と大真面目に断じる事の出来る人というのは、本人がどんなに深く物事を考えている、本質をつかんでいるはずと思っていようとも、思考は単純なのかもしれない。物事がそう簡単にわりきれるだろうか。
おすすめ度★★★★
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凍てついた七月 COLD IN JULY

1989年作 ジョー・R・ランズデール著 鎌田三平訳 角川文庫 269頁
あらすじ
額縁屋のリチャード・デインは、ある夜家に忍び込んだ強盗に発砲され思わず射殺してしまう。殺した強盗には刑務所を出たばかりの父親ベンがおり、デインの一家を狙いはじめる。
感想
暗い。重たい。しかし、いい。
人生の残酷さに対し、文句言わず立ち向かいそして受け入れる姿勢がいい。導入部のシリアスさに「おおっ、作風が変わったのかっ」と思い、真ん中のキツイユーモアに「おおっ、いつもの調子やん」と思い、ラストの悲しさと過激さに圧倒されるという「作者の意のままに翻弄されてしまった」作品。
おすすめ度結構いいよ。★★★★
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手ごわいカモ The Mortal Nuts

1996年作 ピート・ハウトマン著 伏見威蕃訳 ミステリアス・プレス文庫 437頁
あらすじ
「アクセル・タコ・ショップ」のオーナー、アクセル・スピーターは73才。まだまだ元気だ。若い女が気になるのも、灰になるまで変わらない。友達の自動車修理工・サム・オゲァラも変わったヤツだし、大金持ちのミニ・ドーナツ屋「タイニー・トト」のトミー・ファビアンもトレーラー・ハウスに住む変わり者。昔なじみの三ジジとアクセルの女友達ソフィー、ソフィーのイカレポンチ娘カーメン、カーメンを遙かにしのぐイカポンチのボーイフレンド・ジェィムズ・ディーンが繰り広げる2週間の狂走曲。
感想
タコスってどんなお味なんでしょう。洋風お好み焼きと言われているらしいですが。他にもブリート、トスターダ、ナチョスやら涎のでそうな食べ物がいっぱい出てきてもうたまりません(^^)。ミネソタ・ステート・フェア2週間で一年分の純益が出るらしく、こっちの方もおいしそうな話。といっても、夏祭りの屋台で4時間焼きそば焼いて「気を失うな、きっと」と思っていた私には朝8時半から夜10時までの重労働はとてもムリ。でも2週間で純益600万円というのは魅力ですよねえ。食べ物商売というのはたいしたもんです。
米国ではエルモア・レナードやカール・ハイアセンと比べて遜色ないと評価されているそうです。おいしか面白かったよ。
おすすめ度★★★1/2
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ボーダーライン

1999年 真保裕一著 集英社 461頁
あらすじ
写真家を夢見てアメリカに渡ってきた永岡修は、12年たってみるとロサンゼルスで私立探偵をやっていた。信販会社のロサンゼルス支社の調査員で、日本人旅行者のトラブルを処理する毎日だ。そこに安田信吾という24才の若者の消息を捜せと日本の親会社から命令が発せられる。会社にとってはVIPの息子のようだ。7年前に家出した信吾がロスにいるとの情報をキャッチした家族からの依頼らしい。
感想
主人公・永岡修が両親とどういういきさつがあって、12年間も音信不通状態なのかわからない。そのため、永岡が安田英明にどうしてそこまで感情移入するのか理解不能に陥る。「いつか息子とアリゾナの大地で焚き火を囲み、語り合いたい。」という昔の丸大ハムのCMような永岡の願望も、「そうやって大事に育てても、大人になって親を見捨ててしまってもいいわけ? 息子は羽ばたいていったと喜べる覚悟なわけか。」とか意地の悪い事を考えてしまう。主人公は、いったいどういう考えで「家庭を持ち子供を持つ」のか理解不能に陥る。私には作者の意図が捉えきれない。

  女性を描くのは相変わらずヘタというか、私には不可解な人ばかりが登場する。感情に動かされるだけで理性がゼロの様。作者は謎に満ちた女性が好きなのかロマンチストなのか。

きまじめな作者らしく、丁寧に書かれているのには好感を持つ。ただ、その分いい訳じみて聞こえる所があり走行中の車がノッキングを起こしているみたい。敵の陣中に乗り込むシーンでは何度も「自分は冷静だ」という文章が出てきて「十分熱くなって欲しいんですけれど」とツッコミいれてしまう。パワーが不足していると感じた。

しかし、考えるに「神戸の少年の事件」の加害者の両親を、ある種擁護している作品とも読めるわけで、その勇気は評価したい。
おすすめ度★★★1/2
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