2000年10月のミステリ

泥棒は図書室で推理する THE BURGLAR IN THE LIBRARY

ローレンス・ブロック 1997年作 早川ミステリポケット 336頁
あらすじ
バーニイは彼女にふられた。それも手ひどく。親しい時間を過ごした後、イギリスびいきの彼女のために「ニューヨークから3時間、本物のイギリスの田舎の家」を売り物にしているカントリー・ハウス「バークシアヒルズ」への旅行に誘った所、予定があるという。その予定は?と聞くと「アタシの結婚式なの」という想像を絶した厳しいお答え・・・。
大いに傷ついた心を抱えたバーニイはそれでもホテルをキャンセルせずに、親友のキャロリンをつれて田舎へ向かう。理由は、その屋敷に今もあるだろうチャンドラーがハメットに贈ったという「大いなり眠り」の初版本だった。推定価値は二万五千ドル! 表向きの本屋の血と裏稼業の泥棒の血が騒ぐ。
泥棒バーニイ・シリーズ第8弾。
感想
雪で孤立した古い屋敷で、まず図書館で死体が見つかりその後も次々と死体が増え続けるというミステリファンには”うれしたのし”の小説。
ご察しのとおりアガサ・クリスティの「ねずみとり」と「そして誰もいなくなった」のパロディです。バーニイとキャロリンの洒落た会話と、こまっしゃくれたガキをはじめとした宿泊客の個性的な面々が楽しい。

唯一外界と繋ぐ吊り橋が落ち、認めたくはないけれど犯人はこの屋敷にいる誰かに絞られたようだ。浮浪者のせいだったらどんなにいいかと思いながら、みんなが集まってあーでもないこーでもないと議論している内にひとりで行動しない事が決まる。そこでハッとみんなで気づく。昼食の用意をキッチンでひとりしているコックは大丈夫か?
そこで、ホテルのオーナーのマイ・ハニー(奥さん)がやさしく言う。
「コックは大丈夫だと思うわ。何故ってコック以外全員ここにいるんですもの。」
おすすめ度:★★★1/2
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スクランブル

若竹七海 1997年 集英社文庫 285頁
あらすじ
1995年、結婚式で6人の高校時代の友人は再会した。懐かしいような辛いような15年前の日々を思い出している仲間達。忘れられないのは高校で殺人事件があった事だ。と思いに耽っている内に、その中のひとりが犯人がわかる。そうか、そうだったのか!
感想
読みながら関係図を色々書いて、「犯人当て」をがんばりました、1週間も。それでどうだったかと言うと・・・当たりました、最初のカンどおり。作者は実にフェアでした。あの1行にやはり意味があったかと思うと嬉しいし、作者はうまい!
ところが、あんまり嬉しくない。心情が哀しい。気持ちよく騙されたかった、というのがミステリ好きのへそが曲がった所でしょうか(笑)。

それぞれの個性を主張しながらも、自意識過剰で傷つくことを恐れ殻に閉じこもっている十代の頃を作者は卵に例え、コロンブスの卵の様に殻を破って独り立ちする事への恐れととまどい、そして殻が破れた事を下落した、世間に烏合したと見るのか? という事を厳しく自分自身に問うていた。辛い小説です。生きていくのは辛い事もたくさんあるんだという事を語る中で、ノスタルディックなストーリーながら作者自身が身を切られ血をだしているようだ。リアル。
おすすめ度:★★★★
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幽霊刑事

有栖川有栖 2000年 講談社 440頁
あらすじ
巴東署に勤務する神崎達也刑事は経堂課長に海岸に呼び出されなぜか、なぜか「すまん」と謝られながら射殺される。
それから一ヶ月後訳が分からずこの世に思いが残る神崎刑事はこの世に舞い戻ってきた。幽霊となって。
感想
「ずっとお前を愛してる」・・・ねえ(ため息)。
途切れた愛は美しいままなのよ。結婚して山アリ谷アリ過ごして金婚式あげてからそんなセリフは言ってくれる?という気するし、シュチエーションそのままの映画「ゴースト ニューヨークの幻−GHOST−」をこの本の中で「甘い映画」って言っているわりには、ほんと蜂蜜のように甘い話でもあるけれどもなかなか面白かった。

なにしろ映画でウーピー・ゴールドバーグが演じていた霊媒役と同じく「イタコの孫」の早川刑事のキャラがいい。あの映画のウーピーもよかったもんね。それと映画の中でSUBWAY(地下鉄)に居着いた先輩ゴースト役と同じく作中の先輩ゴーストもなかなか印象的。映画の先輩幽霊さんは、長身で目の下のクマがいかにも幽霊らしかったヴィンセント・スキャヴェリって俳優さんらしいです。映画「アマデウス」ではサリエリの従者役だった人。「カッコーの巣の上で」でも患者のひとりだったと思う。「カッコー・・」はダニー・デビートも患者のひとりだったので驚きましたが。

銃マニアの佐山刑事が「ポリス・アカデミー」のいきりの拳銃マニアのキャラと似ていて、色々な映画を思い出せてアタシは楽しめました(笑)、この作品。
おすすめ度:★★★★
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