1998年8月のミステリ

グリシーヌ病院の惨劇  1997年度コニャック・ミステリー大賞
ジャック・バルダン著 読売新聞社 長島良三訳 1997年
あらすじ
ニースの老人医療センター・グリシーヌ病院で91才のローズが殺害される。11カ所もナイフで刺されるという残忍な殺し方だった。初めての事件に張り切るアンドリュー刑事と定年まで後2年「解凍したマンモス」のアルソノー刑事が事件にあたる。
感想
<コニャック・ミステリー大賞>ってなんだんねん? 刑事物? 違うあれはコジャック。 コンニャクでもなし。 フランスの新人による未発表作品しかも本格物ミステリのみに与えられる賞らしいです。

なかなかエスプリのきいたというか、皮肉に満ちたというか、パロディ化されていて面白かったよ。話そのものよりも構成が。風変わり。 本格ファンの感想を読みたい。
訳者あとがきには「本格ミステリーで何よりも重要なのは、事件の解決にあたる人物のキャラクターだ。それが作品を生かしも殺しもする。」と書かれていました。へええ〜。
「アガサ・クリスティ」が度々引き合いにだされるんやけど、さぼてんの好きなあるクリスティ作品に似たトコある(ような気がする)。

日本のサントリー・ミステリ大賞に外国からの応募があったと思う。「死がおまちかね」だったかな。ドラマ化は市原悦子さん、酒井和歌子さんでてはったような覚えが。原作はおどろおどろしくて面白かった。日本の本格物新人さんからも「コニャック・ミステリー」に応募があったらいいのにね。フランス語で書かないとだめなのかな。
おすすめ度:フランスでの本格談義ありということで★★★1/2
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夢からさめても CONFESSION ナンシー・ピカード著 ハヤカワミステリ文庫 宇佐川晶子訳 1994年作
あらすじ
「運命は前触れもなくドアを叩く。」
ジェニーの愛する夫ジェフの息子だとなのるティーン・エイジャーが突如ふたりの家に襲いかかってくる。反抗期まっただなかの少年は、「育ての父が母を殺して自殺したのは、何かのまちがいだ。償いのために証明しろ」と難題を警察官のジェフにつきつける。
感想
「涙のマンハッタン」に続くジェニー・ケイン・シリーズ9作目 
子供が欲しいジェフに対して、子供は欲しくないジェニー。いつまでもふたりっきりでいたい。これから始めたい仕事も計画中。しかしジェニーも35才になり体内時計のチクタクとした音も気になる。そこに突如現れた16才の息子。心当たりのあるジェフはとまどいながらも内心の喜びを隠しきれない。

このシリーズは、おしどりコンビが事件を解決するという体裁をとりながらも根底に流れているテーマは家族

会社の同期入社に「赤ちゃんを妊娠している状態が好き。」と言ってのけた子がいたけど(今は3人の子持ち専業主婦)、そういうタイプではなく子供はいらないとまでは決心できないけれど、迷う人の場合話は難しい。<<当事者は二人だし。母親だけが育てるもんでもなし。
おすすめ度:もう少し短かったら、もっとよかった。★★★
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引火点 FLASH POINT リン・S・ハイタワー著 講談社文庫 小西敦子訳 1997年
あらすじ
公園で車のハンドルに手錠でつながれた若い男性が、ガソリンをかけられ火をつけられるという事件が起こる。シンシナティの特別捜査官ソノラ・ブレアは瀕死の被害者から犯人がブロンドの小柄な女性だと聞き出す。
感想
 「殺しの儀式」と同じくストーカー物。自分で選んでてなんなんですけど、ちょっと食傷気味。犯人と捜査官の間に奇妙な絆がうまれる所もよく似ている。こちらの方が派手です。

余談ですが「殺しの儀式」や 「氷の家」といい女性作家が書く本には「男と女の対立の構図について議論をする」場面がよくでてきます。本書もそう。作者が書きたいのか読者が読みたいのか。「家の外で働いてお金を稼ぐ女性」にとっては、まあ実際そうやねんやろなあと思いながらも、その部分、私にはもうちょっと量が少なくていい。
だいたい、このストレートな書き方で男の人は読むねんやろか。もし押しつけがましく感じられて読まないとしたら、ますます「男と女のいい分」について認識のズレが大きくなるような気がするなあ。>>男、女とおおぐくりにする所からして大ざっぱやん。とは言いながらも、「週間新潮 櫻井よしこ・林真理子特別対談 日本の危機といまそこにある男と女の危機」どんなかな? やっぱり女の人同士の対談なんやねぇ。
おすすめ度:★★★
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マジックミラー
有栖川有栖著 講談社NOVELS ページ 1990年
あらすじ
滋賀県の余呉湖畔にある別荘で女性が殺害される。犯人は夫ではないか? しかし、夫は博多に出張中だった。夫には一卵性双生児の弟がいるが、弟の方は酒田に出張中という二人ともに出来過ぎたアリバイがあった。
感想
アリバイ崩し物。作者はかなり時間をかけて考えられたと思うので、読み手の私も10日くらいかけて読みました。まじめにじっくり考えたので1つ目のトリックは解けましたが、2つ目は完敗。

アリバイ講義がおまけについていました。どちらかというとこれが書きたかったのかな。力作だと思います。が、最後の「ミステリとは・・・」からがわかりにくい。本書の動機の弱さのいいわけかも(笑)。まあ元々作者の文体とはあわないんですけど(大層やねん。ねちこいねん)。努力、工夫は感じられるんやけど、ユーモア感覚がだいぶちゃうというかなんというか。作者に「もう読むな」っいわれるかなあ(笑)。

マジックミラーの「彦根一の二枚目」の喫茶店は実在したんとちゃうかな。彦根で床屋をしている従兄弟の話にでてきた事があるような気がする。ガセかもしれません。が、その時に「何故、彦根一の美女ではなく二枚目」なのかは「女の人はコンパクトを持っているからいつでも鏡が見れる」ではなく、伯母、母によると「男の人の方がナルシストが多い」という結論でした(^_^)。
おすすめ度:★★★
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複製症候群
西澤保彦著 講談社NOVELS 257ページ 1997年
あらすじ
天から降ってきた直径500mほどの筒(ストロー)に閉じこめられた高校生達。世界各地で同様の異変が起こっていた。ストローの壁に触れると、触れた人間とまったく同じコピー人間があっという間にできてしまうのだ。
感想
「人間を描く事に興味はない」と言い切る作者にしては、メッセージ色が幾分強いような気がする。これって、唯一無二のはずのアイデンティティが揺るがされるって話でもあるんじゃないかなあ。 「人格転移の殺人」と似ていますが、「人格転移の殺人」は偶然一つの場所にいた赤の他人にたいし、「複製症候群」は同級生、そして高校生ということもあり少し暗い。

とはいえ、いつも通りの荒唐無稽な話はおもしろい。昔見たアメリカのTV番組「アウター・リミッツ」に、宇宙人が持っていたお饅頭みたいな装置を科学者の夫のために奪った妻が、天から地までつらぬく透明なストローに閉じこめられる話を思いだす。死ぬ間際の宇宙人がそのストローを解除するんやけれど、そして見えなくなるんやけれど、やはり若妻はそこから出ることができないのだ。恐い話。

贔屓の作者なのですが、本格物の”あだばな”かもしれないと思う。別に”あだばな”でも”トナカイのはな”でもえーんですけどね。晩年のクリスティが「探偵役を自然に登場させるのが難しい時代」と言ってポワロ物が書きにくくなったと言ってはったらしいけれど、これだけSF的なウルトラ・シュチエーションを設定しないと本格物は書きにくいのかもしれない。
おすすめ度:★★★1/2
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天から降ってきた泥棒
ドナルド・E・ウェストレイク著 ミステリアスプレス 337ページ 1985年 木村仁良訳
あらすじ
泥棒ドートマンダーは盗みに入ったビルで警報器が作動し、逃げる途中善意のペンギン達・・・ではなく尼さん達に助けられる。借りを返すため王国もどきの重警戒を誇る塔のようなビルの最上階に監禁されている姫・・ではなく尼僧を救うべく仲間を集めビルに侵入する。
感想
ハリー・ディーン・スタントンねぇ。映画「ホット・ロック」の影響でドートマンダーといえば、ロバート・レッドフォードを思い浮かべるんやけど、なるほどねえ。−−−って独り言は、「作者のウェストレイクによるとドートマンダー役にぴったりなのは、ハリー・ディーン・スタントン」と後書きに書いてあるのを受けてのつぶやきです。そういや、リヴィング・ルームにいるドートマンダーとメイは、「シーズ・ソー・ラヴリー」のスタントンとデビ・メイザーのツーショットがぴったりはまる。
映画「ホワイ・ミー?」のクリストファー・ランバートはイメージがちゃうかった。映画自体もちょっとずれてたのは、ドートマンダー物は出演者みんながおふざけしているわけではなく、普通にごくまじめに行動してておかしいんやから。
厳重に警戒されたビルに侵入した凹凹凹一味がオフィスでい眠っている所をドートマンダーが起こす目覚めの場面、ドートマンダーが「これが自分の手で選び抜いた連中なのか」・・・「この手で」・・と「じっと手を見る」所、おかしい(^^)。爆笑というより、全編クスクス笑い。

※ハリー・ディーン・スタントンは、「エイリアン」では整備士、「潜望鏡をあげろ」でも整備士、「ニューヨーク1997」では金髪のブレイン、「パリ、テキサス」ではなんと主役、「ワイルド・アット・ハート」ではニコラス・ケイジを追っかける役だったヤレヤレってな疲れた感じの俳優さんです。
おすすめ度:★★★★
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殺しの儀式 The Mermaids Singing 英国推理作家協会(CWA)最優秀長編賞(ゴールド・ダガー)
ヴァル・マクダーミド著 集英社文庫 548ページ 1995年 
あらすじ
英国中部の地方都市ブラッドフィールドで、8週間おきに男性4人のむごたらしく拷問された死体が見つかる。副本部長ブランドンは警察内部の反発にもかかわらず、プロファイリング(犯人像割り出し)のため心理学者のトニー・ヒルを捜査に迎える。
感想
サイコ・キラー物といっちゃあ聞こえはいいですが、悪趣味な猟奇殺人物です。英国には趣味の悪い人が多いらしくゴールド・ダガー賞受賞(笑)。しかし、ラストの描写など、残忍で歪んだ心ながらも悲しい話でもあります。アメリカ版サイコ物とは一線を引いているような気がする。

警察の地道な捜査と殺人者のサディスティックな手記が交互に描かれ、犯人を追う心理学者のトニー・ヒル自身大きな問題をかかえているという二重三重の緻密な構成の作品。原題の「The Mermaids Singing」はとてもよい題名だと思う。
おすすめ度:う〜ん★★★1/2
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