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2002年秋の新作映画メモ

『インソムニア』 『ジャスティス』 『クイーン・オブ・ザ・ヴァンパイア』

『9デイズ』 『トリプルX』 『サイン』

『チョコレート』 『ジェイソンX』 『スナイパー』

『ミーン・マシーン』 『ロード・トゥ・パーディション』 『マッスルヒート』

『スズメバチ』 『クライム&ダイアモンド』 『ザ・リング』

『ラストキャッスル』 『モンテ・クリスト伯』

『インソムニア』

 監督:クリストファー・ノーラン
 出演:アル・パチーノ ロビン・ウィリアムズ ヒラリー・スワンク

 北欧映画をノーラン監督がリメイク。『メメント』はフロックか否か?

 白夜のアラスカで起きた猟奇殺人。被害者の少女は髪を洗われ爪を切られていた……。ロスアンジェルスからやってきた刑事ドーマー(アル・パチーノ)は、相棒と共に事件の捜査にあたる。だが、相棒エクハートが自分を内務監査との取り引きの材料にしようとしていることを知り、ドーマーはやがて自らの過去と、それによる失職の恐怖に襲われ不眠症になる。そして、殺人犯を待ち伏せした現場でドーマーは誤ってエクハートを射殺してしまう。真実を知られまいとするドーマーのもとに、少女殺人犯フィンチ(ロビン・ウィリアムズ)が現れ取り引きを持ちかけ、お互いの無実を偽証しようとする。だが、地元の刑事エリー(ヒラリー・スワンク)はドーマーの行動に不審を抱き、徐々に真相に迫ろうとしていた……。

 何かと実験性ばかりが先走った印象のあった『メメント』は、面白かったのですがそれ故に物足りない作品でもありました。しかし監督の技量のほどは証明され、さて今度の新作では斬新さばかりを追い掛けず、シナリオの面白さでも勝負して欲しい……な〜んて勝手に期待してたりして。

 今作はほぼ主人公のアル・パチーノ刑事の視点で統一。全体に地味ですが、主人公を取り巻く状況と心理の変化がじっくりと描写され、飽きさせません。この時点でもう『メメント』と全然違いますね。淡々と進む展開と、登場人物同士の騙しあい、それに伴うさらなる事件。これが撮れるならノーランの未来は明るい? 「斬新さ」というパンチには欠けますが、適度に重みがあって楽しめます。演出も舞台設定を上手く生かしており、まとまってます。

 その舞台は白夜のアラスカ。年がら年中明るいままで、飛行機で着水しなければ来られないド田舎。水上の材木置き場のシーンとか、観てるだけで心臓マヒ起こしそうな寒そうさ。ずっと昼にも関わらず、随所に光と闇のコントラストを感じさせたところも感心しました。

 役者陣も、アル・パチーノは出色の出来。不眠症自体はメイクと間の持たせ方の方に軍配が上がりますが、どちらかというと物静かな刑事を抑えた演技で見せ切ります。最近は力の入り過ぎた演説好きのキャラばかりやってる印象がありましたが、やはり実力派だったんですね。いつ怒鳴り出すかと冷や冷やしましたが、最後まで渋く通しました。『マリー・アントワネットの首飾り』以来のヒラリー・スワンク、パチーノ刑事を尊敬する田舎刑事役ですが、これも好演。尊敬が徐々に不審に変わる様を巧みに表現。オスカーは伊達じゃないっす。ロビン・ウィリアムズの悪役は……まあまあかな。

 ラストもちょっとぐっと来ます。話題にはなりそうもない映画ですが、渋めで良し。サスペンスファンならなかなか楽しめます。

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『ジャスティス』

 監督:グレゴリー・ホブリット
 出演:ブルース・ウィリス コリン・ファレル

 アメリカでは大コケしました。第二次大戦ネタ映画。

 若き中尉ハート(コリン・ファレル)は、議員である親のコネで安全な任務についていたが、ある日の上官を移送する任務でドイツ兵に捕われる。拷問を受け味方の補給路の情報を吐き収容所に送られたハートは、同じく収容所に囚われたマクナマラ大佐(ブルース・ウィリス)に裏切りを見破られてしまう。士官であるにも関わらず兵士専用の宿舎に入れられたハート。その兵士宿舎に、今度は黒人のパイロットの捕虜二人が送り込まれてくる。人種差別主義者の攻撃を受ける二人をかばうハートだが、それも空しく一人が罠にはめられ、ナチスによって処刑される。だが、罠にはめた男自身がある日、謎の死を遂げた。疑われる残った黒人パイロットを救うため、収容所内で擬似的に行われる軍法会議の弁護人になるハート。だが、その茶番劇の裏で、マクナマラによるある計画が密かに進行していた……。

 ドイツ軍の収容所からの脱出と言えば『勝利への脱出』という作品がありました。今作も舞台が同じということで、基本的にあれと同じ話です(嘘)。ま、それは冗談としても映画のカラーが違う分、収容所の待遇なんかも幾分過酷に描かれていますが、大差はありません。アウシュビッツをネタにした話に比べれば、アメリカ人兵士は待遇が良すぎて真剣味に欠けるんですよね。戦争ってのがいかに政治的行為なのかよくわかります。下らないですが、それでもその領域を逸脱した愚行よりは遥かにましなんですがね。

 とはいえ温い展開になりそうなところを、いいタイミングで爆撃だの殺人だのが起きるのでまあまあだれません。ホブリット監督は色んな要素を詰め込むのが好きなんでしょうか? 収容所の宿舎の外で殺人が起きるシーンがあります。トイレの下の抜け道を通って脱出した男を、同じ道を抜けたもう一人が殺害、他に外に出た者はなし、周囲はナチに取り囲まれた収容所の外部私設……。こ、これはもしかして「密室」なんではないかと勝手に期待しましたよ。実際は違いましたけど……。

 邦題どおり「正義」がテーマらしいこの作品、軍人として優秀で勇気あるタフガイのブルース・ウィリスと、司令部勤めで臆病者のボンボンのコリン・ファレルの対比がキー・ポイントです。タフガイがしかし他人を犠牲にして自分は助かろうとし、ボンボンが最後は自らを投げ打って他者を救おうとする、ここらへんの展開は美しく決まりかけました。が、人が自分より目立つ事を許さぬブルース・ウィリスの目立ちたがり精神が、これをぶち壊しに! ラストは「自らすべきことを放擲しようとした人間が、他者の犠牲精神に打たれて改心し、それを為した」ということですが、ある意味やって当然。こいつほんまは逃げようとしててんで、と知ってれば敬礼も感動も出来ないと思うんですがね……。

 だいたい、計画が雑すぎる。やらせならもう少し上手い手があったような……。サッカーチームでも結成しとけば良かったのに(しつこい)。つまらなくはないが、正直底の浅い映画です。ごちそうさま。

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『クイーン・オブ・ザ・ヴァンパイア』

 監督:マイケル・ライマー
 出演:スチュアート・タウンゼント アリーヤ マーガリート・モロー ヴァンサン・ペレーズ レナ・オリン

 どれほどこの日を待ったことか、我が愛読書『ヴァンパイア・レスタト』『呪われしものの女王』、待望の映画化!

 永遠の追放者レスタト(スチュアート・タウンゼント)が、ついに復活した。ロックバンドの演奏を聞き付け、自らそのボーカルとなりスターダムにのしあがるべく現代に甦ったのだ。自らがヴァンパイアであることを告白し、闇の奥でうごめく眷属達をステージから挑発するレスタト。哄笑するトリックスターを葬ろうとヴァンパイア達が動き出す中、レスタトの熱唱を聞き付け、伝説の「呪われし者の女王」アカシャ(アリーヤ)もまた数千年の時を経て現代に甦ろうとしていた……。

 映画化の企画を聞いた時は半分小躍り半分ドキドキ、本当に好きな作品が映画化されるというのは、喜びも苦しみも共に味合わなければいけません。映画化には壮絶な失敗がつきものですからねえ……。そんな今作の最大の不安はなんであったかというと、まずキャスト! オレの最大のカリスマであるレスタトを演じるのは……スチュアート・タウンゼント! 皆さん、『シューティング・フィッシュ』っていう映画観ましたか? 口のうまい軽いやつと太めのメカオタクの詐欺師二人組が女の子(『パールハーバー』のケイト・ベッキンセールですよ)とトリオを組んで孤児院を建てる金を作ろうとする、青春もの映画です。けっこう面白かったんですが、なんとこの太めのメカオタクをやってた奴が我がレスタト様をやるという。何かの冗談かと思いましたですよ。ところが徐々にスチールやアメリカでの公開情報などが入ってくると……誰やこれは……別人ではないのか……。

 最大の心配ごとはあっけなく解消。後半上半身裸なのに、この無駄のないボディはどうだ! これはおすぎがほめるわけだ。他のキャストも悪くないです。アリーヤはまあまあイメージ通り。原作のあの能弁さはないですけど。ジェシー役の子はいまいちです。『飛べないアヒル』に出てたらしいですが……全然記憶になし。演技云々よりも単純にもう少し可愛い子がいなかったもんか? 他の吸血鬼達のほとんどは出番自体が少ないのでどうでもいいですが、驚かされたのはヴァンサン・ペレーズ演ずるマリウス。真面目なことを言いつつもどこか嘘臭く、厳格なようでいて実は遊び好きで、レスタトに対しては何でも「ダメ!」と言いながらもほんとは自分でもやってみたい、そんなずっこい性格が見事に表現されてしまっている! 大体赤い格好をしてる人が目立ちたがりでないわけがないのだ。圧巻のコンサートシーン、自らもステージに上がってしまうマリウスに、僕は彼の真の姿を見た。

 レスタトを作ったのがマリウスになっている点や、ラストの死者続出、カットされたキャラクターなど、原作からの数多い改変点はちょっといただけない。全てがレスタトの自伝として出版されているという設定などもオミットされているのが残念。もう少しメタフィクション的構成を取り、設定を変えずに単にカットすることは十分可能だったと思うのですが……。

 ただ問題点も多々ありますが、ヴァンパイアがロック界のスーパースターになってしまう類(ルイ?)を見ない意味不明さ、現代の悪にして永遠の反逆者たる我らがレスタトの魂は見事に表現された! 闇の眷属よ、姿を現せ! 共にこのライブに酔い痴れるのだ! 誰でも知ってる、知らなくちゃいけない、この世で最も光り輝く暗黒の化身を、ぜひ御覧ください。

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『9デイズ』

 監督:ジョエル・シュマッカ−
 出演:アンソニー・ホプキンス クリス・ロック

 冗談としか思えない企画、なぜクリス・ロックがホプキンスと共演?

 ソビエト連邦崩壊後、行方不明となっていたポータブル核爆弾が、プラハの犯罪組織によって売買されている。取り引きを嗅ぎ付けたCIAは伝説的諜報員ゲイロード・オークス(アンソニー・ホプキンス)と、腕利きのケヴィン・ポープ(クリス・ロック)を潜入捜査に送り込む。交渉はスムーズに進み、核を奪取する取り引きは十日後と決まる。だが直後にケヴィンは核を狙うテロリストに襲われ、ゲイロードをかばって死んだ。交渉を成功させるに不可欠なケヴィンを失ったCIAはある苦渋の決断を下す。それは生き別れとなっていったケヴィンの双児の弟ジェイク(クリス・ロック 二役)を短期間で工作員に仕立て上げることだった……。

 企画が無茶なら内容も無茶、双児ネタってのはどうしてこういう無理無理な設定になっちゃうのか。まあそれが醍醐味なんですが。落ちこぼれのダフ屋をやってた男が、ある日突然、エリートの兄の身替わりを強いられる。一種のカルチャーギャップものです。クリス・ロックと言えば『ニュー・ジャック・シティ』の裏社会で生き残るにはいかにも喋りすぎなガキ役でデビュー、日本ではあまり作品が公開されてませんが、ユルユルで退屈だった『リーサル・ウェポン4』で間をもたせるためのお笑い役をやってました。要はしゃべりがキーポイントの俳優です。

 そんな彼がこんな核爆弾がらみのシリアスな作品にでて、コメディと縁遠そうなホプキンスと共演って……大丈夫かいなと思いましたが、蓋を開けてみるとやっぱりコメディでした。出た瞬間からずーっと喋りっぱなしのクリス・ロック。訓練中もしゃべり任務が始まってもしゃべりカーチェイス中もしゃべり延々減らず口を叩き続ける。ホプキンスとはもう一つ噛み合ってませんが、しゃべり自体のテンポはいいし楽しく観られます。こういうシリアスとギャグの狭間を行く作品って最近ちょっと減ったように思います。国際情勢が映画のネタにするには重すぎるものになりつつあるのも一つの要因でしょうが、作り手側も安易に他国をおとしめないバランス感覚を獲得しつつあるとも取れるのではないでしょうか。だとしたらちょっとした快挙なんですが。しかし最近悪役が個人レベルの犯罪組織ばかりになって、なかなかスケールの大きな作品は少なくなってきましたねえ。

 どうも日本じゃクリス・タッカーとクリス・ロックの区別がつかない人が多そうで心配です。個人的にはロックの方がはるかにいいと思いますが。そうみどころがあるわけではないですが、何も考えずに楽しく観られる映画です。まあこういう映画を楽しむ文化が日本にはないですから、ヒットはしないでしょうが……。

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『トリプルX』

 監督:ロブ・コーエン
 出演:ヴィン・ディーゼル アーシア・アルジェント サミュエル・L・ジャクソン

 最近、年に一本観られてますね、ヴィン・ディーゼル主演最新作!

 ぶっつけ本番で危険なスタントに挑み、それを自ら撮影してネットで売り捌く男、ザンダー・ケイジ(ヴィン・ディーゼル)! だが、議員の車をスタントで叩き潰したことから警察に目をつけられてしまう。逮捕された彼に、驚くべき事にNSAが接触。彼の適性をテストし、シークレット・エージェントとして使いこなそうというのだ。プラハのテロリストのもとへ潜入したザンダーは、裏の世界でもビデオが売れていた事からあっという間に組織に入り込む。だが、テロ組織の内部ではNSAの想像さえ超える恐るべき計画が進行していたのだった……。

 『ピッチブラック』でオレ的にはスーパーヒーローとなり、『ワイルドスピード』もそこそこ面白かったヴィン・ディーゼルが今年もまたやってきてくれました。なんだか毎年作品のスケールが大きくなり、アメリカではどんどん人気が出てるみたいでよろこばしい限りです。ただ、日本での認知度はどうも低そうです。前二作も別にあたらなかったしねえ……。

 さてさて、今までのスパイ映画を超える非常に斬新な設定が、この作品には隠されているそうです。ヴィン・ディーゼルと言えばスキンヘッド、ごつい身体、入れ墨。新コンセプトは「めっちゃ目立つスパイ」……それってスパイなんですか。全然正体を隠さずに本人として潜入する主人公、なるほどここまで堂々としてたらかえって騙されるのかも? しかし素人を無理矢理スパイに仕立て上げ、チェコのプラハのテロリストのところに潜入させる……ってどっかで聞いたような話だなと思ってたら、『9デイズ』とまったく一緒の話ではないか。まあ普遍的な設定と言う事で……(笑)。

 アクションはなかなか派手で、スタントマンという主人公の設定もそこそこ生きているし、まあまあ楽しめます。が、主人公がなんでわざわざスタントマンやってるのか、とか、キャラクターに関する部分が何も描かれないので、いささか退屈でもあり。その点前二作の方があれでまだ深みがありましたね。もっと最悪のワルが主人公なのかと思ってたのに、せいぜい盗難と器物損壊ぐらいの罪ではないか。ワルと言えば、ダリオ・アルジェントの娘アーシア・アルジェントがヒロインというのにも驚き。この女がまた親父譲りの悪夢のようなホラー顔。これはとんでもないワルに違いない……と思いきや、これもそんな悪人ではありませんでした。残念。入れ墨は本物だそうで、やっぱりデンジャラスでしたが。

 物足りない作品ですが、見てる間はそこそこ退屈しません。が、『エネミー・ライン』ほどではないですが、これも同じ病にかかってるのかも……。

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『サイン』

 監督:マイケル・ナイト・シャマラン
 出演:メル・ギブソン ホアキン・フェニックス マイケル・ナイト・シャマラン

 シャマラン監督、待望の第三作!

 予期せぬ交通事故から妻を失い、信仰を捨てた元牧師ヘス(メル・ギブソン)。二人の子供と弟(ホアキン・フェニックス)とともに農業を営む彼の畑に、突如謎のミステリーサークルが出現した。そして農場の周囲に起きる不思議な出来事……。それは何の「サイン」なのか?

 とにかく先に観た奴にネタばらしされないために、わざわざ職場のテスト試写で見ました。本格ミステリ映画『シックス・センス』と仮面ライダー誕生秘話『アンブレイカブル』の二作に続き、今度はどんな衝撃的作品を持ってくるのか? 期待に期待しましたよ、ほんと。しかし今回シャマランがスクリーンに提示してくれたのはまさに腰がへなへなになるような代物だったのです。

 メルギブとホアキンが兄弟で、息子がカルキン兄弟の第三の男ローリー・カルキン。まず全然血が繋がってるように見えないこのキャストが痛かった。演技でまあまあもたせますが、いくらなんでも無理あり過ぎ。しかし画面上にはほぼこの親子しか登場しないため、こいつらに延々つき合わねばならない。これが疲れる。しかも全員深刻な顔。シャマラン監督のいつもながらの思わせぶりかつ重厚な演出がよりいっそう拍車をかける。

 今作の主題は「ミステリーサークル」。宇宙人の侵略の前触れとか言われたあれですね。話が進むにつれ、UFOが上空に現れ、やがて宇宙人が侵略攻撃をかけてきます……え? 『インディペンデンス・デイ』じゃあるまいし、嘘だろうって? いや、違います、ほんとなんです。ミステリーサークルはUFOの着陸のための誘導用目印で、そのUFOこそ画面上に出てきませんが実際に宇宙人がメルギブ一家に攻めてくるのです。「UFOなんてあるわけねえし、最後はどんなトリックが明かされるのだろう、ドキドキ」と思ってみてたらそのまんまだったという、笑えるものです。ここらへんは私とアメリカ人のUFOに対する捉え方の違いが如実に出た部分でしょう。作品内で絵本で説明される「グレイ」に代表される宇宙人とUFOのストーリーは、アメリカでは非常にポピュラーであり土着的なものです。ましてや田舎者にはなおさら。観ているこちらにはピンと来ませんが、あちらの人たちにとっては普遍的な題材であり、それは前述の『インディペンデンス・デイ』を含むエリア51関連の映画の圧倒的な多さを考えればはっきりしています。

 そんなわけで画面上に宇宙人が登場し、暗闇の中で家族に牙を向くのです。手から毒ガスを吐いて襲い掛かってくる宇宙人を果たして撃退できるのか? え〜なんで宇宙人は宇宙船や武器を使わずに攻撃してくるのか、なんて事はどうやら言っちゃいけないようです。これはひと昔前のB級作品なんですよ。理屈に合わないところは予算がないから無視しなきゃいけないのです。そしてまたそれと同時に、この宇宙人は先の普遍的寓話に基づいた存在であり、あらかじめ規定されたストーリーの中のコマなのです。それこそ大昔からこういう設定なので、まずそれを前提に観なければなりません。登場人物全員が否定しながらもどこかで宇宙人を信じているのが、その証拠です。宇宙人を全否定する視点がないので、この映画にはトリックが存在する余地のないこともわかります。

 人類最後の日に襲来する絶対悪である宇宙人。さて、それと並立するもう一つのテーマが、主人公が信仰を捨てた牧師であるという点。交通事故によって妻を失った彼は、自らの運命を呪い、それをつくり出した「神」を呪い、信仰を捨てます。しかしその妻が死の間際に彼の元野球選手である弟に残した言葉……「打って!」だけはずっと胸にひっかかっていました。そしてついに宇宙人に追い詰められたその時、彼の脳裏にその言葉が甦ります。彼は壁に掛けられたバットを見つけ、弟に告げます。「打て!」。バットを握り宇宙人を殴りつけるホアキン! そして殴られた宇宙人は倒れた拍子に汚い水が嫌いな娘が置きっぱなしにしていた水をかぶってしまい、苦しみます。なんと宇宙人は水が弱点だった! そして喘息持ちだった息子は発作を起こしていたことから毒ガスを吸い込まずにすみ、助かります。これはいったい偶然なのか? 違う! これこそが運命なのだ! 妻の死すらも今日我々が救われるための運命だったのだ! そうして主人公は信仰を取り戻し、再び牧師となります。終。

 ……………………これもまたキリスト教などこれっぽっちも理解していない私には、所詮アメリカ人のようにはわかりえない題材なのかも知れませんが………………………しかしやっぱり聞いてみたい。これ観て「神」とか「運命」とかほんとうに信じられるんですか? 

 よくアクション映画にあるんですが、悪役と戦ってた主人公が殴られて倒れ込む。するとそこに運良くバットが転がっているわけです。ラッキー!とばかりに主人公はそれを拾い、悪役に一発かます。まあよくある御都合主義です。……これを神様のおかげとか言われてもねえ……。御都合主義と書きましたが、上手な脚本家や監督なら、そこにバットがある必然性を伏線として盛り込み、不自然でない状況をあらかじめ作り出しておくでしょう。それが映画というものであり、優れた映画ならば当然の事です。……そんなあたりまえなことを映画のオチにされても困るんですけど……。普段何気なく流してることを、突然すごいことのように言われても戸惑うばかり。だいたいフィクションでいくら「運命」を演出してみせても、それは所詮作りごとに過ぎないのですから、都合のいい結末が待っているのは当然。驚けるはずがない。そこは観客をいかに物語の世界に引き込むかにかかっているのでしょうが、「宇宙人」にも「信仰」にも「似てない家族」にもリアリティをそもそも感じてないこちとらには、入り込めるはずがなかった。子供向けのおとぎ話の世界の薄っぺらさばかりが際立ちます。御都合主義を「神」の名の下に肯定し、幾多の映像作家が常に心を砕いてきたリアリティ作りを「運命」の名の下に大仰に誇大化してみせた、シャマラン監督の罪は果てしなく重い。

 作劇という点ではもちろん、いとも簡単に「神」や「運命」を肯定する神経にも鳥肌が立ちます。弟も子供達も自分も運命によって宇宙人から救われた→だから神は存在する。この映画の中で提示される論理と言えば、たったこれだけのものです。なんと安直きわまりない発想なのか。作中で、世界中が宇宙人によって襲われたことが語られています。それでいったい何人の人間が死んだのか? 提示はされませんが少ない数ではないでしょう。その死んだ人間に対してもメルギブ牧師は「あなたが死んだのは運命だ」とでも告げるのでしょうか? 死んだ人間の家族に対して「彼が死んだのは運命です」とでも告げるのでしょうか? 主人公さえ生き残ればそれでよしなハリウッド的作劇を、これまた神の名の下に肯定。死が無駄になっていないと考える理屈は生きている者には都合がいいが、これに自分さえよければそれでいい、恐るべき利己的な発想をここでも感じてしまうのはどうしたことか。

 そもそもかつての『アンブレイカブル』において、シャマラン監督は生まれつき骨がもろくまともな生活の出来ない男を登場させ、安易なハッピーエンドと対極にある不条理を描きました。その不条理の中から脱出しようと自己を求めてあがく男が、闇に落ちて行った姿を描き、子供に尊敬されてヒーロー気取りになった男とえせヒューマニズムに冷や水を浴びせかけました。ヒーローを題材に取ったはなはだ非日常的な物語でありながら、「現実」の残酷さを見事に描いてみせたのです。ところが今作では、前作であれほど嘲笑してみせた御都合主義とヒューマニズムを全面的に肯定する内容。同じ人間が撮ったとは思えません。

 期待しました。そしてものすごくがっかりしました。単なる商業監督になったということなんでしょうか。今年のワーストです。

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『チョコレート』

 監督:マーク・フォスター
 出演:ビリー・ボブ・ソーントン ハル・ベリー

 いやね、たまにはね、バカ映画ばっか観てないでね、ちょっと真面目な映画でも観てみようかと思いましてね。

 刑務所で看守を勤める男。父、そして息子と三代で看守を続けている彼は、ある日死刑囚の連行の際にゲロを吐いた息子を罵り、結果として自殺に追い込む。衝撃を受けた彼は、事故で息子を失った黒人女性と知り合い、慰めあう事で恋に落ちた。だがその女は、彼が執行した死刑囚の元妻であったのだ……。

 とりあえず冒頭から全然共感を呼ばない主人公、ビリー・ボブにあぜんとします。ド田舎の家で父親と息子と同居。すでに女房には逃げられている。父親はよぼよぼの年寄りだが絵に描いたような人種差別主義者。主人公はきっちりその教えを受け継ぎ、家の敷地を通った子供や同僚を「クロ」呼ばわり。息子はそんな父親を嫌っている。そういう最低男が主人公で、いったいどんな展開が待ち受けているのか……?

 取りあえず、あえなく自殺する息子(よわっ!)。田舎やクソみたいな家なんか飛びだしゃいいのに、ピストルで胸をぶち抜くあたりは『ダンサー・イン・ザ・ダーク』級の御都合主義。しかしまあこうでもしないと話が展開できないらしいので、そこには目をつむるとして……。息子の死によって主人公はさっさと改心。彼なりになにか考えたらしく、「クロ」発言もめっきり影を潜めます。ここらへんはなんの説明もないんですが、とりあえず「息子が目の前で自殺した」ということには人生を一変させるほどのインパクトがあったと、そういうことらしいです。

 でもって傷心で車を流していた夜の田舎道で、車にはねられた黒人の子供を発見。泣き叫ぶ母親とともに助け出します。……が手当ても空しくその子供は死亡。息子を失った二人はお互いに慰めを見い出す……。でもって観てるこっちには冒頭の死刑シーンの受刑者の家族が、この助けられた二人だとわかっているわけで、そんな偶然があるんでしょうか、と。まあそうしないと話が進まないので。

 この黒人の子供が、もの凄いデブでした。しょっちゅうチョコバーを齧っている。母親はダイエットをさせようとしているが、夜中にこっそり食っているので効果なし。見つかりそうになったらそれを枕の下に隠す! もうこの枕の下にチョコバーを突っ込んだ時点で目を覆いたくなるのですが、それを見た母親もプッツン! 「このブタ!」「クロブタ」「ブクブク太りやがって!」「死んじまえ!」とののしり、どつきまくる。なかなかショッキングです。このシーンが一番面白かった。その直後に息子は車にはねられ、あっけなく死にます。ここらへんのののしりシーンが、彼女が息子の死に対して罪悪感を抱くポイントとなるわけですね。

 というわけで息子の死に罪悪感を抱く者同士……という共通の図式が出来上がるわけですが……? 事故で亡くした者と、自殺に追い込んで殺したも同然の奴を、そんな同列に扱っていいのかな? 恋に落ちて再び幸せ一杯の主人公、実は嫌っていた父親を施設に放り込み、さっさとおさらば! この身勝手さには愕然とします。主人公の息子は祖父と同じ事を繰り返して恥じない父親を憎み、しかし父親を殺す事は出来ずに自分自身が死ぬところまで追い込まれていったのですが、主人公はあっさりと父親を葬り去って恥じることを知りません。この論理で行けば、息子は主人公を撃ち殺して幸せになるべきだった、ということになるんですが……。今まで散々父親と同じ事をやってきたくせに、驚くべき虫の良さです。

 親父を抹殺し新居に女を迎え入れ、さらに幸せ一杯の主人公。しかし映画はこれで終わりません。まだ冒頭のヒロインの元旦那を死刑にした伏線が残ってます。果たして彼女は、主人公が元夫を死刑にしたという事実にたどりつき……なにもしません! 終。死刑になる前に最後の親子の面会シーンがあるのですが、もう完全に仲はさめ切っており、死んでもさして感慨はないことが描かれてました。だから最後に真相が明らかになっても、「運命の不思議」を感じるだけで、だからどうだという事は何もなし……じゃあ設定の意味がないがな! 死刑っちゅうのは電気椅子だったので、ハル・ベリーがビリー・ボブに電流を流すラストを期待したんですが……。

 改心すれば全て忘れて幸せになってよし、という発想には結構虫酸が走るものがありますが、まさに豹変する主人公の態度には驚きです。息子が死んだからってどうしてそれが黒人差別をやめる理由になるのか? さっぱりわからん。脚本がそこんとこを何も描いていないので。いつヒロインに「このクロめ!」と昔の癖で叫ぶか期待したんですが……。

 アホくさい映画でした。見て損した。

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『ジェイソンX』

 監督:ジム・アイザック
 出演:ケイン・ホッダー デビッド・クローネンバーグ レクサ・ドイグ

 今回はタイトルにちょっとインパクトがありますか? シリーズ第十弾!

 21世紀初頭、クリスタルレイク研究所に囚われていた不死身の殺人鬼ジェイソン(ケイン・ホッダー)は、彼の超再生能力を利用しようとする軍の手から脱出するが、科学者によって冷凍保存されてしまう。そして西暦2455年。人の住めない環境となった「第一地球」にやってきた学生たちが、凍り付いたジェイソンと科学者を宇宙船に回収。解凍されたジェイソンは、新たな生け贄を求め、宇宙空間でさらなる殺戮を開始する。

 恥ずかしながら(別にちっとも恥ずかしくないか)『十三日の金曜日』シリーズはパート1と9しか見ておらず、それゆえこの名前だけはあまりにも有名な「ジェイソン」というキャラクターに関しても、まったく思い入れがありませんでした。しかし今作は、もう設定からしてバカ全開。わくわく気分で見に行ったのです。

 冒頭の現代の研究所のシーン、いきなり拘束状態から脱出を遂げるジェイソン。ここらへんと、少し後の宇宙船内部での大暴れのシーンの演出が、実に正統派のスラッシャー。安心させといていきなりばらす、ここらへんの意外性を演出するタイミングがなかなか鮮やかで、マンネリなようでいて伊達に十作もやってない、シリーズの重みがうかがえます。死体の晒し方なんかも、まったくの伝統通り。しかし意外と残酷描写には力点がおかれていないのが面白いところ。本国ではお子さまも楽しむポップコーンムービーなだけあって、血のりも控えめ、直接にナタが突き刺さるシーンなどもオミットされています。過剰な描写ではなくあくまで演出で勝負しているのが、好感のもてるところです。

 そうやって永遠のマンネリズムを追い続けるのかと思いきや、映画はしかし後半から怒濤のヒートアップ! 一度は粉々に粉砕されたジェイソンがナノテクノロジーによってメタル・ジェイソンとして復活したあたりから、投げやりなまでのセルフパロディが次々と炸裂! ホログラフのクリスタルレイク湖畔に佇むジェイソンの姿は、もう笑いなしには観られません。しつこいまでに復活するジェイソンの姿も完全にギャグとして描かれ、まさに自らを骨の随までしゃぶりつくすかのような勢い。誰にも止められません。

 キャストは全員無名、その分宇宙船の特撮映像に予算を回しているっぽいが、CGはともかくセットは安い、ついでに狭い。この予算の掛け具合の微妙なバランスがたまりません。正統派演出とアンチイズムの両面から徹底的にジェイソンを描き切った、まさにシリーズ最後を飾るにふさわしい充足感。素晴らしいの一言です。個人的に今作最大の名台詞ではないかと思える「もういいよ」の一言とともに、このシリーズはまさに幕をおろすのでしょう。

 ちなみに次回作は『ジェイソンVSフレディ』だそうで、ここらでジェイソンにはピンでの主役は引退してもらい、今後は他のスーパースターとのコラボレイト路線に行ってもらいたい。私の希望は『Xメン』へのゲスト出演ですっ!

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『スナイパー』

 監督:カリ・スコグランド
 出演:ウェズリー・スナイプス リンダ・フィオレンティーノ オリバー・プラット

 タイトルが『スナイパー』で主演があのウェズリーですよ? もうめちゃめちゃ期待しましたよ。

 銃製造会社社長の妻であり、共同経営者でもあるリバティ・ウォレス(リンダ・フィオレンティーノ)は不倫相手の役者との密会に向かう途中、ジョー(ウェズリー・スナイプス)と名乗る狙撃者に狙われ、足留めされる。爆弾がしかけられたホットドッグの屋台につながれた彼女に、狙撃者は銃規制と娘の復讐を訴える。

 狙撃者ものと言えば、オレ的にもはや伝説となった感のあるドルフ・ラングレンの『スナイパー/狙撃』、トム・ベレンジャーの『山猫は眠らない』などの傑作がありますが、今作はその系譜につらな……ってないよな、やっぱ……。娘が銃殺された過去を持つ男が、ライフルを持って銃規制を訴える……ってなんか無理があるんですよね。筋が通っているようでいて何も通っていないと言うか。主人公はお約束通り元特殊部隊で、まあ散々人を撃ち殺してきた過去がもちろんあるわけで、それがいきなり銃規制を求めるかっていう、結局自分さえ良ければいいという思想につながってくるあたりが、説得力ないんですねえ……。

 繋がれた女と狙撃者が延々携帯電話でしゃべり続ける中盤の展開も、かなりだるだる。銃規制を阻止すべく、マフィアが社長夫人抹殺に動き出すとこを、ウェズリーが狙撃で撃退するとこはなかなかっこいいんですが、いいのはそこだけでした。ウェズリーが最初にいる部屋を一歩も出ない低予算さは面白いですが。

 『ブレイド』でウェズリーに心酔した人はさぞがっかりしたでしょうねえ……。かくいう私もなんですけど。

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『ミーン・マシーン』

 監督:バリー・スコルニック
 出演:ヴィニー・ジョーンズ ジェイソン・ステーサム

 『スナッチ』のスタッフが再結集。イギリス映画です。

 元サッカーのスタープレイヤーだったダニー・ミーン”マシーン”(ヴィニー・ジョーンズ)は、八百長試合で追放された後に酒浸りの生活を送り、ついには飲酒運転で刑務所に叩き込まれるはめに。刑務所長に看守チームのコーチを命ぜられたダニーは、看守長に脅されその対戦相手となる囚人チームのコーチとなる。看守対囚人の、ルール無用のサッカー対決が始まる!

 いやあ、バカな話なんですが、イギリス映画だからかテンポがのんびりしてるんですねえ。間延びした演出に、もっさりと繰り返される台詞。ノンストップバカ映画を期待してると、どうも物足りないかもしれません。ガイ・リッチーがあっちで天才ともてはやされるわけがよくわかります。あのハイテンポはなかなか撮れる奴がいないんでしょうねえ。

 しかしのろけたペースに眠気を催しかけていたその時、ヴィニー・ジョーンズが野球のボールで鮮やかなリフティングを見せ、目を覚ましてくれました。この人はほんとに元はプロのサッカー選手。何テイク撮ったかはともかく、本物の技のすごさをワンカットで見せます。

 お話は『ロンゲスト・ヤード』とまったく一緒です。それゆえ安心して観られる一本。友情だとかチームワークだとか、スポ根のお約束が満載。年一本はこんな映画が無いといけませんね。

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『ロード・トゥ・パーディション』

 監督:サム・メンデス
 出演:トム・ハンクス ジュード・ロウ ポール・ニューマン ジェニファー・ジェイソン・リー

 『アメリカン・ビューティ』の監督のオスカー狙いの一本。

 育ての親であるギャングのボス・ルーニー(ポール・ニューマン)の命によって、人知れず暗殺に従事してきたマイケル・サリヴァン(トム・ハンクス)。だが、殺しの現場を息子に見られた事から、逆に組織に追われる立場となってしまう。妻と次男を殺され、残された息子と共に「パーディション」(地獄)という名の街を目指すサリヴァン。だが、その背後に組織から放たれた暗殺者マグワイア(ジュード・ロウ)が迫る。果たしてサリヴァンは自らの宿命に決着をつけ、地獄の向こうの天国に息子を送り届けられるのだろうか?

 ポール・ニューマンが出てるあたりからして、実に渋い。予告編も重厚な作りで、なかなかに期待させてくれました。ところがところが、どうも乗り切れませんでした。

 この話の原形は『子連れ狼』だそうで、なるほどタイトルは訳したら「冥府魔道」。これはド熱い銃撃戦を期待せざるを得ません。当然大五郎もマシンガンを乱射しまくって大暴れ、当然対する殺し屋ジュード・ロウも重火器で対抗……え?期待し過ぎ?いや、これでも控えめな方です。チャンバラを期待してない分だけ。しかし蓋を開けてみたらな〜んもなし。見事なまでに。間の取り方はまあまあですが、シチュエーションが無さすぎなのが残念。

 サム・メンデス監督の演出はなかなかのものではあります。鏡や窓ガラスを利用した画面づくりが特に鮮やか。淡々としたストーリーを、物静かなタッチの映像で描きます。……が、ちっとも面白くないんですねえ。ああ、お上手に撮れてますねえ、としか言い様がない。『アメリカン・ビューティ』は嫌いなんですが、才気は感じられました。別にそこから下手になったというわけではないのですが、それにしてもやる気が感じられない。

 とはいえ、このおなじみのギャングもののストーリーと父と子の仲直り話、最初から最後まで全部展開がわかるお仕着せみたいな内容で、これは雇われ仕事にならん方がおかしい。賞狙いは結構ですが、これで狙おうってのも図々しいです。

 トム・ハンクスも「重厚さ」とか狙うのは、まだちょっと早いんじゃないか? 身体が動く内にもう少しやっとく役があるように思うのですが……。サム・メンデスも、こういう見せ掛けだけ旧作を踏襲したような作品を撮ってる暇があったら、もう少し挑戦すべきことがあるだろうに。百年早い。つってもハゲのオナニーはもう撮らんでもいいけどね。

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『マッスルヒート』

 監督:下山天
 出演:ケイン・コスギ 哀川翔 加藤雅也

 久々の邦画鑑賞です。

 無秩序地帯となった2009年の東京。元特殊部隊のジョー・ジンノ(ケイン・コスギ)は公安局の刑事桂木(哀川翔)と組み、香港マフィアの陰謀を追っていた。だが、ジョーの独断先行によって桂木は捕らえられ、地下闘技場マッスル・ドームで処刑されてしまう。自らも捕らえられたジョーは恐るべき地下格闘と巨大な陰謀に単身挑むのだが……?

 かのジャッキー・チェンのもとでも修行したらしいケイン(『Who am I?』での端役出演は記憶に新しい)。どうせいつかやるんだろうけど、さてそれはいつなんだろう、と思っていた初映画主演、ハリウッドでもなく香港でもなく日本で堂々の実現です。しかも格闘アクションです。彼個人と彼のファンからしてみれば、最高の形と言えるのではないでしょうか。

 全体的にチープな作りではあるのですが、予算のかけどころを絞ってアクションものに特化した作りなため、それほど直接的に安い感じは受けませんでした。内容的にはハリウッドのB級テイストのアクション・スターが一度はやった事のあるもの、言ってみればそれら安い格闘アクション群のコピーです。ただ、さほど違和感なく見られたあたり、コピーはコピーであるにせよ「粗悪なコピー」でない、綺麗にコピーできた作品、とは言えると思います。ハリウッドの物真似した挙げ句、ろくなことにならんっちゅうパターン、結構ありましたからねえ。

 我らがケインのアクションは、香港の武術指導も手伝って、まずまずいい感じ。あれだけ鍛えているだけあって、動きの切れはなかなかのものです。ただ、振り付け的には今一歩、物足りない感触が残りました。動きが想像の範囲内であるというか、パパパパパン、とアクションが展開したのち、もう一歩溜めてズバッと来る、そういう後一歩の動きがないのですよ(う〜ん、ここらへんわかりにくいかな。すいません)。

 ラストバトルが三連戦というのは、かなりポイントが高かった! こういうサービス精神は、今後も忘れないで欲しいものです。ところどころドラマくさい絵があって冷めましたが、思ったよりか楽しめました。

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『スズメバチ』

 監督:フローレン・エミリオ・シリ
 出演:ブノワ・マジメル サミー・ナセリ ナディア・ファレス

 なんか意味不明なフランス映画。……だったんですけど、これが……。

 逮捕されたアルバニア・マフィアのボスを護送する、特殊車両。完璧な警備に守られていたはずの護送車を、主人を救わんとするマフィアの大軍が襲う。護送部隊の隊長はとっさに目についた工業倉庫に車を乗り入れ、立てこもる。百を超えるマフィアの大軍は倉庫を包囲。護送部隊はたまたま盗みに入っていた泥棒五人組と倉庫の警備員とともに、残虐無比なボスを渡すまいと対決姿勢をしめすのだが……。

 かのカンヌ映画祭グランプリのワケワカ映画『ピアニスト』の超絶美青年ブノワ・マジメルが、バカ映画『タクシー』の運転手と同じくバカサイコ映画『クリムゾン・リバー』の双児と一緒になって出演しているのにまず驚き。しかもマジメル君、似合わないグラサン、顔は怪我でぼこぼこ、ファッションは赤のジャージ上下……目を疑うぐらいのださださスタイル。いいのかこれは……と思ってましたが、しかし顔のアップが映ってみると……うむむむむ、まさに一分の隙もない。変なカッコにも関わらず、相変わらず恐るべき男前ではないか。

 この超男前、でも神経質でひよわげな男をサブ・リーダーとする泥棒集団、リーダーのタクシー運転手がちょっと対照的なマッチョ系の侠気あるキャラ……のはずだったのが梯子から落ちて映画の半分が終わらないうちに重傷! 自然と状況は緊迫。閉鎖された倉庫の空間が徐々に制圧され、圧倒的な火力と緊密な包囲網によって泥棒チームも護送部隊も次々と倒れていく。この緊迫感が素晴らしい。暗視装置をかぶってまったく顔の見えないマフィアの私兵たち、ものも言わず人間的な感情を示すこともなく、ただ淡々と包囲を狭めてくる不気味な恐怖感。その無言と裏腹にあまりに雄弁な、倉庫中を蜂の巣に変える一万二千発の銃弾。このギャップだけでもう最高としか言い様がない。

 絶望的な、あまりに絶望的な状況下で、巻き込まれただけだったはずの泥棒チームと警備員もやがて命を賭け、あるものは激しく、あるものはあっけなく死んでいく。ここらへんの人選とタイミングも意外性十分で、気を抜かせません。

 いったいフランス映画に何が起こっているのだろうと思わせる、ド迫力の映画です。さりげない伏線や映像づくりも細かく、台詞が少ないのに濃密な情念も漂っている。思わぬところから傑作が登場しました。

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『クライム&ダイヤモンド』

 監督:クリス・バー・ウェル
 出演:クリスチャン・スレーター ティム・アレン リチャード・ドレイファス ポーシャ・デ・ロッシ

 ひさびさです、クリスチャン・スレーターが主演の映画。

 ある場末のホテルの一室。その男、フィンチ(クリスチャン・スレーター)は殺し屋ジム(ティム・アレン)に銃を突き付けられ、囚われの身になっている。殺し屋は古い名画のファン。彼は、フィンチにいい話を聞かせたら命を助けようと約束する。絶体絶命の危機の中、フィンチは語り出す。ダイヤ、監獄、そして女……。

 あの『薔薇の名前』から僕はクリスチャン・スレーターのファン……というのはやや大袈裟ですが、『トゥルーロマンス』『カフス』『今夜はトークハード』など、オレ的傑作群を語るなら彼は外せません。『ブロークン・アロー』『告発』など大作にも出演しましたが、映画は素晴らしかったにも関わらず、もう一つブレイクしきれなかった彼……。『愛しのジュリアン』とか箸にも棒にもかからぬ作品に出てたせいもあるでしょうが。

 ここ数年、どうもぱっとした作品がなく『ザ・コンテンダー』の脇役なんか見ていると、今後一生浮上することはないのではないだろうかと思えてきて、いったいどうなってしまうのだろう……と思っていたのですが。しかし……ついに来た! ひさびさのヒット作が来た! 今作のスレーターは詐欺師役。しかしかつてのアウトローぶりは影を潜め、商売として詐欺をやってるような、地味かつ手堅い性格の男の役。私生活の暴れっぷりからは似つかわしくないように思えますが、彼は実はこういう地味な役こそ映える男。地味なようでいてどこかちゃっかりした感じを出そうとしたら、もはや彼の右に出る者はいますまい。

 名画ファンの殺し屋に過去を語る男……。ほぼ全編を回想で通した構成、こういうのも過去に例がありますが、でも大好きなんです。タイトルや、ギャングや殺し屋が跋扈する粗筋紹介、でもって映画好き……とくればタランティーノ作品を思わず想像してしまいますが、これが大違い。奇術師のダイヤ強盗から始まり、ストーリーは怒濤のロマンチック路線を驀進! たった数日の相棒と、その娘、家族の愛のためになんの得にもならん詐欺に命を賭ける男……ほとんどメルヘンの世界! なのに少しもだれず、ストーリーは緊迫感を持続。そこへ『ギャラクシークエスト』の艦長ことティム・アレンが名画を語りながら殴り込み! ここらへんの旧作のからめ方もうまい。下手をすれば蘊蓄くさくなるか外すかしそうなところを、ちっとも嫌味なく料理しています。あまりに大上段なネタで、並の神経なら怖くてできない直球勝負、なのに見事に決まった! 

 さわやかな気分になれる、思わぬ拾い物でした。

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『ザ・リング』

 監督:ゴア・ヴァービンスキー
 出演:ナオミ・ワッツ マーティン・ヘンダーソン ブライアン・コックス

 御存じ和製ホラー、完全リメイク!

 見る者全てに七日後に死をもたらす、呪いのビデオ。変死した高校生の死の謎を追うジャーナリスト、レイチェル(ナオミ・ワッツ)は、その謎のビデオを見たことから、自分も呪いにさらされることとなる。同じようにビデオを見てしまった息子を救うため、七日間というリミットの来る前に真相を突き止めようとするレイチェル。ビデオの正体は? やがて姿を現すサマラという少女はいったい何者なのか?

 全編通してみればわかりますが、まさに完全リメイク。ストーリーの展開、大まかなキャラ設定、比べ所がないくらいに日本版と同じです。日本版の完成度の高さがうかがえます。

 改変した部分は、まず貞子=サマラの生家が牧場である点。次々と変死する馬という設定の中、駐車場でパニックにかられ大暴れする馬のシーンは圧巻です。ちょっと他の映画では味わったことがなかった映像体験。もう一つ違うところは、サマラ出生にまつわる幼児虐待ネタ。まるでジョン・ソールの小説のようですが、これも日本版にはなかった設定ですね。ただこういう直接的な理由を盛り込むと、キャラクターの怪物性は薄れ、話としてすっきりしすぎてしまうところが難点か? 得体のしれない不条理性も、恐怖の重要な要素だと思うのですがね。個人的な復讐だけで充分で、世界中に悪意をまき散らすにはいささか説得力不足かも?

 これだけ観ればもっと面白く感じたかな……よくまとまってますが、だからどうということもないもったいなさ。ラストのあれもちょっと迫力不足か? やっぱり小汚い四畳半の安物臭いテレビから出てくるから怖いんで、あんな立派なスタジオのでっかいテレビから出てこられてもねえ。

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『ラストキャッスル』

 監督:ロッド・ルーリー
 出演:ロバート・レッドフォード ジェームス・ガンドルフィーニ

 レッドフォードがピンで主演! なんか今さらって感じでかえって新鮮に感じるのはなぜ?

 軍において英雄と呼ばれたアーウィン中将(ロバート・レッドフォード)が、軍刑務所に一囚人として収監される。脱落した落ちこぼれである囚人達は、当初彼を憎むが徐々に軍人としての誇りを取り戻し、心酔していくようになる。だが、アーウィンと違い実戦経験を持たぬ刑務所長ウィンター大佐(ジェームス・ガンドルフィーニ)は対抗心から囚人に対する支配力を強め、アーウィンをも支配下におこうとする。蓄積する両者の鬱屈は、やがて一触即発の事態を呼ぶ。

 刑務所映画が大好きな私としましては、こういう映画は外せません。今作は刑務所は刑務所でも軍刑務所。ただ軍隊という閉鎖的世界がまずあって、そこからさらに逸脱してしまったやつが集まっている……という点で実に狭苦しい価値観が横行した世界になってしまっているところにちょっと引いてしまう。普通のムショ映画ならば、娑婆と刑務所、社会と刑務所という二項対立だけでなく、看守や多様な犯罪、自由への渇望と刑務所の中での自由といった複雑な要素が絡み合って、そこが面白いんですが、軍刑務所だと「軍人」としてふさわしいか否か、という点にのみテーマが集約されてしまう。そこがちょっと物足りないところですかね。

 とはいえアクション映画において志向されるマッチョイズムは、大半が軍人の価値観とクロスするので、アクション好きならさほど問題なく見られる一本ではあります。後半の刑務所大暴動のシーンは、そこだけ取り出せば勇壮なゴールドスミスのスコアと相まって素晴らしい迫力です。特にヘリに関連するシーンは近年でも屈指の出来でしょう。

 60の坂を超えて妙にマッチョづいてきたレッドフォードの姿にはいささか首を傾げるものがあります。なんで脱いでるんだろ……? あの肉体はある意味さすがというべきなんでしょうが、年とってもまだマッチョやりたがる人は、オレ的にはイーストウッド一人で充分なんですがねえ……。

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『モンテ・クリスト伯』

 監督:ケビン・レイノルズ
 出演:ジム・カヴィーゼル ガイ・ピアース リチャード・ハリス

 我が人生最大の愛読書にして、当サイトの元ネタとなった名作が、ハリウッドで映画化!

 航海士エドモン・ダンテス(ジム・カヴィーゼル)は、身に覚えのない罪を着せられ、裁判もなしに孤島の要塞刑務所シャトー・ディフに幽閉される。幽閉生活の中、エドモンは同じく囚人のファリア神父(リチャード・ハリス)に学問を教わり、また彼の隠した莫大な財宝のありかを知らされる。13年の月日が流れ、ついに脱獄したエドモンはモンテ・クリスト伯と名乗り、自らの人生を奪った三人の男たちに復讐を開始する。だが、婚約者であった愛するメルセデスは彼を陥れた一人であるフェルナン(ガイ・ピアース)の妻となっていた……。

 『クイーン・オブ・ザ・ヴァンパイア』といいこんなにも夢が叶ってしまっていいものか、という今日この頃。さて主演はハリウッド映画で現代人役だとちょっと貧相に見えてしまうジム・カヴィーゼル。しかし古風な格好は似合ってしまうんですね。前半のやや若作りよりも、実年齢をやや超えたぐらいの伯爵スタイルが、決まり過ぎるほど決まっている。ついでにヒゲも似合っている。対するガイ・ピアースもまた、何の救いもない卑劣な男の役を、実に巧みに情感たっぷりに演じております。演技ではカヴィーゼルを凌ぐ出来か。ただそのせいで裏切りによって全てを手に入れたと思っていた男が、その実なにも手にしてはいなかったというところが明らかになるくだりが強調されすぎてしまいました。愛することもなく愛されることも知らなかった男の物語が、華麗なる復讐譚を凌駕する存在感を放ってしまい、なんか違うんだよなあ、という話になってしまった。もったいない。

 原作とは違うラストも、どうもすっきりしません。いささか報われ過ぎといいますか……。失ったものがそう簡単に戻ってきては、復讐という行為の意味、無意味さというテーマも光りません。つうか何でエデは出てこないんだろう……。別の女に乗り換えるのはご法度なのですかね。

 長大なストーリーをまずまずのテンポでまとめていますので、さして退屈はせずに観られます。物足りなさはぬぐえませんが。しかしこういう古典は、今後何度でも映画化してもいいと思いますので、いつかの再映画化に期待! 死ぬまでにあと二回ぐらい観られたらいいのだがなあ。

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