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2001年春の新作映画メモ

『プルーフ・オブ・ライフ』 『ブレアウィッチ2』
『バガ−・ヴァンスの伝説』 『スナッチ』 『ザ・セル』
『エージェント・レッド』 『スターリングラード』
『レジェンド・オブ・ヒーロー 中華英雄』 『ジル・リップス』
『タイタンズを忘れない』 『ザ・メキシカン』
『ギャラクシー・クエスト』 『走れ!イチロー』
『ショコラ』 『JSA』 『ザ・ダイバー』

『プルーフ・オブ・ライフ』

 監督:テイラー・ハックフォード
 出演:ラッセル・クロウ メグ・ライアン デヴィッド・モース

 メグ・ライアン離婚! 大物カップルの誕生と破局を演出した噂の映画、日本上陸!

 軍事情勢の緊迫する南米の国テカラにおいて頻発する誘拐事件。反政府ゲリラが他国の企業から身代金を引き出すために繰り返す誘拐のターゲットに、ダム建設技師ピーター(デヴィッド・モース)が選ばれてしまう。ピーターの妻アリス(メグ・ライアン)は人質交渉人テリー(ラッセル・クロウ)と共に夫を助け出そうとするが、経営危機に陥っていた会社が保険をキャンセルしたため、身代金を用意できず、テリーも社の命令でテカラを去る。だが、失意のどん底のアリスを救うために、テリーは職を失ってまでも舞い戻った。そして、誘拐犯との交渉が開始される。

 「男の使命、それは命をかけて守ること。ただし、決して恋に落ちないこと」。というキャッチコピーがついてますが……え〜結論から言うと、この映画、全く恋愛ものにはなってません。むしろなりようがない。まず、男の使命ですが、交渉人ラッセル・クロウの使命は人質であるデヴィッド・モースを救出する事です。言い換えれば彼を命をかけて守る事が使命である、と言えます。ただし、彼と恋に落ちてはいけない。交渉人と人質の恋愛もの、男同士であるということだけでネックなのに、人質は遥か山奥なんだから遠距離恋愛でもあるわけです。これではどうやったって恋愛映画にはならないですねえ……。

 冗談はこれぐらいにして、クロウとメグ・ライアンの関係を見てみましょう。捕まってる旦那の生死は早々に不明になるか何かして、代わりにメグ・ライアンが狙われ、クロウがアクションを交えて彼女を命がけで守っている内に、だんだんと愛が芽生えて行く……のかなと思ってたんですが、これが全然違います。まず、メグ・ライアンは別に狙われません。ゲリラは身代金を要求するだけで、旦那はいつまでも飼い殺しにされてるし、ラッセル・クロウの主な仕事は交渉(当たり前です。交渉人なんだから)。ひたすら地味〜に進行するため、恋の炎が燃え上がるようなエピソードもなく、なんとなくひかれ合いつつも決定的な展開にはいたらず……。

 交渉人のプロのテクニックもさして伝わらないまま、どうにか身代金に関しては折り合いがつきますが、トラブルが発生して、結局交渉はお流れ。残された手段は……強行突入! だったら最初から突入しとけよ……。

 設定が中途半端なため、盛り上がらないまま終わりました。見所無しの映画でした。

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『ブレアウィッチ2』

 監督:ジョー・バーリンジャー
 出演:ジェフ・ドノヴァン キム・ディレクター エリカ・リーアセン

 大ヒットした異色のホラー映画の続編、ついに登場!

 映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の大ヒットによって、舞台となったバーキッツヴィルには連日観光客が押し寄せ、ブレアの森も観光名所と化していた。精神病院への入院歴のあるジェフ(ジェフ・ドノヴァン)はブームに便乗し、観光ツアー「ブレア・ウィッチ・ハント」を企画する。集まった4人の参加者とともに、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のラストシーンである連続殺人鬼ラスティン・パーの家の跡でキャンプするジェフ。だが、ビデオカメラを周囲にセットしてパーティを始めた後、彼らの記憶は全く途絶える。目覚めた後、彼らが目にしたものは、散々に叩き壊されたカメラだった。いったい何があったのか? ジェフのロフトでビデオテープをチェックし始めた彼らに、想像を超えた恐怖が襲いかかる。

 よくも悪くも斬新な話題作だった前作ですが、今回は一応「普通」の映画。前作が大ヒットした後の現地、という設定で、前作のセルフパロディがいくつも盛り込まれています。お馴染み手持ちビデオカメラの映像なども挿入され、雰囲気を踏襲。また、サブリミナル的に殺人の映像が割り込み、ストーリーの要所でおそらく事件後なのであろう警察によるメインキャラの取り調べシーンも挿入され、不安感と期待感を掻き立てます。

 ……が、掻き立てられる割には、今一つ展開が遅く、「はよビデオを全部観ろ!」とつっこみそうになりました。あらかた伏線を張り終わった後のロフトのシーンがどうももたもたしています。また、ここらから超自然的映像も出てくるのですが、これがさっぱり迫力がないので驚きました。恐怖感どころか、「急に出てきてビックリ」というのすらありません。血なまぐさい映像も多いのですが、ショッキングさがないためにどうも淡々としています。ドキュメンタリーっぽく狙ってるの?

 日本ではアメリカほどのブレアウィッチブームが起きていないため、どうも設定からして前半から乗れない部分も多いのですが、それを割り引いても緊迫感に欠けます。前作の名所である森も建物も人が入ってしまうとおどろおどろしささえなし。作中、ラストに向けて映像のトリックも仕掛けられてはいますが、ミステリ小説でいうなら「三人称の地の文で虚偽の記述をしている」ような映像であるため、真相が明らかになってもなんら釈然としません。

 前作の謎もこれで明らかになった……とは言えんでしょう。すぱっと明解な解決を望んでいたわけではありませんし、想像を喚起する程度にとどめるのがホラーだろうなとは思いますが、中途半端に明らかになられても、かえって退屈なだけです。やはり続編は作るべきではなかったな……。思わせぶりな前作だけで終わりにしとけば良かったのに。

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『バガ−・ヴァンスの伝説』

 監督:ロバート・レッドフォード
 出演:マット・デイモン ウィル・スミス シャーリーズ・セロン

 ゴルフ映画……。

 1930年代、大恐慌によって荒廃したアメリカ南部ジョージア州サヴァンナ。戦争によって受けた心の傷でキャリアを失い、酒浸りの生活を続けるかつての天才ゴルファー、ジュナ(マット・デイモン)。地元のファンの少年に見つけだされた彼は、以前の恋人であり父をの跡を継いでゴルフ場経営者になったアデール(シャーリーズ・セロン)に引っ張られ、当代最強のゴルファー二人を招待したスペシャルマッチに、地元代表として参加する事となる。試合前、思うようなスイングが出来ないでいる彼の前に、バガ−・ヴァンスと名乗る奇妙な黒人(ウィル・スミス)が現れキャディを務めると言う。白熱する試合の最中、ジュナが見い出したものとは……?

 ゴルフと言えば『プロゴルファー猿』とかしか知らん上に、ルールも何だかうろ覚えですが、やはりスポ根ものはある意味安心して観られる部分があります。かつての天才とは言えブランクの長かったゴルファーが、最強の実力者二人に苦戦しながらも、徐々に己を取り戻しやがて互角以上の戦いを繰り広げるようになる、というシチュエーションは、他の二人の見せ場もあり、なかなかの盛り上がりを見せます。正々堂々と、ゲーム自体、戦う事自体を存分に楽しみながら、なおかつ勝利には執着する姿勢、やっぱりスポーツはこうでないと! 展開としても元より、ゴルフというスポーツの駆け引きや技術もそれなりに描かれ、なかなか楽しめます。

 ですが、このゴルフと言うゲームを通して主人公が自分らしさを取り戻す、という描写がどうも弱い。主人公以外に語り手役の少年を登場させたため、比重が分散してどちらのキャラも弱くなっているのがネックです。マット・デイモンの演技もまあいつもと一緒なんですが。また、試合が終わった後の主人公のその後が全くと言っていいほどに描かれないため、タイトルの『THE LEGEND OF BAGGER VANCE』も一体何が伝説だったのか不明瞭。少年と主人公、少年とバガ−、主人公とバガ−という風に、登場人物同士の関係性が分散したため、どれも不十分に終わっています。ぶっちゃけた話、ゴルフは素晴らしい!というオチを掲げて終わるため、バガ−・ヴァンスよりもゴルフが偉いんだろうとしか思えず。結果、何が言いたかったのか、主人公は何のおかげで立ち直ったのか、よくわからん映画になってしまいました。大恐慌によって荒廃した街も、あの後どうなったんだろう……「バガ−・ヴァンスのおかげで」復興したんでしょうか?

 『サイダー・ハウス・ルール』よりもさらに古めかしい衣装をまとったシャーリーズ・セロンは今まででベスト級にお美しいし、またレッドフォード監督の演出も地味な映画なのにテンポがいいです(クリント・イーストウッド監督の演出が『スペース・カウボーイ』なんていう無茶な映画でさえのんびりしているのとは対照的)。30年代風ミュージックもいいし、スポ根部分がそこそこ燃えることもあって退屈はしません。まあスパイク・リ−曰く「この時代に黒人と白人がこんな仲良くしてるわけねえだろ!」という事や、『リバー・ランズ・スルー・イット』『モンタナの風に抱かれて』などで自然の美しさをぶちあげていたレッドフォードがこんなゴルフ場礼讃自然破壊映画を撮っていいのか、などと突っ込む所も多々あるんですが……。

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『スナッチ』

 監督:ガイ・リッチー
 出演:ブラッド・ピット ジェイソン・ステイサム スティーブン・グレアム アラン・フォード ビニー・ジョーンズ

 『ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』に続くガイ・リッチー監督の第二作。アタマ使ってる?

 ロンドンの暗黒街。宝石泥棒、非合法ボクシングのプロモーターとゲーセン経営者、ノミ屋、宝石商、KGB崩れに質屋、殺し屋に流浪民の最強ボクサー、そして一匹の犬が繰り広げる86カラットのダイヤの争奪戦。生き残るのは? そして最後に笑うのは誰?

 すごくいい加減なあらすじを書いてしまいましたが、登場人物が多すぎる上に展開と設定が複雑怪奇に入り乱れ、ストーリーがあるようなないような、おそらく練り込まれているんでしょうが観ているこちらには行き当たりばったりに感じられる作劇をしているため、まるで書きようがありません。お約束無視のとにかくハイテンポな展開はまったく先読み不能です。悪党ばっかりでぽんぽんと死んではいきますがなんだか憎めないキャラクターたちがとても楽しく、退屈しません。テンポの良さを支えているのが『レザボア・ドッグス』『パルプ・フィクション』などのタランティーノ作品でお馴染みの、事件のシーンの順番が時間経過順ではなく前後して繰り返し映される演出。これが前記二作などでは日にち単位、時間単位で順番が入れ代わりますが、この映画ではこれを秒単位でやってしまう。あれ?と思った瞬間、シーンは数秒前につながり、全ての事実(大げさ)が明らかに……! ああ、おかしい。

 アフター『ファイト・クラブ』の新生ブラピも絶好調! 少ない出演時間ながらも同年代の俳優の中では屈指の筋肉を披露し無敵のボクサー「ワン・パンチ・ミッキー」を熱演! アイルランド訛りでしゃべるから何言ってるかまったくわかりませんが、おいしいとこ持ってって大活躍です。この人、いつの間にこんなに面白くなったんでしょう? ミッキーのファイト・シーンも一撃必笑、やっぱりギャグの基本は繰り返しと実感。

 理屈抜きで楽しめる、しかも一瞬も気が抜けない希有な映画。今年必見の一本です。

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『ザ・セル』

 監督:ターセム
 出演:ジェニファー・ロペス ヴィンセント・ドノフリオ ヴィンス・ヴォーン ジェイク・ウェバー

 斬新な映像感覚と石岡瑛子の衣装で描く、新感覚サイコ・ホラー!

 40時間かけて一杯になる巨大な水槽に、若い女を閉じ込めて溺死させ死姦する連続殺人鬼カール・スターガー(ヴィンセント・ドノフリオ)。8人目の犠牲者が誘拐された直後、スターガーの手がかりをつかんだFBIはアジトを急襲するも、スターガーは謎の発作を起こし昏睡状態に。8人目の犠牲者であるジュリアは、どこかで水槽に閉じ込められているはずだが、その場所に関する手がかりは無く、居場所を知るのはスターガーのみ。刻一刻とせまる40時間のタイムリミットを前に、捜査官ノバック(ヴィンス・ヴォーン)は神経を伝達して他人の潜在意識に入り込む装置を研究する心理学者キャサリン(ジェニファー・ロペス)に接触。キャサリンは捜査を助けるため、昏睡したスターガーの精神世界に侵入する。だが、そこは恐るべき未体験の世界だった……。

 斬新な映像、と書きましたが、正直、精神世界の映像はさして新しいとも思いませんでした。正面切って映画として映像化したのはもしかして珍しいのかもしれませんが、似たようなイメージはすでに絵画やコミックなどで表現されているように思います。また作中の台詞で「異常な世界」と表現していたのにはちょっと興醒めしました。こういう安易な言葉で簡単に言われると、どうしても陳腐化してしまいます。そんな中でも現実世界において、殺人鬼が漂白した女の死体を死姦するシーンなどはなかなか変態的で楽しめました。

 作中でヴィンス・ヴォーン扮する捜査官が連続殺人と幼児期のトラウマのつながりを否定する発言をし、その辺りの殺人鬼の心理に精神世界を映像化する事で何か新しい着眼点を持ってくるのかと思いきや、やっぱり犯人には虐待された過去があり、以降捜査官の否定発言には一切触れられずテーマは宙ぶらりんに……。やはり映像表現にウエイトが偏り過ぎ(CG過多の映画にはありがちです)、キャラクターの内面にまで踏み込めず、テーマ的にはありきたりなサイコ物映画と変わらない内容になってしまいました。まあ『8mm』のように説得力のない説明を無理にされても困るので、別にいいんですけど。

 しかし最後の対決をワイヤーワーク使ってやってくれたら、(オレ的に)今年必見の一本になった事は間違いないのに、残念! ジェニファー・ロペスも美しいし、眺めて楽しい映画(ただし万民向けではないなあ)です。

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『エージェント・レッド』

 監督:ダミアン・リー
 出演:ドルフ・ラングレン

 『ピースキーパー』以来、ああ二年ぶり!? ドルフ・ラングレン主演作、久々の劇場公開!! でも三日間のレイトショーのみ……(号泣)。

 50年代にアメリカからソ連に強奪された悪夢の細菌兵器「レッド」。崩壊後のロシアはあまりに危険なその兵器を持て余し、アメリカへと返還することを決定する。だが、それを良しとしないテロ集団が、「レッド」を護送していた潜水艦を占拠。護衛任務についていたヘンドリックス大尉(ドルフ・ラングレン)はロシアとアメリカを守るため、テロリストに戦いを挑む。

 『ロッキー4』で銀幕に登場してスタローンことスタさんをボコボコにぶちのめし、人間核弾頭と呼ばれ『レッド・スコルピオン』『パニッシャー』『ダーク・エンジェル』など数々のアクション映画で猛威をふるい、『ユニヴァーサル・ソルジャー』において最強最悪の悪役GR13を演じた後、『スナイパー』でよりクールなヒーロー像を開拓した、所長の心のヒーローの一人、ドルフ・ラングレン。しかし近年の出演作はビデオ・リリースのみ、『ブラック・ソルジャー』『スウィーパーズ』など、まあ佳作といってもいい作品はありましたが、やはりかつてのような暴虐パワーに満ちた大作が出んものかなあと期待する日々を過ごして来ました。そんな折、ほんとうに久々の劇場公開、これは期待するなと言う方が無理でしょう。というわけで梅田くんだりまで観に行って来ましたレイトショー。もう観る前から100点をあげたい気分でいたのですが……。

 冒頭、ドルフ様登場シーンでまず一人拍手をするオレ! そんな事をやってたのはオレだけだったが、客は30人ぐらいいたので、必ずオレ以外にもドルフファンはいたはずだ。最初のシーンはドルフ大尉が密かに敵軍(どこの軍隊かは不明)の基地に侵入し、ステルス戦闘機を奪取しようとする、いわばつかみのアクションシーン。面白いアクション映画では、さしてストーリーの大筋に関係ない事が多いこのシーンが、むしろ独立して楽しめるぐらい完成されているもの。さて、この映画ではどうかな? 部下と共に一人また一人と兵士を隠密作戦で倒し、基地に侵入したドルフ。パイロットスーツを着込んで敵パイロットに変装し、ステルス格納庫に侵入!………………?………………???…………………あれ……?……このシーン、どっかで観たような……。なんと、この一番肝心なはずの最初のアクションシーンが、ドルフのビデオリリースされた旧作『ストーム・キャッチャー』使い回し映像なのだ! 『ストーム・キャッチャー』においてはドルフはステルスを奪われるパイロットの役でしたが、今回は立場が逆。しかし使い回しされた映像でステルスを奪取するのは『ストーム……』ではドルフに変装したテロリストで、この『エージェント・レッド』では兵士に変装したドルフという設定……。言わばこの二作品は鏡の裏表の関係にあるのだ……って、身長が全然違うんだよ!

 さて、オレの絶叫も空しく進行するストーリー。朝からお仕事に行った弊害か、途中で30分ほど熟睡! 二丁拳銃でテロを撃ち倒すドルフ様はそれなりにカッコ良く見える……まあ、これはオレがファンだからだろう。Z級と言うほどではないものの、非常に低予算なアクション映画。さてさて、潜水艦や戦闘機のシーンが使い回し映像だったとしても、オレは全然驚かないね!

 ドルフファン以外は観てはいけない映画。劇場にはなぜかヨボヨボのジジイやカップルが来ていて驚いたが、果たして彼らはドルフファンだったのだろうか……? ともあれ『ジル・リップス』鑑賞メモに続く。

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『スターリングラード』

 監督:ジャン・ジャック・アノー
 出演:ジュード・ロウ ジョセフ・ファインズ レイチェル・ワイズ エド・ハリス ロン・パールマン

 『プライベート・ライアン』『シン・レッド・ライン』などに続き、今年も出ました第二次大戦映画。至上もっとも激烈を極めたと言われる、ソ連VSナチスドイツのスターリングラード攻防戦を描いた戦争巨編!

 5歳の頃から羊飼いとして銃を撃っていた青年、ヴァシリ・ザイツェフ(ジュード・ロウ)。ソ連軍の兵士としてスターリングラード戦線に参戦したヴァシリは、若き政治将校ダニロフ(ジョセフ・ファインズ)の前でその天才的な射撃の腕前の片鱗を見せ、ドイツ軍の将校を射殺する。彼の腕に目をつけたダニロフは軍全体の戦意高揚のために彼を英雄に祭り上げる。若き最強狙撃手として、次々とナチの将校を倒していくヴァシリ。だが、その伝説を打ち砕くため、ナチスドイツは高級将校まで上り詰めた伝説のスナイパー、ケーニッヒ少佐(エド・ハリス)を送り込んだ。戦火によって瓦礫の山と化したスターリングラードで、凄絶なる狙撃戦の幕が上がる。

 ジャン・ジャック・アノーと言えば文芸映画の巨匠のように思われてますが、今まで撮った作品はと言うと『薔薇の名前』『<愛人>ラマン』『子熊物語』『セブン・イヤーズ・イン・チベット』と、恐るべき節操のなさを打ち出しています。独特のカラーというべきものも感じさせません。風景やセットが素晴らしく美しいというのは共通していますが。

 さてさてそんな監督が今回手を染めたのは、なんと戦争映画。冒頭でまずスターリングラード市街での戦闘が描かれ……その後、カメラは一度もスターリングラードから出る事はありません。この映画は第二時大戦中の一局地戦の中のヴァシリ・ザイツェフという一兵士の戦いのみを、徹底して描いてます。

 瓦礫に埋め尽くされた市街、崩壊寸前のビル、打ち壊されたスターリン像。いやもうセットの凄さには目を奪われます。ロシアの寒々とした気候と日常的に積み重なる死体がなんとも陰惨な雰囲気を醸し出し、攻防戦の熾烈さを物語ります。作中でドイツ軍に装備で劣るソ連軍の将校が、退却しようとする自軍の兵士を射殺するシーンがありますが、これもなんとも壮絶。

 さて、その激戦の最中を狙撃班の兵士として駆け巡るジュード・ロウ。ライフル一本で次々とナチス将校を射殺。監督の演出はややハッタリ不足かとも思われますが、セットの使い方が巧みなので、いかに困難な標的を狙っているのかが観ているこちらに的確に伝わり、飽きさせません。そして不足ぎみかと思われたケレン味もナチの狙撃者エド・ハリスの登場で、俄然増します。ジュード・ロウと同じ狙撃班の腕利き狙撃者たちを、次々と恐るべき技量で屠っていくエド・ハリス。ここらの盛り上がりはまさしくアクション映画。「オレは奴に勝てるのか……?」苦悩するジュード・ロウですが、ここらへんの葛藤は格闘やスポ根の少年漫画でもお馴染みで、非常にわかりやすい。

 「伝説のスナイパーの、歴史の影に隠された衝撃の真実!」とか宣伝では歌い上げられてますが、これのどこが史実やねんとツッコミたくなる、狙撃アクションへの特化ぶりは、いっそ清清しささえ感じさせてくれます。ジュード・ロウとジョセフ・ファインズとの友情や、レジスタンスの兵士ターニャ(レイチェル・ワイズ)を巡る三角関係、プロパガンダに利用される若き狙撃者の苦悩なども、一応描かれてますがざーっと関係性が把握出来るぐらいのレベルで流し、ラストの対決を盛り上げるためにしか機能させてません。「戦争」を全くテーマにしていない、ぶっちゃけた話、娯楽大作、バカ映画。「オレが撮りたかったのはここだけ!」と言わんばかりの狙撃対決のみを、存分に楽しみましょう。え? とってつけたようなハッピーエンドがいかんって? いいんですよ、バカ映画なんだから。ハッピーエンドはバカ映画のお約束です。え? なんでロシア人とドイツ人が全編英語で会話するんだって? バカ映画に何を期待してるんだよ! 『シンドラ−のリスト』も英語だっただろ?

 それにしてもエド・ハリスはかっこいいよ。

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『レジェンド・オブ・ヒーロー 中華英雄』

 監督:アンドリュ−・ラウ
 出演:イーキン・チェン ニコラス・ツェ− クリスティ・ヨン スー・チ− ユン・ピョウ アンソニー・ウォン

 『風雲 ストームライダーズ』に続くCGとワイヤーワークアクションの融合映画、ついに登場!

 20世紀初頭……。天性の武術の才を見込まれ、伝説の武術家である金傲<プライド>(アンソニー・ウォン)の弟子となった青年、華英雄<ヒーロー>(イーキン・チェン)。家宝である赤剣を受け継ぎ、師の下で修行に励んでいたが、ある日、悪らつな欧米人によって両親を惨殺されてしまう。怒りに任せて両親の仇をとった英雄だったが、結果お尋ね者となり、友人と恋人を残しアメリカへと渡る。しかしそこで彼を待っていたのは、過酷な重労働と虐待の日々だった。白人に目をつけられ、拷問を受ける英雄。そんな彼を救ったのは、金傲の下で学んだ兄弟子、鬼僕<シャドウ>(ラム・ディオン)だった。そして16年後、行方不明となった父を探し、英雄の忘れ形見、剣雄<ソード>(ニコラス・ツェ−)がアメリカへとやってくる。

 原作は香港で人気のコミックだそうで、おそらくこの映画もその漫画の展開を踏襲しているのでしょう。読んでいないのでわからんのですが、おそらく16年越しの壮大なストーリーから考えても、相当な大作なんじゃあないでしょうか。さて、その大作のどこからどこまで、どの程度の分量を2時間にまとめたのか知りませんが、やはりというか何と言うか、どことなくダイジェストのようにはしょったイメージの映画になってしまっています。15分ごとに過去回想と現在が入れ替わる構成にも、それが如実に出ています。

 なんか伏線らしきものや意味ありげな描写が作中、あちこちに散見されるのですが、大半は特に解答が示される事もなく終わってしまいます。おそらく原作の漫画はまだまだ続きがあるからなんでしょうが、おかげさまで散漫かつな尻切れとんぼな映画になってしまいました。伏線がどっか行っちゃって唐突に話が終わるというのも、香港映画には多いんですけど。

 謎を残したまま終わるこの映画の象徴たる者が、主人公の兄弟子、シャドウ。仮面を被った細身の武術家なのですが、この人物、最後まで仮面を取りません。役者は誰がやってるのか、なんてことまで一切不明のまま。絶対後半に意外な正体が明かされると思っていたので、めちゃめちゃ肩透かしを食いました。またこのシャドウ、最後の戦いの最中、主人公と対決する武術家の一番弟子と戦いながら、屋根の向こうに飛んでいき……それ以降、一切登場しません! お〜い、どこ行ってん、兄弟子〜?

 アクションはもちろんですが、映像も『風雲』よりさらにリアルさと派手さをまし、CG過多かと思われたこの路線も、まずまずいい感じになって来ました。マンガだと割り切ってみれば、もう全然問題無し。

 チョイ役で着物姿を披露するスー・チ−(なぜか日本人役)など、キャストも豪華。京劇ファッションでのアクションを披露するユン・ピョウには、もう涙ものですね。ユン・ピョウはややウエイトを上げたのか、実に精悍かつ大柄なイメージで決まってました。師匠役で登場するアンソニー・ウォンもさすがの存在感。イーキンも今まであまり好きではなかったのですが、やや年食って枯れてみると、なかなか渋いです。真面目な顔をするのがポイントだな。

 イーキンの主題歌と原作漫画の絵で展開するオープニングのタイトルバックには、アドレナリンが逆流!などなど面白いとこもあるのですが、全体的にちょっと……。こうなれば僕の落ち着かない気分を消すために、続編を作ること希望。タイトルは、

『レジェンド・オブ・シャドウ 中華兄弟子』

で決まりだな。

 補足。兄弟子をやっていた役者は、ラム・ディオンという人で、本作のアクション監督と武術指導を担当していて……って監督が出演しとったんかい!というか監督があれだけ動けてしまうところがすげえ。

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『ジル・リップス』

 監督:アンソニー・ヒコックス
 出演:ドルフ・ラングレン

 というわけで『エージェント・レッド』に続くドルフ・ラングレンレイトショー公開作、第二弾に行って参りました。

 元刑事マット(ドルフ・ラングレン)の、地質学者だった兄が殺された。それもSMプレイの亀甲縛りを施され性器を切り取られて……。兄にSMの性癖があったと信じられぬマットは、兄の妻や刑事時代の同僚と協力し、捜査を開始。兄がトンネル工事を巡って対立していた建設会社に行き当たる。事件の影に蠢く、赤いレザー・スーツの女の正体は? 自らも亀甲縛りの餌食にならんとするマットに明日はあるのか?

 ドルフ・ラングレンのファンの方々と一杯飲んだ後、雪崩れ込みましたレイトショー。この『ジル・リップス』、鑑賞した人にはもれなく網タイツをプレゼント! なんと太っ腹な……っていらねえんだよ! さてさて、アクション映画路線が低予算化するにつれてどんどん厳しくなってきているドルフ様、せいぜい用心棒とのどつきあいぐらいしかアクションのない、この程度の作品が増えてくるんでしょうか。しかし、この映画、単なる猟奇殺人サイコ・スリラーではありませんでした。爆笑、失笑、絶叫、唖然、たった一つのシーンによってのみ、ドルフファンにとっては忘れられない作品となったのです。

 パンツ一丁に剥かれたのち、亀甲縛りされて天井から吊るされ、赤いピンヒールを舐めさせられ「女王様、ぶって下さい」と言わされるドルフ・ラングレン。

 つ、辛い……。生きていくって……辛いよね……姉さん……。姉さん……覚えてるかい……あのカッコよかった頃のドルフ……それが今は……どうなっちゃったんだろうね……。ぶら下がる亀甲ドルフの揺らぎはマジで見てらんねっす。ちなみに僕に姉はいません。

 大体想像がつくとは言え一応、「犯人は誰?」という興味で引っ張るので、最後までそれほど退屈せずに見ていられました。が、関係ない人を何人も殺してる展開には、いささか疑問。

 しかし笑ったなあ。こんなに乾いた笑いを発してしまった映画は久々です。というわけでドルフファンはこの映画必見! 『レッド・スコルピオン』の必要以上に痛そうな拷問シーンや、他作品で大して強そうでもない敵に対してピンチに陥るドルフを観るたびに、「もしかしてこの人はマゾッ気でもあるんだろうか」といらん勘ぐりをしてしまっていましたが、今作でそれが正しかった事が証明されてしまいましたありがとう!? というわけでドルフのことをちょっとでも知っている人は、ファンじゃなくとも必ず観る事。まずは『ジル・リップス』を観ろ、話はそれからだ……!

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『タイタンズを忘れない』

 監督:ボアズ・イェーキン
 出演:デンゼル・ワシントン ウィル・パットン

 なんか今年はスポ根ネタ多いですね。アメフトと人種問題をからめた感動作!?

 公民権運動の成果によって統合された、白人と黒人の高校。田舎町ヴァージニア州アレキサンドリアでは、町の最大の関心事であるフットボールチーム「タイタンズ」も統合される。新たに迎えられた黒人のヘッドコーチ(デンゼル・ワシントン)はコーチの白人(ウィル・パットン)と確執しながらも、チームを鍛え上げて行く。最初はいがみ合っていた黒人と白人のチームメイトたちも、差別に囚われない二人の天真爛漫な転校生の出現とフットボールの訓練によって、徐々にその偏見を捨てて行く。やがてその力を発揮し、連勝街道を突っ走りはじめるタイタンズ。取り返しのつかぬ悲劇をも乗り越え、タイタンズはついに奇蹟を起こすのか?

 これ、ディズニー映画なんですよね。となればもう、のんきな展開とお約束なラストがお待ちしてくれていることはすでに観る前からわかっているわけです。さて、黒人と白人混成チームで合宿に出発するタイタンズ、バスの席順でもめ、壁に貼るポスターでもめ、音楽の趣味でもめ、電話の順番でもめ、ポジション取りでもめ……とケンカのネタには事欠きません。しかしどこにでも面の皮が厚いというか細かい事を考えない奴がいるというか、なぜか全然人種にこだわらない白人のデブ転校生が登場、「オレ、フットボールができりゃそれでいいのさ!」と単純に言い放ち、徐々にどちらとも仲良くなり……まあそんなこんなでノリの軽い奴から順に段々仲良くなっていってしまいます。最後までケンカしてたリーダー格同士もチームを強くするため、という共通の目的のために協力しあうようになり……開始30分でチームはがっちりと一枚岩に! おいおい、ほんまにこんな簡単にいったんかいな……と思うんですが、燦然と輝く実話の文字がオレの批判を封殺します。

 路線を変更し、やっぱり高校生のにーちゃんたちは単純でいいよなあ、などと言ってみるものの、アメフトという国民的スポーツを通して、あえなく学校も町も一つに……だめだ……やっぱりアメ公は単純だ……。これも実話だというんだからしようがない。しかしこの映画、ディズニーであると同時に、もはや毎度お馴染みとなった感のあるジェリー・ブラッカイマー印。さすがというか娯楽映画のツボは外しません。台詞回しもそこそこ気が効いてるし、高校生たちもなかなかひとりひとりキャラが立ってます。『ラストゲーム』『ザ・ハリケーン』のように大変なトレーニングをしないでいい役柄だったデンゼル・ワシントンも、かつては『マルコムX』に出てたことなんて忘れたかのように余裕の演技。

 人種差別解消ものとスポ根ものノウハウを全て注ぎ込んでつなげたような印象のこの映画、まあでもなかなか楽しく観られました。感動はしませんけどね。

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『ザ・メキシカン』

 監督:ゴア・ヴァービンスキー
 出演:ブラッド・ピット ジュリア・ロバーツ ジェームズ・ガンドルフィーニ

 ニ大スター初共演の恋愛ムービー。

 運び屋ジェリー(ブラッド・ピット)とその恋人サマンサ(ジュリア・ロバーツ)。喧嘩別れし、ジェリーはメキシコ、サマンサはラスベガスへ。しかし伝説の黄金の銃を手に入れる命令を受けていたジェリーは任務に失敗。組織はサマンサを人質に取る。二人の運命やいかに。

 大スター共演に当たり無し、なんてことはよくいいます。実際この格言(?)がどの程度正しいのか知りませんが、今作はその典型とも言えるケースになってしまいました。二人が同時に画面に映っているのはおおよそ全体の5分の1程度。さすがは大スター同士、スケジュールが合わなかったんでしょう。

 しかしどれだけ共演場面が多かったとしても、この映画はどうしようもなかったでしょう。ダメ男な上にジーンズのCMそのままなカッコのブラピは、『ファイト・クラブ』以降の作品にしては精彩を欠きます。ついでにジュリアもガハハ笑いがうるさいだけの大変うざい女に描かれ、え〜すいません、こんな奴らの恋模様なんてどうでもいいっす。微妙にタランティーノ作品を想起させるキャラクターの多さも、マイナスにしか機能してません。脚本がもたついてるので会話シーンもかったるいだけ。次に何を言うかわかってる台詞を待つのは、苦痛以外の何物でもありません。

 また途中で爆睡してしまったので、けなすのもこんなもんにしときます。フッ。

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『ギャラクシー・クエスト』

 監督:ディーン・パリソット
 出演:ティム・アレン アラン・リックマン シガニー・ウィーバー トニー・シャロープ サム・ロックウェル

 『スター○レック』のパロディ? SFコメディ映画です。

 ’79年から’82年まで足掛け4シーズンされた超人気テレビシリーズ『ギャラクシー・クエスト』。宇宙探査船プロテクター号の乗組員たちの活躍を描いたこのシリーズは20年経った今も絶大な人気を誇っていた。しかし出演者たちはこの作品一本でイメージが固定されてしまい、今や『ギャラクシー・クエスト』がらみのイベントにしか声がかからず、そればかりを渡り歩いて日銭を稼ぐ毎日。しかしある日、投げやり気味にコンベンションに参加していた彼らに、『ギャラクシー・クエスト』をドキュメンタリーと勘違いした本物の宇宙人たちが、自分達の星を悪の宇宙人から守るために助っ人を要請してくる。かくて弁解するまもなく、テレビ俳優達は宇宙戦争に身を投じる事に……。

 くくくくく……泣けます、この映画。しがないテレビ俳優たちがほんものの宇宙の英雄になってしまうお話ですが、全編に元ネタとなったテレビ番組や出演者、真っ正直な宇宙人やひきこもりがちなオタクファンに対する優しい視線と愛が満ちています。恥ずかしいまでの心意気と、「ネバー・ギブアップ、ネバー・サレンダー!」のメッセージに、心を打たれました。

 宇宙に飛び出た途端にシネスコサイズになる画面構成など、おかしなところも凝ってますが、やはりこの映画を支えているのは役者達の名演でしょう。かつてイギリスの舞台俳優だった、という本人そのままの設定のアラン・リックマンが投げやりな人から突然に名優へとシフトする演技や、『チャーリーズ・エンジェル』に続きまたまた別人になりきったサム・ロックウェル、全然他の映画で見た事がないティム・アレンのノリノリ艦長ぶりなど、枚挙に暇無し。特にこのティム・アレン、面白いっす。私的に嫌いなタイプのルックスかと思いきや不思議に憎めない。なぜ?

 こまめに張り巡らされた伏線も全て機能し、無茶な展開を下支え。もはや細部にこだわりのない映画など、見ていられないのです。バカなものをお約束に則って大真面目に作る素晴らしさを、たっぷりと堪能させてくれました。出だしは低予算映画化と思いきや、後半の宇宙のシーンはかなり金もかかってます。いやあ、面白い!

 しかしどうしてこの映画がミニシアターのみかなあ……。もったいないですね。ともあれ、なかなかの快作です。

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『走れ!イチロー』

 監督:大森一樹
 出演:中村雅俊 浅野ゆう子 松田龍平 木村佳乃

 大リーグで大活躍するイチローの名を借りた映画。

 言わずとしれたオリックスのイチローと、神戸にすむ作家、リストラされたサラリーマン、一浪の浪人生の三人のイチローと呼ばれる男たちが、神戸を舞台にそれぞれの人生を送る。

「中村雅俊がな、アメリカへ行ってまうイチローにな、スパイク届けようとしてな、空港をブワーッ走るねん。でもな、結局間に合わへんでな、イチローは飛行機に乗って行ってまうねんやんか」

 とまあこんな感じで、観る前から職場の窓口女性60代にラストシーンをばらされてしまい、いったいオレはなんでこんな映画を観てるんだ?と非常に釈然としない気分になりました。だから読者の皆さんにもばらしてしまいます。

 作家が自分のファンであるホステスと恋に落ちる話と、会社をクビにされたサラリーマンが突如昔の夢を取り戻した妻についていけず困惑する話、浪人生が劇団の娘の口車に乗ってイチローに芝居のチケットを届けようとする話、この三つのストーリーがオリックス時代のイチローの活躍にオーバーラップし、お互いに微妙にクロスオーバーしながら進行して行くという、わりと凝った構成の映画です。しかしこの映画の最大の弱点は、やはりと言うか何と言うか、タイトルに名前が冠されているにも関わらずイチローがびた一文出演していないところでしょうか(失笑)。

 女に唆され、芝居のチケットをイチローに渡すべくグリーンスタジアムに不法侵入した松田龍平、逃げ込んだ先の室内練習場で、ついにイチローと対面! 映画のクライマックス直前なんですが、練習をするイチロー、なんだかフィルムの色が違います……。そうこの肝心なイチローとの対面シーンをなんとよそから持って来たフィルムを編集でつないでるのです。イチローは当然一言も発せず、龍平と同じカットに収まることもなし……。

 ラストシーンもこれがそのままネックとなり、中村雅俊の届けようとしたスパイクは、ついにイチローの元へは届かず! アン・ハッピー・エンド! ストーリーのために無理矢理に話を展開させるのを御都合主義といいますが、この映画はまさにイチロー出演せずという「都合」によって意味不明な映画に仕上がってしまいました。

 三本ぶんのストーリーをやたらと多い登場人物と共に詰め込んだせいか、展開はスピーディ。大森一樹って、決して下手な監督ではないんですね。でも企画に恵まれませんね。ハハハ。

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『ショコラ』

 監督:ラッセ・ハルストレム
 出演:ジュリエット・ビノシュ レナ・オリン ジュディ・デンチ アルフレッド・モリーナ ジョニー・デップ

 オスカーは逃しました。癒し系映画!?

 フランスのとある村に、旅の母娘がやってきた。厳格と儀礼を重んじる村に、二人はチョコレート屋を開店する。領主である伯爵(アルフレッド・モリーナ)らの迫害にもめげず、魔法のチョコレート店は村人達の冷えきった心を徐々に溶かして行くのだった。

 ジュリエット・ビノシュと言えば「フランスの大竹しのぶ」とでも言うべきフェイスと澄ましたイメージが嫌いだったのですが、今作では悪く言えばオバハン臭く、良く言えば毒気が抜けて、いい感じに仕上がっていました。そのおかげと言うべきか、村人たちを癒す魔法のチョコも押し付けがましいところがなく、「まあちょっと食ってみるか」と思えるムードが、作品全体に醸成されてます。

 しかし悪い人がぜんぜん出てこない話です。登場人物は、ちょっと冷たいけど根はいい人たちばかり。役者陣を達者なメンツばかり集めただけあって、無理なところはありません。暴力亭主から逃げる妻や、老人ホームに行きたがらない老婆など、通り一遍なイメージなんですが、それぞれレナ・オリンとジュディ・デンチの迫真の演技でもたせています。また、後半珍しく単なる男前役で登場するジョニー・デップも、友情出演らしくおいしいとこだけ持って行ってくれました。

 道で「ボンジュール」とか挨拶してるわりに、主要な台詞が英語だったりするあたりはいまいちですが、なかなか音楽も美しいし、寓話的で楽しい映画です。「田舎もん再教育」「偏見打破」「トラウマ克服」など、私の好きなテーマががっちり盛り込まれてるので、大いに楽しめました。ラストのカンガルーにはちょい泣けたし。それでも汗臭いお涙頂戴になってないところがすごい。

 癒されるかどうかは人それぞれでしょう。でも気軽に楽しんで下さい。

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『JSA』

 監督:パク・チャヌク
 出演:ソン・ガンホ イ・ビョンホン イ・ヨンエ キム・テウ シン・ハギュン

 『シュリ』『カル』『ユリョン』など、近年日本でも積極的に取り上げられている韓国映画の最新作。

 南北朝鮮の分断の象徴である38度線上の共同警備区域(JSA)で鳴り響いた銃声。北朝鮮は南側の兵士の北への侵入を、南側は北の兵士による南側の兵士の拉致をそれぞれ主張する。食い違う主張から真実を見つけだすため、中立国監督委員会は韓国系スイス人であるソフィー(イ・ヨンエ)を捜査官として派遣する。捜査を進めるにつれ両国どちらの主張とも食い違う物証が次々と発見され、ソフィーはかたくなに黙秘する事件の当事者たちと面会を重ねながら、徐々に真相へと迫っていく。

 『シュリ』がアクションを絡めた後半部分などに非常に雑なところを持った映画だったせいか、今作にも構成の雑さを懸念していたのですが、そういう面では心配は無用でした。特に前半の無駄なく大量の情報と伏線を盛り込んだ映像作りには感心させられました。最初の30分は主に状況説明に費やされますが、台詞の一つ一つ、映像の隅々まで後半に向けた手がかりが含まれているのが後でわかります。サスペンス映画はやはりこうでないと。

 しかし中盤に入って、やや疑問点が浮上してきました。ネタばらしは避けますが、作中の事件の発端となった登場人物たちの過去が描かれるシーン、言わば事件の真相の一部と言える部分が突如始まります。観客である私は最初、捜査官ソフィーと同じ立場で事件を推理するような気分で観ていたのですが、捜査官が真相に辿り着いたわけでも事件の当事者たちが回想や述懐をするわけでもなく唐突に真相が明らかになりだす展開には、肩透かしを食わされた気分になりました。このシーンは事件直前のところまで続き、終盤再び捜査側の視点に戻りますが、この時には大体の事件の真相にも想像がついてしまっており、緊迫感を失ってしまいました。序盤で張られた伏線はこの中盤にも生きており、矛盾はありません。ここらへんは評価したいところですが、最後まで真相を推理する楽しみが持続しないのはもの足りません。

 サスペンスとしては構成に欠陥がある、と言ってもいいと思いますが、この映画が本国でヒットしたのはその部分を「南北分断」に絡めたヒューマンドラマが補ったからなのでしょう。平和ボケした日本人にはない切実さが、ある意味ベタになりがちなドラマを支えています。

 ……が……しかし……。え〜登場人物4人の男たちの「友情」が作中で描かれるのですが……この「友情」に関する描写が……端的に言うと……すごく寒いんです。もしかしてこれは言っちゃいけないことなのかもしれませんが、本当にそう感じたんですから、しようがない。ある雑誌で読んだ評には「屈託なく遊ぶ男たちの姿が余計に涙を誘う」なんてことが書かれていましたが……物は言い様だなあ……。 北朝鮮は兵役が13年もあるということをこの映画で知りましたが、だからって……だからって……なんで大の男四人がエロ本の回し読みしたりしり取りだのしっぺだのするとこを見せられにゃあいかんのだ! おまえらは男子中学生か! こういう描写がちらっと入るだけなら「演出」のためとも割り切れるのですが(ややあざとく感じるでしょうけど)、これが30分以上に渡って延々と続くのだから、ある意味「天然」な匂いをプンプンと感じてしまい、余計イヤ。

 これらのシーンが始まった時、場内の気温は確実に2、3度下がりましたね。私が観た時、50人ほどお客がいましたが、間違いなく全員の心に「さぶう!」という感覚が生まれていたでしょう。観客の心が一つになる、という事象を、私、初めて体験しました。男の「友情」というのも突き詰めて描いて行けばどうしてもホモっぽく熱すぎるものになっていくと思っていましたが、こういう方向性もあったか……って子供に退行してどうする! 思うに儒教の国は同性愛は御法度なんでしょうねえ……それを匂わすような描写を避けると、どうしても童心に帰らざるを得ないのか……。

 中盤に心が冷えきったのが響き、終盤の悲劇も涙を誘うまでには到らず。技術的には大変良く出来た映画だし、ヒロイン像も嫌味がないし(もうちょっと活躍してほしかったですが)、クライマックスで事件の真相が明らかになった後に再度冒頭のシーンが繰り返されるシークエンスなど素晴らしく練りこまれているんですが。ここらへんは惜しいというよりどうしようもないですね。

 韓国映画のポテンシャルの高さを如何なく証明しながらも、おそらくドライな人間には決して受け入れられないであろうこの映画、この寒さは体感する価値ありだ! 女性の感想も聞いてみたいですね。

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『ザ・ダイバー』

 監督:ジョージ・ティルマンJr.
 出演:ロバート・デ・ニーロ キューバ・グッディングJr.

 やたらと出演作が多いデ・ニーロ、これも実話の映画化だそうで。

 貧しい小作農の家に生まれた黒人青年、カール・ブラシア(キューバ・グッディングJr.)。出世を夢見て海軍に入った彼は、泳ぎの才能を将軍に認められ、ダイバーを目指す事になる。海軍初の黒人ダイバーになろうとするブラシアを指導するのは、かつてのマスター・ダイバーであったサンデー教官(ロバート・デ・ニーロ)。根深い差別にもめげず、ブラシアは着々とダイバーとしての実力をつけていくが……。

 軍隊内での差別を乗り越え、史上初のアフリカ系アメリカ人マスター・ダイバーとなった男の半生を描く真実の物語、だそうですが、やはりハリウッド映画の悪いくせで、これでもかこれでもかと起こる派手なエピソードの連続が、映画から実話としての重みを失わせています。訓練中の事故や、核弾頭探しの最中にロシアの潜水艦が急速接近するなど、それなりに面白いんですが、ヒーローの超人的活躍を描くにしてももう少し地味なエピソードをバランスよく織り交ぜないと、リアリティが出ません。

 「御大」らしく何かと場をしきるデ・ニーロも、いささか邪魔。どうもいなくてもいい場面でいちいちしゃしゃりでてきたように感じたのは、僕が彼を嫌いだからでしょうか。序盤にダイバー時代のデ・ニーロが登場しますが、潜水服を着たり脱いだりするシーンはあるものの、実際に潜る場面はすっ飛ばしてつないでいる辺り、随分気を使ってもらってますねえ。

 実話の映画化にしてはいささか感動をあおり過ぎで、演出もくさいですね。いい奴と悪い奴がはっきりしすぎだし。エリート=やな奴、というお馴染みの図式には閉口。スポ根バカ映画(『タイタンズを忘れない』とか)じゃないんですから、もう少し地味にじっくりと仕上げるべき題材だったのでは。

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