わが国の農業及び農村をめぐる情勢の変化の下で、地理的条件に恵まれない中山間地域においては、過疎化、高齢化の進展が顕著であり、地域社会の活力の向上が喫緊の課題となっており、中でも当該地域における土地資源を活用した大家畜畜産の振興には大きな期待がかけられている。
しかし中山間地域における利用可能な土地資源は傾斜地が多く、しかもこれを低コストで開発・利用することが求められている。
一般的な草地造成の工法では、耕起した後、施肥、播種等を行っているが、造成直後の降雨等のため侵食、崩壊の生ずる恐れのある傾斜地等においては、耕起等の工法に代えて不耕起造成工法によっているところである。
これまでも蹄耕法による不耕起造成技術を始めとする草地造成の低コスト化を図る試みがなされているが、近年、種子、土壌改良資材、肥料とを結合剤で固めて団塊にしたもの(以下シードペレットという。)を播種する方法が開発されている。この工法を傾斜地等の不耕起造成に適用することにより、牧草の着床率が高くなり草地化の早期実現も期待されている。このため、特に実用化の可能性の高いシードペレットを利用した簡易で、かつ低コスト草地造成を行うため傾斜地等の不耕起造成工法について、実用化調査を行い、低コスト草地造成工法を確立するため、家畜改良センター本所、鳥取牧場及び宮崎牧場において5か年計画により調査を実施した。
本調査は家畜改良センター(本所)(福島県西白河郡西郷村)、家畜改良センター鳥取牧場(鳥取県東伯郡赤碕町)及び家畜改良センター宮崎牧場(宮崎県小林市)において実施した。
平成元年より平成3年までの3年次にわたり、試験設計に基づき各試験区を設定し調査を開始した。調査についてはそれぞれの調査圃場の設定から平成5年(一部については平成4年)まで行い、調査成績をとりまとめた。
平成元年度は本調査に備えた知見を得る目的から、予備調査として、a.原植生の処理、b.表土撹乱、c.鎮圧、d.ペレットの形状の4要因の牧草の定着・生育、原植生の消長に及ぼす影響について調査した。
平成2年度は、現植生処理として放牧の強弱及び放牧に代えての刈払いという3区分を設けた。また、使用するペレットとして、シードペレット及び2種類のマクロペレットを用い、それらの比較を行った。
平成3年度は適正播種量を調査する目的で、ペレットの種類はシードペレットのみとし、播種量50kg/10a区と75kg/10a区の2水準の調査区による調査を行った。
調査1(平成2年度播種)では、種子の種類としてシードペレット、マクロペレット及び対象区として慣行法による播種区、圃場区分として東向き斜面と西向き斜面で調査を行った。
調査2(平成3年度播種)では、ペレットの種類はシードペレット1種類とし、播種量(100kg/10a、150kg/10aの2段階)及び慣行播種区、播種時期(前期播種:9月24日、後期播種:10月25日)の2項目を組み合わせた試験区設定を行った。
平成元年度は草地の条件として野草地に前処理として火入れしたものと既存の放牧地の2区分、ペレットの種類としてシードペレットとマクロペレットの2区分の合わせて4調査区を設定した。
平成2年度では簡易更新区(デスキング)、完全耕起区(ロータリー耕)、無処理区(不耕起)を設定した。また当地の気候条件から寒地型牧草に加えて暖地型牧草(バヒアグラス)についても調査した。
平成3年については平成元年調査、平成2年調査と発芽、生育等良い結果が得られなかったことから、シードペレットと通常の牧草種子の播種、播種時期、播種量(シードペレット散布量)及び播種前後の処理として除草剤の使用、火入れ、鎮圧の有無等が牧草の発芽、定着に及ぼす影響を調べることとし、これらを組み合わせた調査区を設定した。
注. | 以下、文中及び表において「SP」又は「S・P」とあるのは「シードペレット」、「MP」又は「M・P」とあるのは「マクロペレット」の略である。また単に「ペレット」とあるのはシードペレットとマクロペレットの総称として用いた。 |
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