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X.調査の要約と考察

目次

1.調査の要約 2.考察
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1.調査の要約

(1)家畜改良センター(本所)

1)平成元年度開始調査(予備調査)

平成元年度は本調査に備えた知見を得る目的から、予備調査として、a.原植生の処理、b.表土撹乱、c.鎮圧、d.ペレットの形状の4要因の牧草の定着・生育、原植生の消長に及ぼす影響について調査した。

ササの地下茎が地表近くに多く存在し、伐採樹の残根も点在していたことにより、表層土破砕処理の障害となり、その効果は十分ではなかった。しかし鎮圧によりペレットと土壌の密着がよくなったが、発芽状況は鎮圧・無鎮圧に顕著な差はみられなかった。処理区分の中では前植生処理としての刈払いのみ有効性が認められた。

2)平成2年度開始調査

平成2年度からは予備調査で得られた知見をもとに本調査を実施した。調査区としては、放牧の強弱及び放牧に代えて刈払いを実施した区を設けた。また、使用するペレットとして、シードペレット及び2種類のマクロペレットを用い、それらの比較を行った。

しかし、播種当日夜に強雨に見舞われ、ペレットの溶解及び一部種子の流失がみられたが、溶解したペレットより逸出した種子からの発芽が見られた。刈払い・放牧処理では、重放牧により前植生が抑圧され、牧草定着に好影響を及ぼした。播種翌年においても重放牧が野草の抑圧と牧草の生育促進に効果があることが認められた。

3)平成3年度開始調査

平成3年度は適正播種量を調査する目的で、播種量50kg/10a区と75kg/10a区の2水準の調査区を設け、播種当年の発芽後の初期生育状況及び平成4年における生育状況及び収量調査を行った。

平成3年も播種後7日後の降雨によりペレットの溶解が見られ牧草の定着は不良であり、このため播種翌年には各区ともササを中心とする雑草に抑圧され、草丈、産草量とも思わしくなかった。



(2)鳥取牧場

1)調査1(平成2年度播種)

種子の種類としてシードペレット、マクロペレット及び対象区として慣行法による播種区、圃場区分として東向き斜面と西向き斜面で調査を行った。いずれの調査区も前植生処理として播種前に肉用牛の放牧及び播種後の刈払いを行った。また、毎年管理放牧を行った。

播種当年の生育密度は慣行区>S・P区>M・P区であったが、草勢はM・P区>慣行区>S・P区となり、M・P区は密度では劣るものの草勢ではまさっていた。利用1年目(播種の翌年=平成3年)ではほぼオーチャードグラス主体となり、シロクローバは消失した。利用2年目までは牧草よりも野草の収量が多かったが、利用3年目においては牧草収量が野草収量を上回った。利用3年目における牧草収量及び牧草割合に及ぼす種子の種類の影響については明確な傾向はあらわれなかった。

2)調査2(平成3年度播種)

ペレットの種類はシードペレット1種類とし、播種量(100kg/10a、150kg/10aの2段階)及び慣行播種区、播種時期(前期播種:9月24日、後期播種:10月25日)の2項目を組み合わせた試験区設定を行った。播種前後の管理(放牧、刈払い)は調査1と同様に行った。

播種翌年(平成4年)における草勢は各区ともほぼ同じであった。調査1と同様各区ともシロクローバはほぼ消失した。6月と9月の刈取り調査では、野草の収量はほぼ同じかないしはやや減少したが、牧草収量は大幅に増加した。このため後期播種の150kg/10a区では牧草収量が野草収量を上回り、これ以外の区でもかなりの牧草割合が増加した。播種翌々年(平成5年)においてはいずれの区も年間収量合計における牧草割合が75%を上回ることとなった。しかし各区の違いは明かではなかった。



(3)宮崎牧場

1)平成元年

平成元年より3回にわたり調査を行った。平成元年は草地の条件として野草地に前処理として火入れしたものと既存の放牧地の2区分、ペレットの種類としてシードペレットとマクロペレットの2区分の都合4調査区を設定した。しかしリターの堆積及び小雨の影響で野草地を対象としたものは発芽が極めてわずかであった。既存放牧地での調査も同様な理由により十分な発芽が見られずこの調査は発芽当年の発芽率及び草丈の調査のみで打ち切った。

2)平成2年

平成元年の調査により前処理として地表の撹乱の必要性があるのではないかと思われたため、簡易更新区(デスキング)、完全耕起区(ロータリー耕)、無処理区(不耕起)を設定した。また当地の気候条件から寒地型牧草に加えて暖地型牧草(バヒアグラス)についても調査することとした。しかし、播種後4日目の降雨と台風20号の降雨により播種したペレット及び種子が流失し、極めてわずかの発芽しか得られなかったため、調査を断念した。

3)平成3年

平成3年については平成元年調査、平成2年調査と発芽、生育等良い結果が得られなかったことから、シードペレットと通常の牧草種子の播種、播種時期、播種量(S・P)及び播種前後の処理として除草剤の使用、火入れ、鎮圧の有無等が牧草の発芽、定着に及ぼす影響を調べることとしこれらを組み合わせた調査区を設定した。

9月播種区は播種翌年には全般的に牧草の定着が悪く、以降の調査は行わなかった。

播種翌年以降の牧草の定着と生育の優れていたのは除草剤処理の後にシードペレットを播種した区であり、播種量が多い(100kg/10a)方が少ない(50kg/10a)方よりも早期に牧草地化できるが、播種量が少なくても播種翌々年には播種量の多い調査区と同程度まで牧草地化が進んだ。

播種翌々年には除草剤を使用しなかった調査区では牧草はほぼ壊滅状態となった。



2.考察

(1)播種前処理

家畜改良センター(本所)の調査で、播種前処理(前植生処理の有無、表層破砕)及び播種後の鎮圧が収量に与える影響については、前植生処理においてのみ有効性が認められた。

一方鎮圧によりペレットの表土への付着が促進することが認められたが、その後の発芽・生育には無鎮圧区との違いは明確ではなかった。また、表層破砕の効果も認められなかったが、これはa.調査圃場においてはササの地下茎が地表近くに密集しているとともに伐採樹の残根も点在していたこともあり、表層土破砕処理による表土撹乱が軽微なものにとどまったこと、b.地表のリターが多過ぎず、鎮圧せずともペレットが土壌に接しやすく、また播種後の降雨が適切であったことによりペレットへの水分補給が十分になされたことによるものと思われる。

鳥取牧場の調査では、樹木の伐採または野草利用後の10月中旬から下旬にかけて大まかにブッシュを除去した後にシードペレットを播種し、野草の再生が見られない冬期間に原植生を刈払う造成工法が最も効率的であった。

宮崎牧場の調査では除草剤使用の効果を調査したが、ここで使用した除草剤は非選択、移行性のグリホサート剤である。処理時に生育中のものは一年草、多年草ともほとんど枯殺できたが、野草の種子や処理時に休眠中の多年生野草は抑制できなかった。このため播種したシードペレットから牧草が発芽するとともに冬型野草も発生した。しかし発芽した牧草との競合力の強い大型の野草(ススキ、チガヤ等)は既に除草剤により枯殺されており、その後に発芽した野草の競合力は相対的に弱いと考えられるため、牧草の定着には有利になる。平成3年に開始した調査では、最終的には除草剤処理した調査区のみ牧草の定着が見られ、除草剤処理を行わなかった調査区では牧草はほぼ壊滅した。このようなことから、大型で牧草の発芽や生育を抑圧する力の大きい野草が主体の野草地を早期に牧草地化する場合は除草剤処理が有利と考えられる。

しかし、本調査では取り上げなかったが事前に強度の放牧を行い、野草を十分に採食させることにより比較的再生力の弱い野草はかなりの程度抑圧される。完全に枯殺するには至らないが、前植生処理のための放牧が可能な場合はこれによりかなりの程度除草剤処理に代えることができるものと推測される。しかし、野草を抑圧するための強度の放牧を行うことは家畜の損耗をも伴うことから、これを避けなければならない場合は除草剤利用を行う必要もある。

宮崎牧場の調査で、平成3年に開始した調査においてとりあげた項目としては除草剤処理以外では火入れと鎮圧があり、それぞれ除草剤処理の有無と組み合わせて調査された。しかし、いずれも除草剤処理を行った処理区で「立毛播種=火入れせず、無鎮圧」、「火入れ直播、鎮圧」のいずれにおいても同様に牧草が定着したことからすれば、除草剤により前植生が十分に抑圧されていれば火入れや鎮圧を行う必要はないことがわかった。

一方鳥取牧場の調査で、播種時には、原植生の抑圧や地表面を露出させるための処理を多く行うほど発芽および発芽初期の生育は良い傾向にある。しかし、気象(降雨)、虫害、雑草の侵入等の要因が強く影響した場合には、これらの効果が明確にあらわれない場合もある(「播種時期と播種時の気象条件」の項参照)。特に現植生が抑圧され、しかもまだ播種したペレット種子による牧草が十分に定着していないため、地表面が露出している状況は降雨による侵食を受けやすい条件にあるともいえる。また急傾斜地では、ペレットが転がりやすく雨水による流出も多く、これが緩傾斜部分に集中する傾向にあった。また、このことは播種前後の放牧が過度の場合や、裸地部分に多く見られた。このように傾斜地で地表が露出しかつ地表面が滑らかである場合には播種したペレットが転がりやすくなり、結果としてペレットが極端に偏在することにもなりかねず均一な草生を確保することが困難になることも考えられる。このようなことから、牧草種子の発芽定着を阻害しない範囲で前植生あるいはその枯死株が残存していることも必要に思われる。また多くの処理を行うことは労力やコストをより多く要することとなるため、牧草の定着を図るために必要な範囲での処理にとどめることが必要である。ただし、播種時において種子の均一な散布に支障をきたし、また発芽・定着やその後の草地管理に支障となるようなブッシュについては除去することが望ましい。



(2)ペレットの仕様

a. シードペレットとマクロペレットの特長と使い分け

家畜改良センター(本所)の調査で、発芽及び生育初期においてマクロペレット区の生育がシードペレット区を上回ったがこれは、マクロペレットは肥料成分が団塊状にまとまって存在したことから、発芽した牧草が効率的に肥料分を吸収でき、またリター層による窒素成分の収奪を受けにくかったことによるもの可能性がある。

一方、鳥取牧場の調査においても、シードペレットよりもマクロペレットの方が原植生との競合に強く、定着率が高かった。

このように家畜改良センター(本所)及び鳥取牧場における調査からは発芽・定着のためにはシードペレットよりもマクロペレットの方がよいと判断された。

しかしマクロペレットにおける問題点も指摘された。鳥取牧場においてはマクロペレットは、造成初期段階での牧草密度が低いことが指摘された。また家畜改良センター(本所)では、初期にはマクロペレットがシードペレットよりも良い成績をあげたにもかかわらず、実際の収量において、シードペレットがマクロペレットを上回った。この理由としては、シードペレット区が播種後において生育不良であったことに鑑みシードペレット区にのみ春先の施肥を行ったことに加えて、マクロペレットは発芽が局所的であり、発芽した牧草間の競合がおきやすかったことが考えられる。

マクロペレットとシードペレットはいずれも種子をペレット化したものではあるが、その特性からして用途は自ずと異なるものであるといえよう。

シードペレットはペレット粒子が細かいため、ペレット自身による水分保持力や肥料の供給力・持続性はマクロペレットより小さい。また、播種後の牧草種子は通常の播種同様に(種子の密度の多い少ないはあるが)播種した土地全面に散布されている。散布方法としては人力による他、粒子が細かいため、ブロードキャスター等の機械による播種も可能である。このようなことからシードペレットは同じくペレット種子であるマクロペレットとの類似性というよりも、通常の播種の延長でとらえられるものと考えられる。シードペレットを播種した場合は通常の播種に準じてその後の適正な管理がなされる必要があり、このような管理の下において速やかに牧草地化を進めることができる。この方法は、通常の播種方法では発芽・定着が不安定な状況において、発芽・定着を改善する手法の一つであると考えられる。

一方マクロペレットは、ペレット粒子が大きく、より多量の肥料成分がそこに含まれ、発芽した牧草がより長期にわたりその肥料成分を利用することができる。このため、現植生との競合力が強く、定着率が高いという特長がある。しかしマクロペレットにより下種された牧草種子の所在は通常の播種やシードペレットに比べてもよりスポット的であるこのため、マクロペレット由来の牧草はシードペレットのように全面的ではなく、局所的に存在することになる。このような特徴からマクロペレットは野草との競合により牧草の定着の困難な野草地や林地に牧草を導入し、野草をも利用しつつ順次に牧草地化を進めようという場合に用いるのに適している。

このようにシードペレット、マクロペレットそれぞれ特長を有しており、利用場面も異なり、単純に両者を比較することはできない。牧草を導入する場所の状況や牧草地化速度、その後の管理・利用方法等に応じて両者を使い分けることが望ましい。

b. ペレット製作上の留意点

シードペレットは種子に肥料、土壌改良資材及び基材、接着剤を混合して製作する。マクロペレットはこれら材料のうち種子を除く資材によりペレットを作り、これに接着剤をまぶしつけ、牧草種子をペレット表面に接着する。

別途「雨水によるペレットの溶解」の項でも触れるが、強度の降雨によりペレットが溶解してしまうことがある。これに対処するためには水に溶解しずらい固いペレットとすることが考えられるが、ペレットの硬度が高くなることにより、ペレット種子の発芽に必要な吸水が悪くなり、またシードペレットの場合は発芽そのものに、またマクロペレットの場合は発芽した種子への肥料分の供給が十分に行えないこととなる。雨水に対しては崩壊しづらく、しかし発芽や肥料成分の供給に支障のないような基材や接着剤の開発がなされればそれに越したことはないが、そのための技術開発は容易ではないことが想定される。このため、播種時における気象予測等により対応し、また不幸にして豪雨に見舞われた時は播き直しをすることにより対応することが必要と思われる。

また、一般にシードペレットは粒状に作られる。またマクロペレットは一般的には地表面が傾斜していても転がらないように、球を押しつぶしたような形状(錠剤のような形)の団塊として形作られる。マクロペレットを作るには混合し、練り上げたた資材を紐状に押し出し、短紐状となったものを造粒機により成型する。しかし、農家が自ら用いるために作る場合は、種子のまぶしつけや散布作業に支障がなければ、あえて造粒する必要は少ないものと思われる。また、鳥取牧場の調査では、マクロペレットは現地での種子付着作業に時間を要するという問題が指摘された。しかし、実際にこれを利用する場面を想定すれば、冬季等の比較的時間に余裕のある時に種子の付着も含めペレット製作作業を終えておくことができる。

c. 肥料の混入量

家畜改良センター(本所)の調査で、播種した翌年における初期生育が不良であったが、これはリター層のC/N比が高いためにペレットに含まれる肥料成分のうち発芽初期に吸収されなかった窒素成分の多くがリター層に奪われ、その後の生育段階において窒素飢餓となった可能性がある。リター層による窒素成分の収奪が見込まれる場合にはペレットに含有させる肥料の量を増加することが考えられるが、特にシードペレットの場合は肥料を含むペレット粒子内において発芽が行われるため、発芽に際して濃度障害による発芽不良の起因となる可能性もある。特にシードペレットの場合はその利用場面において、マクロペレットよりも施肥管理が容易な状況が想定されるため、一般の播種法に準じた施肥管理がなされることが望ましい。

マクロペレットの場合は、種子はペレット表面から離脱し、土壌表面に落下した状況で発芽が行われるため、シードペレットに比較しても肥料による濃度障害は発生しにくいものと考えられる。

d. 雨水によるペレットの溶解

ペレットが雨水等による適正な程度を超える加水と雨滴による衝撃を受けても溶解・破損しづらくすることにより強度の降雨の際にもその形状を保つこととなる。しかし一方、ペレット内部に種子が含まれるシードペレットの場合は、溶解しづらくすることにより、固いペレットとなってしまった場合はペレット内部にある牧草種子の発芽を物理的に困難とする可能性もある。またペレット粒子からの肥料・土壌改良資材成分の土壌中への拡散を容易にするためには、ペレット自身と土壌との馴染みを良くする必要があり、そのためにはある程度の吸湿性、溶解性、可塑性が必要となる。このため、一定の溶解性と柔軟さを持ちつつも降雨等によっても完全には溶解しないように今後基材や接着剤の改良がなされることが望ましい。

しかし現実的には播種に際しては気象予報に基づき、豪雨の可能性のある時を避けるようにすることが必要である。また不幸にして強度の降雨に遭遇し、ペレットが崩壊するようなことがあれば、再度播き直しをすることが必要である。



(3)草種

宮崎牧場の調査で、本調査においては平成2年において暖地型牧草(バヒアグラス)も取り上げたが降雨による流失し、調査は実施できなかった。平成3年に播種した調査ではトールフェスク、オーチャードグラス、ペレニアルライグラス、シロクローバの混播により調査を行ったが、オーチャードグラスを除いては十分な定着を見なかったかあるいは全く定着しなかった。同様なことは鳥取牧場の調査においてもみられた。

シードペレットを活用する場面においては既存の草(野草、牧草)があり、これとの競合が考えられる。このため、既存植生の被圧の中で生き残り、成長するのは耐陰性のある牧草の方が有利であり、結果として供試草種のうち最も耐陰性のあるオーチャードグラスが生き残ったものと考えられる。

このため、既存植生との競合等がかなり厳しいと考えられる場合には耐陰性に乏しい牧草については播種しても無駄となる可能性がある。このためこのような状況では、あらかじめ強度の放牧により既存植生の抑圧を図ることが有用であると考えられる。あるいは当初オーチャードグラスのみで牧草地化を図り、既存植生が抑圧され地表面における日照が確保できるようになってから他の種類の牧草の導入を図ることも考えられる。

機械作業による管理が困難な傾斜地の場合の草種選定は、オーチャードグラスやトールフェスク等の長稈で生産量は多いが施肥等の管理をより濃密に行う必要のある牧草よりレッドトップ等のより粗放な管理でも可能な牧草が望ましい。またシバ等のように種子のみでなく、葡伏茎で広がるものも適しているものと考えられる。

また複数の種類の牧草種子を混合してペレット化することにより、発芽し成長する段階で牧草同士の競合がおこり、併せて野草との競合もあることから共倒れとなってしまう可能性もある。また相対的に競合力の弱い牧草の定着が阻害されることもありうる。このため、複数の種類の牧草を混播する場合には牧草の種類毎のペレットを作成し、これを混合して播種することも考えられる。



(4)播種量

鳥取牧場の調査で、シードペレットは150kg/10aは必要であることがわかった。またマクロペレットは50kg/10aでは不足であった。マクロペレットの必要量については今後さらに検討する必要がある。

一方、宮崎牧場の調査で、シードペレット播種量については、最終的に牧草の定着を図ることができた除草剤処理区における比較では、播種量が多い試験区(100kg/10a)においては播種翌年にかなりの牧草地化を進めることができた。一方播種量が少ないNo.9及びNo.10の試験区(50kg/10a)においては播種翌年は十分な生育を確保することはできなかったが、翌々年に至り播種量を倍とした調査区にほぼ匹敵する生育を示したは、播種量がある程度少なくても時間をかければ牧草地化が可能であることを示唆している。

これらのことから、早期の牧草地化が必要な場合は播種量を増量し、徐々に牧草地化してもよい場合はペレット播種量を減じてもよいことがわかった。しかし、徐々に牧草地化する場合には野草との競合が激しくなることから、放牧管理を一層適切に行う必要があるものと考えられる。



(5)発芽に必要な物理的条件

a. 水分条件

宮崎牧場の平成元年の調査では前処理として刈払い、火入れを行った調査区を設けたが、これによっても牧草の定着を図ることはできなかった。

この理由としては地表のリターが播種したシードペレットと土壌との接触を妨げ、土壌からの水分供給が絶たれることによりシードペレットが乾燥状態におかれ、発芽できなかったことが考えられる。また傾斜地でススキやチガヤの多い野草地ではこれらの根群の発達が著しく、これが地表面を覆い尽くしているとみられるところもある。特に傾斜地においては表土が降雨により洗われ、根群の露出が多くみられる。

シードペレットが土壌と密着し、発芽に必要な水分を得られるようにするためにはリターが多い場合は強度の放牧あるいはデスキング等によりによりこれを撹乱し、地表面を露出させることが必要である。またペレットを播種後放牧を実施して家畜に踏ませ、土壌との密着を図ることも有効と考えられる。ススキ等の長大野草の根群が地表にあらわれ、これが障害となる場合は事前に1〜数年間の強度の放牧によりこれを衰退させることが有効となる可能性がある。

b. 光条件

宮崎牧場の調査で、除草剤処理が有効であった理由として、前植生が枯死していたことにより地表面における光条件が整えられていたことによる可能性がある。火入れのみでは現存野草の地表に近いところは生き残り、牧草の発芽と同時に生育を始める。このことにより発芽した牧草は日陰の条件におかれ、衰退・枯死する可能性が高くなる。一方移行性除草剤であるグリホサート剤の散布により野草は根も含めた植物体全体が枯死し、牧草が発芽した段階では多くの光を受けることができ、このことにより生育が確保されることが考えられる。

c. 物理的条件の確保

野草地の牧草地化においてはシードペレットあるいはマクロペレットが有効であるが、この場合であっても牧草の発芽及び定着に必要な一定の条件(光の透過、水分供給、表土露出等)が確保されることが必要であり、前植生処理は重要であることが一連の調査により認められた。なお、本調査では効果が明確でなかった鎮圧・表層破砕も前植生の状況やリターの質やその量等によっては有効となることが考えられる。



(6)播種時期と播種時の気象条件

ペレット種子といえども播種を行う適期は通常の播種と変わらず、寒地型牧草の場合は一般的には秋となる。その地域の気候(一般には気温)により寒地では速めとなり、暖地では遅めとなる。また実際の播種時期については、播種適期の中から、以下に記す降雨の問題や飼料作物等の収穫作業との労力競合等を考慮して決定することが必要となる。

気象条件のうち降雨については、ペレットに適度の水分を与え種子の発芽を促進するためには降雨は有効であるが、一方強度の降雨はペレットを溶解、流失させてしまう。家畜改良センター(本所)の平成2年及び3年播種の調査において、ペレットを播種した後に強度の降雨に見舞われ、シードペレット、マクロペレット共々溶解した。ペレットが雨水により溶解しても牧草種子が生存し、かつ発芽する条件が満たされれば発芽はなされることがわかったが、発芽以前にペレットが溶解してはペレット化する意義はない。また、このような降雨条件では、マクロペレットにおいてもペレットより離脱した種子が肥料補給源たるペレット本体と離れ々々になってしまい、その後の十分な生育が確保できない可能性がある。ペレット化した種子を播種するのは、通常の播種条件よりも厳しい場合が考えられるため、あくまでもペレット状態を保ち、ペレットの有利性を活かした状態で発芽に至らせることが必要と思われる。このためには、a.ペレットの溶解性、b.播種後の天候の2点について留意すべきものと思われる(ペレットの溶解性については「ペレットの仕様」の項参照)。

播種に際しては、数週間にわたる天候を完全に予測することは困難ではあるが、週間〜月間の気象予測に基づき、できるだけ播種直後に豪雨に遭遇しないように配慮することが必要である。



(7)播種後の管理

a. 施肥

播種した場所のリター層が厚い場合はぺレットに含まれる肥料成分のうち発芽初期に吸収されなかった窒素成分の多くがリター層に奪われ、その後の生育段階において窒素飢餓となることも考えられる。またペレットに含有させる肥料の量を増加させると濃度障害をおこす危険性もあり、あるいはペレット播種後に別途肥料を施用することが必要となる。

また、ペレットに含まれる肥料成分は発芽当初に必要な分に限られるため、その後の生産のための肥料成分は通常の施肥により行う必要があり、特に雑草との競合の中で草勢を強め、早期に牧草地化を図るためには、播種後においても施肥管理を適正に行うことが必要と考えられる。

b. 放牧

家畜改良センター(本所)の調査で、播種前における放牧は前植生の抑圧及び地表の撹乱により牧草が発芽する条件を整え、また生育初期における野草との競合を軽減することにより牧草の定着を促進し、牧草割合を高めることがこの調査においても確認された。このことから良好な牧草地のためには、放牧家畜が確保できれば播種前、播種後における適切な放牧を行うことが望ましいものと判断される。

なお、平成2年播種の調査において、平成4年度(播種翌翌年)の収量調査においては、シードペレットでは重放牧処理>軽放牧処理、マクロペレットでは逆に軽放牧処理>重放牧処理となったが、これは両要素の相互作用というよりはむしろ地形、土壌等のばらつき、あるいは地形等による放牧家畜の行動等の影響による可能性がある。

なお、鳥取牧場における調査では造成翌春の放牧利用・管理は、通常の草地より回次毎の滞牧日数(時間)をやや短くし、回数を増やすことが有効と判断された。

ペレット種子のうちマクロペレットはシードペレットの利用の場面に比べてもより条件の厳しいことが想定される。このことから既に発芽した牧草の周囲に存在する野草との競合に際して、より牧草に有利にはたらくことが期待される。ため、その後の管理(特に放牧)により野草を抑制し、牧草に有利な条件を整えることで葡伏茎や自然下種により牧草の被度を順次高めることが必要となる。



(8)ペレット種子の特長とその活用場面について

シードペレット及びマクロペレットによる草地の造成・整備工法(以下ペレット工法という)は、播種床のリター層等発芽を抑制する要因を軽減するために、土壌改良剤、肥料、種子を結合剤で固めてペレット化したものを前処理した播種床に播種するものであり、この工法は抜根、耕起、砕土、整地、鎮圧の機械作業を全く行わないか、あるいはこれを極力節減して行う簡易造成工法の一つである。ペレット化した種子は、前植生の存在等発芽に必要な条件が十分に整っていない状況においても通常の播種よりも牧草定着率が高く、播種時期も幅があることから、野草地や林地への牧草導入における利用が期待されている。この他にも傾斜地の造成だけでなく、耕起等のための作業機が入りづらく完全耕起法で対応できない土地(降雨等による侵食、崩壊が危険な場所、混牧林、石礫地等)や、時期外れの造成、牧草の定着しにくい心土露出地等への利用が考えられる。

また、施肥管理が十分に行えれば牧草の初期生育が良好で定着率も高く、造成後短期間で適度の密度も得られるという特長がある。このことから、河川敷や谷間等エロージョンの発生しやすい場所、原植生を除草剤等で完全に枯殺することのできる場面での利用は優れている。また草地の簡易更新にも用いることができる。

なお、既に「(2)ペレットの仕様」においても示したように、シードペレット、マクロペレットそれぞれの特長を生かし、播種する条件に応じた使い分けをすることが望ましい。

ペレット工法は、草地(特に機械による管理の困難な放牧地)の不耕起による簡易更新にも用いることができる。荒廃草地における牧草種子の追播による草生産性の向上においては、何も加工しない一般種子では困難であるが、ペレット種子は発芽・着床率が高く既存草種との競合力に優れたペレット化種子による活性化の可能性は高い。

ペレット工法は耕起造成が困難な土地(傾斜地等)においても草地化を図ることができる。このような土地においては発芽〜初期生育時の制限要因(水分環境、必要な肥料成分等)が大きいが、牧草種子と肥料、土壌改良資材、基材等を配合してペレット化することによりこれら制限要因を緩和し、より良好な発芽と初期生育を得ることができる。

また、ペレット工法は耕起法に比べて抜根、耕起、砕土、整地、鎮圧の一連の造成作業工程が省略されるため作業コストが低く、また表土や表土を覆う腐植層から供給される肥料成分を活用しうるので牧草の生産量は耕起法に劣らない牧養力が得られている。

試作シードペレットの製品価格はこれを構成する材料そのものの価格の5〜10倍と高く、ペレット製造における低コスト化が課題である。製造方法の改善やシードペレットの需要の拡大とこれによるスケールメリットにより低廉化が図られることが望ましい。

今後、従来は十分に活用されていなかった国土を有効利用し、これを通じた畜産物生産を図るためには、傾斜地や林地等従来の手法では開発しづらかった所をも開発・利用する技術の一層の向上が望まれる。シードペレットによる草地化技術もその一助となることが期待されている。



(9)留意すべき点

シードペレットにより牧草地化を図ろうとする場合は、傾斜地が対象となる場合も多々ある。このような条件下では降雨による土壌侵食の危険が平坦地よりも大きい。しかも牧草の定着のためには土壌が露出していることが好ましく、そのための放牧処理やデスキング等が行われることもある。また、野草の根群により土壌が抱え込まれ、侵食されにくくなっている状態の中で既存野草を抑圧することは野草根群の土壌緊縛力を弱めることにもなる。

除草剤による既存野草の枯殺も土壌保持力を低下させることも考えられ、このような状況における除草剤の利用は十分な配慮が必要となる可能性がある。

このため傾斜度や土壌の性質等から土壌流失の危険性の高いところについては牧草地化せず、野草地として利用するかあるいは緩やかな牧草地化を図ることが重要である。

シードペレット工法が成功するかしないかは既存野草の家畜における嗜好性や播種床の良否及び土壌状況に大きく影響される。これらは造成後の草勢にも影響するため事前に十分に把握した上で適正な手法を講じる必要がある。

牧草の発芽・定着や野草との競合に競り勝つためにはその後の施肥や放牧等の管理を適切に行わなければならない。また、そのためにも家畜の放牧が有効であるが、このためには放牧に馴れた家畜の確保等も不可欠となる。

播種後の強雨に遭遇することによるペレット粒子の崩壊や流失の可能性もある。長期の気象予測に基づき播種時期を考慮することが重要である。


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