貝殻山登山口から剣山(岡山県) 旭川堤防から児島湾越しに望む剣山

岡山県南の児島半島に連なる山々は金甲山を別にすると貝殻山を中心とした縦走山行がガイドされることが多いようだ。一つ一つの山はそれほど大きくないのでまとめて歩いた方が手応えもあるし、なにより稜線部の眺望がよいので登って下りるだけの山よりは縦走した方が魅力的だということなのだろう。しかしこのあたりの縦走路は車道歩きないし車道近くの行程が多いので、エンジン音に煩わされない時間を長く取るには麓から上がってすぐ下った方がよいと思う。(それほど頻繁に車が通るわけでもなさそうだが。)
児島湾に面した宮浦集落には貝殻山登山口というバス停があり、付近は小さな川沿いに公園のようになっている。ここから貝殻山へのものを初めとして山中を行くいくつかの山道をたどることができる。前回の帰省時には連れと五石散策路というものを上り下りした。一年後の帰省時は険しそうな山容と名前に惹かれて剣山(けんざん)に上がってみた。多少のルートファインディング、なかなかの急登、稜線部の穏やかな山道と、短いながら中身の濃い山行だった。


貝殻山登山口に車を停め、貝殻山登山口を示す標識脇にあるポストのなかから手作り地図をいただく。このあたりのルートが載っている貴重な情報源だ。剣山へは波線表示された道のりが記載されており、地図が読めさえすればなんとかなるだろう。目指す山は右手奥すぐだ。まずは川沿いに左岸を進み、左手に貝殻山登山口をやり過ごし、簡易舗装道が二股になるところでかすかに上がる右手のものに入る。収穫が終わって切り株ばかり並ぶ畑を左右に見ながら浅い谷間の奥へ道なりに行く。標識などまったく無いところで、再三地図を確認する。農作業用の小道が入り組んでいるので、自分で進むべき進路を確認しなければならない。ついでに写真も撮影する。なかなか歩みが捗らないので連れは少々不満顔だ。
剣山肩の展望地から正面に金甲山、右に怒塚山
剣山肩の展望地から正面に金甲山、右に怒塚山
中央の池は溜め池の新田池
左右に木々を眺めるようになると植林前の分岐に出る。地図に従い右手に入り、剣山の山腹を回り込むように行く。ここからの道はあまり使われていないらしく枯れススキを分けながら行くようになる。もっとも踏み跡は明瞭なので不安はない。切り通しを抜けると正面に土の壁が見えてくる。溜め池である青谷池の堰堤で、登ってみるとエメラルドグリーンの水が静かに周囲の木々を映していた。水面を左手に見ながら池岸を回り込み、開けたところに出たら、かつての採石場のようなところだった。
採石場から剣山を左手上方に見つつ上り坂の舗装道を辿る。頭上に走る送電線をくぐり、左手に送電鉄塔巡視路を見送って、山の肩を越えて下り始めたすぐのところから左に山頂へと延びる踏み跡が始まる。道のりはジグザグを切っているものの傾斜は急で、山名が伊達ではないことを感じさせてくれる。木の幹にすがる場所も少なくない。連れは久しぶりの山がハードなものなので休む回数が増えてくる。息を整えるために立ち止まって振り返れば児島湾や金甲山の眺めが広がっていて、一歩ごとに達成感を得られるのだった。


高度差100mほどを急登して飛びだす先は花崗岩の砂礫の中に大岩がごろごろする展望地で、金甲山怒塚山と連なる稜線が大きい。里近い山でよくあることか、手前の山のところどころで山を崩しているのが目立つのが残念だ。児島湾の彼方にはこのあたりに登ると必ず望める本宮高倉山や金山が霞んでいる。陽気がよいものだから冬だというのに大気がかなり白い。
ほんの少し登ると樹林の中の快適な道になる。最初に達する高みはここがピークかと思いたくなるのだが本当の頂上はもう一つ先だった。では行こうと歩き出すと、山頂は拍子抜けするほどすぐだった。剣山の山頂はおおむね木々に囲まれていて天目山や貝殻山のような開放感はないが、かえって落ち着く。座るにちょうど良い岩がいくつも出ているせいかもしれない。誰も来ないだろうと思いながら二人して食事休憩していたら単独行の男性がひとり登ってきた。山らしい山で他のハイカーに会うのは嬉しいものだ。
剣山山頂
落ち着いた雰囲気の剣山山頂
剣山山頂付近より貝殻山(中央)、天目山(右)。貝殻山手前に伸びる尾根は五石散策路の尾根
剣山山頂付近より貝殻山(中央)、天目山(右)。
貝殻山手前に伸びる尾根は五石散策路の尾根(中尾根)。
貝殻山のはるか奥にうっすらと霞むのは小豆島(のはず)
山頂からは剣山山塊の稜線を先に進んだ。眺望が開けると正面には下りに取る五石散策路の尾根が右から左へとなだらかに低まり、その向こうに貝殻山がゆったりとたわむ頂稜を覗かせている。あたりは白砂に松の日本庭園風で、右手の彼方には瀬戸内の島々が逆光に浮かんでいる。屋島や八剣山の特徴的な山容がとくに目を惹く。森の中に入って眺めが無くなり、下り一辺倒だった道が右手にほんの少し盛り上がるコブをかすめるところで、そのコブを越えていく道が右に分かれる。右行けば稜線沿いに車道に出る。まっすぐ行けば虎口池まで下って児島半島稜線を縫う車道に上がり直すか、池から車を停めたところに下る。今日のところは右手に入り、コブを越えて車道に出ることにした。
天目山脇の車道から剣山(右奥)、虎口池
天目山脇の車道から剣山(右奥)、虎口池
歩きやすい道をしばしで、虎口池キャンプ場入り口に出た。ここからは車道で、右に天目山、左に飛天目を見送り、五石散策路に入った。最初に出てくる名のある岩の置き石からは谷間を隔ててそびえ立つ剣山が望める。とても300mを切る標高には思えない姿だ。天気は下り坂で空は暗くなりつつあったが、散策路途中にあるほほえみ岩は変わらずありがたげな笑顔だった。二人してこの一年の福に感謝の手を合わせ、おだやかな尾根道を貝殻山登山口の公園まで下っていった。快適な下りで、きびきび歩きたがっていた連れはようやく足取りが軽くなるのだった。
2009/12/30

追記
上記で「植林前の分岐」と書いている十字路を左に行くと、長谷池を経て踏み後のようなルートを辿り、虎口池の野営場に出る。十字路をまっすぐ進むのは3本ある高圧線鉄塔を巡視するもので、山腹道の割には道幅が広くよく踏まれていて歩きやすい(2016/01/01に連れとこのルートを歩いた)。最初の鉄塔で直接剣山を目指すらしい踏み跡もあるが、そちらは未踏。鉄塔巡視路は上記にも書いた採石場上の監視舗装車道に出る。左に車道を辿ってすぐ、剣山へ急登する山道が始まる(手作り標識あり)。
鉄塔巡視路から児島湾と岡山市街を望む。
剣山を巡る鉄塔巡視路から児島湾と岡山市街を望む。
彼方の山は金山(左)と本宮高倉山。
川は百間川。
2016/01/04

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