五石の一つ”置き石”から旭川河口、児島湾、岡山市街を望む天目山、貝殻山と五石散策路

年末年始は基本的に連れの実家のある岡山市に帰省することにしている。児島湾近くに家があるため、すぐ目の前の児島半島には車で10分ほどで、最高峰(とは言っても標高403m)である金甲山や隣の怒塚山などは半日の山歩きに好適だ。だがかつて金甲山から児島半島中頃の貝殻山を経て東端まで歩いたときは面白みには欠けた。眺めは悪くないものの車道歩きに終始するので単調さが増大してくる。それ以来、金甲山より東の稜線の山は面白くないと思っていた。


帰省して迎えた新年の好天の日、麓から山を登る気はしないが山歩きはしたいということで連れと意見が一致し、では児島半島の貝殻山を再訪するかと車を走らせた。稜線を通る車道に上がって貝殻山に向かうと、まだ手前のところで右手に小さな駐車場が出てくる。そこに停めて脇から始まる幅広の散策路に入ってみた。ここに来るのは初めてで、松林のなかにベンチが見え、左手に瀬戸内海が広がる。正面奥には南洋風の休憩所があって何とも明るい雰囲気だ。多島海を眺めわたしながらしばし休憩した。
天目山駐車場裏の園地にある休憩所
天目山駐車場裏の園地にある休憩所
駐車場手前にはすぐ近くに高まるコブへと続く踏み跡があり、負荷を求めて登っていく。砂混じりの斜面となって足下が滑りやすい。5分ほどで登り着くてっぺんは眺めがよく、山頂標識が下がっていて天目山とあった。このあたりにあっては怒塚山同様に人工物が少なく山らしいピークで嬉しくなる。
天目山頂より金甲山を望む
天目山頂より金甲山を望む
登ってきたのとは反対側、貝殻山方面へと下るのも砂混じりの斜面で、ところどころに松の幼木が生え、あちこちに花崗岩が出ている。小さいながら日本庭園風の岩山で見ても登っても楽しい。とはいえ天目山はただのコブにすぎず"歩きで"はないに等しいので、車を駐車場に置いたまま貝殻山へと車道を歩いていく。
10分ほどで広々とした貝殻山の駐車場が正面に見えてくる。車で集まった無線愛好家の団体が車よりも丈高く長さもあるアンテナを展開している。貝殻山山頂部は駐車場から3分とかからず着く。
貝殻山頂より正面に小豆島を望む
貝殻山頂より正面に小豆島を望む(*3)
貝殻山は山頂近くにある弥生時代中期の貝塚から名があるらしい。眺めは天目山以上に広闊で、とくに金甲山と瀬戸内海が大きく見える。広々とした芝生の山頂は冬枯れしていてさえ暖かそうだが、吹きさらしのため風が強い本日は落ち着くことができない。幅広の道で山頂直下を周遊し、車道に出て天目山脇の駐車場へと戻っていく。


もうすぐ天目山というところで右手の樹木に案内板を見つけた。「宮浦−貝殻山Bコース 五石散策路」と書かれており、五つの石の手書きイラストが並んでいる(*1)。そのなかに"ほほ笑み岩"なるどうにもなごやかなものがあって、これは見に行かねばと山道に入ることにした。家を出たときは二人ともたいして歩く気がなかったのにけっきょく深みにはまっていくのは、やはりある程度は歩かないと気が済まないからだろう。
貝殻山と天目山との間にある五石散策路入口の標識
貝殻山と天目山との間にある五石散策路入口の標識
(現存せず)
軽く山腹道をたどり、稜線沿いの明るい道のりとなるとすぐに第一の石である"置き石"なるものが現れる(冒頭写真)。確かに、いったいどうやって一番上の石は置かれたのか、というかどのように風化されればこのようになるのか、不思議に思える造形だ。ここからの岡山市街地の眺めもまたよいが、風が正面から吹き付けるので長居はできない。
五石散策路より岡山市街と剣山を望む
五石散策路より岡山市街と剣山を望む
足下はよく踏まれ、山麓に当たる宮浦からの登山路として使われていることがわかる。それでも夏場は葉がかぶさってきて鬱陶しいだろうが、新年早々の時期であれば問題はない。シダ植物に似たのが足下を覆うのを越えてなおも行くと、道のりは下り気味となる。これは里近くまで出させられるのではと心配になりだすころ、第二の石である"隠れ石"を示す小さな木ぎれが目に入る。これは垂直に切れた断崖となっている岩で、先ほど同様に眺めがよい。
山道のすぐ先には背丈を超える板のような岩が立っており、これを回り込んでみると"ほほえみ石"の札が下がっていた。車道から20分ほど経っていた。顧りみると、確かに笑ったような大きな顔が浮かんでいる。ちょっと右目がお岩さんのようでもあるが・・・。しかしどことなくありがたい表情で、自然崇拝の念が湧いてくる。連れはじっさいこれに手を合わせ、今年の福を祈っていた。
ほほえみ岩
ほほ笑み岩
この山道はおそらく児島湾岸の宮浦に出るのだろうが、どこをどう辿って出るのかはもちろんわからない。確かめてみたくはあったが、車は稜線に起きっぱなしだったのでこのあたりで引き返すことにした。続く稜線下方には送電線鉄塔が立っている。これを目印に上がればよいはずで、いつかはと思いつつ往路を戻った。


そう思いつつ車で麓に下ったものだが、また来るにしても早くて一年後だ。どうせなら今日中に登り口を確かめてみようと、宮浦にある貝殻山登山口に出た。ここはバス停があり、山から下る小さな川筋の両側が細長い公園となっている。園地奥には立派な標識が立っていて貝殻山を示している。標識の下にはポストがあり、ありがたいことに「剣山・貝殻山・八丈岩山案内図」の手製コピーまで入っている。とはいえさきほど辿った尾根筋のルートは載っていないようだ。
とりあえず目の前に立つ標識の矢印の教えるとおりに歩いてみることにした。"ほほ笑み岩"が乗っていると思われる尾根筋を落ち葉と風化した花崗岩とで滑りやすい急坂で乗り越え、山腹沿いの道を行く。山側には用水路さえしつらえてある生活道路らしきを行くと、溜め池の金上池のほとり近くで左手から登ってきた簡易舗装路に合流する。
貝殻山登山口バス停近くの案内板
貝殻山登山口バス停近くの案内板。
赤い線は貝殻山に直接登るもの。
五石散策路はこの案内板には載っていない。
池を右手から回り込む道筋に入ると、右手の尾根へ上がっていく踏み跡があり、きっとこれをたどれば尾根筋に出てほほ笑み岩に達することだろうが、登り口の斜面が不安定で連れにはややきついと思われたのでやめにした。池を左へと回り込む幅広の道は隣の尾根に向かい、そのまま貝殻山から落ちる尾根に取り付くらしい。この日はこれで山歩きは中止し、往路で超えた落ち葉の急坂は下りたくなかったので簡易舗装路を下り、西原集落方面に出て県道倉敷飽浦線を西に歩き、結果的にずいぶんと大回りをして車のところに戻った。


五石散策路への登路がどうなっているのか気になり続けたので翌日ふたたび宮浦に出かけてみた。園地奥の標識の脇には昨日見落とした古びた木製の看板が下がっており、消えかかって読みにくいルート図が記載されている(*2)。それには貝殻山に直接登るルートの隣に天目山近くまで達するルートがあって「送電線鉄塔139番」を経るように描かれている。きっとこれが昨日"ほほ笑み岩"の下に見た送電線鉄塔だろうとあたりをつけ、貝殻山への道筋を左に見送り、正面の広い谷間に向かって歩き出す。
貝殻山登山口から正面の谷に向かう
貝殻山登山口から正面の谷に向かう
園地をつらぬく小さな川筋の左岸を歩いていく。本流を追い、同じような流れが二股になるところでは明瞭な道筋が続く左側の流れを辿ると、送電線鉄塔139号を示す巡視路の標柱を目にする。巡視路に入れば道筋は安心だ。植林のなかを抜ければ風化した花崗岩の砂礫が滑りやすい道で、登るにつれ眺めが開け、児島湾側が一望にできるようになる。松や岩が配されて日本庭園風に思える様相となると"見晴らし岩"と呼ばれる舞台状の岩にでくわす。さらに登ると名の通りの"重ね石"に出会う。
送電線鉄塔139号巡視路
送電線鉄塔139号巡視路
送電線鉄塔はすぐ上だ。鉄塔基部は切り開かれた台地状となっており、一段と眺めがよい。振り返れば岡山市街地を越えて本宮高倉山、金山、熊山方面が一望の下に見渡せる。行く手の木々の合間には「ぬりかべ」のような一枚岩が立っており、おそらくと思って近づいていくと"ほほ笑み岩"だった。これで昨日のルートとつなげることができた。
鉄塔基部よりほほえみ岩を望む
送電線鉄塔基部よりほほ笑み岩(中央上)を望む
当初はここで山を下るつもりだったのだが、せっかくなので稜線の車道まで出てみることにした。隠れ岩、置き石と過ぎて出た先では昨日同様に瀬戸内の眺めが広がっている。右手、天目山側に歩いていくと、右側には車道造成のため開削された花崗岩の壁が続くが、その壁が最も低くなったところから踏み跡が始まっているのに気づく。
これを辿って登ってみると2分とかからず眺望の開けたコブの上に着く。片隅には木の枝から壊れかけた山頂標識が下がっており、”飛天目”と読みとれる。瀬戸内や児島湾を前景とした岡山市街地が見渡せ、隣の天目山も、その後ろの金甲山さえも間近に見える。ここで食事休憩し、天目山側に下った。天目山自体は昨日二度も登ったので本日は割愛し、車道を戻って"ほほ笑み岩"への山道に入り、往路を下った。
飛天目山頂から手前に天目山と金甲山
飛天目山頂から手前に天目山と金甲山


よく調べてみると、嬉しいことに半島半ばにある貝殻山周辺へは麓から登るコースがいくつもあるのだった。五石散策路は見た限りガイドは出ていないようだが、悪くないコースなのでそのうち書籍でも紹介され、人の訪れが増えるかもしれない。自分たちもまたいつか麓から登ってほほ笑み岩の前で手を合わせることだろう。
2009/1/2、1/3

(2013/1/6追記)
*1 2012年の暮れに歩いてみたところ、五石散策路を示す木製看板はなくなっていた。天目山から貝殻山へ歩いていくと左手にある低い岩壁が高まり、これが消えて雑木林になったところに口を開けているのが散策路入口。
*2 同様に、2012年の暮れにはこの木製看板はなくなっていた。
(2014/1/1追記)
*3 写真に写っている東屋は2014/12/28には跡形なく撤去されていて、ベンチがあるだけになっていた。

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