五石散策路の尾根山腹から長谷池を俯瞰する。奥は児島湾貝殻山登山口から長谷池を経て天目山

近年、連れの実家の岡山に帰ると、必ず児島半島の里山を歩く。たいていは児島湾に面した貝殻山登山口を拠点に五石散策路の尾根を上るか下るかする。2011-2012年の帰省のおりは元旦にこの尾根を往復して天目山に登った。その3日後、もう一度この近辺を歩きたいものと思いつつ、かつて登山口で入手した地図を眺めていたところ、長谷池を経由して散策路の尾根の山腹を回り込み、剣山山腹にある虎口池の野営場に出て車道に上がるコースがあるのに気づいた。どんなところか行ってみようと連れと二人ででかけてみた。


登山口に車を置き、貝殻山登山口の大きな看板を左に見送る。昨年あたりまであった看板下の地図収納ポストはなくなってしまっていた(*1)。役に立つ地図を無償で配布してくれていた有志のかたにはあらためて感謝したい。小さな川に沿って山に向かって歩き、五石散策路を左に分けるところで右に行く。ここには新しく標識が立っており、左に行けば鉄塔39、右に行けば剣山・天目山とある。
左手に刈り取り後の棚田を見つつ高度をかせぐ。十字路に出るとまた標識が立っている。正面に登っていく道が剣山に向かうものだ。これはガイドによると青谷池の上に出るものらしい。おそらく採石場跡地のようなところで数年前に辿ったルートに合流するようだ。本日の天目山へは左へ向かう。未舗装とはいえ幅広の道が続き歩きやすい。振り返れば児島湾がいつものように穏やかだが、本日は北風が強く、歩き出したというのに上着も中間着も脱げない寒さだ。
左手の五石散策路の尾根が高くなるころ、谷奥の前方に堤防のようなものが見えてくる。登り着く溜め池の長谷池は好天の下に青い水面を湛えていた。地図を見ると奥に伸びて回り込む湖岸線を持つため見た目以上に奥行きがあるようだ。堤防上の道は水面上空に急激に立ち上がる剣山へと続いているが、道筋を確認してみると池の左を回り込んでいる(*2)。そちらへは堤防を下りて池の排水口に下らなければならない。距離は2メートルほどだが池の水がひたひたと寄せるきわを歩くもので、左手は沢へと落ち込んでいく。降雨後はあまり通りたくない場所かと思う。
排水口を渡って尾根の山腹を歩き出す。長谷池までは楽な道のりだったが、ここからは幅の狭い踏み跡となって細かいアップダウンが続き、道を覆い隠すシダ、花崗岩が風化した滑りやすい地面、思い出したように脚を刺すイバラがくりかえし登場する、連れに言わせれば「サバイバルコース」だった。「またこんな道に連れてきて」とまで言う。こちらも初めてなのだから仕方がない。自分一人なら「(ちょっと)すごい道だなぁ」くらいな感想だが、連れがいると心配で気疲れもひとしおである。
長谷池の排水口を渡る
長谷池の排水口を渡る
シダが覆う道
シダが覆う道
「サバイバルコース」に入ってわりとすぐに木の幹に巻かれた赤テープを発見し、コースとしては間違ってないはずだと安心する。ヤブっぽい道だが踏み跡はわりと明瞭だ。だが右手に落ち込む谷間は200メートルを少々抜く程度の山稜にはふさわしからぬ急峻さを感じさせ、道の荒れ具合とあわせて気を抜かせてくれない。堤防からは窺えなかった長谷池の奥の部分が眼下に広がる。あまり緻密とは言えない石積みでできた上を歩きもする。溜め池への流入を管理しようとしたのか、小さな砂防ダムのようなもののようだ。それがヤブめいた急な山腹に拵えられているのだから往時の人々の治水に関する強い意志を感じざるをえないのだった。
右手に仰ぎ見ていた剣山が少々低くなるころ、ようやく前方に虎口池の野営場が見えてきた。細い踏み跡をしばしで虎口池のほとりに出る。ようやく悪路は終了だ。時間にして30分ほどだったが、運動靴で連れと二人で歩くのは少々たいへんだった。
虎口池のほとりに出る。奥は野営場
虎口池のほとりに出る。奥は野営場
冬なので野営場は当然ながら営業していないが、明るい雰囲気が漂っていた。未舗装の車道を上がるとすぐに児島半島の脊梁を縫う車道に出た。天目山は目の前だ。風が強いので山頂での休憩はあきらめ、南方の山腹に造られた休憩所で陽光まわる瀬戸内海を眺めつつ湯を沸かした。なかなか沸騰せず、ようやく湧いたと思ったらガスがなくなってしまった。湯は不足気味で、インスタントコーヒーの粉末を入れたそれぞれのカップに注いだら、エスプレッソ並の濃さになってしまった。
南方の散策路より天目山山頂部を見上げる
南方の散策路より天目山山頂部を見上げる
休憩後、天目山を越えて五石散策路入り口に向かい、散策路の尾根を下った。全体を通してヤブが無く、尾根が水平なうちは路面が堅固、下りでは風化した花崗岩で滑りやすいものの、往路に比べれば格段に快適だ。何度も歩き、3日前にも歩いたばかりなので勝手はわかっており、連れは水を得た魚のように下っていくのだった。
2012/01/04

(2013/1/6追記)
*1 2012年の暮れには、立派なポストが再設置され、更新された案内地図が収納されていた。対応されているかたに感謝します。
*2 2012年の暮れ版の地図では、本稿でのように長谷池を左に回り込むのではなく、右に回り込んでいくように書かれている。詳細は現地で地図を入手して検討されたし。

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