菊花山大月駅西方歩道橋より菊花山

菊花山は大月市街地の南にのしかかるように立つ。その名は山中に菊花模様の有孔虫化石を産することから付けられたそうだが、市が宿場町であったころには貧乏山とも言われていたという。町中に日陰をつくることを嫌われての呼称だそうだが、ひょっとするといまでもそう呼ばれているかもしれない。大月駅を挟んで反対側にある岩殿山が強烈に人目をひくので見落としがちだが、じつは菊花山はどこから見ても形が佳い。


この山だけでは一日どころか半日の山としても物足りないが、地図上でも車窓からも気にはなっていた。ある日の日曜、乗った中央本線の電車がたまたま遅れて目当ての山に行けなくなり、それではと猿橋駅で下車して九鬼山への登路から行ってみることにした。御前山を過ぎてしばらくしたところにある分岐から、菊花山へと続く尾根道に入る。これがかなり急な下り道で、砂礫に覆われて滑りやすい。しかし予想以上に道形のはっきりとしたコースでよく歩かれていることがわかる。終始雑木林の中で明るく、かと思えば何度か道を塞ぐ赤松の倒木が山の深さを本当のところ以上に演出している。
登り返して丸く大きな岩が積み重なるように出てくると山頂だ。それほど広くなく、5,6人でいっぱいだろう。ルート途中の手書き案内板にはこの山の名とともに「眺め良し」とあったが、看板に偽りなしでほぼ四方が見渡せる。樹木に遮られてよく見えないものに百蔵山や扇山、南大菩薩があるが、好展望の評価を下げるほどではない。
正午の太陽を浴びてまず目を引くのは大岩壁を押し立てた岩殿山だが、その背後には雁ヶ腹摺山とそこから派生する山々がとても魅力的に見える。まずは大樺ノ頭から泣坂ノ頭と大峰に連なる楢ノ木尾根が優美なスカイラインを切っている。とくに泣坂ノ頭と大峰のペアは美しい。手前にはかなり標高を落とした別の尾根が宮地山、大岱山、セーメーバンを起こしており、それぞれ地味な見かけだが、見るからに静かな山域で十分惹きつけるものがある。御前山付近の神楽山からや菊花山分岐手前の伐採跡地からもこのあたりの山々は見渡せるが、菊花山頂は大菩薩山塊に近い分、目にするものに迫力が増している。


山頂からは大月駅方面に下ったが、これがまた砂礫の滑りやすい急坂で、しかも手がかりとする木々に乏しい。短い距離とはいえかなり神経を使った。このコースは逆に歩いた方がよいかもしれない。
2004/3/14

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