十観山十観山の山頂。右奥に夫神岳が透かし見える。

秋分のころ車で長野の戸隠高原に出向くことになり、せっかくなので途中でひと山、と考えて青木村の十観山を選んだ。この山は林道と山道をたどって一時間ほどで山頂に着く。登山口自体へも高速道路の長野道を麻績ICで降りてから一時間とかからないので行きの山としては悪くない。
十観山は夫神岳、子檀嶺岳と併せて青木三山の一角を成し、標高は最も高い。とはいえ他の二山が個性的な風貌で目を惹くのに対し、山容にさほど特徴がなく、背後に延びる滝山連峰のほうが高度があるのでその前面に埋もれてしまう。写真にしてもこの文章を書こうとして全身を写したものを探したが季節感の合ったものがなかった。(なので青木村観光協会が出している田沢温泉・沓掛温泉の案内パンフレット上の写真を転載することにした。)
青木村観光協会が出している田沢温泉・沓掛温泉の案内パンフレット上の写真
それがこれ

麻績ICを下り、筑北村を抜けて修那羅峠を越え、青木村に入っていく。田沢温泉を示す標識に従って右に入ると温泉に突き当たる。日帰り入浴施設もあるようなので帰りに一浴びというのも可能だ。山へは温泉街入口を右へさらに車を走らせ、林道を辿ってキャンプ場入口まで行く。入口反対側に車を停める小広い場所がある。車を降りて支度する間、涼しげな虫の声があたりから聞こえていた。
出だしは林道だが静かで歩きやすく斜度も問題ない。林間を気分良く歩いていくと青木村側が開けた場所があり、平野部とその背後に立つ夫神岳、彼方の独鈷山や浅間連峰、四阿山が広々と見渡せる。さらに行くと標識の出ていない顕著な分岐があり、右手のを選んで進むとすぐに標識の立つ山道入口となる。
林道の途中から青木村と夫神岳(右)、独鈷山(奥)を望む
林道の途中から青木村と夫神岳(右)、独鈷山(奥)を望む
細い踏み跡に入ってもあいかわらずよく踏まれた道のりだった。傾斜は大したことはないように思えるが実は歩きやすさから来る錯覚で、ところどころはわりと急だ。いっしょに歩いた連れは運動不足のせいで敏感に反応し、立ち止まる回数が多くなる。昼過ぎに登りだしたせいか、やはりそもそも不遇の山のせいか、9月の三連休初日で天気も良いというのに山中には誰もいない。風が葉をそよがせる音が耳に優しい。
歩きやすい山道を辿る
歩きやすい山道を辿る
木の幹の合間からすぐ近くに子檀嶺岳の頂上部分を窺う。小さな小屋が前方に現れて何かと思えばトイレだった。こんなマイナーそうな山に不釣り合いなと思うが、じつは訪問者は意外と多いのかもしれない。そんなことを考えているうちに山頂に着く。
木々がそこここに立つとはいえ小広いもので、青木村を見下ろす方向が伐採され平野部を見渡すことができる。しかし青木三山の他の二山は開けた視界に入っておらず、夫神岳がようやく樹間に丸い頭を透かし見られるだけで、子檀嶺岳は裾野の一部しか目に入らない。アクセントが無いという意味では眺望はいま一つだが、浅間連峰まで見通す広く奥行きのある眺めは開放的で落ち着くものなのだった。
登っているさいちゅうは汗が止まらなかったが、もうすぐ3時になろうという山頂は風が冷たかった。Tシャツ1枚では肌寒いくらいで、久しぶりに山の上でつくったカップラーメンが美味しく思えた。つい最近まで猛暑日が連続していたとは思えない涼しさだった。
山頂から青木村、その背後に雲かかる浅間連峰を望む
山頂から青木村、その背後に雲かかる浅間連峰を望む
下りは往路を戻った。一時間以上かけて登った道のりを、半時で下ってしまった。車を停めた場所に戻ってみると、出発したときとは別の虫の音が響いていた。走り出したのは4時で、これから戸隠に向かわなくてはならない身としては、たとえ田沢温泉がすぐそこにあろうと立ち寄ることは叶わないのだった。


なお、「十観山」の読みだが、同じく観光協会の出しているトレッキングガイドでは表紙に「じっかんざん」とルビが振られ、本文には「じゅっかんざん」と書かれている。実際に口にするには大差ないのだろう。
2010/09/18

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