解説3:散乱角の詳細

 

 数式表示にMathJaxを使用しています。端末によっては,数式が正しく配置・表示されるまでに数十秒ほどかかる場合がありますが,そのまましばらくお待ちください。






散乱角の極大値、極小値について:
 散乱光の散乱角は,次式で与えられた(解説1で確認)。
 ◎雨滴内反射1回:\[\kern-2em \theta = 4 \, \arcsin \bigg(\bun{y}{n}\bigg) - 2 \, \arcsin \big(y \big) \quad \cdots\cdots\maru{4} \]  ◎雨滴内反射2回:\[\kern-2em \theta = \pi + 2 \, \arcsin\big(y \big) - 6 \, \arcsin\bigg(\bun{y}{n}\bigg) \quad\cdots\cdots\maru{5}\] ここで $n$ は雨滴の屈折率, $y$ は衝突係数で, $y=\bun{b}{a}$ ( $a$ :雨滴半径, $b$ :雨滴の中心線から測った入射光線の高さ)です。
 下図は,上の $\maru{4}$ 式, $\maru{5}$ 式にしたがって描いた屈折率 $n=1.331$ (ほぼ赤色)の光線に対する散乱角-衝突係数のグラフです。

  $\maru{4}$ 式は図の点aで極大値を, $\maru{5}$ 式は点bで極小値を持ち,この散乱角方向で光線密度が最大となり,その色の光が最も強くなります。この散乱角の極大値,極小値の値は波長によって少しずつずれていることにより,この方向に主虹,副虹ができるわけです。
 このように,それぞれの屈折率の光に対して,雨滴内反射1回の場合で散乱角の最大値を与える光線,あるいは雨滴内反射2回の場合であれば散乱角の最小値を与える光線のことをデカルト光線と言います。デカルト光線の方向に射出された光が最も強いことになります。

 以下,主虹,副虹の散乱角,すなわち $\maru{4}$ 式の極大値, $\maru{5}$ 式の極小値を求めてみましょう。

◎主虹の散乱角:

 $\maru{4}$ 式の極大値を求めるには, $\maru{4}$ 式の微係数を $0$ とおけばよい。 $\maru{4}$ 式を $y$ で微分して(下記<参考>を参照),\[ \kern-1em \theta = 4 \, \arcsin \bigg(\bun{y}{n}\bigg) - 2 \, \arcsin \big(y \big) \quad \cdots\cdots\maru{4} \\ \kern-3em \therefore \bun{\mathrm{d}\theta}{\mathrm{d} y} = \bun{4}{\kon{n^2 - y^2}} -\bun{2}{\kon{1 - y^2}} = 0 \\ \kern-3em \therefore \color{red}{y = \kon{\bun{4 - n^2}{3}} のとき極大値 \\ \kern-2em \theta_{max} = 4 \, \arcsin\bigg(\kon{\bun{4 - n^2}{3n^2}}\bigg) - 2 \, \arcsin\bigg( \kon{\bun{4 - n^2}{3}}\bigg) \quad\cdots\cdots\kern0.5em\maru{\mathrm{i\,}}} \] となり,この散乱角の方向に主虹ができます。したがってもし太陽光線が水平に入射しているとすれば, $\theta_{max}$ が主虹の仰角(水平から測った角度)を与えることになります。
  例えば $n=1.331$ (ほぼ赤色)のとき $y \kinji 0.862$ で $\theta_{max} \kinji 42.37^\circ$ , $n=1.341$ (ほぼ青色)のとき $y \kinji 0.857$ で $\theta_{max} \kinji 40.93^\circ$ となります。

<参考>  $\phi = \arcsin(\bun{x}{n})$ のとき, $x = n \, \sin(\phi) $ であるから, \[\therefore \bun{\mathrm{d}x}{\mathrm{d} \phi} = n \, \cos (\phi) = n \, \kon{1 - \sin^2 (\phi)} \\ \kern 8em = n \, \kon{ 1 - \bigg(\bun{x}{n} \bigg)^2} \\ \kern 8em = \kon{n^2 - x^2} \\ \therefore \bun{\mathrm{d}\phi}{\mathrm{d} x} = \bun{1}{ \bun{\mathrm{d}x}{\mathrm{d} \phi}} = \bun{1}{\kon{n^2 - x^2}} \]


◎副虹の散乱角:

  $\maru{5}$ 式の微係数を $0$ とおいて,\[ \kern-1em \theta = \pi + 2 \, \arcsin\big(y \big) - 6 \, \arcsin\bigg(\bun{y}{n}\bigg) \quad\cdots\cdots\maru{5} \\ \kern-3em \therefore \bun{\mathrm{d}\theta}{\mathrm{d} y} = \bun{2}{\kon{1 - y^2}} -\bun{6}{\kon{n^2- y^2}} = 0 \\ \kern-3em \therefore \color{red}{y = \kon{\bun{9 - n^2}{8}} のとき極小値 \\ \kern-2em \theta_{min} = \pi + 2 \, \arcsin\bigg(\kon{\bun{9 - n^2}{8}}\bigg) - 6 \, \arcsin\bigg( \kon{\bun{9 - n^2}{8n^2}}\bigg) \quad\cdots\cdots\kern0.5em\maru{\mathrm{ii}} } \] となり,この散乱角の方向に副虹ができます。太陽光線が水平に入射している場合であれば, $\theta_{min}$ が副虹の仰角を与えることになります。
  上式より, $n=1.331$ (ほぼ赤)で $y \kinji 0.951$ , $\theta_{min} \kinji 50.36^\circ$ , $n=1.341$ (ほぼ青)で $y \kinji 0.949$ , $\theta_{min} \kinji 52.97^\circ$ となります。


【参考】
 下の図1は,屈折率 $n=1.331$ (ほぼ赤色), $n=1.335$ (ほぼ緑色), $n=1.341$ (ほぼ青色)の光について,それぞれ雨滴内反射が1回(実線)と2回(破線)の散乱光について,衝突係数 $y$ -散乱角 $\theta$  の関係を示すグラフです。

 上図において,それぞれの極大,極小の値が少しずつずれていることがわかります。
 虹の色が明瞭に識別できるためには,それぞれの方向に特定の色の光が強くなっていなくてはなりません。いくつかの色の光が同程度の強さで混じり合えば,全体としての光の色は混合色となってしまいます。
 光の強弱は光線密度の大小で比較でき,光線密度は $\bun{\mathrm{d}y}{\mathrm{d} \theta}$ (上記図1のグラフの勾配 $\bun{\mathrm{d}\theta}{\mathrm{d} y}$ の逆数)を指標とすることができます(解説2参照)。
 下の図2は,雨滴内反射1回の散乱光についての $\bun{\mathrm{d}y}{\mathrm{d} \theta}- \theta$ グラフです( $\theta$ が極値を超える範囲については, $\bun{\mathrm{d}y}{\mathrm{d} \theta}$ の絶対値を加算して処理)


 上図より,「青」,「緑」,「赤」がピークとなる $\theta$ はかなり離れていますので,これら色が重なって見えることはありません。太陽光線には連続的に変化するすべての波長の光(色)が含まれていますので主虹の色もグラデーションとして連続的に変化していきますが,「青」・「赤」といった色の変化はしっかりと識別できることになります。
 しかし上記のようなことが言えるのは, およそ $40.5^\circ \, \lt \, \theta $ の範囲であって,およそ $\theta \, \lt \, 40^\circ $ の範囲では $\bun{\mathrm{d}y}{\mathrm{d} \theta}$ の値は「青」も「緑」も「赤」もほとんど同じ値になってしまい,突出して光線密度の高い光はないことになります。多くの色の光が同程度の強さで混じり合えば,その混合光は「白色光」に近づきます。主虹の内側が白っぽく見えてしまうのはこのような理由によります。
 副虹についても同様なことが言えます。



 次は, 解説4(反射率) をクリック


  虹の話   概要
  解説1(解説1:雨滴による虹散乱)
  解説2(虹の色と散乱角)
  解説3(散乱角の詳細計算)
  解説4(反射率)
  解説5(虹散乱での反射率)
   *** 以下,過剰虹 関連 *** 
  解説6(波動光学)
  解説7(過剰虹成因の概要)
  解説8(波面の式)
  解説9(虹の光強度の式)
  解説10(波動光学による虹)