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争点の解説

5 時の経過による権利の消滅について

 強制連行事件だけでなくすべての戦後補償裁判の最大の論点が、この時効、除斥期間の問題です。戦後補償裁判における残された最大の問題はこの「時の壁」といっていいと思います。

 

民法724条後段の法的性質

 判決は,民法七二四条後段の規定は除斥期間を定めたものとします。しかし,同規定は長期の消滅時効を定めたものと多くの学説はいいます。この論争の意味は、時効なら権利の濫用や信義則違反などとの適用に柔軟性が認められるが、除斥期間ならそうした解釈が著しく困難になるという点にあります。ここでは,除斥期間点を中心に整理します。


起算点について

 七二四条後段の二〇年の起算点については,条文上「不法行為の時より」と規定されていることから、判決は、権利行使の可能性の観点から「不法行為ノ時」を解釈することはできない」といいます。これによれば、起算点は敗戦となった一九四五年となり、二〇年後の一九六五年には権利が消滅することになります。しかし、この時期は、また日中の国交が成立していないのです。これは極めておかしいといえます。
 一九七二年の日中共同声明の時点では,あだ個人賠償請求権の帰趨が明らかでありません。それが明らかになるのは,一九九五年三月の銭其( )外相の発言によってであり,これで初めて個人賠償請求権行使の抽象的な法的可能性が生じたといえます。一九九五年三月よりも前の時点に二〇年の期間の起算点を求めることは誤りといえます。しかし、多くの判決はなお、起算点は一九四五年とします。


除斥期間の効果制限

 仮に、起算点を一九四五年としても、満了日を二〇年後の一九六五年とすることはあまりに実態とかけ離れているとする判決が出始めています。福岡高裁判決がその例です。同判決は、「二〇年の除斥期間内に権利を行使することがおよそ不可能な事情があり・・権利を消滅することが国民の正義・公平の感情に著しく反する」場合には、「効果を制限することは条理にかなう」として、一九七二年の国交成立前までは権利行使が客観的に不可能であり、また、一九八六年の中国の「公民出国入国管理法」施行前は、私事による出国が認められず、権利を行使することが事実上困難であったとして、効果を制限しました。しかし、被害者が提訴した二〇〇五年五月の時点では、一九八六年からすでに一四年が経過しているから除斥期間の経過により権利は消滅したとしました。


適用制限について

 この論点は、本件にそもそも除斥期間や時効を適用することを否定し、適用を制限できるか否かという問題です。
多くの判決はなお適用制限を認めていませんが、劉連仁東京地裁判決は除斥期間の適用を、福岡地裁判決、新潟原判決は時効の適用を否定しました。
 中国人被害者が権利行使できなかった理由は、日中間の戦争状態の継続,中国国内の法整備状況,日中間の経済格差,旅券・査証の不発給など,被害者の責めに帰すことのできない,法的・物理的・客観的な障害によるものです。そして,権利行使が不可能な状態にあったのは,戦争中に,敵国である中国から,強制的に敵国人である中国人を外国である日本まで拉致してきたことが原因となっています。
また,国と企業による外務省報告書や事業場報告書の証拠隠滅行為や国から企業へ支払われた莫大な補償金、さらに、外交文書等の公開によって明らかになった,外務省を中心とした政府の国会等における強制連行資料の隠蔽工作等の事情を考慮すれば、時効、除斥期間について突っ込んだ判断がなされてもいいはずです。
 時効、除斥期間をめぐる争点は、今後とも激しく議論されることとなります。

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