Web-Suopei  生きているうちに 謝罪と賠償を!

争点の解説

6 日中共同声明による個人請求権の放棄

 国が2003年あたりから出してきた抗弁が、「日中共同声明によって個人請求権は放棄された」との主張です。しかし、現在までのところ、この理由で被害者を敗訴させた例は見当たりません。


 日中共同声明五項は次のように規定しています。
  「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する」
 この文言それ自体は、同じく戦後処理問題について規定したサン・フランシスコ平和条約や日ソ共同宣言(1956年)、日韓請求権協定(1965年)などの文言と対比するとき、明らかに違いがあります。


 たとえば、サン・フランシスコ平和条約一四条(b)は「戦争の遂行中に日本国及びその国民がとった行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権」を放棄すると規定しており、日ソ共同宣言六項、日韓請求権協定二条も同様な規定となっています。
 さらに、日中共同声明の当事国の見解についていえば、一九九五年三月七日、中国の銭其シン副首相兼外相(当時)は、「日中共同声明で放棄したのは国家間の賠償であって、個人の賠償は含まれず、補償請求は国民の権利であり、政府は干渉すべきでない」旨の見解を示しました。


 このような日中共同声明の解釈は、最近の判決として、日本国を被告とするいわゆる「山西省慰安婦裁判」(平成一五年四月二四日、東京地裁判決)でも認められています。
 「被告(国)は、日中共同声明をもって、被害者個人の我が国に対する損害賠償請求権も放棄されたと主張するが、同声明も、国際法の基本的な枠組みのなかで解釈されるべきものであって、日中戦争における加害国である我が国に対し、その相手国である中華人民共和国(戦争当時は中華民国)が損害賠償請求、いわゆる『戦争賠償』を放棄したにとどまり、相手国の国民である被害者個人の我が国に対する損害賠償請求、いわゆる『被害賠償』まで放棄したものではない。被害を受けた国民が個人として加害者に対して損害賠償を求めることは、当該国民固有の権利であって、その加害者が被害者の属する国家とは別の国家であったとしても、その属する国家が他の国家との間で締結した条約をもって被害者の相手国に対する損害賠償請求権を放棄させ得るのは、自国民である被害者に自ら損害賠償義務を履行する場合など、その代償措置が講じられているときに限られるべきところ、中華人民共和国においては、日中共同声明を調印することによって、自国民に対して日中戦争に係る損害を自ら賠償することとして、我が国に対する損害賠償請求権を放棄させたという形跡はなく、被告の主張は採用し得ない」。正しい判断といえましょう。

>> 目次へ戻る

Copyright © 中国人戦争被害者の要求を実現するネットワーク All Rights Reserved.