デンマークからの風
-Asetek Vapochill ファーストレビュー -
LastModified 02/10/14
「おこしてみせよう、わしらが奇跡だ。」
(川原 泉 著 「笑う大天使」より)
もう8月ですね、暑さも一段と厳しい今日この頃、皆様如何お過ごしでしょうか。随分遅れてしまいましたが、Vapochillのファーストレビューです。
つい2ヶ月前には、独りで海外通販へ問い合わせを行い、「どうしたもんかいのう」と悶々としておりました。それが「ガス冷への誘い(いざない)」と通じて呼びかけを行った所、5人集まればなんとかという所に13人ものご応募を頂き、めでたく入手する事ができました。まさかこんな事が可能だとは自分でも思っていませんでした。大袈裟かもしれませんが、私にとっては「ささやかな奇跡」とも云える出来事でした。
お世話になったLASER5のnullさん、並びに四万十川の口車に乗って下さった人柱13人衆の方々に感謝の意を込め、このレビューを捧げたいと思います。改めてありがとうございました。
1. Asetek Vapochill
さて、ようやっと入手したVapochillです。まずはケースの出来栄えから見ていきましょう。

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ケースの蓋はコの字型。丈夫ではありますが、お世辞にも作りが良いとは言えません。うーん、ヨーロピアンテイストとでも言うのでしょうか(笑)
ネジ穴を開けてネジを切っていない所が結構ある辺りが大陸的です。なんと25kgもあります。 冷却ユニットはケース上部に格納され、その為上部3.5inch
x 1, 5inch x 3
のオープンベイははめ殺しです。よって使用可能ベイは、3.5inch x 3,
5inch x 2 となります。シャドウベイはありません。
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写真には写っていませんが、上部に冷却ユニットがくる為、電源はケース中央部に縦に設置されます。FORTRON/SCURCEという見慣れないメーカの300W(3.3V:14A,
5V:30A, 12V:12A)です。開口部や排気口はENARMAXと同様の処理がしてありかなり静かな電源です。
マザーベースは観音開きさせる事が可能です。ケースファンは前面に8cmx1,
背面に6cmx2が設置可能ですが、一切付属していません。 |
2.冷却ユニット
さて、それでは Vapochillの心臓部である冷却ユニットについて見てみましょう。使用されているのはドイツの
Danfoss社製のコンプレッサBD35F
です。使用冷媒は、HFC-134aで85g充填されています(Asetekによる)。

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左より、コンデンサ、コンプレッサ、電源部 |
今回の目玉、アクセスバルブ! |

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エバポレータ(4 x 5cm) |
以前のモデルを購入された方の情報では、ガスの封入口は銅管が潰されただけという事でしたが、今回LASER5のnullさんと相談して、「アクセスバルブつけて!」と駄々こねてみた所、つけてくれました!
いやぁ〜云ってみるもんですねー。どうやら日本向けのみの特別仕様の様です。四万十川Editionと呼んでもいいですか? 駄目ですか、そうですか。

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冷却ユニットのみの拡大写真です。黒いタンクの様な物がコンプレッサです。コンプレッサはATX電源から12Vのみ供給されます。実測された方のお話で電流は5Aだそうです。消費電力60W程度という事になります。 コンプレッサで高温高圧に圧縮された冷媒は、上部配管よりコンデンサ(ラジエータ状の部分)に入って冷却され液化します。コンデンサファンは、PAPSTというハンガリー製で12V
160mA と非常に静か(弱い)です。
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コンデンサ下部配管からストレーナ(埃取り?)を経由してキャピラリチューブ(輪の様に束ねられている細管:外径2mm,
長1.5m)を通って流量調節され、黒い断熱ゴムチューブで覆われた戻り銅管に巻き付けられてエバポレータに向かいます。エバポレータ内で冷媒は蒸発し、CPUより気化熱を奪い、戻り銅管を通ってコンプレッサに戻ります。(ここらへんの原理の理解がまだいい加減なのでおかしな部分はご指摘願いますm(__)m)
動作音は非常に静かでファンが廻っているのを目で確認しないと思わず「ホンマに動いてるんかいな」と思ってしまいます |
冷却ユニットは結構な重さで、なおかつデカイのでケースから外すのは一苦労だったりします。
3. CPUの断熱
氷点下まで冷却しようというのですから、結露を防ぐ為に当然CPU部には断熱が必要となります。Vapochillではヒータ付きのプラスティックケースにCPUを封入する事でこれを解決しています。今回はSECC2用CPUkitについて紹介します。(FC-PGA用もあります)

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CPUを固定金具でエバポレータに取り付け |
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ヒータ付きケースに格納 |
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マザーにCPUを固定 |
CPUコアは、断熱用スポンジと共にエバポレータにSECC2の穴を使いプラスティック製のネジで固定金具を介して固定されます。以前のモデルでは、エバポレータのサイズが5x5cmでSECC2の穴が使えずスポンジで密着させていたそうですが、改良されている様です。
2000.08.12追記
エバポレータに固定された時点で、内側にヒータを内蔵してあるプラケースで封入します。ヒータはSlot1基部まで加熱する構造となっており、かなりの発熱です。冷却ユニットより平型端子を経て12Vが供給されます。実測された方のお話では電流は2Aだったそうです。24Wもの発熱という事になります。プラケースが結構大きいので、リテンションキットは使用しません。
ただ、冷却ユニットをケースに取り付けた状態でCPUをエバポレータに固定するので作業性は最悪です。また、CPUをプラネジ4本で固定するのでCPU基板が凄まじく撓ります。CPUコアの密着という点では論外ですね。なんとかしなきゃ・・・
4. 稼動
さて、準備は整いました。それじゃいっちょ動かしてみますか。ちなみに、マニュアルはこちらです。

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CPUを固定した後に電源を取り付け、最終的には左の様な姿となります。冷却ユニットを動作させると、数分でエバポレータは右の写真の様に氷結します。(エバポレータから伸びているコードは私が設置したサーミスタです) |
各種条件下における温度計測データはこちらです。電源投入から安定温度域に入る迄に、約3〜4分程かかっています。これはコンプレッサオイルに溶け込んだ冷媒がガス化して内部圧力が上昇するのに時間がかかっているのではないかと思われます。Asetekでは、このタイムラグを埋める為に
ChillController
というオプションを用意しています。これは、設定温度迄冷却されるまで、システムのリセットスイッチを押しっぱなしにするという物です。
CPU |
SL457 125x8=1000MHz動作 |
M/B |
Epox BX6-SE |
Cooler |
Asetek Vapochill SECC2 CPU kit with
グラファイトアダプタ |
OS |
Windows98
SecondEdition(ACPI OFF) |
VGA |
Canopus Spectra5400SE |
Memory |
プリンストンテクノロジー PD168G-128 9932
MT48LC8M8A2-75B |
SCSI |
Adaptec AHA-1542CF(ISA) |
計測位置
Evapo :エバポレータのCPU接触面上部(CPUの真上)
CompUp :コンプレッサ 頂上部
CompLow :コンプレッサ 戻り銅管付け根付近
CPU :MBprobe によるCPUサーマルダイオード温度読み出し
各測定条件はコンプレッサを初期条件とする為、日を改めて測定。(コンプレッサが一旦起動すると、オイルに溶け出しているフロンが気化して内部が高圧状態となる。故に2回目以降の起動では初回時より急速に冷却が進む)
記載しているのは、室温26℃前後で起動2時間後の計測値。
1 無負荷条件
エバポレータ単体(断熱無) |
In CPUkit HeaterOFF |
In CPUkit HeaterON |
Evapo |
CompUp |
CompLow |
Evapo |
CompUp |
CompLow |
Evapo |
CompUp |
CompLow |
-21.0 |
26.0 |
5.9 |
-24.0 |
25.7 |
16.1 |
-25.0 |
25.2 |
13.0 |
2 負荷条件
SL457@125x8 Vcore 1.8V Case開 |
SL457@125x8 Vcore 1.8V Case閉 |
備考 |
Evapo |
CompUp |
CompLow |
CPU |
Evapo |
CompUp |
CompLow |
CPU |
-21.0 |
33.9 |
24.6 |
-19.5 |
-13.2 |
46.8 |
34.9 |
-11.5 |
3Dmark2000稼動 |
(注) CPU温度は3Dmark2000終了直後にMBprobeで読み取り。(ACPI OFF条件なのでCPU内部温度に極端な変動は無い物と考えられる)
CASE閉負荷有り条件以外の全てで、キャピラリ及びコンプレッサ戻り銅管付け根付近で結露発生。
5.考察
とはいえ、まだまだ動作原理の理解もおぼつかない状態なので考察等できよう筈もありません。ここでは、ガス冷初体験の感想に留めたいと思います。おかしな記述をしていましたら、是非ご指摘願いますm(__)m
(1) 負荷の有無による差について
無負荷条件における断熱有無で-4〜-5℃の温度低下を見せているのは当然としても、ケース開でCPUに通電した場合でもエバポレータ温度は-21℃とエバポレータ単体の場合と同じです。空冷の場合は、負荷無しで冷える(室温に近い)程良いという事になりますが、ガス冷の場合は発熱体(CPU)があって始めて冷媒の気化が促進される訳ですから、単純に無負荷での温度で冷える冷えないを云々できないという事ですね。当たり前かもしれませんが目から鱗です。
空冷ペルチェ等はCPU負荷により温度が乱高下しますが、ガス冷は負荷に応じた適切なセッティング(冷媒循環量)をする事で負荷時に最高の効率を発揮するという事になる訳ですね。
コンプレッサ
戻り銅管付け根付近の温度は、無負荷条件では室温以下、ケース閉条件負荷有条件では室温程度となっています。これは、無負荷の場合は冷媒がエバポレータ内で蒸発しきれず液状のままコンプレッサに戻ってコンプレッサを冷却してしまっているのでしょう。
ケース開負荷条件では、CPUコアと気温との相対温度は-45℃にも達しています。空冷ペルチェではとても望めない次元です。また、CPUコアとエバポレータとの接触が非常にいい加減なのにも関わらず1.5℃程度の温度差なのはグラファイトアダプタがうまく機能してくれている為と思われます。
(2) ケース閉状態(常用環境)の問題点
ケース閉負荷条件では、いきなりCPU温度は-11.5℃とケース開に対して8℃も悪化しています。それに対応してコンプレッサ各部の温度も上昇し、コンプレッサ上部では46.8℃にも達しています。実際、ケース内部及び外板自体もかなり加熱して触っただけでも熱いと感じる程です。
これは、CPUヒータ、インバータ電源、コンプレッサの発熱がケース外に廃熱されずにどんどんケース内部に溜まってしまうからでしょう。Vapochillに装備されているファンは電源以外では、非常に弱いコンデンサファンのみ。しかも風向はケース内部に向いています。これでは廃熱などできる筈もありません。ケースを閉じた常用を視野に入れた場合、適切なファンの増設によってケース内空調を改善するのが鍵となりそうです。
つまり、ガス冷却であっても効率を追求する以上は、ファンの轟音から無縁ではいられないという事です。(T_T)
常用化には色々課題がありそうですが、工夫していけばCPUをー20℃以下で運用するのも夢ではないかもしれません。
6. 独り言
という訳で如何でしょうか?
なんか空冷とは勝手が違って判らない事だらけなので、今回は軽いファーストレビュー程度です。しかし、空冷ペルチェなんぞとは次元が違うそのパフォーマンスは感じ取る事ができると思います。
いや、面白過ぎます!買って良かった!! 今後は以下の対策を少しずつ試しながら、効率Upを図っていこうと思います。
1 キャピラリの断熱強化
2 傾き冷却の検証
3 コンプレッサ回転数の変更可否チェック
4 ペルチェによる定負荷試験
5 禁断のガス抜き
6 CPU の断熱強化及び作業性の改善
7
コンデンサファン強化、ケースファン増設によるケース閉状態の改善
え? Clockはどこまで上がったかって?・・・・そう言えば1GHz
以上は試してませんねえ。いや、何か上の全ての対策が終わった時点でのお楽しみにとっておこうかと(笑)
今回色々やっていてやっと気がつきました。私は、限界マシンが欲しいんじゃなくて、世界で1台の「笑いが取れるオリジナルマシン」
が欲しいのだという事に(自爆)
「今ひとりの男が門をくぐった。その門の名は修羅の門」
(川原正敏著 「修羅の門」より)
いや、「冷却の門」でしょ。
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