公娼制とは、政治権力が売春を公式に管理する制度で、有史以来、現代にいたるまで延々と続いている。この節では、慰安婦制度のもとになった近代公娼制と呼ばれる制度を中心に述べる。
図表2.1 売春の歴史と公娼制
売春は世界最古の職業―― 正確には「…最古のサービス業」?――といわれるそうだが、人類の文明の歴史とともにそれらしき女性が登場する。古代においては神の恩寵を性交を通して与えるものとされ、娼婦は女神の象徴で巫女たちは、神と世俗を結ぶために男たちと交わった、という。
記録が確認できる最古の公娼制度は古代ギリシャで創設されてローマ帝国にひきつがれ、さらに中世ヨーロッパ諸国へとつながっていった。中国でも同じ頃同様のものが作られたという。
戦争に出向く軍隊に娼婦が同伴したのは、かなり昔からのことで、少なくとも十字軍には娼婦が同行していたことがわかっている。軍隊と娼婦は古代から切り離せない存在だったようだ。
1802年、ナポレオン戦争の間に広まった性病を統制するため、フランスで娼婦の登録と性病検診が義務づけられた。これが近代公娼制のはじまりといわれ、その後、ヨーロッパ各国や日本にも導入されていった。1843年頃の調査では、ロンドンに9万人、パリに3万人、ベルリンに1万人の娼婦がいた。
イギリスでは、クリミア戦争(1853年~1856年)での性病蔓延を機に伝染病法によって公娼制度が導入された。1870年代になって廃娼運動が活発になり、19世紀末に本国では形式的に廃止されたが、インドや香港など植民地では存続した。
アメリカでは南北戦争時に性病予防のため、セントルイス、ニューヨーク、シカゴなどの都市や植民地のフィリピンで公娼制が導入されたが、全国レベルでは導入されていない。
19世紀末には廃娼運動が活発化し、婦女の売買を制限する国際協定が20世紀初頭に制定されていく。
フェミニストの藤目ゆき氏は、近代公娼制度を「軍国主義、帝国主義とともに生まれ育った国家売春制度」だという。
現在、公娼制度を公認している国には、オランダ、ドイツ、スイス、アメリカのネバダ州、タイ、シンガポール、などがある。日本では1956年に成立した売春防止法により売春行為自体が禁止されているが、ソープランドでの売春や援助交際のような性による金銭取引はひそかに行われている。
国際人権NGOのアムネスティは、セックスワーカー(娼婦)の安全と人権を守るため、成年の男女が合意の上で行う売春行為は処罰の対象としないよう求めている。(詳細は こちら )
Weblio辞書「娼婦」
Wikipedia「神聖娼婦」
Wikipedia「公娼」
秦「戦場の性」,P145
秦「戦場の性」, P145-P146
熊谷奈緒子「慰安婦問題」,P77-P78
Wikipedia「近代公娼制」
藤目ゆき「慰安婦問題の本質」,P34