センブリとその仲間

センブリ

「センブリは 嫌だとばかり 子供逃げ」・・・・牧野富太郎

センブリはドクダミやゲンノショウコとあわせて三大民間薬と呼ばれたほど有名な薬草で、その苦味成分が苦味健胃薬として用いられ、その苦さは最後の本草学者と言われた牧野富太郎の句(川柳?)にも有るように子供も名前を聞いただけで逃げ出すほどであった。
実際に、同じリンドウ科のリンドウから作られる生薬 「竜胆(りゅうたん)」 の十倍ほどの苦味成分を有すると言われる。  元々、リンドウの根から作られた漢方の生薬名 「竜胆(りゅうたん)」 が同じく有名な漢方薬 「熊の胆(くまのい)」 より更に苦い事から 「竜の胆」 と呼ばれ、竜胆を音読みしてリンドウになったとされるほど苦いものであるから、その十倍と言えば想像に難くない。( 「リンドウいろいろ」 の項参照)
センブリ(千振)の名も千回振っても(千回煎じても)まだ苦い事から来ており、アマロスエリン等の苦味配糖体を多く含む。
別名を 「当薬」 と呼び 「当(まさ)に薬」 と言う意味で、花の付いた全草を乾燥させたものを煎じて消化不良、胃痛、下痢に広く用いられてきた。 最近では、皮膚の血行促進作用がある事から養毛剤にも利用されているようである。
通常、薬草は漢方の薬として中国から伝わったものがが大半であるが、センブリは日本で独自に発達し、室町時代以前にはノミやシラミを殺す殺虫剤として使われ、江戸時代の頃には胃薬として用いられたようで、江度時代に書かれた 「草木図説」 には 「腹痛を治してよく虫を殺す」 とある。
このように、ドクダミやゲンノショウコ同様広く用いられてきた薬草なので、かっては何処にでも見られた花と思われるが、現代では身近に見ることは難しい。 ドクダミは現在でも家の周囲他何処にでも繁茂し、ゲンノショウコも比較的見つけやすいが、センブリは生育場所が限られる。( 「ドクダミは十薬」「ゲンノショウコは現の証拠」 の項参照)
日当たりの良い丘陵や、明るい松林等を好むが、雑草が茂ると生育できず、放牧や野焼きや山の手入れ等が少なくなった現在の環境では生育が難しい。
この近隣でも隣町の東松山市の手入れされた武蔵丘陵地帯の林縁を10月半ば過ぎに訪れると自生種が見られるがそれ以外ではなかなか見られない。 現在、薬草としての栽培も長野県等でされてはいるが限られる。

リンドウ科センブリ属はこのセンブリとアケボノソウが日本に自生する主要な花であり、又、近年帰化種のベニバナセンブリやハナハマセンブリがあちこちで目に付くようになっている。

センブリ

アケボノソウ

ハナハマセンブリ

アケボノソウ(曙草)は花の斑点を夜明けの空の星に見立てて名付けられた優雅な名を持った花である。 かってはよく見られた花と聞くものの、最近では山裾まで探しに行かないと見つからない。
一方、ベニバナセンブリとハナハマセンブリはいずれも地中海沿岸が原産の畑の雑草で、ごく近年日本に帰化し、あちこちに目に付くようになってきている。 両者の花びらの形や色、根生葉の残り方は少し異なるが、全体像はそっくりである。 上の写真のハナハマセンブリは旅の途中で撮影したものであり、この地方の散歩道では未だ見ないが、その内、ベニバナセンブリやハナハマセンブリがこの地方にも現れ、センブリといえばこれらの花を指すようになるかもしれない。 

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