スラッキーのすすめ1 〜とにかく簡単編〜
スラッキー・ギターのいいところ、ギターを弾く者としてそれは何かと言えば、とにかく簡単ということです。他のジャンルのギター、たとえばクラシック、ジャズやボサノヴァなんかはもちろんのこと、普通のフォークのギターなどよりずっと簡単に弾けます。
正確に言うと、入口が簡単ということ。これはいいでしょ。せっかくギターを弾こうと意気込んで練習を始めたのに、どうしてもFが押さえられないで挫折したとか、あんなにたくさんのコードをどうやって覚えるんだとあきらめた方々、スラッキーならそんなことはありません。
さて、では、具体的にどういうところが簡単なのか見ていきましょう。

使うコードが簡単
これは、スラッキー・ギターでよく弾く曲のコード進行が簡単だという意味です。
ハワイの曲は、たいていは2コードか3コード。2コードは、Ⅰ(トニック)とⅤ(ドミナント)で、タロパッチ(G)チューニングで言えば、GとD7だけです。3コードの場合はこれにⅣ(サブドミナント)が入ることが多いでしょう。いわゆる主要3和音で、ブルースなどと同じです。
2つのコードだけでマトモな曲が弾けるのかと思われるかもしれません。わたしも最初は思いました。でも、それが弾けるのです。スラッキーで弾く代表的な曲、「リリウ・エ」、「イエロー・ジンジャー・レイ」、「カレナ・カイ」、「マヌエラ・ボーイ」など、多くの2コードの曲があります。
アドリブをやる際にミストーンが出にくいということも、2コードの曲の良さでしょう。GチューニングならGのスケール(ドレミ)を弾いていれば、おかしな音になることはありません。

曲が短い
ブルースの多くが12小節であるように、ハワイの音楽は8小節+2小節のバンプという形式が多いのです。これはフラの音楽からきた形式のようですが、とにかくこの8小節+2小節がハワイアン・スタンダードと言っていいでしょう。バンプが付いたこの形式をハワイアン・ブルースと呼ぶこともあるようです。
いわゆるポピュラー・ソングの多くは32小節です。それに比べて、ハワイの曲は(バンプを除けば)基本的に8小節、4分の1の長さです。しかも最後の2小節はたいていⅤ(ドミナント)-Ⅰ(トニック)なので、実質的には6小節覚えればその曲のコード進行がわかったことになるのです。

押さえ方が簡単
たとえば、Gチューニングはオープン・チューニングなので、なーんにも押さえなくてもGのコードになっています。GチューニングではたいていGのキーの曲を弾きますから、Gのところは開放弦を弾いていればミストーンはでません。
スラッキーは基本的にオルタネート・ベース(親指で低音弦を交互に弾く)を弾きます。Gチューニングの場合、GとDのコードを弾く際は、低音弦を押さえる必要がありません。Gの場合は5弦と4弦、Dの場合は6弦と4弦のそれぞれ開放弦を弾けばいいのです。低音弦を押さえるのが少ないというのは、とても便利です。左手はメロディーの方だけを考えればいいのですから。
ですから、クラシック・ギターにあるような超絶技巧難解至極複雑怪奇な押さえ方は出てきません。
押さえ方が簡単というのは、音楽をする主体である奏者にとって、すごくいいことだと思います。ギターと格闘することなく、音楽に集中できます。

演奏のコピーが簡単
ちょっとギターが弾けるようになると、次はCDのあの曲をあの通り弾いてみたいと思うものです。楽譜があればいいのですが、スラッキーの場合、ほとんどないでしょう。それならば、CDから自力でコピーです。
ギター場合、耳コピーで難しいのが「コードをとること」と、「どのポジションで弾いているか」を探りあてることです。 コードに関しては簡単。なにしろ2コードか3コードなのですから(もちろん、例外もあるけど)。Gチューニングの曲なら、キーはたいていGですから、使うコードはGとD7、それにCか、ときおりAが加わる程度でしょう。
最近のスラッキーのCDには、曲ごとに使用しているチューニングが書いてあるので便利です。
ポジションの問題も、スラッキーは簡単。ここでは詳述しませんが、Gチューニングの場合、1弦と3弦(あるいは1弦と2弦)でハーモニーを作りながらドレミを弾くポジションを覚えてしまえば、たいていそれで対応できます。
だいたいスラッキーの人たちは、そんなに難しいことをしていません。コピーしていて、こんな難しい弾き方をしているのかと思ったら、それはたいてい間違い。もっとやさしいやり方があるはずなのです。
以上のように、スラッキー・ギターは弾く者にとって、負担が少ない奏法・音楽です。
でも、簡単なのはいいけど、それじゃお子さま用音楽なんじゃないかと思われる方もいるかもしれません。
スラッキーは簡単なだけなのかというと、実はそうではないのです。シンプルなものにはシンプルゆえの奧の深さがあります。
ここでは詳しくは触れませんが、たとえばリズムも普通のオルタネート・ベースばかりでなく、ハバネラもあればワルツの曲もたくさんあります。ハバネラのリズムは、ハワイアンのなかに普通にとりこまれていて、このリズムを正確にキープしながらメロディーを弾くのは結構練習が必要でしょう。
またスラッキーは、決められたメロディーを弾くだけでなく、それを崩したりインプロバイズしたりすることが普通に行われます。そういう方向に進めば可能性と楽しみはどんどん広がっていきます。