用語集
ワ
ア

アコースティック・ギター(acoustic guitar)
「スラッキーはどんなギターで弾いてもいいのです」といろんなスラッキー・ギタリストが語っている。そうは言っても、いまどきのスラッキー・ギタリストでエレキ・ギターを主楽器としている人は少ないようだ。90年代以降のスラッキーのレコーディングで、CD1枚通してエレキで弾かれているものは見あたらない。(もっとも、ステージではエレアコがよく使われるが、これは意味が違う)。「スラッキーはアコースティックで」というのが、今のスラッキーのジョーシキあるいは流行であるようだ。
スチール弦のギターを使う人が多いようだが、ナイロン弦を愛用するギタリストも、ケオラ・ビーマーをはじめ、モーゼス・カフモク、オジー・コタニ、スティーヴ・サノなど少なくない。また、ハワイの人は複弦のサウンドを好むようで、(なにしろウクレレも複弦にしてるくらいだから)12弦ギターを主に使う人もジョージ・カフモク・ジュニアをはじめ何人かいる。
エレクトリック・ギター(Electric Guitar)
スラッキーの第二世代に属する人たち(ギャビー・パヒヌイ、サニー・チリングワース、レイ・カネ、レナード・クワンなど)は、レコーディング歴の初期にエレキ・ギターをよく使用している。たいていの場合はフルアコと呼ばれるホローボディのギターだったようだ。山内雄喜さんによると、レナード・クワンはギブソンのスーパー64を使っていたとか。60年代にサニー・チリングワースのステージを見た人の話では、ソリッドのエレキを弾いていたそうだ。今では、エレアコ以外のエレキ・ギターを使うスラッキー・ギタリストは少ない。ケオラ・ビーマーがレコーディングの中で、ときどき使っている程度だろう。
カ
サ
スラッキー(Slack Key)
スラッキーというのは、「キーをゆるめる」という意味。この場合、キーはギターの調弦のねじのことらしい。ウクレレにも、オープン・チューニング系のスラッキーウクレレという弾き方がある。
「ギターのチューニングの何本かをゆるめたのが、スラッキーのチューニングになった」というような説明をみることがあるが、これってなにかおかしい気がする。ハワイの人たちはギターのチューニングがわからなかったから、開放弦を適当にいい音がするコードに合わせたわけだろう。もともとスタンダード・チューニングという規準を知らなかった者が、「ゆるめる」ということを意識するだろうか。
そう考えると、「スラッキー」という名称自体、後から、多分スタンダード・チューニングを知っている人がつけた名称ではないかということが想像される。
実際、「スラッキー」また「キー・ホー・アルー」という名称がいつ頃ついたはわからないらしい。
ハワイ出身日系3世のスラッキー・ギタリストH氏の話では、スラッキー・ギターという名称は、大学卒業後、日本に来てから知ったとのこと。子どもの頃、ハワイで弾いていた頃は単に「ギター」と言っていたということだった。
タ
チューニング(Tunings)
スラッキーには、さまざまなチューニングが用いられている。
そのなかで、自分の使っているチューニングは、自分の身内以外に教えないという風習があったようだ。それが、長い間スラッキー・ギターが広まらなかった一因になったという人もいる。 チューニングを知られたくないため、後ろを向いて弾いたり、左手に紙袋を被せて押さえているところが見えないようにして弾いたという逸話も残っている。アロハ・スピリットだけがハワイ人の伝統ではないらしい。
レイ・カーネはビデオのなかなどで、初めてスラッキーを聞いたときの話をしているがそこにもこのことが出てくる。ある晩、砂浜で美しいギターの音を聞いたレイは、弾いている人に教えてくれと頼んだが、おまえは身内ではないから教えてやらないと断られた。それでも習いたいレイは、めずらしい魚を捕ってきてプレゼントすることと交換にスラッキーを教わったという。
1960年代、ハウス・オブ・ミュージックに勤めていたH氏によると、ギャビー・パヒヌイがギターをリペアに出してくると、どういうチューニングなのか、みんなが集まって見にきたそうだ。
でもこうした「隠す伝統」は、時代とともに次第に無意味になっていく。レイ・カーネは自宅でスラッキーを教えるようになり、ケオラ・ビーマーは1973年に初めてのスラッキー教則本を作った。
チューニングの名前(Name of Tunings)
スラッキーには、さまざまなチューニングがあるが、それをいちいちDGDGBDとかCGDGBEなどと呼んでいては、実にわかりにくい。だから、誰が言い出したかは知らないが、最近ではチューニングに愛称をつけて呼ぶことも少なくないようだ。
その命名法は大きく分けて2種類あるようで、ひとつはハワイにゆかりのあるモノの名前をとるというもの。オープンGチューニングをタロ・パッチと呼ぶのは有名だが、その他にも、マウナロアとかオールド・マウナロアなどと呼ばれるものがある。Cワヒネなどワヒネ(女)という名前がつくものはメジャー7thの音を含むチューニングらしい。
もうひとつは、そのチューニングをよく使っている人の名前を冠するもの。ナマケルア・チューニングをはじめとして、アタのC、ケオラのCなんて呼び方をする。
ただし、こうした呼び名がどの程度通用するのかは不明。とにかくスラッキーという狭い世界でのことだ。
ナ
ナ・ホク・ハノハノ・アウォード(Na Hoku Hanohano Award)
ハワイのグラミー賞などと言われることもある音楽賞。1978年に設立された。毎年6月に授賞式が行われ、テレビでもその模様は放送される。ハワイだけの賞なのに、部門が35以上もある。もちろんハワイでそんなに多くの音楽作品が制作されるわけではなく、日本と比べれば微々たる数だ。そのためひとつのアルバムがいくつものジャンルで受賞ということが起こる。まあ、コマーシャルなお祭りと言ってしまえばそれまでだが。スラッキー・ギター関係は、 "InstrumentalAlbum of the Year"で受賞することが多かったが、1996年からは、"Ki Ho'alu"部門というのもできた。誰がどういう基準で審査しているのか知らないが、賞を作ってしまったから受賞者を決めているという感じに見える。
ハ
ハマリングとプリング・オフ(Hammering, Pulling Off)
ハマリングとプリング・オフは、どんな種類のギター音楽にもよく出てくるテクニックだ。ここで言いたいのは、ハワイ式?のハマリング&プリング・オフがあるということ。
使っているのは、レイ・カーネ、レッドワード・カアパナ、山内雄喜など。
ライブや映像で実際に見てもらえば一目瞭然なので、そういう機会があればぜひ注目してほしい。特によくわかるのは、ハマリング&プリング・オフで3連符を弾くときだ。ややこしくなるが、あえて文字で説明すると、プリング・オフするとき、普通は自分の掌側に向かって、弦を引っ張るようにして指を離す。でも、ハワイ式は、いったん押さえた弦を外側にはじき出すようにして指を離すのだ。オハジキや鼻くそをはじきとばすような感じと言えばいいだろうか。
まあ、出てくる音には変わりがないように聞こえる。それにハワイ式などと言ってみたが、全てのハワイのギタリストがやっているわけでもない。ケオラやアタやギャビーは普通のプリング・オフのやり方をしている。
ハワイ語(Hawaiian Language)
ハワイ語は、ポリネシア系言語で唯一死語となった言語だ。ハワイの人々のアイデンテンティティ意識が盛んになってきた近年では、学校教育にも取り入れられているが、普段の生活をハワイ語で通している人はいない。ハワイアンの多くはハワイ語で歌われることが多いが、歌ってる人だってハワイ語が使えるわけじゃない。だから、ナ・ホク賞の授賞式に出てくるハワイ語は「マハロ(ありがとう)」だけだ。想像だが、日本人にとっての古文、漢文の世界なのではないだろうか。
スラッキーの世界を考えると、アリス・ナマケルア(1892年生まれ)はハワイ語が話せたようだ。
レイ・カーネの世代は、子どもの頃、家の中や近所ではハワイ語を使っていたという。しかし、大人になった頃にはハワイ語が話せなくなっていたらしい。(もちろん簡単なことばや歌詞はわかっただろうが)ギャビーも、日常会話をハワイ語で話すことはなかった。
山内雄喜さんが師匠のレイ・カーネとレコーディングを行った際、「ハワイ語の専門家」が何曲かにクレームをつけたのだそうだ。レイ・カーネのハワイ語は間違っているからリリースすべきではないということらしい。まあ、学者とか教育者とかには、こういうアタマでっかちな奴が出てくるものだ。そのときのレコーディングは無事リリースされている。
ヒ
フ
フィンガー・スタイル(Finger Style)
スラッキーは、フィンガー・スタイル(指弾き)で弾かれる。ただし、どの指を使うかはひとによってさまざまだ。レイ・カーネは親指と人指し指のツーフィンガーで弾いている。レッドワード・カアパナもあの早弾きをツーフィンガーで弾いている。ケオラはスリーフィンガーで弾いている。アタ・アイザックスはソロを弾く場合、親指を主に使い、それを補佐する感じで人指し指を使っている。
山内(雄喜)さんに、なぜツーフィンガーで弾くのか聞いたことがあるが、「あんまり意識したことはないけれど、ツーフィンガーの方がスラッキーらしさが出る感じがする」ということだった。そう言われてみれば、ツーフィンガーで弾くことによる効果というべきものが確かにある。たとえば、和音を弾くとき、ツーフィンガーだと1弦から3弦に向かって撫でるように弾かなければならない。これが独特の効果となっていることがある。
ブルース(Hawaiian Blues)
ハワイの曲は、8小節+バンプ2小節の形式が多いが、これをハワイアン・ブルースと呼ぶらしい。本編の8小節を2つか3つの適当なコード進行で作り、それに基づいてみんなでセッションを続ける。そんなところは確かにブルースと相通じるところがあるように思う。あえて言うならハワイアン・カントリー・ブルースという感じ。
それとは別に、ハワイアンには、「フラ・ブルース」、「フェアウェル・ブルース」なんていう曲がある。いわゆる12小節のブルース形式ではないが、ブルーノートなど使ってそれとなくブルージーなフレーズを使って弾かれることが多い。
ハワイの音楽(とくにスチール・ギター)は、ブルースにも影響を与えた。戦前のブルースマン、ケイシー・ビル・ウェルドン(Casy Bill Weldon)は、Hawaiian Guitar Wizardなんて呼ばれていた。スライドを使うからだが、音楽はブルースそのものだ。それとは逆の方向で、ハワイアンに取り込まれた、明るいハワイ式ブルースもいいものだ。
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ワヒネ(Wahine)
「ワヒネ」もともとはハワイ語で「女、妻」などを意味することば。スラッキーのチューニングでは、メジャー7の音が入っているものをワヒネ・チューニングと言うしいらしい。たとえば、ケオラがよく使うCGDGBEは、Cをキーとした場合、 Bがメジャー7の音になる。だからこれはCワヒネ・チューニングだ。だが、CGDGBDも、Cをキーとした場合のメジャー7の音(B)が入っているので、これもCワヒネ・チューニングとなる。スラッキーでは、メジャー7の弦の1フレット目(ここがトニックの音となる)をハマリングして特徴的なおもしろさを出す場合が多いようだ。なぜメジャー7の音が「ワヒネ」なのかは不明。
ただ、日系ハワイ人のスラッカーH氏によると、メジャー7がwahine説は初めて聞いたとのこと。ハワイ人がwahineと名付けられたチューニングに陰陽のようなものを感じたからではないかという意見を聞いた。これも、なんとなく納得できる解釈。